2-13 アストレア聖騎士団1
「明日皆で騎士団の方に顔を出したいんだけどいいか?」
最後に温かいスープを飲みほした拓海が二人にそう話を切り出した。
「あ〜そういえば招待されてたね〜。最近連続で依頼も受けてたし良い刺激になるかもね!」
「私もいいんですか??」
現在拓海達三人はジャイアントゴブリンの討伐依頼を達成した帰りに酒場で夕食をとっていた。
拓海はジャイアントゴブリンはちょっと前までは苦戦をしていたが今は胡桃とアイリスもいるので割と簡単に倒せるようになっていた。
そして最近では胡桃との連携も上達してきてジャイアントゴブリンより強いモンスターでも倒せるようになってきたりと拓海は少しずつ実力を伸ばしていた。
ちなみに今拓海とアイリスのランクはBランクである。二人の潜在能力と努力で異例の早さでランクを上げたのである。
また、この三人で依頼を受け始めてはや一ヶ月が経ったが街の酒場では全く拓海の父親の情報は手に入らなかった。
そこで拓海は騎士団の上層部の人にそのことについても尋ねようとして明日早速騎士団に見学に行こうと誘ったのであった。
そして二人はどうやら賛成のようなので今日はもう解散となり、拓海は酒場で二人と別れ帰りに一人で行きつけのモンスターの素材屋に向かった。
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(確かに冒険者になってから珍しいモンスターの素材を見ると何かテンション上がるな……)
そんなことを考えながら店に着いた拓海が鼻歌交じりに店に入ると、奥で何やら見覚えがある銀の鎧を着た男が年老いた男の店員と話しているのに気づいた。
「あれ? モーガンさん? 街で会うのは初めてですね」
「ん? おぉ、拓海君か! いやちょっとな……。最近アストレア周辺のモンスターの様子がおかしくてな。どんなモンスターの素材がよく売られるようになったのか個人的に調査していたんだよ。そうだ、拓海君は最近何か気づかなかったか?」
拓海はモーガンの問いかけに、ここ最近の依頼の掲示板内容を少し思い出しながら答えた。
「確かに最近依頼の数より多くモンスターがいたり討伐の依頼も増えてますね……。何かあったんですか?」
「わからん。今は他の知り合いの冒険者にも依頼を頼んで調査中だ。俺が直接という訳ではないが、『黒流星』にも依頼したはずだ。部下に指示したのも今朝だから、まだ聞いてないか?」
胡桃がそんな依頼を受けていたことを初めて知った拓海は自分にも何か出来ないかと考えつつ、思い出したかのように尋ねた。
「そうですか……。あ、明日三人で騎士団の方に見学に行きたいんですけどいいですか?」
「おぉ、構わんよ! そうだな、明日の午前。九時頃にアルカディア城の酒場の入口に来てくれ。時間があれば俺が迎えに行くが、おそらく俺の代わりに部下に行かせることになる」
「分かりました」
「それじゃあまた明日な。俺はそろそろ失礼させてもらう」
それからモーガンにもう少し話しを聞きたかったがこの後すぐ別件の用があるらしく、明日騎士団でまた話す機会があるだろうと判断した拓海はモーガンをそのまま見送った。
そしてしばらく店で何か新しい素材が入ってきてないか見てると、ふと店の一番奥に何かがケースに入って飾ってあるものが目に入り、拓海は立ち止まって呟いた。
「何の素材だ? これは……?」
「ん? お前さん、これが何に見えてる?」
ケースの前の受付で椅子に座っている年老いた男の店員が驚いた表情で拓海に聞き返した。
「そうだなーー」
ケースの中には一枚のモンスターの鱗らしき物が入っていた。全体的には蒼みがかかって見えるが鱗の中心から何か黒いオーラが渦巻いている。
店員が拓海の言葉を聞くと、しばらく考え込んで拓海に尋ねた。
「お前さん、名前は?」
「桐生拓海」
「……そうか」
店員の話によると、何やらある冒険者が水中に存在するとある遺跡を探索した時に遺跡の最深部で発見したものとのことだった。
店員も初めて見たものらしく値段もわからないので非売品らしい。これを持ってきた冒険者は気になったが個人情報にもなるため、店員の人はそれ以上のことは流石に教えてくれなかった。
「まだ先になるとは思うが、街を出る時最後に立ち寄りなさい」
「……? 分かりました」
店員の意味深な言葉に疑問を持ちながらも、街を出る時は世話になった店だから挨拶はしていこうと思った拓海はそう頷き返した。
その後、色々と店内のモンスターの素材を見た拓海が店を出るともう外はだいぶ暗くなっていた。
そして拓海がそろそろ宿に帰ろうと歩き始めるとどこからか視線を感じ、立ち止まった。
(ん……?)
拓海がしばらく周りを見回していると見られている感じは消えた。
(なんだ……? まあいっか、疲れたし帰ろう……)
手で口元を覆い、欠伸をしながら拓海は何事もなかったかのように宿に帰った。




