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ゾンビナイト  作者: むーん
閉幕編

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221/222

最終話 (207)明日はきっといい日になる

 遥か昔からタイムスリップしてきた人が、今年の秋に来たら、夏と勘違いしてしまうんじゃないかとも思った秋が終わり、とうとう冬がやってきた。ゾンビナイトが終わった後のパークは、その熱狂の煽りを受けたからなのか、ひんやりとした冷たさを纏うようになっており、冬の訪れを感じさせていた。


——あんなに毎日通ってたのに、もう……


 僕がいなくなってもパークは何事もなかったかのように続いている。当然僕1人いなくなったところで、何が変わるわけでもないと言う事はわかっているが、少し寂しいものがある。パークのどこかで僕の喪失を悲しむ垂れ幕のようなものが掛かってないかと探してみるが、勿論そんなものはなく、パークにはクリスマスの賑やかな飾り付けがされていて、とても華やかであった。


——クリスマスまでまだ1ヶ月もあるのに、気が早いな。


 まぁ、ハロウィンの2ヶ月も前からゾンビとなって漂っていた自分が言うことではないか。ハナさんがいたら、何をアホ面で感傷に浸っているんだい?と茶々を入れられそうである。


——ハナさん……


 結局あの海の家デートの日から、ハナさんとの仲に進展はない。メッセージを送っても、適当に送っているであろうスタンプが返ってくるだけである。両思いだったと思ったのに……。


「ゾンビー!」


「え?」


 突然1人の少年が声をかけてくる。ゾンビ? この少年は僕がゾンビダンサーだったことをわかっているのだろうか。突然の出来事に驚く。こう言う時どう対応すれば良いのか。変に対応すると、またビッグボスに怒ら……。いや、もう怒られないか?


「きょうはおどらないのー?」


 そう言うと少年は身体をくねくねと動かして、僕に迫ってくる。その踊りは子どもらしい微笑ましいものだが、よく見ると今年のゾンビナイトの踊りのようにも見えた。


「もうゾンビが踊るのは終わったんだよ」


「いやだぁ! なんで!」


 少年が悲しげな表情をする。しまった、言い方が悪かった。悲しませてしまっただろうか。しかし、何と伝えればいいものか。そうだ。本当のことを言うしかないか。


「そうだな〜。今年は終わっちゃったけど、また来年は踊るんじゃないかな?」


「らいねん? らいねんまた、ゾンビおどってくれる?」


 その返答に一瞬戸惑う。この少年が僕個人が踊るかどうかという問いかけをしているわけではない。そうわかってはいるが。


「うん。踊るよ、ゾンビは。来年もまたね」


「ほんとに! やったぁ! ゾンビ! ゾンビ!」


 来年のゾンビナイトの開催は発表されていない。ビッグボス達からも開催するとも聞いていない。もし開催されないことになったら、嘘をついてしまったことになるだろうか。それにこの子はもしかして僕が来年も踊るんだと思っただろうか。今のところはその予定はない。ないけれど……。


——これを理由にしてもいいかな? この子の為に、来年も……いや、気が早いか。とりあえずは年末だけ。それまで、それだけだ。


「こら! お兄さん困ってるでしょ! すいません……」


「いや、全然大丈夫ですよ。楽しんでくださいね」


 母親らしき女性が子どもを迎えにくる。頭にはキャラクターのカチューシャを身につけており、パークを楽しんでいるのが一瞬で伝わってくる。


「じゃあね〜! ゾンビー!」


「こら! 人の事をゾンビ呼ばわりして! 失礼でしょ!」


「あはは……」


 確かに。もう感覚が麻痺していたが、ゾンビナイトも何も知らない人が、成人男性をゾンビ呼ばわりするのを聞けば悪い意味にしか聞こえないだろう。ゾンビ……そんなに前のことではないけれど、もう懐かしさを感じる。ゾンビさんは元気だろうか。もうゾンビではなくなっているゾンビさんと話してみたい。オラフさんも。また、会いたい人たちが沢山いる。その為にも……。


「とりあえずバイト探さなきゃな……はぁ……」


——いっそのことココロさんに頭を下げて、ダンスグループに入れてもらうか? いや、流石にそれはないか……


 馬鹿みたいに大きなクリスマスツリーのてっぺんにある星を見上げながら、思いを馳せる。てっぺんの星は「ベツレヘムの星」と呼ばれ、キリストの誕生を知らせる為に賢者を導いた星なのだと言う。ならば、僕を新しいバイト先へと導く為に動いてはくれないだろうか。そう思ってぼんやりと眺めていても、星は一向に動く気配はなかった。


(そのくらい自分で探せよ)


 ツリーのてっぺんの星はキラキラと光りながら、僕にそう伝えている気がした。あはは、そうですよね。迷えるもの全てを導くほど星も暇じゃないですよね。


「あれ?! カッピーさんじゃないですか!」


「あ、タテノさん! お久しぶりです」


「あれ? 今日はどうしたんです? 遊びに来たんですか?」


「そう! ちょっと気分転換に来てみたところなんです」


「じゃあ、今日はお客様ってことですね! それなら〜、これあげます!」


 そう言って差し出されたのは、クリスマスに配布しているらしいシールだった。それはまるでツリーのてっぺんにある星のようにキラキラと光っていた。


「その光ってる星のやつ、レアなんですよ。カッピーさんに特別にあげます。あ、僕行かないと! また、ビッグボスに怒られちゃう!」


 思いがけず、空から落っこちてきてくれた星を胸に携えて、僕はパークを歩き出したのだった。折角来たし、アトラクションに乗りまくろうかな。何と言ってもここはテーマパークなのだ。日常は忘れて、非日常を楽しまないと。胸に貼った星のシールもそう言っているようにキラキラと光っていた。


——とりあえずはクリスマスのショーだな


 僕はハナさんがクリスマスのショーを踊っている姿を見に向かうことに決めた。客席に僕がいるのを見つけたら、ハナさんどんな顔するんだろう。きっと驚くんだろうな。


【終】

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