晴人の失踪
流刑の島「奇渡ヶ島」。アヘンによる支配を目論む滝川を止めるべく、隠密のKUROと翔は敵の本拠地へと潜入し、狡猾な「罠」を仕掛けます。
一方、焦りを感じていた晴人は、独断で中央本部への潜入を試みてしまいます。
作戦決行を翌朝に控えた今、晴人の失踪という最悪の事態。
僕たち「独露」と、隠密のKUROたちが下した決断は――。
太陽が沈みかけ、辺りが夕日に染まるころ、独露のアジトに翔と共にクリスと誠がやって来る。
そして作戦会議が開かれるはずだった……。
しかし、そこには真司と圭太の姿が無く、唯が一人で心配そうな表情を浮かべて立ちすくんでいた。
それを見て翔は、胸騒ぎを覚えつつ唯に声を掛けた。
「唯さん、何かありましたか?」
唯は翔の姿を見て、少しだけ表情を緩める。
「翔、晴人が朝から居ないんだよ。そんで皆で探しに行ってる」
「晴人さんが朝からこんな時間までってどうしたんだろう…あっそう言えば昨日の晴人さん、なんとなく変だった気がしませんでしたか」
「うん、確かに翔と別れてからもずっと、何か考え事してたみたいだったんだ」
「まさか怖くなって逃げちまったんじゃねえのか」
クリスが悪びれもせず軽口を叩くと、唯がクリスを睨みつける。
「おい何言ってんだよ!晴人が逃げるわけないだろ」
いつもと違う唯の強い口調に、驚いたクリス。
「すっすまん」
「クリス、今のは完全に良くねえな。俺からも謝らせてくれ。相棒が変なことを言ってすまなかった」
「もう二度とうち等の仲間を悪く言わないでよ。まったく」
唯は不機嫌な表情を崩さなかったが、謝罪を受け入れた様子だ。
「さて!どうしましょう、僕らも探しに行きますか」
嫌な雰囲気を断ち切るように翔が提案した、その時だった。
真司と圭太が戻ってきた。しかしその表情には苦渋の色が浮かんでいた。
そして、その後ろからはKURO、HAKU、AOIの隠密三人の姿も。
「晴人…見つからなかったの…」
悲しそうな表情で唯が聞く。
「晴人さんは見つかったんですが…」
真司が答えながら、KUROを見る。
時は戻り、昨晩。
月明かりに照らされる晴人は、一人星空を見上げていた。
(翔、すごいな。だいぶ離されてしまった。
僕だって翔みたいに活躍したいんだ。どうしたらいい……。
僕と翔との差は、何だ……実戦経験…なのか)
そう思った晴人は、居ても立っても居られずに思わず行動に移した。
何処でもいい実際の建物に潜入してみよう。
そう思い、目的地が決まっていないまま、とにかく建物が多い中心街へと向かって歩き出した。
昼間には活気のある中心街も、深夜には人気も無く静寂が包み込む。
あてもなく、どこか潜入の練習となりそうな建屋を探し歩く晴人。
そんな中、晴人は玄関に警備兵が立つ建物を見つける。
そこは、イルーサリの中央本部の建物だった。
こんな時間も警備兵が立つのなら重要な施設に違いないと思った晴人は、そこに潜入を決める。
(さてどうやって潜り込もうか…)
そう思いながら、その警備兵の前を通りつつ建物を確認。
警備兵は二人。
建物には中央本部の看板が掛けてあった。
晴人を見た警備兵が、深夜に出歩く人物に不信感を抱き声を掛ける。
「おい、お前こんな時間に何をしてるんだ」
「あっあの…」
突然の声掛けに動揺する晴人だったが、必死に動揺を抑える。
「仕事をしていたんです…」
苦しい言い訳に警備兵が眉を細める。
「こんな時間まで仕事だと…」
「あっいや実は…仕事をしていたら居眠りしてしまって…目が覚めたらこんな時間でしたハハハ」
頭を掻きながら恥ずかしそうに話す晴人を見て、警備兵の表情が緩む。
「バカな奴だな、まあ仕事もほどほどにな。気を付けて帰れよ」
「はっはい」
晴人はホッと胸をなでおろし足早に去り、その先の角を曲がり、中央本部の裏に回った所で立ち止まる。
そして、どうやって潜入しようかと考えを巡らす。
(どうしようか…正面から警備兵を離すのは、無理だ…そうなると屋上か)
そう思い上を見上げる。
二階建てのレンガ造りの建屋は、屋上まで7、8メートル程度、外塀が2メートル位。
窓には明かりが無い。
(行ける!)
晴人は頷き、外塀へよじ登る。
そして二階の窓枠に飛びつき指を掛けると、素早くレンガの壁を蹴り、窓枠に足を乗せて天井へ手を掛けると一気に天井へと駆け上がった。
(よし!)
思わず手を握り喜ぶ晴人。
二階への扉には鍵がかかっている。
(よしピッキングだ)
晴人はポケットから針金を出し、鍵穴に差し込む。
カチャ、カチャ。
警備兵に気付かないように出来る限り音を出さず、慎重に針金を動かす。
涼しい夜だが、額から汗が流れてくる。
(やっぱり実戦は、緊張するんだな)
カチャカチャ…カチャ…カタ…カタ…ガチャ!
扉が開いた。
(ふぅ~やっと空いた。練習より時間がかかったけど出来たぞ)
緊張が解け安心した晴人は、ドアノブに手を掛けドアを開ける。
ギィィィ…っときしんだドアが音を立てる。
(しまった!)
警備兵が物音に気付き、屋上を見上げる。
「誰かいるぞ」
(気付かれた…逃げないと…)
晴人は慌てて二階から建物の裏へ飛び降りる。
両足に痺れるような痛みが走るが、すぐに外壁を越えようと壁によじ登った。
壁の縁に手を掛けた瞬間、背中を警備兵に捕まれ引きずり降ろされ、晴人は捕まってしまった。
時は戻り、独露のアジト。
晴人の失踪に沈む空気の中、KUROが口を開く。
「さて、先ずは、クリスさん、誠さん。私はKUROと申しまして、この作戦の指揮を任されている者です。酒場で一度お会いしてますね」
にこりと笑うKUROを見て驚くクリスと誠。
「予断を許さない状況です。挨拶はこのくらいで失礼させて頂きますね。では、晴人さんは諦めてください……って訳に行かないですよね」
「当たり前だろ!」
声を荒げる圭太。
KUROは頷き、話を続ける。
「もちろんそうですよね。しかし、万が一晴人さんが敵に捕まっていて、救出するとなると騒ぎが起こり、敵の警備が上がってしまい翌朝の作戦に支障が出る可能性が考えられます。そこで、作戦を今日これから、晴人さんの捜索と同時に行うこととします」
それを聞いて安心する圭太と唯。
真司とクリスと誠は、作戦の実行に表情が引き締まる。
そしてKUROから作戦の詳細が告げられる。
「HAKUさんとAOIさんは、それぞれ二か所の畑の焼き討ちをお願いします。
工場へは私が向かいます。
そして、他の皆さんで晴人さんの捜索をして下さい。
作戦終了次第、各自白狼城へ帰還して下さい」
頷く一同に、KUROが表情を固める。
「あくまで私の最悪のシナリオなのですが……晴人さんは敵に捕まり、カジノの地下でモルヒネの実験材料とされている可能性が有ります」
カジノの地下の状況を知る翔の表情が固まる。
「そっそんな事が有ったらヤバイ!急がないと」
「それでは、各自作戦に取り掛かりましょう。晴人さんも含め、必ず白狼城で会いましょう」
そうしてそれぞれが、運命をかけた作戦へと向かうのだった。
【機密情報:奇渡ヶ島・裏ファイル】
真司:
「……晴人さん、なんて無茶をしたんですか。焦る気持ちは分かりますが、一人で中央本部に突っ込むなんて、あまりにも無謀ですよ。
クリスさんに詰め寄った時の唯さんの怒りは、あなたのことを本気で『仲間』だと思っている証拠です。KUROさんの言う最悪の予測だけは、何としても阻止しなければなりません。
行きましょう、圭太さん。翔くん、クリスさん、誠さん。
晴人さんを救出し、アヘン工場を叩き潰します。
読者の皆さん。泥水をすすって這い上がってきた僕たちの『修行の成果』、どうか見届けてください。
もし無事を願ってくださるなら、**【評価】や【ブックマーク】**を。その一押しが、暗闇を走る僕たちの力になります。
待っていてください、晴人さん。今、助けに行きます!」




