クリスマス・メモリアル《前編》
これは前章でジォス、ノゥアとの旅行を終えた後の話です。時系列的にはケーキ作りの大長編から1週間近くが経った日の出来事です。
しんしんと雪が降るとある冬の夜明け。1年に置いて農家が一番困る時期であり、子供にとっては喜びの季節の内の1つである。だが今はまだ世界は静寂に包まれており、外にある穢れ無き白銀の世界を眼に焼き付けることは暖を取る布団から出ることより優先度が低いのである。
―――僕はミルの家の寝室で目を覚ました。
時刻はまだ7時前後でまだ肌寒い。実際に目を覚ました時の僕の頬はスーパーの魚さんくらいには冷えていた。正直寝間着姿のせいで部屋の中の寒波を含んだ空気が寝間着の服の隙間から入り込み、僕の敏感なところを流れるように舐めていく。おかげでいつも河で顔洗いをせずとも目がさえてきた。
『・・・・・・・・』
意識の中に存在しているキルエルは未だ目を覚ましてはいない。感覚遮断で僕の肌が感じる寒さとは無縁の世界で寝ているとはいえコレはいささか寝過ぎなのではないだろうか?
いつもは大体7時あたりにはばっちり目を覚ましているキルエルだが、今日のキルエルはぐっすりだった。
「ソレもコレも全部子供みたいな精神構造のせいなんだよなぁ・・・・」
言っておくがキルエルは12歳の男子だ。思春期真っ只中であり、同年齢のミルとの心的距離感にぎくしゃくするような一般的で健全な男子である。
戦闘やソレ以外大人びているのは彼が単純に修羅場をくぐって来た回数が多いのと、僕が助け舟を出していることによるモノであり、根本的な部分ではまだまだガキンチョなのである。
故にキルエルはミルとのデートが楽しみすぎて真夜中まで起き倒し、今に至るのだ。
そして僕は割と寝ないタイプなので寒かろうが暑かろうが、布団の中でミノムシごっこをやるような人間性はしていない。せいぜいベッドの片隅に置いてある、護身用の『進化の剣』におはようのキッスをするだけである。
「とりあえず起きるか」
僕は毛布の布団をめくりあげて冷たい木の床に足を下ろす。裸足なために床の寒さが直に体に伝わってくる。
「ん~~~~~~~!」
軽く深呼吸をしながら伸びをして、上半身を左右に振りながら身体の血液を温める。こんな感じの運動が第一運動にあったと思うのだが名前は知らないので割愛。
「寒いな・・・」
こういう時はオーバーヒートで熱くなった電気製品に身を寄せたい気分になるが、如何せんPCもなければストーブもない。そもそもこの魔法世界で電気が通る国なんて産業国家であるトートゥルーニャしかない。
ならば2度寝するかと言う悪魔のささやきが聞こえてくるが、僕はミルの救済のためにも早朝からやることがある。
まずは寝間着から冒険用の服へと着替える。
次に1階に降りて外に出る。
最後に近くの山に入り、2時間くらい魔法の威力を上げるための練習をする。
もはやコレが僕の朝起きてからの行動だと思うと、「あー、風情だなぁ」と作業モードから悟りの至りまでマッハ50でたどり着く。あー今日もハイゴブリンのさえずり声が聞こえるぜぇ・・・・。
基本的には『疲労状態』になるまでフップとワイスを虚空に向かって撃つだけである。時々僕の背後からハイゴブリンが出て来たり、遠距離攻撃をすることがあるがその場合はリープで回復しつつの返り討ちにする。コレを延々と繰り返す。そして毎日。
正直毎日とか苦しすぎて無理とか考える人が多いだろうけれども、実際そうだし。僕もゲームではイベ限キャラのステータス最高振り分け状態をゲットするために、延々と4日間「ゲット前にセーブ。ゲット後にステ確認。最高でなければタイトルに戻る」を繰り返していたモノだ。ガチで途中で発狂したくなるし、眠たくもなるし他キャラの育成とかしなきゃならんのだが、コレだけはやっとかないと後でどんどん自責の念に苛まれると思うとやらずにはいられないのだ。
そして今回の自分のガチ育成はマジである。なんせ推しの嫁が死ぬし、なんなら推しも不幸のまま死ぬ!正直その影響で僕も鬱になりそうだが、残念。当の僕はその推しの意識の中に入っている始末。だから推しが死ぬと僕も死ぬし、推しの嫁が死ぬと影響が僕にまで出るのである。しかも推しは僕の事をしっかりと相棒認識しているから肉体的にも精神的にも離れられない、言わば一心同体なのである。
ならば後には引けないし、引く理由がない。僕はせいぜいキルエルの未来を守る手助けをするだけだ。
「グゴアアアアa」
「フップ」
後ろから棍棒持って振りかかるハイゴブリンにフップを噛ます。
いくら感覚を遮断しているからと言って、断末魔を目覚ましに覚醒するなんて何処の戦場だよって話だ。なので断末魔は出さないように『読芯術』の応用、空間把握でハイゴブリンの喉笛を的確にスライスした。
なんか後ろで重たいモノが2つ地面に落ちる音がしたが気のせいだ。ハイゴブリンの頭が重い訳がない。小豆が1個たらいの中に入っているような脳みその軽さだ。ゴトッ!ではなくカランッ!だ。覚えておいて損は無いよ。
ハイゴブリンが居なくなったら、後はまた正面に魔法を撃つだけだ。ワイスとフップを繰り返して撃ちながら、時々剣も振る。ステータスに大きな差を生まないように気を付けるのだ。
――――僕が魔法を撃ち、剣を振り、走り込みをして、高い所から落ちて受け身の練習、そして回復魔法―――と繰り返して2時間近くが経過した頃合いだった。
『んんん~~~~、ふぁぁああああああああああ~~~~~』
大あくびと共に、僕の中に居るキルエルが覚醒した。
「やぁ、良く寝たね」
『あぁ、おはようゲーム君。・・・・はッ!すまない!日課をゲーム君に任せてしまった!』
眠そうな目をこすりながらキルエルが返答を寄こす。そして決して僕が皮肉を込めて言ったつもりは無いのだが、ハッと目を見開いて頭を下げるキルエル。心なしかとても他人行儀だ。まぁ、仕方ないか。ミルとのデートで舞い上がったキルエルのせいだし。
「あぁ、明日キルエルが日課すればいいから。僕寝とくから」
『うえぇぇッ!?・・・・・・まぁ、はい。分かりました』
とても嫌そうな声を上げるが、反論の余地はないと察したキルエルが素直に罰に甘んじる。でもすぐにシュンとした覇気のない(と言うか元々ない)顔がパァッ!と天照らす明るさを取り戻す。
『今日のミルとのデート、僕のエスコートよろしくお願いしますね☆』
「あぁ任せてくれ。しっかりエスケープしてやるぜ」
『エスコートねッ!?何逃げてるんですかッ!!』
「クフフ」
軽くボケを噛まし、突っ込まれて、朝の日課の1つを終わらせる。
いやぁ、まったく、風情だねぇ・・・。
S S S S
我が家(キルエルは居)に帰ってくると、僕を暖かく迎えてくれたのはミルだった。
半分寝間着の白Tシャツらしき、薄い服を着てさらにその上に白いエプロンを着た彼女は、ソレはソレはやんごとなき天使そのモノだった。アーメン。
ミルは僕が帰って来たのを確認すると、急いで部屋の中へと戻ってしまった。「未来の伴侶の目の前ではしたない!」とかいまさら感溢れ出るコメントを残していた。そんな慌てたキルエルの嫁さんだが、1階には朝食の作り置きがされてあった。クソ、可愛い!!
食べた後は片づけをして、僕も出掛け用の服装に着替える。
そして、だ。
現在絶賛キルエルの一番似合う服装選手権をキルエルの部屋で粛々と執り行っている。
キルエルの部屋のタンスを開けて、都会に住んでいる今風の若者の服装を選んでいるとキルエルから声が掛かった。
『そんなだぼっとした黒の服よりかは、ほら。コッチの文字とかドクロが描かれた服の方が似合う気がしませんか?』
「おー、キルエル。いくらミルがキルエルLOVEなヤンデレだとしても、そんなキルエルを見た暁には『へぇ~、キルエル君って案外子供っぽいね~』とか思われて心の距離離されるぞ」
『そ、そうですかね・・・・・・』
僕の却下の詔を聞いたキルエルがしゅんと項垂れる。キルエル的には案外賞賛されると思っていたのだろう、勝算だけに。期待外れなテストの点数を見たインテリ野郎のような顔をしてやがる。
実際、キルエルが斡旋しちゃった服はどうも中二病くさい。白を基調にした生地にやけにキレのある文字がコレでもかと黒色で文章を綴っており、後ろにはキノコが生えた白骨死体のイラストが貼ってある。年齢が中2辺りだと皆してこういう服を選ぶモノなのだろうか・・・。
「キルエル、ミルを支えたいと思うならそんな『俺は選ばれし者!』みたいな勇者思想を具現化したような服はやめとけ」
『じゃぁこの赤黒ラインのミニベルトを腕とか足に・・・・』
「却下」
『じゃぁこの鎖を腰に』
「却下」
『この十字架の指輪h』
「却下」
『』
「却下」
『まだ何にも言ってないんですけどぉッ!!?』
キルエルが目を剥いて吠えるが、キルエルの意識の向いた方向には棘の付いた黒い肩の防具がある。少なくともデートの中で戦闘を予期しているようだ。一体何が敵だと言うのか・・・。自分の心とか?ハハッ、笑える。
何にせよキルエルの選んだ服装だと、デート先が戦場である点を考慮した場合ならば満点を狙えるかもしれないが、デート先は城下町のクリスマスイベント開催中の店とケーキショップ諸々だ。少なくとも意中の女子と戦場デートなんて新しすぎて誰もついて行けないだろう。
ならば服装はどうするのか。僕の長年の勘と『Brave☩Inoccent』脳が試される時である。
「シャツはこの黒長袖。服は青い炎が上下に描かれた黒のグラデーションパーカー。下は黒のメンズスラックスだ」
『『次元魔力鞄』も持っt』
「要らんわそんなデカブツ。デートでかさばるわんなモン。――この青黒の長財布を使う」
『ほへぇ・・・・』
「ホントならリバーシブルトレンチコートとか着たいけれど、無いんだから仕方ない。今度買いに行くぞ」
『りばーしぶるとれんち・・・・・。なんか頭よさそうな響きだぁ!!』
キルエルが首を傾けるが説明は今度してやろう。台詞だけでキルエルのIQが300くらい下回った気がするが、現代知識を知らないのは別に変な事ではない。
それにしてもだ。
僕はタンスの中から1つの服を引っ張り出す。
皮で作られているのだろう独特な触り心地に、ボタンと言うよりかは鎖に近い留め具が縦に羅列している。さらには頭どころか顔面まですっぽりと隠れるモコモコフードが付いている、正に世紀末勇者みたいなコートだ。
「何でキルエルの部屋ん中にこんな得体のしれないダークマターが入ってるんだ・・・・」
正にそうなのだ。
キルエルは確かに終盤に、中二病要素と闇落ち要素を融合させた世紀末覇者みたいな装備を着て出てくるが、キルエルの通常装備はあんな異次元の侵略者みたいなダークホースではない。むしろ、効率と性能を重視した変な装備だ(原因:僕)。だからこそ、キルエルのタンスにこんな装備が入っている理由が分からない。
「キルエルはそんな趣味なかったと思うんだが・・・・」
『格好いいとは思いますが、僕も初めて見ましたよ。自分の部屋のタンスにこんな神の衣装みたいなのが入っているとは思ってもみませんでした・・・・』
「じゃ、じゃぁ一体誰がこんな服を・・・・・・?」
得体のしれない服の出何処に思わず背中を寒気が走り抜けていく。
キルエルが知らないとなれば誰がこんなえげつねぇ私服をみっちりとタンスに入れるんだ・・・・。
僕はそっと痛々しい服を元の場所に入れ直し、心機一転。何も見なかったことにして階段を降りた。
S S S S
キルエルのタンスの中に中二病使用の服を入れた犯人が分かった。ミルだ。
聞いたのではない。見れば分かった。
『マジか・・・・・』
「・・・・・・・・」
「どうしたのキルエル?」
「あぁいや・・・・、とても服が似合っているから言葉を失ったんだ」
ホント、合い過ぎてる。
僕から見てもキルエルから見ても、ミルの服装は、ソレはソレは凄かった。
ゴスロリドレスにドクロマークの眼帯。両腕には包帯が巻かれており、黒いスカートの中から出た華奢な足は黒ニーソで包まれ、大量のベルトと折り畳み式ナイフが仕込まれている。
やっぱデート先は戦場ですかね?
そう思わせるほどに、ミルはオサレ冒険者のソレだった。
ミルは僕の服装に違和感を持つことなく、頬を染めて言う。
「似合ってるだなんて、今日用に調達した甲斐がありました!キルエルも似合ってますよ!ホントを言えば、こっそり入れたトゲトゲ服を着て欲しかったのですが、コッチはコッチで大人びてて好きです!好きすぎて色々捗ります!ぐへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!!!」
『「あぁ、やっぱり犯人はミルか」』
せっかくの茶髪の可愛い顔が、なんか色々もう台無しだ。腐っても淑女なんだからそんな廃材をスクラップするような笑い声を出さないでほしいモノだ。
しかしまぁミルと言いキルエルと言い、ホントにお似合いだなお前ら。今度からは中二ファッションでデートしてやれよキルエル。
『早く22歳になりたいですねぇ・・・。婚約自体は20歳でも出来るんでしたっけ?』
ほのぼのと、ミルの怪しげな笑みを見てキルエルが頬を染める。爆発してほしいと思いました。まぁでも考えて見りゃキルエルの身体を動かして、キルエルの意識の中に居るこの僕もまたミルと間接的に結婚してると言う解釈に、いやキルエルと結婚してると言う解釈にならないかな?
『ついにBLは意識内同棲という新しい扉を開いたのか・・・・・オッソロシ』
キルエルは半分冗談半分本気で受け応える。顔を少し赤らめてるのはなんでなんでしょうかね?ミルとのデートだからですよね?決して僕との同棲を再認識して興奮してるとかじゃないですよね?
ちょっとキルエルの気持ちが本当のところでよく分かんなくなってきたなぁ、と若干雲行きが怪しく感じ始めた僕はとりあえずして、キルエルにバトンタッチをする。
本来のデートメンバーはキルエルとミルだ。僕ではない。
ほれ、キルエル代われ。
『あぁ、―――はい』
僕はキルエルに身体の操作権を投げつけて後方に回る。此処から裏方の時間だ。僕はミルとのデートを楽しむキルエルをエスコートして、ミルとのデートに喜ぶキルエルを見てニチャニチャするだけだ。
『格好いい雰囲気が”ニチャニチャ”という単語だけで気持ち悪くなったッ!?』
うるせぇキルエル黙ってろ!!せっかく格好つけたつもりがぁッ!!!
僕はキルエルのいらん解説に罵声を浴びせて、キルエルの意識の裏側に行く。
キルエルはなんか凄いテンプレみたいな言葉を並べてミルの服装を褒めちぎり、なんならサラッと「早く結婚したいですね」とまで言っていた。クソッ!僕にだって高性能ゲーミングPCが居れば同じ言葉を言えたのによおッ!!!
だがまぁ残念無念如何せん、此処は異世界だ、産業国家にPCがあったとしても、僕と夜を共にしたあのPCではない。ならば僕のやることと言えばキルエルの恋路を応援して援護して、隙あらばキルエルを篭絡する事だけだぁッ!!!
僕は「ふっ」と微笑んで僕の脳内に記憶保存されているクリスマスイベント開催地、普段使うのにも有用な店、あまり知られていない店、開催イベントの期間からイベント中にやることの全ての日程、その全てを頭から掘り返して、キルエルのおデートを無双させるために組み合わせを考える。
そして――――、
「『さぁ、行こうか』」
僕とキルエルの戦争が火ぶたを切った。
S S S S
中二病ファッション×ヤンデレ×ゴスロリ=さいきょう
今日あたり、ずっとこの言葉が脳裏をよぎるのはおそらく目の前に存在るミルがとんでもなくその概念を具体化した存在だからだろう。クソッ!僕の嫁可愛い!!
―――『とりあえず、まず先に行くべきは町の中心点でもある噴水。此処を中心に円を描く形で店を網羅していこう』
ゲーム君の提案から僕はミルと共に噴水に行く道を歩いている。
ミルは何度か来たことはあるだろう城下町も、クリスマスイベントで雪の降っている城下町を見るのは初めてなのだろう、僕の左手をしっかり握りつつも脳みそは新しい光景に夢中なのか僕よりも先の道を歩きながら白く塗られた白銀の世界を瞳に映している。
「キレイ!キレイ!キルエル!見て見て!アレ、凄い綺麗!」
ミルが華奢な指を向けて、とんでもない怪力で常人より何倍も強い僕の肩を外さんと言わんばかりの痛みを与えてくる。
「ちょまっ、ミル!外れる!肩が外れる!」
「肩と私どっちが大事なの!?」
「ミルですッ!!でもソレを引き合いに出すのは何かズルい!!」
目を見開いて抗議を示す僕にミルはふっと微笑んで――、指先の景色を見ろと顎で言う。
そんな理不尽にさらされながらも、僕はゆっくりと首を傾けて指先の景色を見て―――――、
「うおッ!―――――スゴ!」
絶景だった。
目の前にあるのは城下町を彩る観光場所の1つである噴水。
ガラシア特有の筋肉マッチョの男性の力こぶから水が噴出するとか言う、傍から見たら力こぶのリアルさとソコから噴き出る水という異様さに腰を抜かすだろう。
だがそんな異様な筋肉もこの神の軌跡の前では神秘的な現代アートの一部になるしかなかった。
「スゴイ!水が凍ってるよ!キルエル見て!気持ち悪い筋肉から出てる水が凍ってる!!」
「――――あぁ、確かにコレは・・・・・神秘だ」
いやぁ何が神秘って。気持ち悪い筋肉とかマジでどうでもいいんだけど、ミルが映ってるとこんな気持ち悪い筋肉でも僕の記憶の一部分に保存されている事実が神秘なんだよなぁ。気持ち悪い筋肉も水が凍ってるせいで一段と神秘的に僕の度肝を抜くくらいには気持ち悪くなっている。
『例えるならいつもの筋肉はジォスの筋肉。今日の冷凍筋肉は業務用に処理された畜産物の成れの果てみたいな・・・・』
「うん、・・・・うん・・・・・!!」
ゲーム君の発言が納得しかなかった。そうか、なんか気持ち悪い神秘感を感じていたけど、なんかコレだ!と思う表現の仕方が見つからなかったんだ!!
僕がゲーム君の言葉に深く深く噛みしめていると、ミルからお声が掛かった。
「キルエル、何処行くの?私もキルエルとデートだから予備の計画592個と予備の予備を1094個作って来たけど・・・」
「あぁすいません。ミルと景色のハイブリッドが美し過ぎて、少し没頭していただけですよ。決して景色に現を抜かして、大事な愛するミルを置き去りになんてしませんから」
「ふぁっ!!?ああああ、あいする、愛する!?キルエル今のもう一回i」
「んふふ、お預けです。そう簡単に『愛する』なんて言ってたら僕のミルへの想いが安く見られますから」
ダメ押しとばかりに人差し指でミルのプルプルする唇を抑える。途端にミルの顔の全てが赤に染まって耳からブシュゥーッ!!と白い気体が出た。余計プルプルしちゃったなぁ・・・。
しかしまぁミルの行動力にはびっくりだ。予備案592個に予備の予備1094個って。正直、僕はミルとのデートを上の空状態で想像していただけなのに、ミルは僕なんかよりもずっと現実的なプランとビジョンを見据えている。私服はデートなのにダンジョン攻略でもすんの!?みたいなとても可愛らしく素敵n、・・・子供っぽい服なのに考えてることは僕の先を行っているなんて・・・・。
ゲーム君、指示をくれないか?
『良いけどお前、ミルの婚約者なら最低でも1個くらいプラン考えるべきだろ。何でそんなの考えた矢先に人任せなんだよ。良いけど!キルエルに頼られたから教えるけれど!!』
僕とゲーム君は一心同体だ。ならば、ゲーム君が考えていることはつまり僕が考えているとことにならないだろうか?
『ソレはつまり将来僕とミルが結婚するってことになるぞ?』
ふっ、大丈夫さ。ゲーム君は無生物性愛者だし、女の子よりも僕を見てくれている。ならば結婚するのは僕とゲーム君、僕とミルだろう?何かおかしなことがあると?
『・・・・・・・・・・・・・やっぱキルエルも頭ソコソコキてるんだなぁ。理屈は理解できるけど理解できねぇわ』
何か諦めたかのような顔でゲーム君が息を吐く。何が理解できないのかは、多分僕の予想の外だろう。
僕はワタワタと手を振るミルの肩を抱く。途端、跳ね上がる肩。ミルがふっくらとした頬に朱色を入れて此方を覗いてくる。
「いつも手綱を握られてばかり。――たまには、僕の運転する馬車にミルが乗ってほしい」
「―――――――――――っ」
「ミル」
「―――は、はい」
僕の差し出した掌に、ミルの白く小さな手が乗る。僕はミルの手が入った左手をキュッと握る。
「―――覚悟してください」
「・・・・・ぇ」
「僕の馬車に乗ったからには、爽やかな風が吹き抜けるばかりのお花畑をずっと見ることは叶いませんよ」
僕の言葉に、ミルの身体が少し強張る。
だがソレも一瞬で―――――、
「退屈は、させない。安心安全な馬車の中なんてモノはない。つまり、―――キルエルは私をもっと凄いところへ連れて行ってくれるんでしょ?」
「」
「行く先は崖スレスレの道?ソレとも、1歩間違えれば溶岩の中なところ?もしかして沢山のモンスターが襲ってくる中、その嵐の中を突き進むの?――なんにせよ、キルエルと一緒に、隣でキルエルと同じ体験ができるってことでしょ?・・・ソレは、」
「」
「ソレはとっても、嬉しい事じゃない?」
「・・・・」
「いつも何してるのか、毎日傷だらけで帰ってきて、少し時間が出来てイチャイチャする時間が出来たと思ったらクソみたいな王城から呼び出しでフラッといなくなって、気づいたらなんかキルエルの悪評が広まってて、ソレでもキルエルはそんな事関係なく冒険者のランクを上げて、個人の冒険者パーティを作って、へんたi・・・熱狂的なファンを作って、・・・・・私、ずっとキルエルが帰ってきて温かいご飯を作って待ってることしかできなかった」
「そんなことはありまs「あるの!」」
「・・・・私ね、結構、こう、束縛っていうか独占欲が強いところあるから、私が知らないところでキルエルは何やってるんだろうなって思うと、居ても立ってもいられなくって。でも、何ができるかって言われたら何も出来なくって。ご飯作って置いて、たまに休みの日に耳かきとか膝枕とかする事しかできなくって・・・・・」
「・・・・・・・」
「――だから、キルエルの見てる世界ってどんなのかずっと気になってた」
「」
「キルエルの眼には、私の想像もつかないような世界が広がってるんだろうんぁって。地獄も、幸せも、なんとも言えないような雰囲気も、ヤバすぎて理解の追い付かない展開も。――だから、1日だけでもキルエルの隣に居れるのはとても嬉しい」
「ソレは・・・・」
「キルエルの感性には遠く及ばないだろうけれども、私はキルエルの居る世界を感じたい。ソレで、キルエルをその世界ごと手に入れたい。――ソレは、とても傲慢な、強欲な事?」
「・・・・違いますよ。僕だって、そうですから」
「でしょ?だから―――――、」
ミルはひとしきり己の内の心情を語ると、僕のミルの掌を握った手に更にもう片方の左手を乗せる。
「覚悟は、もう出来てます。――私を退屈な日常から連れ出してください」
その手は白銀に染まった世界では世界一暖かい掌だった。
その心と掌に、僕は乗せる手も言葉も出せなかった。彼女の意志を無下にするような気がして。
だから、僕はゆっくりと首肯してミルの手を引っ張る。
ミルは僕の行動に驚く間もなく、崩れそうな微笑みと共にやけにごつい靴を鳴らして僕に付いてくる。
「――分かりました。ではミルには僕を魅せますよ。周りの景色を背景に、僕が主役で」




