第206話 (192)忍者ハッタリくん
——ふぅ。危ないところね。
変な奴らと一緒に閉じ込められたのは予想外だったけれど、何とか脱出できた。私にかかれば、スタッフの奴らに見つからないようにこっそり逃げるのなんてお手のもの。これであとはオールナイトを思う存分楽しむだけ。くくく。チケットなしで楽しむのは気持ちいいなぁ。ここにいる奴らみーんなお金を払ってるけど、私はタダ。無料で楽しんでるのよ。あー気持ちいい。愉悦、愉悦ぅ〜!
「あんた、ニンジャやな。バレとるで。振り返るなよ、そのまま聞きぃや」
ドキっ
——だれだ?
オールナイトを楽しもうとストリートを歩いていると、背後から突然声がした。今からボリゴリにでも乗ろうかと思っていたのに。もしかして、スタッフなの? さっきいたやつかしら? バレてる……?
「あんたチケット持ってへんねやろ」
ぎくり
確信をつかれる。こいつ何をどこまで知っているのか。私がニンジャだと言うことはバレているけど、それ以上の情報はない……? ハッタリかましてるだけなのか?
「い、いや? 持ってるわよ」
私は強気で対応してみる。しかし、それを見透かされたのか、背後の男は鋭く私に突っ込む。
「嘘こけ! もうバレとるんや!」
「う、嘘じゃないわよ……?」
「ほんなら、チケット出してみー」
「あ、あれ……? どこだろ、おっかしぃな〜。無くしたかな〜?」
「流石に苦しいやろ、それは……」
「……」
——ダメだ、もう誤魔化せない!
背筋にヒヤリとした感覚を感じる。もう逃げられないのか。こいつ、私をどうするつもりなのか。ぐるぐると考えていると、背後の男が再び口を開く。
「まぁ、オレも鬼やない。パークを出禁になりたくなかったら、そのまま出口に向かって、今日はここから出て行くんや。そしたら今回は見逃したる。しかし、このまま居座る気なんやったら……わかるな?」
——くそっ!! こいつなんで私って……!
「あんた!! 一体誰よ!!」
バッ
苛立ちに任せて、私が後ろに振り向くと、そこには誰もいなかった。何?! どう言う仕組み? もしかして本物の忍者?!
私はその後もキョロキョロと辺りを見回していたが、やっぱり周囲にそれらしき人はいなかった。
——一体何だって言うのよ……
正体不明の声に恐怖し、オールナイトを楽しむ気分でもなくなってしまった私は、さっきの声の言う通りにパークを後にすることにした。もう忍び込むのはやめた方がいいのかしら。謎のやつにバレてしまったようだし。次からは特に注意されるかもしれない。くそぉ……。私はただオールナイトを楽しみたかっただけなのに!
◆◆◆
——これで事件解決やな
オレは出口の方に向かっていくニンジャを見ながら、事件解決の余韻に浸っていた。
「おかあさーん、この人なんでゴミ箱の中に入ってるのー?」
「こら、見ちゃいけません。きっと仮装なのよ」
——やばっ! 見つかってもーた。
「そ、そうなんです。掃除スタッフの仮装でしたー! ゴミがあれば回収いたしますよー?」
ゴミ箱に隠れて、穴から外を覗いていたオレは急いで外に出る。ニンジャには見つからんかったけど、まさか子どもに見つかってまうとは……。
しかし、テーマパーク探偵にとって掃除スタッフは隠れ蓑に最適な仕事だ。探偵衣装もゴミの回収ボックスに隠せるし、パーク内の情報収集もしやすい。
——ん?なんやこれ?
掃除スタッフとして、ゴミの回収ボックスを押して歩いていたオレは、道端に紙袋が置いてあるのを見つけた。不思議に思って中を開いて見てみると、そこには以前行方不明になっていたもじゃもじゃゾンビの仮装が入っていた。
——もうけ!
以前捜索を依頼されたが、見つけることができなかったものを思わぬ箇所で見つけてしまった。やっぱりテーマパーク探偵と掃除スタッフの相性は抜群だ。
——後でビッグボスに渡すか〜
「ぐぅ〜! 疲れたぁ〜」
オレは両手をぐいっと上に上げて、伸びをした。今日は事件の1日だったな。探偵冥利に尽きるといったところ。テーマパーク探偵としては毎日事件が起こってほしいものだ。しかし、最近は事件が立て続いた。流石にこんなに多いと……。
——しばらく探偵はええかなぁ〜
しばらくは事件が起きないことを祈るハッタリなのであった。