第1話 もしよろしければ……今日のご褒美、お願いします
「もしよろしければ……今日のご褒美、お願いします」
ベッドの上に、パジャマを着た少女が座っている。
綺麗に切り揃えられたショートカット、同年代の人たちよりも幾分小さい体、色白くて細い腕や足。
「じゃあユユ、いいか?」
俺はベッド脇に座り、ユユという日本人離れした名前の少女に訊いた。
「はい、お願いします。虎太郎さん」
ユユは俺の名前を呼び、ゆっくりと目を閉じた。
――何回やっても、どうしても慣れない。
俺は小さく深呼吸をし、手を伸ばす。
ユユの小さな頭に手を乗せ、わしゃわしゃと撫でた。
時折、柔らかい髪が指に引っかかる。
俺は髪を傷めないよう、静かに指を抜き、より動きを遅くして再び撫でる。
手を動かすたびに石鹸の匂いが充満し、頭がくらくらしてくる。
心臓が激しく脈打つ。
今でも信じられない。初恋の相手の頭を撫でるなんて。
「満足したか?」
数分撫でたのち、俺は耐え切れなくなった。
「……できれば、もう少しお願いします」
遠慮がちに、ユユは答える。
「わかった」
俺に拒否権はない。自分から捨てた。
「ユユ、頭を撫でられるの、大好きだよな」
「……もしかして虎太郎さん、嫌でしたか?」
「いや、そういうわけじゃない。ただ、何回もご褒美として頼むから、そうなのかもと思ったんだ」
ご褒美として買い物に付き添ったり、ユユの食べたい料理を作ったりしたことがあったが、やっぱり一番多いのは頭を撫でるというものだった。
「撫でられると、安心します。……ユユの頭は、叩かれてばっかりでしたから」
ほんの少しだけ、ユユの声が暗くなった。
あの葬式から、まだ半年も経っていない。
嫌なことを思い出させてしまった。
「それなら、明日のご褒美は特別にもう一つ追加しよう。頭を撫でるのと、もう一つだ」
「そんな……ユユには一つで十分です」
「いいや、もう一つ付ける。ユユ、明日は何がしたい? 何をしてほしい?」
「……なんでもいいんですか?」
「ああ、俺の貯金残高の範囲内でな」
「ユユの通帳も使ってください」
「どれだけのご褒美求めるつもりだよ……」
ユユは少しうつむき、考える。
「……思いつきません」
「なら、それを考えながら今日は寝ろ。夢の中で思いつくかもしれないしな」
「はい。明日が楽しみです」
そう言い、ユユは少しだけ微笑んだ。
……その笑顔、可愛すぎるだろ。
俺はこの笑顔を守らなければならない。
あの悪夢はもう終わったんだ。あとは、幸せな時間だ。
ご褒美で、ユユが幸せになればいい。
その綺麗な顔から、笑顔が増えたらいい。
俺は、そう願っている。




