第11話 思春期脳
『私と、えっちな事してみない?』
…何度も頭に響き、離れない言葉。
サカイが悪いんだ。
冗談や、単なるじゃれ合いのためにそんな事を気まぐれに言ったせいで…年頃の私の頭はその事でいっぱい。
そもそも、そういうえっちな事は男女ですることが私の常識だった。
同性愛というものを知らないわけじゃない。
テレビで聞いたことがあるし、新聞でもたまに見る。
最近はその話題を聞かないけれど…存在自体は覚えていた。
…私には、縁遠いものだって。
『降参だよ。気に入らない事があったら謝る。ごめんなさい。もし許してくれないなら…何でも言うこと聞くよ』
何でもなんて…軽々しく言わないでほしい。
私だって年頃の女の子。
性の知識だってあるし、自分で―――した事もある。
だから……
洗濯物を畳むのに四苦八苦しているサカイに近付いて、声をかけた。
「何でも、言うこと聞いてくれるんだよね?」
「う、うん…」
「じゃあ…そのまま壁にもたれ掛かって」
サカイが顔を赤らめながら、洗濯物を横において壁際までやって来る。
私はサカイを追い詰めるように迫ると、左手を顔のすぐ横の壁に当てて、ギリギリまで近付く。
「「んっ……ちゅ……んん…」」
唇を重ね、貪るようにその感触を楽しむ。
それだけに飽き足らず、私は唇の隙間から舌を出すと、サカイの唇をちょいちょいと刺激する。
サカイは私が何をしたいのか察したようで、少しだけ口を開く。
私は少しだけ顔を傾けると、その開いた唇を覆うように唇を重ねた。
少し開いた口からサカイの口の中へ舌を入れると、サカイの舌が私を待っていて、私が何もしなくても絡みついてくる。
「んっ…ちゅ……んぁ…」
「んん…ちゅる…んっ…んん!」
もう冗談やじゃれ合いでは誤魔化せない。
大人が愛し合う時のキス。
壁ドンの形で置いていた左手を下へ運んでサカイの手を握る。
サカイも握り返してきて、恋人繋ぎの状態。
その手を壁に押し付けて逃げられないようにすると、さらに一歩迫って体を密着させ、空いている右手を腹の下の…股の所まで持ってきて…
「サカイ…」
「ホミ…」
「ホミ!!」
「っ!?」
サカイの大きな声に驚いてハッとする。
私は…居間に入ってそのまま突っ立っていたらしい。
「どうしたの?調子悪い?」
「あ、ああいや…ちょっと考え事」
「考え事?…ああ、もうすぐお昼だからね。献立を考えてくれてたの?」
「う、うん!そうなの!お肉とお魚。どっちが良いかな?」
「選べるの!?う〜ん……じゃあ、魚!」
「お魚だね。分かった」
サカイが勘違いしてくれたおかげで、私はあの恥ずかしい妄想がバレずに済んだ。
けど……妄想は妄想なんだけど…
「ちょっと、だけ…」
2階の部屋。
めちゃくちゃ暑いけど、サカイが来ることのない部屋。
そこで私はこっそりとズボンを下げて、下着の中に指を入れ―――――
◆
「………」
料理を作りに行くと思ったのに、何故か2階へ行ったホミを見て不審に思った私は、バレないように階段を登った。
2階は2部屋あるようで、その片方の部屋にその片方にホミがいる。
何をしてるんだろうと思って声をかけようとすると……ホミの口から漏れたような艶めかしい声と、微かに水っぽい音が聞こえた。
それが何だか分からない私ではない。
良くないことだと分かっていながら、私は聞き耳を立てる。
すると確かに聞こえたんだ。
「……サカイ…」
私の、名前が…
「………」
気付かれないように階段を降り、洗濯物を畳むのを再開する。
私は洗濯物を畳むなんて経験はほとんどないので、上手な畳み方なんて分からない。
それに、指先が不器用でうまく畳めないのだ。
私が…ホミくらい器用なら……
「ホミの…器用な指…」
……想像してしまう。
今は自分の為に使われている指が…私の為に使われたら…
ホミの指は…少しだけ私よりも太い。
ほんの誤差くらいの差ではあるけれど…太いながらも器用に動く指。
「……何を考えてるんだ私は」
自分を律して、作業を再開する。
2人分の洗濯物を畳むだけの、なんてこと無い作業。
しかし、異様に時間がかかってしまう。
けどあと少しだ。
はっきり言って、正しい畳み方の分からないズボンを私流に畳むと、ホミのパンツが目に入った。
普段ホミが履いているパンツ。
そして……着替えが無い為に、昨日貸してもらって私が履いたパンツ。
不潔だとは思わない。
毎日当然洗っているし、天日干しされた綺麗なパンツ。
けど……それがとても魅力的に見える。
「………」
思わず息を呑んで見入ってしまう。
下着泥棒が捕まったというニュースを見るといつも思う。
家の中に侵入して、洗っていない下着を盗むならまだしも、洗われて綺麗になった下着なんて盗んで何の意味があるのか?
ただの嫌がらせでしかなく、ほんのちょっと…財布にダメージを与える家に入ってきたハエの如く、気に障る程度に鬱陶しい泥棒。
気持ち悪いと言うことではなく、鬱陶しいというイメージの方が強かった。
けど…今日初めて、下着泥棒を気持ち悪いと思った。
「ホミの……」
昨日私が履いたとは言え、いつから使っているか分からないけど、普段はホミが履いて汗や垢が付いているパンツ。
気が付いたら手を伸ばし、持って顔に近付けていた。
鼻をひくひくと動かし、息を吸うと……爽やかな洗剤の匂いがした。
「まあ…こんなものだよね…」
スンッと冷静になり、洗濯物を纏めて持ち居間を出る。
「「あっ…」」
ちょうど階段を降りてきたホミと出くわし、ものすごく気まずい空気になる。
…けど、それを悟られると何かがあった事がバレて、さらに気まずくなるだろう。
だから私は…
「ホミ。洗濯物を畳めたんだけど、何処に片付ければいいかな?」
「えっ、うん…あー…ついてきてよ」
……あからさまによそよそしいホミ。
これでも精一杯隠しているんだろうと思い、追求はしない。
ホミに教えてもらいながら、全ての洗濯物を片付けると……変に意識してしまって、意地悪したくなった。
「…そう言えば、仕返しの件は許してくれたって事で良いんだよね?許してくれないなら…『何でも』するけど」
「っ!?ゆ、許すよ!」
この反応……もしかして、私が言った『何でも』に反応してえっちな想像をしたのかな?
あのオ―――は、つまり私を押し倒してあんな事やこんな事を……
私も想像してしまって、自分でもわかるほど顔が赤くなる。
顔の温度が上がっていくのがわかって、赤くなったなって自覚があったんだ。
「「………」」
ホミが気付いているかは分からないけど…私もえっちな想像をしてムラムラしてしまった。
だから…ホミがお昼ご飯を作るのに夢中になっている隙をついて、大胆にも居間で始める。
もちろんおかずにするのはホミだ。
妄想の中の私はホミにヤられたんだから、私も妄想の中でホミをヤり返す。
人の家、いつ見つかってもおかしくない、本人がすぐそこにいる。
そんな、人生初の状況での行為は…頭がおかしくなりそうなほどの、強烈な破壊力があった。
◆
私は…見てしまった……




