第26話 花火の余韻
楽しい楽しい花火の時間はあっという間に過ぎていき、帰る時間になった。
石山さんに家まで送ってもらい、私はすぐに居間の畳の上で横になる。
思いのほか疲れていたらしく、体の芯からぶわっと疲労が出てきた。
「お風呂沸いたよ…って、寝てる?」
「寝てない」
「そっか」
畳の上で目を瞑っていたら、ホミに寝ていると勘違いされてしまった。
だるくて動きたくないと言う体を強い心で抑えて起き上がると、ホミに浴衣を脱がされる。
その途中、『脱いでから横になってよ』と怒られてしまったけど…疲れてたから大目に見てほしい。
「来年も使うんだからね?しわが付いたら大変でしょ?」
「そうだけど…」
「疲れてるのは分かってるよ。帰りの車で、すごく眠そうにしてたもんね?」
「でも、結局寝なかった」
「張り合わなくていいよ。別に責めてないし」
帰りの車は、私の根性が試される場だった。
なにせ両隣に座っている石山さんの子供が二人して私に体を預けて寝始めるものだから、その二人が倒れないように支えてあげてた。
私も眠かったけど、ここで私が寝ると誰が支えるんだってなって、寝ることはできなかった。
もちろん、人の車だからって理由もあるけどね?
「もう着替えて寝て良いよ、って言いたいところだけど…お風呂に入って歯磨きしてね?」
「分かってるって。一緒に行こう」
「うん」
お風呂を催促されて、仕方なくホミと一緒にお風呂へ向かう。
何も恥ずかしがることはないし、当たり前のように裸になって、隠すことなく浴槽へ。
もちろん、全身を洗ったうえでのことなので決して汚くはない。
ふちにもたれ掛かって、お湯で体の疲れがほぐされていくのを感じていると…ホミが私の顔をまじまじと見ていることに気が付いた。
「…珍しいね。何かいいことでもあった?」
「え?何が?」
「私の顔をそんなにじーっと見てさ。嫌な気はしないけど…気になるでしょ?」
「…うん、そうだね。いいこと、あったよ」
「へぇ?聞かせてよ」
お祭りに行って楽しかったとか、花火が綺麗だったとか、そんな話をしてゆっくり体を温める。
お風呂は心の洗濯と言う通り……命の、だったかな?
とにかく、心地のいい温度のお湯につかっていると気分がよくなる。
ホミと楽しく話しているならなおさらだ。
一日の体と心の疲れが取れていくのを感じ、疲れていてもお風呂には入るべきだと実感させられる。
「……まあ、一番良かったことは――サカイと一緒に花火を見られたことかな?」
「え?」
「1人で暮らすようになってからの花火って、なんだか楽しくなかったんだよね」
「そりゃあ、1人で花火を見に行っても楽しくないでしょ?1人には1人の遊び方があるんだし」
「1人の遊び方か…サカイが言うと、実感が籠ってるね」
「うるさいなぁ…」
クスクスと笑われて、お湯を掛けたくなったけど…そういう雰囲気ではないから我慢。
「大切な人と一緒に見る花火って、なんか特別な感じがしない?」
「そうだね。…うん、そうだね」
「え、浮かれて他の私だけ?」
「い、いや、そんなことはないと思うけど…」
…恥ずかしい記憶がよみがえって、言葉に詰まったせいで勘違いさせてしまった。
とはいえ、その勘違いを正そうとするのは恥ずかしいのでできない。
もじもじしていると、何か事情があるんだろうと察してくれたのか、話が再開された。
「そんなわけで、特別な花火を見てさ…なんというか、まだ終わった実感がないんだよね」
「…そう?」
「ほら、本を読むのに夢中になった時、読み終わったその直後って変な感覚があるよね?」
「まあ、確かに…」
「それに近い感覚。もう終わったはずなのに、まだ続いているかのような錯覚。余韻ってやつだね」
余韻…あんまりわからない感覚だ。
ホミのたとえ話が上手かったから、言いたいことは理解できた。
けど…花火で余韻を感じて、それがずっと続く感覚は…わからない。
「…わかんない?」
「うん…」
「そっか……じゃあ、わかるように伝えてあげる」
「え?…んんっ!?」
いきなりキスされた。
それだけじゃない。
ホミは私のことを押して頭を壁に押しつけ、激しく唇を貪ってくる。
「んっ…ちゅ……んん……ぁ…」
「ちゅ……んっ……ふぅ……どう?わかった?」
「…わかった。わかったからもうこんな事しないで」
「え……あ、うん…」
いきなりのことに心の準備が出来てなくて、心臓がバクバク言ってる。
体がお湯で熱されているのもあって、興奮が収まらない。
ホミを直視できず、触れられていると落ち着かなくて拒絶した。
心の中で深呼吸を繰り返し、なんとか冷静さを取り戻そうとしていると、ホミが立ち上がる。
「先に上がるよ」
「え?うん」
お風呂から出ていくホミの背中は…なんだか寂しそうで、小さく見えた。
その姿に興奮なんか一気に鎮火され、何か間違ったのではと思い返す。
……拒絶したのが良くなかったのかも。
心当たりはそれだ。
けど、今上がってその事を謝りに行っても気を遣わせるだけ。
一旦間を置いて言うべきだと思う。
ホミが体を拭いて着替えたのを確認してから上がる。
お風呂から出ると、ホミは歯磨きしていた。
脱衣所に洗面台があるので、ちょっと空気が緊張してるけど…何も知らないフリして体を拭き、パジャマに着替える。
裏返った服や靴下は元に戻して、ホミが洗濯しやすいように仕分けして置いておくと…歯磨きを終えたホミが洗濯を始めた。
私はその横で急いで歯磨きをして、ホミが先に居間に行ってしまわないように、多少雑に終わらせる。
ちょうど、うがいが終わった頃にホミも洗濯機のスイッチを押したので、なんとか間に合った。
2人で一緒に居間に来ると、ホミはそこで私の髪を乾かしてくれる。
怒っていても髪を乾かしてくれるホミの優しさに感謝だ。
けど、いつ謝ったものかな…
踏ん切りがつかず、ウジウジしているうちに私がホミの髪を乾かす番になった。
ここで謝ろうかな…いやでも、ドライヤーの音でちゃんと聞こえないかも。
これが終わってからにしよう。
そう決めてホミの髪を乾かしていく。
しっかり手入れされた綺麗な髪を、傷付けないように丁寧に乾かす。
髪は熱風で乾いていくけど…緊張から手は汗ばんで湿気を持ち出した。
怖がっているうちに乾かし終わり……
「「………」」
…重い静寂のせいで言葉が出ない。
どうしよう…せっかくお祭りも花火も楽しかったのに、夜がこんなのなんて最悪だ。
このままじゃ寝られない。
眠気なんて吹き飛び、どうしようか悩む。
ホミもあまり心地が良くなかったのか、テレビのリモコンに手を伸ばした。
…電源を押されたら、テレビの方に意識が向いちゃう。
そうしたら、テレビを見終わるまで謝るタイミングがなくなってしまう。
どうしよう………
……ええい!もうどうにでもなれ!!
「ホミっ!!」
「うわっ!?」
リモコンの電源ボタンが押される前にホミに飛びついて、床にホミを押し倒す。
そして右手からリモコンを奪い取ると、そのまま放り投げてホミに覆いかぶさった。
困惑して表情が固まるホミ。
自分でも何をしているのか理解できなくてテンパる私。
そんな状況では、人はとんでもない行動に走るもので……
「ごめん!」
「えっ!?ええっ!?」
ホミのパジャマに手を伸ばし、無理やり脱がせる。
突然のことに抵抗もままならず下着姿にされるホミ。
もうあとに引けない私。
ここまで来たらと言わんばかりにキスをして、胸を揉みまくる。
上を取ってホミの事を襲ったんだ。
唇を喰らって、胸を壊して…ホミの体を好き放題する。
「ちょっ……やめて!!」
「うぐっ!?」
ホミにお腹を蹴られた。
流石に頭がハッキリして、今自分が置かれている状況の危うさに気付いたみたい。
お腹を蹴られた痛みで悶絶している隙にホミは逃げ出し、私から距離を取った。
「「はぁ……はぁ……」」
ホミはキスから解放されて、肩を震わせながら荒い息している。
私はホミに蹴られて痛みで上手く呼吸ができず、両手を床について洗い息をする。
お互い呼吸が整ってきたあたりで面と向かい合い……緊張した空気が漂いだした。
またホミを襲えば、お風呂での過ちを無かったことにできる。
…それ以上の過ちで上書きすることになるからね。
けど、さっきほどの勢いが無いため怖くて出来ない。
私はそうだけど…ホミは違うらしい。
ジリジリと近付いてきて私を押し倒す。
私を冷たい目で見下ろしてきて、パジャマに手を伸ばした。
「じ、自分で脱ぐよ!」
無理矢理脱がされる前に自分で脱ぐ。
ホミと同じ下着姿になって、床に寝転がる。
その間ホミはずっと無言。
怒られるのではと怯えながらも、自分がしたことの重大さから抵抗はできない。
ホミは私の胸を揉み始め、食いつくようにキスもしてきた。
私がしたことをやり返されている。
『ホミに襲われる』
それだけ聞けば恐ろしい事のはずなのに…興奮が止まらない。
もっと乱暴にしてほしい。
途中で止められてモヤモヤしていたから……もう、最後までしてほしい。
……してくれないだろうね。
ホミは優しいから、私を傷つけるようなことは極力避けるはず。
なら………私が―――
「んんっ…!?」
私を上から襲うホミの股に手を伸ばし…パンツの中に手を入れて逃げられる前に指を秘部に挿れた。




