ダンジョンぶっ壊した。《ジォス視点》
「――『霧隠れの地下迷宮』か。ソコにイドの言う物的証拠があるのか・・・・」
「どーした、なんか不満なのかよ?」
俺は中二病を拗らせている義手の男子、アンプログリッツを見やる。アンプログリッツは如何にも不満そうな顔つきでトール山脈の方角を見る。移動が面倒くさいと言う思いがミシミシと伝わってくるが、俺も紳士。此処は敢えて聞くのだ。
「トール山脈まで結構かかるぞ。少なくとも走りで2、3時間はヤワだな」
「イー汗かこーぜ?」
「移動で体力を使いたくは無いんだがな・・・」
「風になろーぜ」
「移動系の非戦闘向きの類は”天殿堂”が詳しいからな。我では無理だ。理解できても使えないからな」
どーやらアンプログリッツ、走りたくないよーだ。困った・・・。隙あらば空気中に解き放たれたアンプログリッツの汗の水分を口径摂取したかったんだが仕方がねー。
「しゃーねーなー。アレするしかねーのか・・・」
「?」
俺の言葉に反応するアンプログリッツ。何をするんだとは言わせず、アンプログリッツの驚く顔が見て―為に俺は地面を軽く蹴った。
瞬間だった。
俺とアンプログリッツを中心に円を描くよーに周囲の風景が高速回転し始める。あらゆる建物、人、空、全てが残像すら残さず閃光渦巻く白の世界に呑まれていく。
そして―――、
俺たちの周りを覆っていた白が急速に回転の速度を緩めていく。段々と現わしていく周囲の光景にアンプログリッツが思わず驚愕に満ちた声を上げる。
「――――なぁッ!?」
俺たちの目の前には山があった。周囲には建物はほとんどなく、舗装された道路(ソレも途中で切れてる)があるだけで、他はせいぜい畑があるだけだ。ぶっちゃけ超ド田舎である。
「イド、何をした?」
「座標移動」
「はぁッ!??」
アンプログリッツは俺の言葉に理解が追い付かず、目を見開く。
ソレもそのはず。コレは本来の”やり方”を圧縮して必要な分だけを抽出したモノだ。ある意味裏技でもあるため、2度目以降は慣れてしまって面白くねーし真似られる可能性だってあるから、最初の1発が肝心だ。
俺は予想以上に驚いてくれるアンプログリッツに満足しつつ、山のてっぺんを親指で指す。
「あそこの奥にあるのが『霧隠れの地下迷宮』だ」
「オイ待てイド。座標移動の説明を飛ばして先々行くな!」
「おん?要るのか説明。コツ摑んだら誰でも出来る裏技だぞ」
「出来ないから聞いているんだ!その知恵の一端を我に教えてはくれないか?」
焦燥の顔で座標移動の方法を聞いてくるアンプログリッツ。何も難しー話ではねー。本来のやり方である、周囲の情報を0と1と2に分解して世界の基準値を別の空間に移送して0と1と2をまとめ上げた後、移動対象の存在を点に置き換えて3次元の座標を入力した後、その上に0と1と2の情報を再構築した後、移送した基準値を乗っけて元の4.5次元に直す”やり方”。コレに色々つけ足して新規として上書きしただけである。
世界規模から個人規模になるが、その分細部までの設定が求められるから基本コツを知らねー奴は本来のをやった方がはやいんだ。
俺は上記の説明をしよーと口を開いたが、此処で俺は気付いた。
アンプログリッツは中二病である。とんでもねー中二病野郎で、単語にはルビを振ってねーと理解がされねー奴なのだ。
故に俺はアンプログリッツにも通じるよーに言葉を選んで説明する必要がある。
「簡単に言やー、次元の簡略化と世界樹の分解と構築を自分に当てはめて特定の座標に上書きをするんだよ」
「ソレが座標転移か・・・・、なるほどな」
「分かっただろー?」
「あぁ、取り敢えずイドは風変わりな奴だと言うことがな・・・・」
まるで俺を人間扱いしてねー、魔界産モンスター見てる時の眼で俺を見てくるアンプログリッツ。一体どんな教育を受けるとこんな目をした人間が出来るのだろーか。世界は不思議で満ちている。
「というか、此処は何処だ?随分と田舎だが・・・」
「あー、此処『霧隠れの地下迷宮』のある山の麓だぜ。此処からならやってくれると思ってな」
一緒に山の頂上までダッシュだ!と言って一緒に走り抜けてはくれねーだろーかと、少しばかりの期待を膨らませて此処に飛ばしたのだが、アンプログリッツは山の中腹辺りを見据えてから少し息を吐いた。相変わらずモノを見るときの姿勢が格好いいのは持ち前の中二病さ故か、素なのかは定かではないが。
「イドよ、先客が居るようだが?」
「あー、ちょっと遅れちまったか・・・・。中はどんな感じか分かるか?俺の想像だと勇者パが居る」
俺の推測に首を縦に振るアンプログリッツ。どーやらマジで第4章辺りらしー。
「3階層で構成された、全てが霧に包まれた異次元のダンジョン。3階層には勇者らしきパーティが5体の証拠達を撃破したようで、帰宅の準備をしている。さらにその先には剣1本で7体の証拠達を切り伏せている者が一人だ」
「・・・ソレって男子?」
「あぁ」
「・・・無傷?」
「血が出ているようには見えないな・・・」
「・・・・マガt、なんか禍々しい武器持ってる?」
「あぁ、人の歪みから生まれたような副産物を携えて縦横無尽に戦場を駆けていr―――ッ!?アイツ、未来が見えているのか!?敵の攻撃に合わせて体勢をぐるっと変換している!!」
「・・・・やっぱキルエルかー」
俺は改訂版『Brave☩Inoccent』プレイヤーだ。ゲームのストーリーは粗方知ってるし、その流れでキルエルのファンになった者だ。いやぁキルエルは素晴らしい。キルエルの吐いた息を想像するだけでご飯が進む進む。笑顔を見た時は感動で全人類の肌を潤わせてしまう。
閑話休題。
俺は上記で説明した通り、改訂版のゲームプレイヤーだからゲーム通りに進んだらキルエルがどーなるかなんてのは知っている。
この途中経過もそーだ。アイツらはアブノーマリティをぶっ倒した後、3階層を確認せずに帰った。3階層でキルエルが戦っているのにだ。アンプログリッツの『読芯術』の応用と粒子の動き方からして、勇者共め、キルエルの悪口叩きながらダンジョンに併設されてる転移魔術を使用してやがる。少なくとも今の段階でキルエルが戦っていることを勇者共に知らせる手段はねー。
「クソ、キルエルも少しずつだが押され始めてる・・・」
「だが、我がほんの目を離した隙に、もう既に6体の異形を片付けている・・・。やはりキルエル=ヴェルモンド、『百鬼夜行』の首領は底知れない実力を秘めている・・・」
アンプログリッツがキルエルを称賛する台詞を漏らすが、状況はさして変わらねー。敵が飛び道具としてガトリングを装備したケンタウロスであるためか、キルエルがいくら前もって攻撃を避けてもケンタウロス特有の機敏さであっとゆー間に距離を離されてしまう。
少なくとも、今の状態じゃー狭い空間が災いしてキルエルのジリ貧は何1つ変わらねーだろーな。
だからこそだ。
俺は隣で執事服を着こなした中二病であるアンプログリッツに頼んでみる。
「アンプログリッツ」
「・・・・その名で呼ぶな」
「じゃぁ『終末者』」
「・・・なんだ?」
「お前なら今キルエルが戦ってる奴、倒せるだろ?」
俺の問いにアンプログリッツは軽く首を縦に振る。――なら決まりだな。
「じゃーアレをちょっと一捻りしてくれねーかn」
「しないぞ。そんな事」
「なんでー?」
「ソレは暗部の中の一組織である我が暗に表沙汰で力を振るえと言っているようなモノだぞ。イドも知っているであろう?我が”この力”を人前で見せてはいけない事を・・・・」
そう言ー放ち、右腕の義手をコレでもかと振るアンプログリッツに俺は溜息を吐いた。そうだった。コイツは中二病だ。ソレも自身をアングラの住人だと思い込んでる奴だから、人前で全力出すとか思春期中学生の方面の属性は持ってねーんだったッ!!
ならどーする?俺が行くか?
一瞬その選択も有りかな?と思ったが、毎回毎回ピンチの時に俺が助けてるとキルエルが俺に甘えてしまう(ダメ人間になる)んじゃないかと言う未来が見えてしまうため、俺が行くのはちょっと気が引ける。キルエルには真面育ってほしいモノです。
そんな事言っても結局は俺もダメ、中二病もダメとなると誰がやるって話になる。
横目でアンプログリッツを見るが、奴は空間把握でダンジョン内部を透視しており、表情や態度から「面倒くさい&行きたくない」オーラがあふれ出ていた。
しかしだ。アンプログリッツは言葉と態度とは裏腹に心はとんでもなく正直だった。
「(『撃滅命令』を出してくれれば、イドが所属する『百鬼夜行』の長であるキルエル=ヴェルモンドにいち早く会えるんだがな・・・)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬何言ってんだ?と思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
時が動き出して、今の発言をもう一度脳内再生してその言葉の真意を演算する。
そして、俺は全てを理解した。
この中二病、とんでもねー程のツンデレじゃねーかッ!!!
やべーぞコイツ。外見とんでも黒歴史マシマシ野郎なのに考えてることは漢女チックとか、新しい扉じゃねーかッ!?色んな特殊性を見てきた俺でもこんな迂遠過ぎるツンは初めてだ。
「・・・・なんだ。我の頭に何か生えているのか?」
アンプログリッツが俺の驚きの表情に問いを見出してきた。俺の眼にはお前の心の内が手に取るよーに分かって、その内容にビビり散らかしているだけだっつの。
だがまー、コレも青春と言うモノだよなー。
と言うわけで俺は「何でもねー」と背を向いて答える。
そして、奴の耳に直接声をお届けした。
「――――『撃滅命令』」
俺がそー呟いた瞬間、真後ろに居たアンプログリッツが姿を消した。
そして直後に惑星が真っ二つに割れる音と共に山の頂上から衝撃波と一瞬遅れた土煙が辺りにばら撒かれた。ダンジョンに生い茂っていた木々が爆風で根っこ事引っこ抜かれ、破壊の衝撃がコレでもかと叩きつけられる。下山中の勇者パが衝撃と爆音に全身を叩かれて山を転がり落ちていくのが見えた。ざまぁwww。
そして、その大爆発の主は無論アンプログリッツ。
彼の所有する技であり禁術、――――大魔導である。
「やってくれたみてーだし、俺も行くか」
アンプログリッツの攻撃終了と共に、俺は空気を踏んで山の頂上まで飛ぶ。
ところどころ森林の1部が壊滅的な被害を受けており、緑の山の中に茶色の皮膚が浮き彫りになっていた。
そして頂上。
「わーお」
頂上にある『霧隠れの地下迷宮』。ソレはもう見る影もなく”何か”の衝撃に叩き潰され、現代的愉快なオブジェに変わっていた。
例えるなら東京ドーム1個分。あの面積に匹敵する程綺麗な円がダンジョンの爆心地を中心に広がっていた。本気を出していねーためか規模が少し小せーが、ダンジョン1個を丸々吹き飛ばすには十分な火力だったのは見て取れる。
俺は更地になった森の頂上に舞い降りて、高揚した声を自然と上げた。
「やっぱアイツは必要だな。ウチのパーティに」




