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ゾンビナイト  作者: むーん
閉幕編

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218/222

第218話 (204)異世界混合大舞踏会

シーン


——静かですねぇ


 平穏を取り戻した僕の部屋。平穏を取り戻したと言っても、決して暇になったというだけではなく、クリスマスの準備や地方での宣伝イベントの企画、年末年始のカウントダウンイベント、もっと言うと来年のゾンビナイトの用意まで、暇になるということはないのです。それでも静かと言い切るのは、理由があるのです。ジョージ、ジョージと言って僕の周りを漂っていたあの幽霊、そうユーが帰ってこないからだ。


——全く居なくなるなら挨拶くらいして行って欲しいものデース


 軍服ゾンビとして踊って、ショーの穴を埋めてくれたユーの姿。あれがまさか最後に見た彼の姿になるなんて、思っていませんでした。今でも目を閉じれば、いや目を開けていてもユーの踊っている姿がチラつきます。


——ふぅ、疲れマシタ


 目が疲れてきた僕は、パソコンの画面から視線を窓の方へと移動させた。


 突然やってきて、突然居なくなって、嵐のような幽霊でした。今でもその辺からひょいっと顔を出して、僕をからかってくるんじゃないかと思ってしまう。もっと言うと、こうして姿を現さないのもユーのイタズラなんじゃないかと。


——そんなわけないデスネ……


 ユーは空に登っていってしまったのだ、とオラフくんから聞きました。そして、彼は僕に軍服ゾンビの衣装を渡してくれました。僕は何だかそこにほんのりとユーの残り香がある気がして、ギュッと抱きしめてみたりしました。幽霊に匂いなんてあるはずないのに。


——……。


 僕はユーのことをそれほど知っているわけじゃないと思います。きっとオラフくんの方がよっぽど彼のことを知っているんでしょう。なので、記憶を取り戻して、立派にステージで踊ってくれた彼に成仏しないで、何処にも行かないでほしいなんて言う資格は自分にはない。ないけど、こんなに突然だとやっぱり悲しいものです。


——ユー……向こうでも元気で……


ガタン


 部屋のどこかから物音がする。キョロキョロと部屋の中を見回してみると、積み上がった資料が目に入った。いつか片付けなくてはいけないけど、後回しにしてしまっています。この資料達が崩れたのでしょうか。突然の物音に驚かないのは、これが初めてだからではないからです。


——またデース


 そう、最近不思議なことが起こるのです。部屋のどこかから物音がするのは日常茶飯事で、それ以外にも様々なことがあります。ある日机で寝てしまった時、いつの間にか毛布がかかっていたり、書きかけだった資料がいつの間にか完成していたり、顔に変な眉毛の落書きがされていたり。こんなイタズラをするのは……。


——まさか……まだ……


「ユー、いるんですか?」


ガタン


 返事をするように再び物音がする。僕が日本に来て驚いたことがあります。それはお化けがいるということです。僕は幽霊が本当に苦手でした。でもそれは、いつか見たホラー映画のそれのように怖いものじゃありませんでした。お化けは時に良き友人のように、時に家族のように寄り添ってくれるのです。


ガタン


 再び部屋の中から何かが動く音がする。もし、僕がここを去って次の人に引き継ぐ際はこれも伝えないといけません。


——ここにはお化けがいるんだぞ、と


——そして、それは案外怖くはないですよ、と


 僕はこの音の正体がユーであってほしいという思いと、ユーには幸せに成仏していて欲しいという相反する思いを抱えながら部屋をキョロキョロと見回すのでした。また新しい幽霊だったらどうしようとも思いますが、それはそれでまた仲良くなれるかもしれません。しかし、今回は姿が見えないので苦労しそうです……。

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