第三話 本当の忠臣
第三話です。
今回は、戦功でも内政の安定でもなく、「忠義」の話になります。
主君の命に従うことが忠義なのか。
それとも、主君が取り返しのつかない一線を越えようとした時、嫌われても止めることが忠義なのか。
王国監察官――ケンソルであるエドウィンは、新街道事業の視察として、ある伯爵家を訪れます。
家を守るために功績を求める領主。
その領主を支える家臣たち。
そして、主命に背いた老家令。
彼らが何を守ろうとしたのか、見届けていただければ幸いです。
ロムルス王国には、功績をもって爵位を得た貴族家に、三代までの世襲を認める制度がある。
四代目以降も爵位と領地を継承するには、その三代のうちに、再び爵位に見合う功績を立てねばならない。
だが、功績はしばしば歪められる。
小さな山賊討伐は反乱鎮圧となり、徴税を増やしただけの農政は収穫増と報告される。
そうした偽りの功績を正すため、王国は監察官――ケンソルを置いた。
戦場では戦功を記録し、領地では帳簿と民の暮らしを調べる。
その一人、元貴族の監察官エドウィンは、今日もまた、貴族たちの功績を見定める。
◇
王国監察院。
それは、貴族の功績を見定める監察官たちが所属する組織である。
戦場では誰が何を成したかを記録し、領地では何が築かれ、何が失われたかを調べる。
その報告は、爵位と領地の存続に関わる。
だが、監察院の役目はそれだけではない。
功績が歪められる場所には、しばしば不正も生まれる。
帳簿の改竄。
備蓄の横流し。
王国への虚偽報告。
領主家の名を守るために隠される背信。
そうしたものを見張り、必要とあらば王宮へ報告することもまた、監察院の任であった。
ある地方貴族の家令より、監察院へ手紙が届いたのは、春の終わりのことである。
差出人は、アルノルト。
北東部に領地を持つハルトヴィク伯爵家に、先代の頃より仕える老家令であった。
封書には、震えのない筆致で、ただ一文が記されていた。
『我が主家が、王国への罪に踏み込む前に、監察官の派遣を願う』
主君を売るための密告ではない。
主君を罪人にしないための、最後の忠言であった。
◇
とはいえ、監察院が一通の手紙だけで貴族領へ踏み込めば、余計な警戒を招く。
まして相手は、爵位継続のために功績を必要としている伯爵家である。監察官の来訪が密告に基づくものだと知られれば、帳簿は隠され、証人は黙らされ、手紙を送った者の身も危うくなる。
そこで監察院は、別の名目を立てた。
ハルトヴィク伯爵家が進める新規街道事業。
山間部を抜け、隣領の交易路へ接続するその計画は、王宮にも功績として申請されていた。街道が完成すれば商人の往来は増え、通行税も見込める。爵位継続の審査においても、一定の評価対象となり得る事業である。
表向き、エドウィンはその視察のため、ハルトヴィク伯爵領へ向かうことになった。
監察院が見ようとしているのは、街道だけではない。
その街道を通すために、何が削られようとしているのか。
そして、誰がそれを止めようとしたのか。
それを確かめるためであった。
◇
ハルトヴィク伯爵領へ至る道は、なだらかな丘陵と針葉樹の森に挟まれていた。
王都から離れた北東部の領地である。冬は早く、雪も深い。豊かな穀倉地帯ではないが、木材と羊毛、そして山間を越える交易で細々と栄えてきた土地であった。
だが、近年は西の大街道へ商人が流れ、古い交易路は衰えつつある。
ハルトヴィク伯爵家が新規街道事業に賭けた理由は、そこにあった。
新たな街道を山間に通し、隣領の交易路へ接続する。
それが成れば、商人の流れを呼び戻せる。
通行税は増え、宿場は潤い、領内の町にも活気が戻る。
そして何より、王宮へ示せる。
ハルトヴィク伯爵家は、今なお爵位に見合う功績を立てられる家である、と。
館に到着したエドウィンを迎えたのは、当主ルドルフ・ハルトヴィク伯爵であった。
年は四十半ば。痩せた頬と深い目元に疲労が滲んでいるが、礼装は崩れていない。髪には白いものが混じり始めていた。
「遠路、ようこそお越しくださいました。監察官殿」
伯爵は丁寧に頭を下げた。
「新街道事業について、王宮から視察が入ると聞いております。領内を挙げて進めている事業です。どうぞ、隅々までご覧ください」
「そのつもりです」
エドウィンは短く答えた。
伯爵の傍らには、一人の男が控えていた。
三十代前半ほど。整った身なりの文官で、表情は落ち着いている。だが、目の下には薄い隈があった。
「副家令のベルトランです」
伯爵が紹介する。
「新街道事業の会計と実務の多くを任せています。視察中は彼が案内役を務めます」
「ベルトランと申します。よろしくお願いいたします」
ベルトランは深く礼をした。
家令ではなく、副家令。
エドウィンはその肩書きを記録簿に書き留めた。
だが、その場では何も尋ねなかった。
監察官が何を見に来たのか。
誰の名を気にしているのか。
それを初日に悟らせる必要はない。
エドウィンはただ、新街道の地図へ視線を落とした。
「まずは現場を見ます」
「承知しました」
ベルトランは即座に答えた。
「馬の用意はできております」
◇
新街道の起点は、館から半日ほどの場所にあった。
丘の斜面を切り開き、幅広い道が山へ向かって伸びている。
途中までは見事なものだった。
路面は平らに固められ、雨水を逃がす溝も掘られている。木橋には新しい材が使われ、宿場予定地には杭が打たれていた。
商人の荷馬車も、すでに何台か通っていた。
「確かに、完成すれば流れは変わるでしょう」
ベルトランは地図を広げながら説明した。
「従来の道は遠回りでした。こちらを通せば隣領の市まで一日短縮できます。羊毛、木材、塩、鉄具。すべての流通が早くなる」
「通行税も増える」
「はい」
「王宮へは、完成後の税収見込みを提出しているのか」
「提出済みです」
ベルトランは即答した。
「慎重に見積もった数字です」
エドウィンは地図を見た。
山間を抜ける新街道は、確かに魅力的な計画であった。
だが、地図の上の線は簡単に引ける。
山を削るのは、人の手である。
「人夫はどこから」
「領内の村々より賦役を出しています。一部は賃金を払って雇っています」
「賦役日数は」
「王国法の範囲内です」
その答えは早かった。
早すぎた。
ロムルス王国では、領主が領民へ課す賦役には、年ごとの上限が定められている。
橋を直す。
水路を浚う。
堤を補修する。
街道を整える。
領地を維持するため、領民の労働を求めること自体は認められている。だが、領主の命ひとつで無制限に村人を駆り出せば、畑は荒れ、家は傾き、やがて領民は土地を捨てる。
だから王国法は、賦役の日数に枠を設けていた。
加えて、農繁期の動員は慎むべきものとされている。
禁じられているわけではない。
だが、春の水路浚いと種まき、秋の収穫期に重ねれば、たとえ日数が法の内側に収まっていても、村の暮らしは確実に削られる。
「範囲内、か」
「はい。越えてはおりません」
ベルトランはそう答えた。
嘘ではないのだろう。
だが、嘘でないことと、無理がないことは同じではない。
エドウィンは道端へ目を向けた。
そこでは、十数人の男たちが石を運んでいた。
彼らの動きは鈍い。
怠けているのではない。疲れているのだ。
「農繁期と重なっているのでは」
「今年だけです」
ベルトランは言った。
「今年、峠の切り通しまで進めば、来年以降は負担を減らせます」
「今年だけ」
「はい。今年だけです」
その言葉は、言い聞かせるようでもあった。
◇
村の一つで、エドウィンは人夫として動員されていた男に話を聞いた。
男は痩せていたが、伯爵家への恨みを口にする様子はなかった。
「賦役が重いか」
「重いと言えば重いです」
男は苦笑した。
「ですが、日数は決まりの内です。文句を言えば罰が当たります」
「畑は」
「妻と親父が見ています。子供も手伝っています」
「今年の作柄は」
「悪くはありません。ただ、水路浚いが遅れました。男手が街道へ取られていますので」
「街道が通れば、暮らしは良くなると思うか」
男は少し考えた。
「良くなるのではないでしょうか。市へ行く道が近くなれば、羊毛も売りやすくなる。伯爵様が私腹を肥やそうとしているとは思いません」
「では不満はないのか」
「不満がない者などおりません」
男は手についた泥を払った。
「ですが、伯爵様にも後がないと聞いております。家がなくなれば、領地もどうなるか分からない。だから皆、今年だけなら、と」
「今年だけ」
「はい。今年だけなら、耐えられます」
男はそこで一度、言葉を切った。
そして、少しだけ声を落とす。
「ただ、監察官様。耐えられるのは、給金と麦が出るなら、です」
「滞っているのか」
「遅れています。完全に止まっているわけではありません。だから皆、まだ黙っています」
「まだ」
「ええ。伯爵様が苦しいのは分かっています。副家令様が走り回っているのも、皆見ています。ですが、畑を家族に任せ、街道で石を運び、その上で家に持ち帰る麦まで減れば……」
男は、遠くで石を運ぶ人夫たちを見た。
「明日も何も出ないなら、作業に出ないと言う者が出るでしょう」
「反乱か」
「違います」
男はすぐに首を振った。
「そんな大それた話ではありません。ただ、腹が減れば、足は動かなくなる。それだけです」
エドウィンは記録簿に書き込んだ。
――賦役は法定内。ただし農繁期および水路維持に影響あり。給金と麦の遅配により、人夫の作業拒否寸前。領民は不満より不安を示す。
◇
兵舎でも、同じような言葉が聞こえた。
俸給は遅れていた。
完全な未払いではない。半月遅れで、一部は麦で支給されている。
兵士たちはそれを不満とは言わなかった。
「不満ではありません」
中年の兵士は、そう答えた。
「伯爵家がなくなれば、我らも職を失います。今が苦しいのは皆同じです」
「家族は」
「妻と子が二人おります」
「半月遅れで困らないのか」
兵士は笑った。
「困ります」
「では、なぜ不満ではないと言う」
「不満だと言えば、伯爵様を責めることになります」
兵士は声を落とした。
「伯爵様も必死なのです。御祖父様の功績で得た家が、今の代で終わるかもしれない。館の者も、我らも、皆それを知っています」
「だから耐えると」
「はい」
兵士は腰の革帯を直した。
古く、ひび割れた革帯であった。
「ただ……家に持って帰る麦が減ると、妻の顔を見るのがつらい。それだけです」
エドウィンは兵士の靴を見た。
底が薄くなっている。
兵士はそれを隠すように、足を引いた。
◇
次に、エドウィンは帳簿を扱う書記たちの部屋を訪れた。
若い書記が数名、机に向かっている。
彼らの前には、街道事業の支出帳、賦役帳、備蓄帳が積まれていた。
「救済金の項目を見せてください」
エドウィンが言うと、若い書記の一人が手を止めた。
「救済金、ですか」
「昨年の霜害に対し、王国から下りたものがあるはずです」
王国救済金とは、災害や凶作によって損害を受けた村へ下される金である。
種籾を買う。
農具を直す。
冬を越すための食糧を貸し付ける。
翌年の耕作を続けられるようにする。
つまり、被害を受けた村の暮らしを直接支えるための金であって、領主家が自由に使える臨時収入ではない。
「それは……現在、復興基盤整備費として処理されております」
「復興基盤整備費」
「はい」
「誰の指示で」
書記は目を泳がせた。
「ベルトラン様です」
「救済金ではないのか」
「救済金でもあります。ですが、街道が通れば霜害を受けた村も市場へ出やすくなります。長期的には復興に資する、と」
「長期的には、か」
エドウィンは帳簿をめくった。
確かに、嘘とは言い切れない。
街道整備が復興に資する可能性はある。
だが、本来、救済金とは今苦しむ村を救うための金である。
将来の見込みに賭けて動かすものではない。
「備蓄麦の欄にある、未配分穀物とは何です」
書記の指が止まった。
「まだ、各村へ配分されていない麦です」
「王国備蓄ではないのか」
「……王国備蓄として指定されている分も含みます」
「含む」
エドウィンはその言葉を記録した。
王国備蓄麦。
それは、領主家の倉に置かれていても、領主家の麦ではない。
飢饉、水害、疫病、あるいは王国軍が領内を通過する際に備え、王国の名で預けられている麦である。
管理するのは領主家だ。
だが、所有するのは王国である。
封を切るには、災害の発生、王国軍への供出、あるいは王宮からの許可が要る。
街道事業の資金不足を埋めるために使うことは、本来許されない。
「監察官殿。私は、嘘を書けと命じられたわけではありません」
「そうでしょう」
「ベルトラン様は、言葉を選べと仰いました。救済金ではなく復興費。備蓄ではなく未配分穀物。虚偽ではない、解釈の問題だと」
「貴殿はどう思った」
書記は黙った。
しばらくして、小さな声で言う。
「分かりません」
それは、自分を守るための答えではなかった。
本当に分からなくなっている者の声だった。
◇
その日の夕刻、街道工事の現場から使いが戻った。
泥に汚れた若い監督役である。
彼はベルトランの前に膝をつき、額の汗を拭うことも忘れて言った。
「副家令様。明日、人夫たちに麦か賃金を出せなければ、作業に出ぬ者が出ます」
ベルトランの手が止まった。
「出ぬ者、とは何だ」
「作業拒否です」
部屋にいた書記たちが息を呑んだ。
監督役は慌てて言葉を足す。
「反乱ではありません。不満を煽る者がいるわけでもない。ですが、皆、限界なのです。畑は家族に任せきりで、水路浚いも遅れている。そこへ俸給の遅れと麦の不足が重なれば……」
「分かっている」
ベルトランは低く言った。
「明日一日だけ、何とか持たせろ」
「明日一日、ですか」
「そうだ。明日、監察官殿の視察を終えれば、こちらで手を打つ」
「ですが」
「持たせろ」
それ以上の言葉はなかった。
監督役は唇を噛み、深く頭を下げて退室した。
扉が閉まる。
部屋に重苦しい沈黙が落ちた。
若い書記の一人が、おずおずと口を開く。
「副家令様。通常備蓄は、すでに街道沿いの宿場予定地へ回しております。追加で出せる麦は……」
「分かっている」
「では」
「分かっていると言っている」
ベルトランは声を荒げた。
若い書記は身をすくめた。
すぐにベルトランは目を伏せる。
「……すまない」
彼は疲れた声で言った。
「今日はもう下がれ。帳簿の整理は明日にする」
書記たちは一礼し、部屋を出ていった。
最後に残った若い書記だけが、扉の前で一度振り返った。
ベルトランは机に両手をつき、動かなかった。
その背中は、ひどく小さく見えた。
◇
夕刻、エドウィンは館の奥にある小さな礼拝室の前を通りかかった。
扉は少し開いている。
中から、幼い声が聞こえた。
「貴族は、三代のうちにもう一度、爵位に見合う功績を立てなければならないのでしょう?」
エドウィンは足を止めた。
声の主は、ハルトヴィク伯爵の娘であった。
十歳に届くかどうかという年頃の少女である。
伯爵は礼拝室の長椅子に腰掛け、娘の手を握っていた。
「曾お祖父様が功績を立てられてから、お父様で三代目なのですよね」
伯爵は答えられなかった。
娘は不安げに父を見上げる。
「お父様。このままでは、爵位も、領地も、このお屋敷も、みんななくなってしまうのですか?」
その問いは、幼いがゆえに容赦がなかった。
伯爵はしばらく黙っていた。
やがて、娘の小さな手を取る。
「なくさせはしない」
その声は、娘に向けたものというより、自分自身に言い聞かせるものだった。
「この家も、領地も、お前たちの暮らしも、私が守る。必ずだ」
娘は少しだけ安心したように頷いた。
部屋の隅に控えていたベルトランは、その言葉を聞いて目を伏せていた。
守るために、どこまで踏み込むのか。
その線を、もう誰も口にしなくなっていた。
エドウィンは何も言わず、礼拝室の前を離れた。
◇
その日の夕食後、エドウィンは伯爵の執務室で帳簿を確認していた。
卓上には、新街道事業の支出帳、賦役帳、救済金の配分記録、備蓄帳が並べられている。
ベルトランはよどみなく説明した。
支出の名目も、人夫の数も、石材の購入先も、すべて把握している。副家令という立場ながら、実務の大半を担っていることは明らかだった。
だからこそ、エドウィンは自然な調子で尋ねた。
「ところで、正家令はどうされている」
ベルトランの指が、帳簿の上で止まった。
伯爵もまた、杯を置く。
「アルノルトのことですか」
「ええ。備蓄帳にも救済金の記録にも、彼の副署がある。ならば、この事業についても話を聞いておきたい」
伯爵は一拍置いて答えた。
「アルノルトは高齢でしてな。近頃、体調を崩し、職務から外しております」
「そうですか」
エドウィンは帳簿を一枚めくった。
「では、なおさら確認が必要です」
「どういう意味でしょう」
「これほど大きな事業で、従来の家令が急に職務を外れた。しかも備蓄帳と救済金の副署者であるなら、引き継ぎの経緯を確認しなければならない」
ベルトランが口を挟んだ。
「監察官殿。引き継ぎは私が受けております。必要な帳簿はすべてこちらに」
「帳簿は見ました」
エドウィンは静かに言った。
「次は、帳簿を書かなくなった者の話を聞きます」
部屋の空気が冷えた。
伯爵はしばらく黙っていた。
「アルノルトは、現在静養中です。長く話すのは難しいかもしれません」
「短くて構いません」
「……今夜でなければなりませんか」
「明朝でも構いません。ただし、私がこの領を出る前には必ず会います」
エドウィンは記録簿を閉じた。
「家令の不在は、街道事業の一部です。別件ではありません」
◇
その夜、書記室にはまだ灯りが残っていた。
机に向かっていたのは、若い書記マルクと、兵站係のエリオである。
他の者たちはとうに下がっている。
だが、二人の前には、街道事業の支出帳と備蓄帳が開かれたままだった。
「通常備蓄では足りない」
エリオが低く言った。
「明日の人夫に配る分すら出せない。麦も銀貨もだ」
「分かっている」
マルクは帳簿から目を離さなかった。
「だから、未配分穀物として処理する」
「それは王国備蓄だ」
「まだ封は切っていない。帳簿上、各村へ配る前の麦として扱えばいい」
「マルク」
「街道が完成すれば、通行税で戻せる」
その言葉は、何度も聞かされた理屈だった。
だが、今夜のマルクは、それを信じているというより、信じるしかない者の顔をしていた。
エリオは唇を噛んだ。
「副家令様は、やめろと仰るかもしれない」
「だから今夜やるしかない」
マルクは顔を上げた。
「明日の朝になれば、監察官殿がまた帳簿を見る。人夫たちが作業を拒めば、街道事業は終わる。伯爵様の功績も、副家令様の立場も、我らの職も終わる」
「だが、王国備蓄の封を切れば――」
「明朝までに戻す」
「戻せる保証などない」
「では、このまま何もしないのか!」
マルクの声がわずかに震えた。
「副家令様はもう限界だ。伯爵様も追い詰められている。誰かが動かなければ、明日すべて崩れる」
エリオは何も言えなかった。
マルクは机の上の命令書を取った。
伯爵家の印章が押されている。
正式な命令書ではない。
まだ文面も整っていない、下書きに近い紙であった。
「今夜だけだ」
マルクは自分に言い聞かせるように言った。
「今夜だけ封を開ける。明日の工事を動かす。それで時間を稼げる」
エリオは長く目を閉じた。
やがて、かすれた声で言う。
「……倉番には、私から話す」
その瞬間、二人は一線の前に立った。
まだ越えてはいない。
だが、足はすでに、そちらへ向かっていた。
◇
夜半、館の外で小さな物音がした。
エドウィンは目を開けた。
旅慣れた者は、寝床が変わっても深く眠りすぎない。
外套を羽織り、廊下へ出る。
音は、倉の方から聞こえていた。
月は雲に隠れ、庭は暗い。
だが、王国備蓄倉の前だけに、松明の明かりが揺れていた。
そこにいたのは、若い書記マルクと兵站係のエリオ、倉番、そして二人の兵である。
マルクの手には、伯爵家の印章が押された命令書があった。
「封を切ってはならん」
倉番が震える声で言った。
「これは王国備蓄だ。副家令様の指示もない」
「指示を待っていては明日の工事が止まる」
マルクは命令書を握りしめていた。
「明日、人夫に麦を出せなければ作業拒否が出る。監察官殿の前で工事が止まれば、新街道事業は終わりだ。事業が終われば、伯爵家も終わる」
エリオは何度も倉番へ頭を下げていた。
「頼む。今夜だけだ。明朝までに戻す。帳簿はマルクが合わせる」
「合わせるなどと言うな」
倉番の声が震えた。
「これは、合わせてよい帳簿ではない」
だが、倉番も動けなかった。
彼にも家族がいる。
伯爵家が取り潰されれば、自分も職を失う。
誰もが、正しい線を見ていた。
そして誰もが、その線から目を逸らそうとしていた。
「やめろ」
低い声が響いた。
ベルトランだった。
寝間着の上に外套を引っかけただけの姿で、息を切らしている。
マルクは振り返った。
「副家令様。申し訳ありません。ですが、このままでは貴方が――」
「やめろと言った」
「けれど!」
マルクは叫んだ。
「このままでは明日の工事が止まります! 伯爵様の功績も、貴方の立場も、我らの家も、すべて終わってしまいます!」
ベルトランは言葉を詰まらせた。
彼の視線が、王国備蓄倉の封へ向かう。
封はまだ破られていない。
だが、あと一押しで破れる場所にあった。
「……明日の朝までに戻せるか」
その呟きは、小さかった。
だが、エドウィンには聞こえた。
ベルトラン自身にも、聞こえたはずだった。
マルクの顔に、かすかな希望が浮かぶ。
「はい。帳簿は私が――」
「ならぬ」
今度の声は、老いていた。
だが、誰よりも強かった。
倉の陰から、アルノルトが現れた。
兵に監視されているはずの老家令である。だが、その手には、もう一つの鍵が握られていた。
「アルノルト様……」
ベルトランが呻くように言った。
「その封に触れるな」
「明日の人夫に渡す麦がありません」
「通常備蓄を使え」
「残っていません」
「ならば、工事を止めよ」
「止めれば街道事業が終わります!」
ベルトランの声が、夜の倉前に響いた。
「工事が止まれば商人は離れる。王宮への功績申請も崩れる。伯爵家は爵位も領地も失うかもしれない。貴方は、それでも止めろと言うのですか!」
「止める」
「なぜそこまで!」
アルノルトは、王国備蓄倉の封の前に立った。
「一線を越えてしまえば、罪になるからだ!」
その声に、マルクも、エリオも、倉番も、兵たちも動きを止めた。
「今ならまだ、誤りで済む。計画の失敗で済む。王宮から叱責を受け、功績を失うだけで済むかもしれぬ。だが、この封を切れば違う。王国を欺いたことになる」
アルノルトはベルトランを見た。
「御領主様だけではない。貴殿も、帳簿を書いた者も、麦を運んだ兵も、皆が罪人になる」
「私は……」
「守りたいのであろう」
アルノルトは静かに言った。
「ならば、ここで止まれ」
ベルトランは唇を震わせた。
マルクは、命令書を握ったまま立ち尽くしている。
やがて、ベルトランはその命令書を取り上げた。
そして、松明の火に近づける。
印章付きの紙は、端から黒く焦げていった。
「……今夜のことは、私の責です」
ベルトランはかすれた声で言った。
「書記と兵は、私の指示を誤って受け取った。それでよろしいですね」
「よろしくはありません」
エドウィンは闇の中から歩み出た。
全員が凍りついた。
「ですが、封は切られていない」
エドウィンは倉の扉を見た。
「その事実は記録します」
◇
翌朝、エドウィンはアルノルトとの面会を許された。
アルノルトは牢に入れられていたわけではない。
だが、館の北棟にある小部屋に留め置かれ、外出も面会も制限されていた。
静養というには、窓の外に立つ兵の数が多い。
軟禁である。
部屋に入ると、老いた男が窓際に座っていた。
白髪を後ろで束ね、背筋はまっすぐ伸びている。顔には深い皺が刻まれていたが、その目は濁っていなかった。
「監察官殿」
アルノルトは立ち上がろうとした。
「座ったままで結構」
エドウィンは椅子に腰掛けた。
「貴殿は主命に背き、備蓄倉の鍵を返さず、帳簿への副署を拒否した。さらに監察院へ手紙を送った」
「事実です」
「理由は」
「御領主様を罪人にしないためです」
アルノルトは迷わず答えた。
「領民を守るため、ではないのか」
「それもあります」
老家令は静かに言った。
「ですが、領民だけではありません。御領主様も、ベルトランも、若い書記たちも、倉番も、兵たちも。皆を罪に巻き込ませぬためです」
「王国備蓄に手をつければ、罪になると見ていた」
「はい」
「まだ封は切られていませんでした」
「だから、今止めねばならなかった」
アルノルトは窓の外を見た。
遠くに、工事中の街道へ向かう荷馬車が見える。
「今なら、まだ失策で済みます。計画の見直しで済む。叱責で済むかもしれない。ですが、王国備蓄の封を切り、救済金を別名目で処理し、王宮へ虚偽の報告を出せば、もう戻れません」
「その時は」
「伯爵家は取り潰しになるでしょう。御領主様は王都へ召喚され、重罪に問われる。命までは取られずとも、幽閉は免れますまい。副署した者、帳簿を書いた者、倉を開けた者も裁かれる」
アルノルトは目を伏せた。
「私は、若い書記たちを罪人にしたくなかった」
「ベルトランもか」
「もちろんです」
「彼は貴殿を恨んでいるようでした」
「でしょうな」
アルノルトは小さく笑った。
「私が止めたことで、彼は自分の弱さを見せつけられた。人は、己の弱さを映す者を好みません」
「貴殿は強かったから止められたと」
「いいえ」
アルノルトは首を横に振った。
「私は年を取りました。息子も他家で家令として身を立て、妻も先に逝った。守るものが少なくなった老人だから、憎まれる役を引き受けられただけです」
「では、忠義ではないと」
「忠義であればよいとは思います」
その答えは、少しだけ寂しげだった。
「ただ、私は先代様に仕え、この家の栄えも衰えも見てきました。主君の望みを叶えることだけが家令の務めではない。主君が罪へ踏み込む時、その足を止めることもまた、家令の務めです」
エドウィンは記録簿に視線を落とした。
「それを王宮が認めるとは限りません」
「承知しております」
「貴殿の行為は、手続きとしては不当です」
「はい」
「処罰を受ける可能性がある」
「覚悟しております」
アルノルトは穏やかに言った。
「ですが、御領主様が裁かれるよりはよい」
◇
その日の午後、エドウィンはベルトランをアルノルトの部屋へ呼んだ。
ベルトランは最初、入室を拒んだ。
だが、監察官命令であると告げると、硬い表情で部屋に入ってきた。
アルノルトは椅子に座ったまま、彼を見た。
「久しいな、ベルトラン」
「……数日ぶりです」
「そうだったか」
「そのような穏やかな顔をなさらないでください」
ベルトランの声には、押し殺した怒りがあった。
「貴方は正しい。アルノルト様。おそらく、誰よりも正しい」
彼は苦しげに拳を握った。
「ですが、ご子息はすでに他家の家令として身を立てられ、貴方ご自身も人生の晩節を迎えておられる。失うものが少ない貴方には、主君に逆らう覚悟も持てたのでしょう」
「ベルトラン」
「我らは違います!」
その声には、怒りよりも悲鳴に近いものがあった。
「御領主様には家がある。我らには妻子がいる。老いた親がいる。養わねばならぬ家臣がいる。領主家が取り潰されれば、館に仕える者も、書記も、従者も、末端の兵に至るまで路頭に迷うのです!」
ベルトランは、吐き出すように続けた。
「分かっていました。あの計画が危ういことも、備蓄に手をつければ冬が危うくなることも。だが、それでも止められなかった。止めれば、その時点でハルトヴィク伯爵家とそこに仕える者達は終わるかもしれなかったからです」
彼は、アルノルトを睨むように見た。
「貴方ほど、我らは強くなかったのです」
アルノルトは、しばらく黙っていた。
責めるでもなく、諭すでもなく、ただ老いた目でベルトランを見ていた。
「ベルトラン」
「何です」
「だから、止めたのだ」
ベルトランの眉が動いた。
「何を……」
「貴殿らに妻子がいることも、老いた親がいることも、部下がいることも、私は知っている。末端の兵に至るまで、この家に食わせてもらっていることも知っている」
アルノルトは静かに続けた。
「だから、止めたのだ」
「意味が分かりません」
「今なら、まだ戻れる。街道計画の失策で済む。資金計画の誤りで済む。御領主様は叱責を受け、王宮から減点されるだろう。だが、それで済む可能性がある」
アルノルトはベルトランを見据えた。
「だが、王国備蓄の封を切り、救済金を別名目で処理し、その帳簿を王宮へ提出すれば、もう過ちでは済まぬ。罪になる」
ベルトランの顔色が変わった。
「罪になれば、御領主様だけではない。副署した貴殿も、帳簿を書いた書記も、倉を開けた倉番も、命じられて運んだ兵も裁かれる。家を守るために進めた道が、家を滅ぼす道になる」
「……私は」
「貴殿が私欲で動いたとは思っておらぬ」
アルノルトは言った。
「御領主様もそうだ。あの方は家を守りたいだけだ。奥方様を、姫様を、家臣たちを守りたいだけだ」
「ならば、なぜ」
「守りたいからこそ、止めねばならぬことがある」
ベルトランは言葉を失った。
「主君の望む言葉を返すことだけが忠義なら、私は不忠でよい」
アルノルトの声は低かった。
「だが、主君を罪人にしないことも、家臣の務めだ」
部屋に沈黙が落ちた。
窓の外から、遠く馬車の音が聞こえた。
誰も、すぐには口を開かなかった。
◇
翌日、エドウィンはハルトヴィク伯爵と正式に面会した。
場所は館の執務室である。
伯爵の前には、新街道事業の地図と帳簿が並べられていた。
ベルトランも同席している。
「結論から申し上げる」
エドウィンは記録簿を開いた。
「ハルトヴィク伯爵家の新街道事業は、一部に有用性を認めます。完成すれば交易に資する可能性はある」
伯爵はかすかに息を吐いた。
「では」
「ですが、爵位継続に足る功績としては、現時点では認められません」
伯爵の顔が強張った。
「なぜです」
「事業計画に無理がある。賦役は形式上、法定日数内に収まっています。ですが農繁期と水路維持の時期に重なり、村の労働力を圧迫している」
エドウィンは帳簿を一枚置いた。
「兵の俸給遅配も確認した。さらに、霜害を受けた村へ直接使うべき王国救済金を、復興基盤整備費という名で街道事業へ回そうとしている」
「街道が完成すれば、その村も潤います」
「将来潤うかもしれない村を理由に、今困っている村への救済を遅らせる。それは救済ではありません」
伯爵は言葉に詰まった。
「そして、王国備蓄麦への一時流用計画」
「一時的な措置です」
伯爵は言った。
それは、ベルトランと同じ言葉だった。
「街道が完成すれば、通行税で補填できます」
「王国備蓄は、借金の担保ではありません」
エドウィンは静かに言った。
「封を切る前なら、まだ不適切な計画で済む。だが封を切り、帳簿上で未配分穀物と処理し、王宮へ報告すれば、それは一時流用ではなく、王国財の横流しと虚偽報告になります」
伯爵の顔から血の気が引いた。
「監察官殿。私はこの家を守らねばならないのです」
伯爵は声を震わせた。
「私の祖父は、この家に爵位をもたらしました。父はそれを守った。だが、私は何も成していない。このままでは、私の代で家が終わる」
「ええ」
「家が終われば、私だけではない。妻も娘も、家臣も、兵も、皆が迷う。領地も混乱する。だから私は前に進むしかなかった」
「その心情は記録します」
「心情だけでは、家は残せません!」
伯爵は机を叩いた。
地図が揺れた。
「私は私腹を肥やしたわけではない! 誰かを飢えさせたかったわけでもない! ただ、この家を残すために――」
「前へ進むことと、足元を崩すことは違います」
エドウィンの声は静かだった。
伯爵は息を呑んだ。
「貴殿はまだ、罪を犯していない」
その言葉に、伯爵は顔を上げた。
「備蓄倉の封は切られていない。虚偽報告も王宮へ提出されていない。だから私は、現時点では事業計画の不備、資金計画の不適切、監督責任として報告します」
伯爵の手が震えた。
「では、まだ」
「まだ、です」
エドウィンは言った。
「ですが、もし止められていなければ、報告は変わっていた」
伯爵は何も言えなかった。
「アルノルトは主命に背いた。家令としての手続きを越え、監察院へ手紙を送った。それは無条件に称賛される行為ではありません」
「ならば」
「ですが、彼は主家を売ったのではない。主家が王国への罪に踏み込む前に、その足を止めようとした」
エドウィンは記録簿を閉じた。
「本件を、不忠な家令を排除した功績とは認めません」
伯爵は目を閉じた。
「では、アルノルトは」
「家令職は退くべきでしょう。主命に背き、監察院へ手紙を送った事実は軽くない」
ベルトランが顔を上げた。
「ですが、反逆、不忠、横領等の罪には当たらない。むしろ彼の行動により、伯爵家は重罪に踏み込む前に止まった。そう報告します」
伯爵は椅子にもたれた。
怒りではなかった。
安堵でもなかった。
長く張り詰めていた糸が、ようやく切れたような顔だった。
「私は……家を守りたかっただけなのです」
「ええ」
「それだけだったのです」
「それも記録します」
エドウィンは言った。
「ただし、家を守るために王国を欺けば、家は守れません」
◇
ハルトヴィク伯爵家への裁定は、数日かけてまとめられた。
新街道事業は全面中止ではなく、一時停止。
王宮から技官を派遣し、危険な切り通しの再調査を行う。
王国救済金は本来の用途に戻す。
兵への俸給遅配は、伯爵家の私財をもって補填する。
王国備蓄倉の封は維持。
備蓄帳は監察院の確認を受けるまで変更不可。
新街道事業は、規模を縮小し、領民への賦役負担を抑えた形で再計画する。
功績としての認定は、完成後の再審査とされた。
伯爵家にとって、決して軽い処分ではない。
だが、取り潰しではなかった。
罪人として王都へ召喚されることもなかった。
アルノルトは家令職を辞した。
そして家令の鍵は、ベルトランへ渡されることになった。
◇
エドウィンが館を発つ前日、ベルトランはアルノルトのもとを訪れた。
場所は、王国備蓄倉の前であった。
かつて二つの鍵で閉ざされていた扉は、今もそのまま封を保っている。
アルノルトは家令の鍵を手にしていた。
その鍵を、ベルトランへ差し出す。
「これは、もう貴殿が持つべきものだ」
ベルトランはすぐには受け取らなかった。
「私に、その資格があるのでしょうか」
「資格とは、持ってから問われるものだ」
「私は止められませんでした」
「次に止めればよい」
アルノルトは静かに言った。
ベルトランは唇を噛んだ。
「アルノルト様」
「何だ」
「私は、貴方を恨みました」
「知っている」
「貴方が正しいと分かっていたのに、恨みました。貴方が止めたせいで、我らの家が終わると思ったからです」
「それも知っている」
「ですが、貴方が止めなければ、本当に終わっていた」
ベルトランは、震える手で鍵を受け取った。
重い鍵だった。
鉄の重さだけではない。
そこに押された責任の重さが、彼の掌に沈んだ。
「次に御領主様が道を誤られそうになった時は、私が止めます」
ベルトランは、深く頭を下げた。
アルノルトはしばらく黙っていた。
叱るでもなく、許すでもなく、ただ老いた目で若い副家令を見つめていた。
やがて、その皺深い手がゆっくりと伸びる。
アルノルトは、ベルトランの肩に手を置いた。
「ならば、もう私は要らぬな」
ベルトランは顔を上げた。
その目に浮かんでいたものを、エドウィンは見なかったことにした。
館の外では、街道工事に向かうはずだった荷馬車が止められていた。
荷台には、石材ではなく、倉へ戻される麦袋が積まれている。
庭先では、若い書記たちが帳簿を抱え、財務官の指示を受けながら数字を書き直していた。
まだ何も終わってはいない。
功績は消え、計画は止まり、領主家には王宮からの叱責が下るだろう。
だが、罪になる前に止まった。
滅びになる前に、踏みとどまった。
エドウィンは記録簿を閉じた。
忠義とは、主君の望む言葉を返すことではない。
時に、主君の怒りを受けてでも、その足を止めることだ。
風が吹いた。
館の古びた旗が、小さく揺れる。
その旗はまだ、地に落ちてはいなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回の話は、「本当の忠臣とは何か」というテーマで書きました。
主君の命令に従う家臣は、もちろん忠臣です。
ですが、主君が取り返しのつかない一線を越えようとした時、あえて逆らい、嫌われてでも止める者もまた忠臣なのではないか。
そんな話です。
ハルトヴィク伯爵も、ベルトランも、マルクたちも、私腹を肥やそうとした悪人ではありません。
家を守りたい。
職を守りたい。
家族や部下を路頭に迷わせたくない。
だからこそ、「少しだけ」「後で戻せばいい」「完成すれば補填できる」という理屈で、一線に近づいてしまう。
エドウィンの仕事は、誰かを断罪することではなく、功績と過ちを見定めることです。
そして今回は、罪になる前に踏みとどまった者たちの話でもありました。
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