各々の考えと進展。
奴は、――長はとんでもない人間だった。
キルエル=ヴェルモンド。
『百鬼夜行』の長にして、勇者パーティの一人。勇者パはどうでもいいとしても、ジォス=アルゼファイドもといイドをあそこまで陥落させた男であるのは間違いない。
我ですら初対面でも今でも苦労すると言うのに、長はさも日常の1コマとしてサラッと流し、我ですら敵わないと感じるイドにビンタと拳を喰らわせられる。我には出来ない事をやってのける長には最早尊敬以外の言葉は見つからない。ソレは今でもそう。
そして我が”組織の意向”なんてクソみたいなモノを忘れさせるほどの事が―――、
―――「なるほど『魔隕』か」
―――「僕が聞きたいのはソコに居るアンプログリッツだ」
今でも思い出すこの言葉。
我は今までに置いて自分が付けられた名を当てる奴を知っているが、イドと長だけだ。
ソレ以外は全員『終末者』と呼んでいた。
我が明かしていない名を初対面で当てるなど、常人では想像する事さえ不可能。だが、イドを仲間にする時点で相当バグっているのは確かだ。
そして、名前だけではない。
―――我が力、その一端である真名すらも口にしたのだ。
我は確かに”大魔導”と口にしたことは何回かある。だが、そもそも大魔導自体が希少そのモノ。我でも今まで出会った奴の中で同じモノを扱える奴など委員会の執り行ってる会合で会った一人だけだ。だからそもそも”大魔導”が分かってもその技の特殊性まで理解してる奴は居ない。
だが、我は覆された。
全てを、モノの見事に看破されたのだ。
初めてだった。
今まで沢山の魔法主軸のパーティや、歴史考察家のパーティに入って来たが我の技を予想だけで看破して、特殊性すらも見抜くほどの技量を持ち合わせた人物に会った事が無かった。
組織も有象無象のパーティもそうだ。我を沢山の属性の魔法が使える凄い人と言う目で見ていた。
ソレなのに、だ。
『百鬼夜行』は、その連中は我を見てもなんともない返事しか寄こさなかった。イドはただの男好きな大変態だと思ってるからノーカンだが、長はもっと違う存在感だった。
――全属性の魔法使えるの?へー。
――大魔導?まぁ珍しいし強いけれど、使用者全員ヤバい人だから凄いか言われたら、強さと人格のヤバさが対消滅起こしてるからプラマイゼロの行って来いのトントンだなぁ。
――まだ力が解放しきってない状態で凄いもなんもないでしょ。ゲームの”凄い!”の基準は廃人育成と誰も真似しない新しいやり方を持っている奴が原点。
イドをしばき倒して竈に押し込んで焼いた時に長が言った言葉だ。
我を凄い人とは見なかった。
我を凄い人とは言わなかった。
むしろ今のままでは圧倒的にモノ足りないと、そう言ったのだ。
だからだろう、我は決めたのだ。
誰よりも、この長こそが我の知らない我を知っているのだろうキルエル=ヴェルモンドを。
―――敬愛すると決めたのだ。
S S S S
俺達は王様に事後報告を行った。キルエル?アイツは途中で逃げてから消息は知らん。あのモンスターに腕でも食いちぎられれば良いのに。
俺は王様に向き合い、腰を落として報告をした。
「数は5体。それぞれが禍々しい金属部品で縫合されており、とても元のモンスターの形が分かりませんでした」
「・・・・・・」
「いくらモンスターと言えども、生き物であることに変わりありません。ソレをまるでモノのように扱うなど、流石に倫理観に反しますし、見ていて良いモノではありません」
流石の勇者である俺でも、王の前では言葉を選ぶ。ガラシア王なんて正規のガラシア市民から出た王じゃねぇし、なんなら別の所から来た異端市民冒険者だし、アムールを手に入れたと言えど獣人国と国交を結んでるし、英雄創聖教に反する事ばっかりする。そんなクソ野郎に払う敬意なんてこれっぽっちもねぇってのに・・・・ったく、心にもないことを言うのはキツイなぁ・・・。
心の中でケッと溜息を吐く。
ガラシア王は目を閉じて何かを思案しているかのように、うんうんと頷く。
「お父様、あの残骸はギルドの上層部に回収して貰うように頼んでおきましたので、細部の情報提供はギルドを通じてお願いします」
「ふぁッ!!?リピアの声が!!!」
俺の隣に居たリピアが手を上げて王に言う。隣に居る俺からしても大声だったもんだから王様も集中が途切れてカッと目を見開いた。
「お父様聞いてますか!?」
「んぁ!?・・・き、聞いているさ大丈夫だともお疲れさん。決して勇者の説明聞くのがめんどくさくってリピアの部屋から出てきた『勇者様とのラブラブ温泉旅行計画』を見て、どう邪魔してやろうかと考えてるうちに寝てしまったとか無いからッ!!ちゃんと聞いてたからッ!!!」
「「アンセム王・・・・・・」」
なんか分からないがガラシア王の隣に居る側近のガラシア王を見る目が冷たくなった気が・・・。
ガラシア王はゴホンと咳払いをして俺達を見据える。
「よくやった勇者達よ。例のモンスターの解析はギルドからの資材提供に頼るとして、あと残りの依頼を頼まれてはくれないかな?」
「お任せください」
俺が即答すると微笑むガラシア王。そしてそのままガラシア王が口を開く。
「次の依頼は『煉獄鳳凰堂跡地』の調査だ」
「調査。・・・・また例のモンスターモドキですか?」
リピアが問う。またカオシズム?だったかのモンスターと対峙することを恐れているのだろう。実際、あのカオシズム?を倒すのは結構骨が折れた。あのリピアと一緒にドカーンってやる奴やった後、残った残党相手にリピアは嘔吐する程の打撃を受けたし、俺も危うく腕がへし折れるところだったからな。
だがガラシア王は「あぁいや」と首を振る。
「そうではないさ。・・・・ただ、最近このダンジョンで黒装束の怪しい人影を何度も目撃すると言う事案が多発していてね。ジャウール教の幹部の可能性も考慮して、高ランク冒険者パーティに調査をしてもらったのだが手掛かりナシ。ソコで、だ」
「ソコで私たちが選抜されたのですね、お父様」
「あぁ、そうだ。その通りだ」
うんうんと頷くガラシア王。
「君たちのような優秀な人材であれば何かしら分かると思ってな」
「ゆうしゅう・・・?」
「どうかしたかね?」
「か、必ずご期待に添えるよう尽力しますッ!!」
まさか腐ってもガラシア王、ソレもかの有名な冒険者パーティ『絆剣』の団長が俺たちの事を「優秀な人材」と言うとは思っていなかった。ソレ故、俺は嬉しさと大いなる期待に頭を垂れて宣言する。
俺たちの次の目的地は決まった。
『煉獄鳳凰堂跡地』だ。
S S S S
「んで、どーするんだキルエル?」
「どうするって・・・・、どうするもこうするもないでしょ?」
僕が当たり前のことを言うと、ジォスは「うぇー」と息を吐く。竈で焼かれたのにコイツ、ピンピンしてやがる。
「だってよーキルエル。勇者側に戻っても碌な事ねーだろ?面倒くせークソ勇者にあることない事を尾ひれと角生やして火ー吐きながらワイバーン言われるんだろー?」
「ワイバーン言われる・・・・?」
「多分、事実を曲解して怒鳴り散らすって言ってるんだと思います」
「あぁ、なるほど・・・・」
ジォスの意味分からん発言を和訳してくれたロビンは、僕がお着換え中なのか顔を赤らめている。白い髪と赤い頬のギャップが可愛い。
だがまぁジォスが反対派な理由も分からんでもない。だがソレでも疑問形なのは、僕が絶対に勇者側を裏切らない絶対的な理由があることを知っているためであろう。男子を誰よりもこよなく愛するジォスだからこそ、僕の実を案じつつも不安にわざわざ出向く僕の在り方に難色を示す。
僕は彼の意志を汲み取りつつも、自分の意志を曲げないことを明確化すべく口を開く。
「確かに僕はあの勇者には歓迎されてないだろうけれども、僕はアソコに居るべき理由がある」
下を履きながら僕は言う。相変わらず格好良くない絵面だが仕方なし。全部僕を全裸にしたジォスのせいである。そのジォスは僕のお着換え(特に下半身の)を見て微笑ましく舌なめずりをしていた。顔面を蹴り飛ばしてやりたい。
僕の意志を伴った発言を終えた時、ロビンが食って掛かった。
「ソレはっ、どんな理由があるのかは知らない、けれど!・・・キルエル君、ましてや君がするのは自殺行為だよッ!!」
「ロビンドール!」
「ッ!・・・・・分かってるよ。ジォス様。でも、コレ以上ボクの好きな人が傷つくのは見ていられないんだッ!!!」
最初の怒号でジォスが制止の声を呼びかけるが、ロビンは一瞬言葉に詰まったかと思ったがすぐに反論らしくない反論を並べる。
青い目に白のロングヘアー、そして下手な女装男子よりずっと可愛らしい顔からは想像もつかないような悲痛な叫び声と忌々しいモノを見る目が僕に向けられる。
「ボクは、キルエル君、・・・・・君の事が好きなんだよ。ホントにホントに、コレだけは譲れない。だからボクは君が、キルエル君が傷つくのも見たくないし想像もしたくないッ!!――キルエル君、君の事をほんの1部分しか知らずに何言ってるんだって思うだろうけれども、ボクの気持ちは本物なんだ!!・・・・だからっ」
「ッ!?」
僕は驚きに目を見開いた。
鬼気迫るようなロビンの顔から大粒の涙が零れたからである。
「だからっ、コレ以上踏み込まないで・・・・・ッ!!」
「・・・・・・・・・」
着たばかりの服の裾をぎゅっと握りしめて僕の腕に頭をぶつけるロビン。白い髪で顔が隠れているが、その悲壮な声は薄い服の繊維の間を通って僕の肌に直接揺さぶりをかけた。
僕はその言葉に、ロビンの耳に聞こえるか聞こえないかの小さな声で「ごめん」と言う事しか出来なかった。コレ以上何か言葉を発するのも間違いだし、何も言わないのはずっと間違いだと思ったからだ。
「分かってるよ。キルエル君は、君は彼、彼女を助けたいから勇者パーティに入って災厄から守るためにさ。・・・・沢山つらいことやるっていうのは、分かるよ・・・・。でも、もう見てられなくって。読芯術使わなくても使っても苦しいのは分かるんだよ。見なきゃいいんなら楽だろうけれども、・・・見ちゃうから。傷つくのを分かって、見ちゃうから。どうしようもないよね、ボクはさ」
ぐしぐしと僕の袖で涙を拭くロビンに僕は言うべきことが見つからなかった。
その気まずさを今までずっと黙り込んでいたアンプログリッツが見かねて、ジォスに顎でロビンの方を指し示す。
ジォスは一度頷き、ロビンの背中を優しくさすりながら部屋の外へと連れ出していった。
「・・・・すまない」
「・・・・気にするな」
僕が頭を下げると、アンプログリッツは目を閉じて首を振る。
「いつかちゃんと、話すべきだよな・・・・・・」
「何を話す?長が危険を冒す限り、あの小娘は何度も傷つく。ソレに、あの小娘も分かっているはずだ」
僕の当たり障りのないような自責を含んだ言葉選びに、アンプログリッツは僕の我をそのまま反映したような発言をする。
「自分の好きな男子が傷つくのを見ていられない。止めたい。だが、危険を顧みずに『誰かの為に』の絶対的な理由で災厄に突っ込む長を止める権利は自分にはない。今の怒りと悲しみはそんな相反する共依存が起こした葛藤だ」
「・・・・・ソレは、そうだが・・・・」
「長は止まらぬのだろう?なればこそ、その道を貫き通し覚悟を持った長の行動にあの小娘も何か変わるのだろうな。今は正に分岐だ。このまま変わらなければソレは下心で終わる。だが、今の爆発を踏まえて変わるのであれば、ソレは真心を宿す訳だ。――――だから、」
「今何かを言いに行くのは違う」
僕の答えにアンプログリッツは首肯する代わりに再び目を閉じる。
そんな反応に、僕はここまでアンプログリッツが考えている人間だと言うことに内心驚いた。
正直、右腕を義手したいがために斬り飛ばそうとするも、骨が硬かったために包丁の斬り飛ばしは諦めて右腕の肉を壊死させた後、肉食モンスターに右腕を喰わせるとか言う中二病と言うよりはどちらかと言うとキチガイ方面に目覚めた奴が考えることは、大抵理解不能のヤベー奴なのかと思っていた(実例:ジォス)が、どうにもこうにもアンプログリッツはあかん感じの眼覚めからさらに何かが覚醒したのだろう。
僕には彼の考えているの事の奥底を理解できないのだ。




