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第八話:魔王の残滓

長くなりそうなので分割させていただきました。

あと1話だけ過去軸を描かせて下さい。


『私が大魔王を足止めします、貴方たちはその間に奴の使い魔を倒して下さい』


『エリノアそれではお前がっ!』


『良いのです、勇者ジーク。覚悟はできています』


『行きましょう皆さん、この世界のために、大魔王を倒すのです』



ーー勇者ジーク物語

最終章『永久の離別』より




「ブッ、………ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!」



砂を噛み締めたような不快感の宿るノイズじみた声が街中に響き渡る。


ここはヴォルムス王国の錬鉄都市。

その名の通り、王国の鉄鋼産業の中心であり、魔剣や魔銃などの武器から日用品まで様々な鉄製品を作り出している工業都市。

現在、王都守護の楯の選別大会に挑んでいる無精髭の大男ケディングの所属する守護騎士団が存在する。王国の主要都市の一つである。




昼下がり、本屋の店先で立ち読みをしていた青年が突然、笑い出したことからソレは始まった。


本のタイトルは『勇者ジーク物語』、この世界の人間なら誰でも知っている最もポピュラーな英雄伝説だ。

内容は至極まじめ、笑うような要素はないはずだった。

にもかかわらず、この青年は腹を抱えて笑う。

耐えきれないとばかりに。


なんだなんだ、と通行人達の視線が残らず、この異様な青年に集まった。

ある者は通り過ぎながら横目で、ある者は不思議そうに立ち止まる。


真っ昼間から、大通りに面した本屋で腹を抱えて爆笑するなど、頭のネジが飛んだ変人のすることだろう。

その妙に耳障りな声もまた、大勢の通行人の注目を引きつけていた。



そして彼らは余りにも、『不運』だった。ただ運が悪かった、それだけで人の生死は分けられる。



ぐらり、と一人の見物人の身体が揺らめき、そのまま地面へと倒れ込んだ。

どうした、と駆け寄った人間もまた突然意識を失い、崩れ落ちる。


後を追うように、ぽてん、ぽてんと人々が次々倒れ伏していく。その両目は虚ろ、手足は硬直し、まるでよくできた人形のように道端へと倒れ込んでいくのだ。

わずか数秒後には眩しい太陽の光の下に、うつ伏せの人間が所狭しと転がっていた。そこには息絶えた死体も混じっている。



それは異様な光景。



元凶は当然、この青年。

しかし彼は意図的にこの惨状を作り上げた訳ではない。

ただ彼が笑った時、無意識に飛ばした『魔毒』が周囲の人間共を昏倒させただけだからだ。

青年には周囲の人間がどうなろうが興味はない。興味があるのは手元にある本の内容だけだ。



「おいおい、アイツが自己犠牲なんてやる女なわけねえだろ? なにせ『この俺様』を殺した女なんだからよ、もっとスマートに敵をぶち殺すに決まってんだろ」



血の通わない青白い顔が、隠しきれない愉悦に歪む。アメジストのような紫色の瞳が周囲をギョロリと見回した。



「しっかし、人間(てめえら)は百年経っても面白えな、てめえらを皆殺しにしたくて堪らない『あの方』の考えは理解できねえぜ」



青年は可笑しくて堪らない、人間がこんな有り得ない虚言を吐くのが酷く滑稽に感じるからだ。

あのひねくれ者の少女がこんな聖女もどきな言動をするわけがない。

したとしても、相手をからかうか、油断させるかの二択だろう。

あの勇者がこんなマトモな台詞を吐くことも青年の知る限りは有り得ない。基本的に何を考えているのか分からん奴なのだから。


おまけにこの本では、『勇者一行』が単独で魔王領に攻め込んだと描かれている。

実際は『守護の楯』、『太陽の狼達』、『閃光騎士団』といった各国の最高戦力を捨て石にした上で勇者ジークを囮に使ってようやく魔王城に辿り着いたのだ。

大魔王が侵入者を皆殺しにするために丹精込めて造り上げた魔王領はそれだけの要塞だった。

そしてもう一つ、



「ーーアイツらが俺らを1対1で倒したみたく描いてやがるからな」



魔王城での決戦、あの時点で生き残っていた大魔王の使い魔、つまり『魔王』は一体だけだった。


他の二体は決戦前に、エリノア達によって既に撃破されていたのだ。



この青年を含めて。



つまり、エリノアが命懸けで大魔王を足止めして稼ぎ出した時間で仲間達が成したのは、たった一体の使い魔を倒したことだけ。


それもガロガイン、アナスタシア、シベリウスという各国屈指の実力者といってよい人間達だからこそ可能だったことである。

逆に言うならば、それが『人間』に許された限界だったのだ。

超一流の『人間』と最上位の『魔物』との間にある明確な力の差がそれだ。

どんなに修練を積もうと超えられない壁がこの世界には確かに存在する。



「あーあ、つまらねえ。今回はどれくらい手加減してやればいいんだよ、一番ぶち殺したい『エリノア』の奴は大魔王様になぶり殺しにされたみたいだしよ。どうせ死ぬなら俺様に殺させろっての、あの気取った顔が涙でグチャグチャになるまで、徹底的に可愛がってやったのによ」



青年の瞳に宿るのは暗い光、深遠の海のごとくに見る者を奈落へと引きずり込む漆黒の輝き。

その瞳はここにはいない白い少女の姿を幻視している。

あの少女を組み伏せ、恥辱と苦痛と快楽を身体の隅々まで与えてやる。

『今度こそ』、その魂に二度と消えない傷を深く、刻み込んでやるのだ。

それは青年にとって、最高の娯楽となるだろう。

想像するだけで感情が高まり、マグマのような魔力のうねりが身体中を満たしていく。


このどうしようもない感情と、人間とは相容れない穢れた魔力を余すことなくその華奢な身体に注いでやる。

いつまで自我を保てるか、じっくりと時間をかけて堕としてやろう。

きっと、壊れる瞬間まで強がって悪態を突いてくるに違いない。



「この俺様を殺したご褒美に、それくらいしてやらねえとな。だが残念だ、チャンスを逃した」


心底残念そうに青年はため息を吐いた。別の娯楽を探すのは骨が折れそうでもあるからだ。



エリノアとシベリウスの再開から少し前、『魔王アレクレイオス』はただ一人、復活していた。


エリノアの懸念は的中してしまったのだ。




「5人中、存命してるのは2人だけ、か。とても残念だが、ジークの野郎がくたばったなら新しい『勇者』が選定される。なら、そっちに期待するのもアリだな」



アレクレイオスは三日月のように口端を吊り上げ、底冷えする邪悪な笑みを浮かべた。



ーーせいぜい、俺様を楽しませろ人間共



「さてと、オイお前、俺様にこの街を案内しろ」


「かしこまりました、まおうさま」



たどたどしい話し方で答えたのは先程、『魔毒』に当てられて倒れた男性だった。

視線は相変わらず虚ろなまま、ゆったりとした動作で立ち上がりアレクレイオスの傍に歩み寄った。



男性は息をしていない。



「まずはアレだ、この街の『守護の楯』のいる場所に案内しろ。使えるストックが欲しいからな」


「かしこまりました、まおうさま」



カクカクとした、糸に操られた人形のように男性は歩み始める。

アレクレイオスは悠然とその跡をついていく。


アレクレイオスはまず『駒』を用意することから始めることにした。

百年前、大魔王の総攻撃と同時に各国の連携を完全に破壊し、人間の防衛線を崩壊させ、王都セレスニル陥落の直接の原因を作り出した張本人。


エリノアの宿敵、魔王アレクレイオスは一足先に動き出した。



百年前と同じように、とても静かに人間世界の崩壊は始まる。





そして後にアレクレイオスは歓喜することになる。

ジークの後継者である勇者ルフナが自らの期待した、壊しがいのある人間であったことに。

そして、最高の獲物(エリノア)が生きて自らの目の前に現れたことに。



その時、魔王アレクレイオスは初めて神に感謝した。


『魔王様が現れた!』



○コマンド


戦う←


アイテム


逃げる


エリノアさんに押し付けよう







さて、貴方はどれを選ぶ?



前回と前々回はあとがきにこだわってみたつもりですが、如何だったでしょうか?


あのような感じでも良いとおっしゃる寛大な読者さんがいれば、ああいう感じでこれからもストーリーに合わせて載せさせて頂きます。




さて、それでは久しぶりに言わせて下さい。


「ポイント評価、お気に入り登録、お待ちしております!」



そして、こんな若輩者をお気に入りユーザー登録して頂いたユーザーさん、ありがとうございます!

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