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第四話:大神官は語る

あとがきに初代勇者パーティー情報を記載しました。

興味のある方はぜひ。




エリノアが目覚めた時点から遡ること半年前、西の大国ヴォルムスの王都セレスニルではある人物のための厳かな任命式が執り行われていた。



「騎士ルフナよ、今この時をもって貴殿に二代目勇者の称号を授け、同時に教会騎士としての全ての身分を剥奪する。異存はないな?」



城の大広間、玉座に座するのは第十三代ヴォルムス国王、レイハルト。先王の急死により齢二十半ばで王位に就いた若き王、されど身に纏う王者の風格は本物だ。彼の一挙一動に呼応するように広間の空気が震え、立ち並んだ近衛兵たちが身を硬くする。


そんな彼の前には1人の騎士が跪き、王の声明に耳を傾けている。眩い金色の髪を肩口程度まで伸ばし、凛々しい騎士装束に身を包んだ少女。せいぜい十代後半、華奢とすら思える騎士。しかし、騎士はそんな外見に反して鋭い眼差しを持って堂々たる口上を述べた。


「ありません、我が王。私はこの身の全てをかけて御身の期待に応えるのみ。ルフナ=オラシオン、その一切を拝命しました」


「なら良い、伝説に違わぬ勇者の力に期待する。同行者としてこちらで何人か見繕おう、子細はシベリウスに任せてある。不足があればその都度申し出るがよい。以上だ、下がれ」


「はっ!」






聖約教会、勇者の選定を実際に行う組織。

太古の昔、神と人との間に結ばれたとされる盟約を信仰の柱とする大陸最大の宗教勢力である。

セレスニルに大神殿を構え、かつてジークがシベリウスを誘拐したのもその周辺である。

そして神殿の大神官室に先ほど二代目勇者となったルフナはいた。



「ううう、緊張しました。国王様ってスゴい迫力ですね、リビングデッドに初めて遭遇した時のことを思い出しちゃいました」


「国王を死体モンスターに例える馬鹿者は貴様くらいであろうな。まあ良い、あの若輩者が生者であろうがアンデッドであろうが、王の責務を果たすなら問題はない。」


その部屋の執務机に座っているのは、大神官シベリウス。この神殿の主であり、かつての勇者パーティーの一員であり、ルフナの上司でもある。

とてつもなく偉い人物だが、あまり性格はよろしくない。



「恐ろしく冷たいです、シベリウス様。っていうより、アンデッドだったら私たちの討伐対象なんですよ!」


「それは貴様ら下っ端の仕事であろうが、ワシには関係ない。ちなみにレイハルトの威圧感は魔法のおかげだがな、ワシが去年の即位時に教えてやった」


「あれはハッタリだったんですかっ!?」


「未熟者が貴族共を相手にするにはアレくらいの袈裟は必要じゃ、それに政治にはハッタリが必須なのだ」


ルフナは色々とショックを受けてその場に崩れ落ちた。

ちなみに威圧魔法を発動中の国王はMPを常時消費している。そのため魔力を回復するアイテム『魔力の結晶』を側近の目を盗んで服用している。バレるわけにはいかないので購入も実費で。

懐が寒いのが最近の王の悩み事だったりする、なんとも世知辛い話である。



「ど、どこでそんな下らな、いえ珍しい魔法を‥‥」


ルフナはそこまで言ってから残りの言葉を飲み込んだ。


ああ、自分で作ったんだろうなこの人、という結論に至ったからだ。

立場上、大神官と名乗ってはいるがその本質は自他共に認める大魔法使いである。暇つぶしに新しい(くだらない)魔法の一つや二つ開発していても何ら不思議ではない。

やたらプライドが高いと有名なため弟子になりたいと思う人間は少ないが。


「それより勇者の能力はしっかりと宿っておるな?そうでなければ神殿としても貴様を勇者としてサポートできん」


「はい、状態表示(ステータス)は問題ありません。仲間集めの方はまだ分かりませんが」


「仲間集めは追々、確認するしかあるまい。それらしい人物は王都にはいなかったのじゃな?」


「一週間ほどかけて隅々まで歩き回ってみたんですが1人も‥‥。ジーク様のようにはいきませんね」


「う、む。そうじゃな」



ぶっちゃけジークのようにされても非常に困る、悲劇その4などはまっぴらゴメンである。それに冒険者ならともかく、一般人を魔物退治の旅に同行させるのは気が引ける。生前のエリノアも随分愚痴っていた。という訳で内心複雑なシベリウスだった。


しかし勇者を中心に考えてみれば、旅立つ直前に仲間を確保したジークはやはり運が良かったのだろう、そしてエリノアは運に見放されていたに違いない。シベリウスが言えたことではないが。



「で、では状態表示(ステータス)をワシに使ってみよ。使いこなせておるか試してやろう」


「了解しました、状態表示(ステータス)!」




シベリウス

大神官

Lv92

HP:4325/4325

MP:8768/8768

魔力資質:解析



「私じゃなくてシベリウス様が魔物退治に行ってくださいよっ!何なんですか、このステータスはっ!せめて一緒にきてくださいっ!!」


バンバンッ、とシベリウスの座る机を叩きながらルフナは抗議する。



「ふははっ。その反応を見る限り、ステータス魔法は問題なさそうじゃな。だが二度も選ばれては堪らんわ。それにワシを視認しても探知能力が発動せんのならワシは貴様の仲間候補ではない」


それにもう、シベリウスの冒険は終わっているのだ。決して幸福ではない結末で。



「それはそうですけど‥‥‥‥はあ、もういいです。シベリウス様に口論で勝てるとは思えないですし」


「力ずくでも勝てんじゃろうが」


「失礼は百も承知ですが言わせてもらいます、うっさいです大神官」



大神官シベリウス、魔王討伐後も単身で世界中を旅して危険な魔物を倒して廻った英雄。性格はアレだが、勇者パーティー1の功労者であり、勇者の仲間といえば真っ先に挙がるのは彼の名前である。



「時に、我が孫娘とは仲良くしてくれておるか?アレは気難しくての、友人になってくれた貴様には感謝してやらんこともない」


「うっ、今はケンカ中なんです‥‥‥あの、知ってて言ってますよね。絶対知ってましたよね?」


ジトッとした視線のルフナに対し、シベリウスは鼻を鳴らして小さく笑った。


「さての、まあアレの頭も暫くすれば冷えるじゃろう。任務は半年、見習い期間だと思って励むが良い。もう行くのか?」


「はい、思い立ったが吉日ともいいますから。仲直りの言葉を考えながら出発しようと思います」






そして神殿を跡にし、街の外へと向かうルフナはたった1人の友との会話を思い出した。


「ねえ、勇者の選定なんて断っちゃおうよ。ボクがお祖父様に頼んでみるから。魔王退治なんかよりボクの部隊に来た方がいいよ。絶対そっちの方が楽しくなるよルフナ♪」


そう言ってくれた親友の手を自分は払い退けたのだ。後悔がないといえば嘘になる、親友を拒絶して茨の道に進もうとしているのだ。それでも勇者として選ばれた自分は何かを成せるはずだと信じている。

穢れきったこの手でも誰かを救えるかもしれない。そうすればきっとやり直せるとルフナ=オラシオンは信じて進むのだ。






ルフナが去っていった神殿ではシベリウスが執務机から立ち上がり、溜め息をついていた。



「やれやれ、ジークの阿呆とは似ても似つかんな。あやつはもう少し、いやかなり型破りだった。別に血縁があるわけでもないが勇者が聞き分けがよい人間というのは、やはり妙な気分じゃな」



ルフナの実力は本物だ。恐らく王都でも1対1でルフナに確実に勝てるのは自分か孫娘くらいだろう。大抵の魔物単体になら負けないだけの実力はある。

しかし、それでは足りない。ジークには遥かに及ばない。


あの男は度を超えた馬鹿ではあったが、戦闘能力だけは本物だった。



あの決戦で先陣を切って魔王城へと単身で乗り込んだのも、魔王とその使い魔を除く城中の魔物を一掃するためだった。自分たちが使い魔を倒すための邪魔者の大半を引き受けたのだ。




剣術ではガロガインが制するだろう。



一撃の殺傷力はアナスタシアが勝るだろう。



魔法ではシベリウスが打ち勝つだろう。



大魔王を単独で足止めすることはエリノアにしかできぬことだろう。



しかしジークは総合的に評価すれば最強の存在だったのだ。得手も不得手もなく、ただ敵を殺すことだけに長けたジークの力。


他の人間があの男の代わりを勤めるのは荷が重すぎる。




ならば足りない分を補うために護衛を付ければよいのだが、生憎と神殿からは動かせる駒がない。

教会騎士団は使いモノにならない。

貴族の三男や富豪の跡継ぎなどが箔をつけるために所属し、数年も経てば離れていく教会騎士団。

そんなわけで正直なところ、教会騎士は役立たずなのだ。パレード映えする煌びやかなお飾り部隊でしかない。

選考基準も実力ではなく身分や容姿だというのは公然の事実だ。

極一部を除いて実力は素人並み。つまり近衛隊の騎士すら凌駕する実力を持つルフナはその極一部に含まれるということでもある。

辺境の村や町への医療の提供や農業指導など、救いを求める人々への慈善活動を主な仕事としている教会が自衛以上の戦力を所有している。

教会トップの自分が断言するのも難だが、ロクな理由ではない。ルフナを追い詰めた一因は自分にある。





「何を考えてるの、お祖父様?」


「ルフナが出発したのを見計らって来たな。そんなにも顔を合わせ辛いか?」


背後から前触れなく聞こえてきた、透き通るような声にシベリウスは何でもないように答える。



先程まで自分が座っていた執務机には、桃色の髪をした娘が座っていた。

身に纏うのは金属製の鎧ではなく複数の防御魔法を施された布を使った真っ白な騎士装束。魔法使いにも見える出で立ちだ。

いきなり現れるのはいつものことなのでシベリウスは特には気にしない。



「いま会うとまたケンカしちゃうからね。お互いにそれは辛いよ」


「すまぬな、ワシがルフナを勇者に勧めなければお前たちを仲違いさせることもなかったじゃろう」


「ううん、お祖父様が必要だと思ったんなら仕方ないよ。でもホントに勇者が必要なのかは疑問だけどね」




そもそもからして今回の勇者選定は異常だった。魔王が出現するのであろうという予想の下に行われた。つまり現在魔王は世界の何処にもいないのだ。勇者が倒すべき相手がいない。



「胸騒ぎがする、としか言えんな。ジジイの戯言で済むならそれでよい、だからこそまずは半年の任務なのだ」


事実として、ジークとエリノアが旅立った時も、シベリウスが最後の仲間になった時も魔王勢力の動きは緩やかだった。


あの頃と同じだとは言わない。魔物に国が滅ぼされたことはなく、魔王も"今は"いない。状況は何一つ悪くない。だが不吉な予感がするのだ。

最近よく見るあの夢も亡き彼女からの警告なのかもしれない。




「この静けさは嵐が近い前触れなのかもしれぬな」


「だーいじょうぶっ、ボクとお祖父様がいれば魔物なんてイチコロだよ。レッツ、ジェノサイド!」


「‥‥自信家なところまでワシに似る必要はないぞ、孫娘よ。それに魔物を全滅させるのが勇者の責務ではない」




この世界において魔物とは人々の脅威であると同時に重要な生活資源でもある。

毛皮や肉を始めとして、魔法薬の材料になる血液や角、そしてその身に宿す魔力は人間世界の繁栄を支えるために欠かせぬものである。

そして、それらの魔物の王とされているのが魔王だ。



「百年前、我らは多大な犠牲を払いながらも大魔王に打ち勝った。だが歴史を紐解いてみれば、魔王という存在が現れたのは決して初めてではない。というのは知っておろう?」


「だいたい周期は五十から百年ぐらいだっけ?定期的に発生するなんて迷惑な存在だよねぇ」



「いや、そうでもない。魔物は重要な資源じゃ。しかし人々が過剰な狩りを行えば当然その数を減らす‥‥‥ここからは少し長話になる。紅茶くらいは用意してやろう」



ふわりと二組のティーカップが戸棚から現れる。東のラファ地方から送られてきたばかりの良い茶葉があったのでソレを使うことにする。

クルクルと踊るように回転しながらティーポットに吸い込まれていく茶葉たち、同時に沸騰した熱湯が虚空から注ぎ込まれる。


「ミルク入れてね」



そう注文をつけた孫娘に苦笑しながら、シベリウスは湯気の立つティーカップの片方を執務机に座る孫娘に手渡した。


魔法で飛ばせばよいのだが、こういうことは必要なスキンシップだと思っている。




この子を特別扱いしている自覚はある。しかしたった一人の孫なのだから仕方ない。

ジジイは孫には甘いものなのだ。



さて、話を続けよう。



「魔王はまるで魔物の減少に合わせるかのごとく現れる。そして魔王には魔物を創り出す力がある。皮肉なことだが、魔王のおかげで人間世界は繁栄を保っておるのだ」



研究者の間では、魔王とは自然が生み出した人類と魔物のための調整者ではないかという考えすらあった。なんとも都合の良い考えである。



「魔王自体はせいぜい二、三年あれば討伐されていた。その程度の力、魔王は狩られて当然のウサギだったのだ」


「そりゃあ帝国の太陽の狼たち(マーナガルム)に狙われたら終わりでしょ。アイツら、狩りが滅茶苦茶に得意だし」




かつてこの大陸の大部分を支配し、隆盛を極めた旧帝国ファブニールはそんな魔王が定期的に出現する地だった。

旧帝国は魔物資源で潤沢な財政を維持していた。その国力はこの世界の人類史上最大のものだったとされている。




だが災厄は訪れた。




妙な兆候は何年も前からあった。それは五十年周期だった魔王の出現が遅れていたことだ。


困惑したのは帝国だ。魔物を創り出す魔王の存在を前提にした経済体制を築いていた以上、魔王無しには国が成り立たない。魔物の数が減少の一途をたどる帝国にはそれを回復させる魔王が必要だったのだ。

帝国は魔王の出現を待ち望んでいた。



そして実に五十年遅れ、つまり百年の周期を経て魔王は出現した。

増加し始めた魔物に歓喜していた帝国はすぐに思い知ることになる。



今回の魔王が、人間そのものを滅ぼしかねない強大な怪物と化していたことを。





戦闘らしい戦闘は行われなかった、あったのは絶対強者による軽やかな蹂躙だけ。


大陸の覇者は一夜で滅び去り、魔王とその三体の使い魔は帝都を制圧した。

その直後、魔王は自らを"大魔王"と称し、帝国制圧の実行者であった三体の使い魔は"魔王"と呼ばれることになる。





『あの日、空が堕ちてきた。なら我々は滅びるしかないだろう』


旧ファブニール帝国記の最終章にて語られている、この言葉が何を表しているのかは未だに解明されていない。



これ以後、占領された旧帝国領は魔王領と呼称されることになる。






そして、この時祖国の滅亡という辛酸を舐めたのが若き日のガロガインであった。彼の過剰までの魔王討伐に対する執着心はこの頃に形作られることになる。

彼自身は幾度となく魔王領に乗り込むも結局、魔王城に辿り着くことすらできなかった。

しかし、この時の彼の経験が後に勇者パーティーの魔王領侵攻において非常に有益なものとなる。


「あの魔王領から魔毒汚染もされずに無事に帰って来るなんて、ホントに人間だったの?人体構造的に無理だと思うけど」


「人間だ、だからこそ魔王城には辿り着けんかった。魔王領深部の毒霧は人間には致命的過ぎる。魔毒を浄化できるワシがいなければジークやエリノアですら魔王城には辿り着くことは叶わんかったじゃろう。まあガロガインなら‥‥‥、いや流石に不可能じゃろう。そうでなければ人間として色々とおかしい」



滅亡から数年後、旧帝国は領土の六割近くを失いながらも皇帝と血縁のあった王国の王子を新たな主として招き入れ、新生ファブニール(新生帝国)として国を立て直した。

それが現在の帝国である。






「魔物退治なんて面倒くさい旅に自分から行かなくてもいいのにさ。ようやく根回しも終わって、守護騎士団への転属だって決まってたのに」



守護騎士団、王国の主要な都市に置かれている防衛戦力。都市により人数は上下があるが、その実力は教会騎士とは比較にならない。


王国中から集められた腕利きの兵士と各地で名をあげた元冒険者達が連なる屈強な部隊で、所属する者には王国での地位も約束される。

冒険者の中には守護騎士に選ばれるために腕を磨き、困難な魔物退治に明け暮れる者も少なくない。


百年前の王都防衛戦においては、数千の魔物から王都を8日間守り抜いた。

エリノアたちの帰還を信じて絶望的な戦いを耐え抜いた騎士達は、例えその結末が敗北であっても貶められるべきではないだろう。その証拠に現在も民衆からの信頼は厚い。



そして、各都市の守護騎士団の頂点に立つ者こそが"守護の楯"と呼ばれる。王国最強の実力者達である。並みのドラゴン程度ならダース単位で討伐する大陸屈指の精鋭だ。かつてガロガインが属していた帝国の"太陽の狼たち"にも勝るとも劣らない戦闘力を誇る。



そんな中でもシベリウスが五十年以上勤めていた"王都セレスニル守護の楯"は実力、権威ともに別格とされている。





「ボクがどれだけ苦労して準備を整えたと思ってるのさ、まったく。」



プンスカと不機嫌そうにティーカップに口をつける。桃色の髪が可愛らしく揺れる。

そんな仕草を微笑ましい表情でシベリウスが見守っていた。





孫娘の機嫌は良くない。

ようやく親友と一緒にいられるとワクワクして待っていた楽しみを帳消しにされたからだ。


騎士団入りにおいてルフナの実力自体は問題なかった、特に対人戦闘は相当なものだ。

だが所属していた部署がマズかった。


それは、ちょっぴりダークな部署だったのだ。

具体的にいうなら教会の汚れ仕事専属。顔を隠し、身分を隠し、暗闇に溶け込み目的を果たす影の部隊。


部署自体は表の世界でも有名なため、ルフナがそこに属していることに感づいた奴がいたのだ。

そいつがルフナの守護騎士団入りに反対した上に、言ってはならない言葉でルフナを侮辱した。



"穢れた精霊の隷属者"と。



そいつはギタギタにしてから退場してもらった。元から気に食わない奴だったので見限るのにも丁度良かった。



ぶっちゃけてしまうと前十二代目国王である。



末端とはいえ教会に所属する者を一方的に侮辱したという理由でお祖父様にも協力してもらい、王座から引きずり下ろしてやったのだ。じわじわと追い詰める趣味はないので一週間で手早く済ませた。



しかし、あの男はどうやら色々な方面から恨みを買っていたらしく刺客を送り込まれ殺されてしまった。

これは想定外だった。



そのせいでゴタゴタが起こり政治が停滞し、守護騎士の一件も流れてしまったのだ。




「それでも何とかしたんだけど、その次は勇者の選定なんてついてなかったなぁ。友達と一緒に戦うのが夢だったんだけど、コンビネーション・アタック!みたいな感じで」



桃色髪の少女には友達がルフナ以外にいない。



英雄の孫娘、その称号は1人の少女が普通に生きるには余りにも重すぎたのだ。

尚且つシベリウスの才能を最も色濃く受け継いでしまったのが決定的だった。


同年の少年少女たちからは拒絶され、いつからか周りにいるのは自分を利用して甘い汁を吸おうとする連中だけになっていた。


美しい薔薇には棘がある、そしてそんな危険を冒してまで薔薇に手をかける人間に私欲がないわけがないのだ。



だから自分を英雄の孫娘としても、天才魔法使いとしても特別扱いしないルフナは待ち望んだ人間だったのだ。

少し夢見がちで頑固な性格ではあるが。



「ワシの孫であったばかりにツラい思いをさせてしまったな」


「ううん、ボクはお祖父様の孫で幸せだよ。だからお祖父様は謝らないで。ちょっと寂しいけどね」


「‥‥‥お前も旅について行ってもよかったのだぞ。」


「あははっ、ボクに旅なんて似合わないよ。割に合わないし、面倒くさいもん」



その言葉を聞いてシベリウスが何故か吹き出した。

桃色髪の少女はそんな祖父に不思議そうな表情を浮かべたが、まあいいやと気にせずにティータイムを続けることにした。



シベリウスが思わず笑ったのは、かつての自分と目の前の孫娘の姿が重なって見えたからだ。

本当に不必要なところまで似てしまっているようだ。


だが、それなら旅に出してみるのも面白いかもしれない。ひょっとするとシベリウスと同じように得難い人生の糧を、宝石のような思い出を、旅の途中で手に入れるかもしれないのだ。


「しかしそうすると、今度はワシが寂しくなるのう」


「何か言った、お祖父様?」


「独り言じゃよ、独り言。さて話はここまでにしよう」


「そっか、じゃあまた来るね。『空間転移"王城へ"』」



バシュンッ、空気を裂く音を残し桃色髪の少女が姿を消した。

『空間転移』、光系列の最上位の高等魔法。

シベリウスですら下準備無しには使用できないほどの難易度を誇る魔法だ。特定分野に絞るなら孫娘はシベリウスを超える才覚がある。

無論、まだまだ負けてやる気はない。というより、死ぬまで負けてやるつもりはないが。



孫にムキになってどうする、シベリウスは自身のプライドの高さに呆れながら、執務机に置きっぱなしにされた空のティーカップを片付けにかかった。






しかしこの時、ルフナもシベリウスも気づいていなかった。


ルフナが勇者の力を授けられてからこの親友二人は一度も顔を合わせていなかったことを。


それがどれだけ初歩的で、致命的なミスであったのかを。




親友同士の再開は半年後、ルフナが白い少女と出会った後のことになる。






そして物語は半年後(現在)へ移り変わる。



「ほら、アンタ大丈夫?」



その声に、その姿にルフナの鼓動が高鳴る。自分以外の誰かが「ルフナ=オラシオンが探していたのは、この人だ」と語りかけてきた気がした。



雪のような白銀の髪と燃え盛る炎のような深紅の皮鎧。所々破れた鎧の隙間から見える肌はどこまでも白い。




トロールに囲まれ死を覚悟したルフナの前に、突然現れた白い少女は一撃でトロールの首を斬り飛ばし状況を一変させた。

座り込んだルフナをほったらかしにして今現在、群れを蹂躙している。




立ち上がらないと、そして自分も加勢しないといけないのだが身体が言うことを聞かない。目の前で繰り広げられる戦闘を見つめていたいと思ってしまう。それほど見事だったし、何故かもう大丈夫だと思っていた。




その剣筋は無骨ながらも流麗、実戦経験に裏打ちされた確かな剣技。どことなく昔目にした帝国の型を感じさせる、帝国出身の剣士だろうかと予想する。


一頭一頭の攻撃を裁き、受け流し、武器である棍棒を確実に破壊していく。そして得物を失って素手で殴りかかって来るトロールを斬り倒す。

トロール自身を自分の間合いに誘い込み、カウンター気味の斬撃で仕留めているのだ。



そして周囲のトロールがルフナを狙わない。多分挑発系の魔法を並行運用した上であの戦闘を行っている。


トロールたちはルフナの存在を忘れてしまっている。今のルフナへの認識は路傍の石ころと変わらない。これならルフナを庇いながら戦わなくてもいいだろう。




力の差を理解したトロールの群れが逃亡を始めるのに時間はかからなかった。



そして


「あの、信じてもらえないかもですが私が勇者なんですっ!」


「‥‥‥‥‥‥は?」


意を決して口に出した言葉に対する白い少女の反応は微妙だった。仲間探知の能力が発動した以上は勇者たるルフナの仲間に違いないのだが、シベリウスの言うとおり相手からは認識できないようだ。



「や、やっぱり信じて貰えませんか?」


「いや、勇者はジークでしょ?あの馬鹿はどうしたのよ、私がここに飛ばされている間にクビにでもされたの?別に不思議でもないけど」



最初、ルフナは会話の意味が分からなかった。

何故ここでその名前が出てきたのかが。



「えっと、ひょっとして初代勇者ジーク様のことですか?」



だからルフナは特に考えもせずに答えたのだ。








「ジーク=フリードリッヒ様はもう随分昔に亡くなられましたよ」




それが目の前の少女にとって、どれほど残酷な仕打ちになるとも知らずに。



○エリノア

仲間になる時期:

オープニング

仲間になる条件:

クエスト『エリノアちゃんを探せ、そして掴め』をクリア

初期レベル:5

ポジション:前衛



○ガロガイン

仲間になる時期:

4年目王都

仲間になる条件:

ガロ爺の攻撃から一定時間耐え抜く

初期レベル:82

ポジション:前衛



○アナスタシア

仲間になる時期:

エルフの(いつでも)

仲間になる条件:

エリノアとアナスタシアの友情ポイント一定値以上

初期レベル:20

ポジション:前衛



○シベリウス

仲間になる時期:

7年目王都

仲間になる条件:

担ぐ

初期レベル:30

ポジション:後衛





初代勇者パーティーの皆さんはこんな感じ。

色々な意味で伝説になりそうです。

何が、とは言わないのが吉。

誰が、とはもっと言ってはいけない。

孫娘さんの名前はまだ秘密、伏線ではなくてちょっと背景が面倒なので。



皆さんの応援のおかげで目標としていた総合100ポイントに手が届きました。

待ち望んだ感想もいただいて、本当にありがたいことです。


「オレ、次は500ポイントを目標にするんだ」

貪欲に生きようがモットーの作者です。





そんなわけで、もしお付き合いいただけるなら引き続き、

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もちろん感想も気軽に書いて下さいね。

「(・∀・)イイ」だけでも励まされるチョロ作者です。

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