第210話 (196)Pair Dancer
ちゃんちゃらら〜
——……!
イントロが終わり、Aメロに入る。何度も踊った馴染みの振り付けだ。少しステージ用に華やかに変更されているとは言え、基本的な動きはストリートで踊る時と変わらない。
——あぁ!
足をドンと床に打ち付ける。重心を少し低くする。
——あぁ!
右手をぐるりと回して風をきる。上体を捻って、くるりと回転する。
——あぁ!
右から左へと体を移動させていく。肩を斜めにして滑り落ちるように。
——あぁ!
——楽しい!!
僕は今全身で踊る喜びを感じていた。もしかしたら、このステージに立てなかったかもしれない。このステージで踊れているのは、支えてくれたみんなのおかげだ。
『ゾンビ ゾンビ 踊らにゃゾンビ』
曲がサビへと入っていく。踊らにゃゾンビとはどう言うことだろう。初めて曲を聴いた時にそんなことを思った。何ヶ月かゾンビとして踊っていてわかった。踊らずして、何がゾンビだろうか。
ちゃららら〜
曲が間奏へと入っていく。ここからはいつもとは違うダンスだ。ハナさんとずっと練習していたダンス。自分が楽しいだけではだめだ。お客様を楽しませるダンス。両手を振り上げ、足はステップを踏む。練習の通りに……
ガッ
——あっ!
間奏も終盤に入った頃、僕は足が絡まり、バランスを崩してしまう。まずい。倒れてしまう。せっかくここまで上手くいっていたのに。どうしてこんな大事なところで失敗して……。
ガシっ
——ハナさん……!
倒れそうになった僕の手をハナさんの手が掴む。恋人繋ぎのように繋がった手。そして、ハナさんはそのままぐいっと僕を自分の方へと引き寄せていく。その動きはまるで初めから、この動きがダンスに組み込まれていたかのように自然な物だった。
「……」
立ち上がり、見つめあった僕たち。数秒に感じたが、きっと一瞬だったのだろう。そして、手を離す。曲はラストの大サビへと突入していく。
『ゾンビ ゾンビ 僕と君で』
——踊る。
『ずっと一緒に踊ろうじゃないか』
——ただ踊る。
『ゾンビとゾンビな僕と君は』
——ゾンビだから? ダンスが好きだから?
『死んでも生きても同じじゃないか!』
——よくわからないけど……!
じゃん!
——楽しいから、踊る!
パチパチパチパチ
「きゃーーー!」
——終わった!!
拍手と歓声に包まれる。精一杯やった。ダンサー歴なんてないに等しい今の僕の精一杯のダンス。ステージに立っている僕たちだけでなく、客席の方で踊っていたゾンビ達にも惜しみない拍手が送られる。みんなで作り上げたステージ、その大成功を讃える拍手の余韻に浸っていた。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……」
僕は横にいるハナさんを見る。
(どうだ! 大成功じゃないか!)
ハナさんがこちらを向いて笑っている。僕もにかっと笑う。そして拍手の中、僕たちはゾンビへと戻る。花道を通って帰ろうと歩みを進めたその時……。
じゃーーーーーん
拍手と歓声をかき消すような轟音がステージに鳴り響いた。なんの音だろうか、何か音響のミスか……と思っていると、その音は再びうねりをあげた。
じゃんじゃかじゃんじゃか
——な、何だ?!