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異世界に導かれし者  作者: NS
第2章 聖都アストレア
33/434

2-24 未知との遭遇3

 ーーサク、サク、サク、サク……



 森の中に落ち葉を踏みしめる三つの足音だけが響いていた。


 三人が森に入って約三十分。拓海達は何とも遭遇することなく村長から事前に聞いていたジャイアントボアトロールが水を飲みにくるという泉がある森の中の開けた場所に出た。


 しかし、ジャイアントボアトロールはいないようで三人はより不安になってきていた。



「やっぱりおかしいよ……。生き物の気配がしない……。この森に何が起こってるんだろ? 二人とも周りの警戒を怠らないでね」


「あぁ」



 先頭を歩き些細な変化を見逃さないように集中する胡桃の言葉に耳を傾けつつ、拓海は短く返事をして腰から長剣を抜いて泉を見渡した。


 陽の光を反射してキラキラと水面が光る泉には小さな魚が泳いでいるのが見え、泉の水は透き通るように綺麗だった。



(へ〜綺麗な泉だな……ってあれ?)



 ふと違和感を感じた拓海はしゃがみながら泉の周辺の地面を見て回った。



(やっぱり……)



 拓海が一人で泉の周りをうろついて不思議そうな顔をしているのを見たアイリスが拓海に声をかけた。



「どうかしましたか拓海さん?」


「なあ、ここって本当にジャイアントボアトロールが水を飲みに来ているのか? やつが飲みに来ているにしては水が綺麗すぎるし、足跡も見当たらないぞ」



 これが拓海が泉に違和感を感じた正体だった。綺麗すぎるのだ。泉の水が。


 拓海の言葉を聞いて駆け寄ってきた胡桃とアイリスも泉の水を見て、首を傾げた。


 普通ジャイアントボアトロールが水を飲みに来ているならジャイアントボアトロールが食した小型モンスター、植物が水に浮かんだりして明らかに汚くなっているはずなのだ。


 しかし、この泉にはそのような痕跡はなく少なくとも数日間はモンスターが近づいていた様子はなかった。


 アイリスは不安からか顔色を悪くして黙っていたが、拓海も表情には出さないものの更に不安になってきて胡桃に思わず尋ねた。



「なあ、この森に本当にジャイアントボアトロールがいるのか?」


「ギルドを通しての依頼だよ。どこかにはいるはず……。もう少し奥に進んで探してみてから考えよ」



 胡桃は目を鋭くして、悩みながらもそう提案し三人は奥に進むことを決めたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 それから三人が泉の奥を進んで十分くらい経った頃のこと。


 森の中で蒼ざめた顔で立ち尽くす拓海とアイリス、目を見開いて驚いている胡桃がいた。



「な……んだよこれ……」



 ようやく三人はジャイアントボアトロールを見つけた。


 ジャイアントボアトロールの死体の一部を。


 死体の周りの木は薙ぎ倒され、死体と血痕があちらこちらに飛び散っていた。


 その様子にアイリスは顔は青ざめて気持ち悪そうにしていた。拓海もここまで悲惨な状況を初めて見て思わず目を逸らした。


 拓海は胡桃は大丈夫かなと横目で確認してみると、胡桃の顔にはこれまで見たことがないほどの激しい動揺と焦りが見られた。


 ーーやってしまった、踏み込みすぎてしまった、退き際を見誤ってしまったと……



(これはっ!? 早く三人で引き返さないと!)



「拓海、アイリス! 最悪よ……、早く村に引き返す……っ!!  避けてっ!?」

 


 胡桃が指示しようと瞬間、胡桃はいち早く殺気に気付いてその場から飛び退いた。


 警戒心を最大まで高めていた拓海は胡桃の言葉を聞く前に後ろから迫る強大な殺気に気付き、反応出来ていないアイリスを咄嗟に抱き抱えて横に飛んだ。



「ーーッ!?」


「きゃあぁぁぁ!?」



 その後、轟音と共にさっきまで自分達がいた場所が砂煙を上げて大きな音とともに大きくえぐられた。


 拓海とアイリスは衝撃波を受け、転がりながら拓海の背中が木にぶつかってようやく止まった。


 そんな中、胡桃は避けてから間髪いれずに、すぐ武器を抜き放ち魔法を詠唱していた。



「“シャドウバイラール”!」



 鞭のような影が舞い上がった砂煙の中に蠢くそいつの身体に巻きついて拘束している間に拓海はアイリスに支えられて立ち上がった。


 そして砂煙が晴れて、胡桃の魔法によって拘束された三人を襲ったモンスターの姿が徐々に見えてきて、拓海はその大きさと威圧感に目を見開いて動悸が激しくなっていった。



「なんだ……こいつは……?」



 体長は四、五メートルはあるだろうか。びっしりと身体を覆う硬そうな青い鱗には所々泥やモンスターの返り血が付着し固まり、薄汚れている。特徴的なのは、そのモンスターの身の丈ほどある二本の長い腕に鋭い爪と長い牙である。そして、不気味に光る濁った赤い目の奥は何か蠢いているように見える。


 突然現れた謎のモンスターの殺気と威圧感に萎縮し、すっかり硬直してしまっているアイリスと拓海に胡桃が叫んだ。



「二人とも泉の場所まで走って! 奴はSランクモンスターのバンダースナッチよ!」



 そして状況が今一把握出来ていない二人は我に返ると同時に、胡桃を殿に全力で泉まで走り始めた。

2章ラストの戦闘開始です。

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