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第209話 (195)踊りませんか

——カッピー! 良かったぁ!


 僕はステージ周辺のゾンビ漂いエリアへと戻って来ていた。カメラのことは気になるけど、ビッグボスに任せれば大丈夫だろう。そして、ステージにはちょうどカッピーとハナさんが登場したところ。流れるゾンビナイトのテーマソング。ダンスタイムが近い。


「おぉ……! 時はきたぁあ!! 闇の祝祭だぁあ!」


「うぉおおおお!!!」


——ゾンビさん……気合い十分だ……


 叫び、呻き、叫ぶゾンビさん。ゾンビさんの熱量は周りのゾンビ、そしてお客様に伝播していき、熱を帯びた集団を作り出していた。


「闇の刻印をしめせぇ! 享楽の演舞をぉおお!! 演舞をぉおお!!」


——ちょっと喋りすぎじゃないのか?


 ゾンビごとに決められているワードを超えて、ここに来て新たなワードで喋り出してしまっているゾンビさん。しかし、そんなことはお構いなく周りのお客様を盛り上げていく。周りの人もそれに応えていくが……。


「いやだぁ! 踊りたくない!」


「もう始まっちゃうわよ……」


「踊らないって言ってるでしょ!」


「そんなぁ……」


 子供連れの親子だろうか。その子どもの方が踊りたくないとゴネているようだ。踊りたくないのなら、踊らなくてもいいんじゃないかなと思ったけど、どうやら親は子どもを踊らせたいようだった。右手にはカメラを持っている。きっと踊る子どもの姿を撮影したいのだろう。


「おぉぉ!! 闇よぉお!」


「踊らない! このゾンビさんも怖いし、お母さんも撮らないって約束破るし!」


「……」


 そう叫ぶと子どもがしゃがみ込んでしまう。こうなっちゃうとどうしようもないよなぁ。


ザッザッ


 その親子の方へとゾンビさんが近づいていく。何をするのだろう。


ちゃんちゃらら〜


 曲がダンスが始まるパートに入ったところで、ゾンビさんは踊るわけでもなくその親子に近づいて何やら話しているようだった。


◆◆◆


——もう、やだ!


 結局お母さんは約束を破った。さっきのナイトベアーのダンスレクチャーで踊っている私の姿をカメラで撮っていた。それに気づいて、私はダンスを踊りたくなくなって、やめちゃった。


「おぉぉ!! 闇よぉお!」


「踊らない! このゾンビさんも怖いし、お母さんも撮らないって約束破るし!」


 突然目の前のゾンビをよくわからないことを叫び出して、なんだか怖かった。もうショーを見るだけでいい。疲れたし、なんかもうとてもダンスをするような気分じゃなくなっちゃった。


——はぁ、どうしてこんなことに。


 楽しかったはずのダンス。こんなパークで踊るのなんて楽しいしかないはずなのに。こうして、しゃがみ込んでしまっている。何やってるんだろう、私。


 私がしゃがみ込んでいると、ふと近くに気配を感じた。顔をあげると、先程までテンション高く訳のわからないことを叫んでいたゾンビが私の目の前に来ていた。怖い……と一瞬思ったけど、そのゾンビさんは優しい顔をして私に向かって話すのだった。


「大丈夫、怖くないです。一緒に踊ると楽しいですよ、踊りましょう?」


——え?!


 ゾンビさんはそう言うと、しゃがみ込んでいた私の腕を掴んで、スッと立たせてくれた。呆気に取られていると、お母さんの方にも近づいて話しかける。


「お姉さんもお子さんが嫌がってるので、一旦カメラ止めてあげられますか? お姉さんも一緒に踊りましょう?」


「あっ、はい……」


 ゾンビさんに手を引かれて、私とお母さんは少し前へと連れて行かれた。ゾンビさんは振り付けを私に見せながら、優しく一緒に踊ってくれた。


「あはは、お母さん! 振り付け全然違うよ!」


「あ、あれ……意外に難しいわね!」


「あははは!」


ちゃんちゃらら〜


 音楽がサビへと入っていく。イントロまではしゃがみ込んでいた私がたった数十秒経った今、ノリノリでお母さんと踊っている。


——音楽って不思議、ダンスって不思議。何より、このゾンビさんって不思議。魔法みたい。


 私がそんなことを考えていると、目の前のゾンビさんは再び叫び始めた。


「ぉおおお! 闇よぉおおお!」


『ゾンビ ゾンビ 踊らにゃゾンビ』


◆◆◆


「あっ! カルーアちゃん!」


「え?! もじゃちゃん、どうして……? ステージ見てたんじゃ……」


「あはは……色々あって私も今から向かうところなんです。一緒に行きましょう! 文子達が場所とってくれてますよ!」


「あっ……」


 私はもじゃちゃんに手を引かれて、ステージの前の方へとずいずいと進んでいく。ステージには、ナイトベアーがダンスのレクチャーをしていた。


「お、もじゃ戻ってきて草」


「遅いよー! キョドリーとか出て来てたんだよ?」


「え、本当に?!」


 客席で待っていてくれた文子ちゃんとSポテトさんが出迎えてくれる。2人のおかげで、こんなに遅れて来たとは思えないほど良い場所からステージを見ることができる。私に気づいた2人が話しかけてくる。


「カルーアちゃんもー! 遅いから心配したよー!」


「カルーアさん、おもしれー女」


「こら! おもしれーって失礼でしょ!」


「あははは! おもしれー女、カルーア戻って来ましたー!」


 先程まで廃アトラクションに閉じ込められて、リュウと揉めてたのが嘘みたい。出迎えてくれた仲間達との会話が弾む。そうしているうちに、ステージからナイトベアーがいなくなって、曲が流れ始める。


ちゃんちゃらら〜


 その曲が流れると同時に、ステージの袖からゾンビが二体現れた。1人はカッピーさんだ。


——約束通りカッコよく撮りますよ!


 私はカメラを構えてステージの方へとレンズを向ける。カッピーさんの晴れ舞台、推させて頂いている身としてしっかりと見届けさせて頂きます!

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