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10・孤軍

 行軍の人数が増えれば増えるほど、その動きを隠蔽するのは難しくなる。相当数の足音が接近していることに気がついたのは、日も暮れ始めた黄昏のことだった。

 村に伝心魔術が使えるような人材はいないので、伝令として青年の中で一番足の速い人を傍につけてもらっていた。来たか、と呟くと、彼は蒼白な顔になって私を見た。

「招かざる客です。――村の方々に警告を」

 頼みます、と添えると、青年は青い顔をしながらも頷き、村へ向かって一目散に駆けだした。その背を横目に見送り、私も自分の仕事に取り掛かることにする。

「さて、どう動いたものやら……」

 自らの周辺で広い範囲について知ろうと思った場合、有用とされる手段は大きく分けて二つある。

 アクトンのように、視野を拡大することで己の眼に捉える遠見。魔力を放ち、対象に触れさせることで捉える探知。今まではずっとアクトンが傍にいて任せてきてしまった分、前者の技術は私にはない。後者は多少できなくもないけれど、辺りの林全てを範囲に含めようとするのは到底無理な話だ。

 従って、私が敵を知ろうと思えば、どうしても地面を通じて聞き耳を立てるとかの単純的な手段になる。そうして探ろうと試みた結果、敵は辺境の小村と侮っているのか、まとまって北の農道を下ってきているようだった。分散して多方面から包囲するような思惑も見られない。

 先遣隊からの音信がないことは、本隊でも把握しているはず。それでも特別警戒を強めるにはあたらないと判断したのか、或いはそうすることでこちらの油断を誘う思惑か。気にはかかるものの、

「どっちにしろ、時間もない。端からやるしかないか」

 敵の動きを待ってから対処する時間も、人手もないのだ。先手を取って優位に立ち続けるしかない。

 かくて敵の先頭が罠にかかったのは、ついに日も沈んで暗くなり始めた頃――細い月が心許ない明かりを投げかける夜の初め。

 まず林に踏み込んだ人員が次々に鎖で木から吊り下げられ、何事かと騒ぎ始める。この状況で最初に潰しておきたいのが探索役と回復役だ。村で拝借した矢の届く間合いを保って様子を窺っていれば、指揮官らしき男が腹立たしげに周りを探れと怒鳴りだす。

 その指示に反応した奴こそが、連中の「目」を担うものと思われた。

 了解、とその指示に答えた男に向かって、迷わず毒を塗った矢を放つ。一瞬の風切り音を聞いたかと思うと、初めの一矢は過たず標的の肩に突き刺さった。毒矢を受けた男は、ほとんど間を置かず地面に倒れこむ。予想以上の効き具合に、思わず目が見開いた。ダルシー婦人謹製の麻痺毒は即効かつ強力だと聞いてはいたものの、まさかこれほどとは。

 襲撃者が村の「薬師」を狙っているというのも、或いはこの腕を求めてのことなのかもしれない。野犬を想定した麻痺毒でこれなら、他の毒の効果も凄まじいものになるに違いない。それを悪用する目論見があると決まった訳ではないとしても、問答無用で村を滅ぼしにくる相手のどこが信用できようものか。何ともしても敵の目論見を阻まなくては。

 ……しかし、矢を射込めば、必然の結果として居場所が知られる。

 いつまでも悠長に留まっていることはできない。あそこだ、と叫ぶ声を振り切り、闇に紛れて茂みから茂みへと飛ぶように駆けた。逃げ回りながら弓に矢をつがえ、鏃に毒を塗ることも忘れない。

 こちらにはただでさえ後がない。今のうちに敵を減らせるだけ減らしておかなくてはならなかった。

「くそ、また射てきやがった! 一体何の毒だ? かすっただけでも動けなくなるぞ」

「三人一組で固まって散れ! 一人が射られたら、残りの奴で射手を追え!」

 今のところ、矢に外れはない。射た数だけ敵の戦力を減らせているはずだというのに、敵はいっかな怯む様子を見せなかった。指揮官の指示にも迷いがない。軍さながらだ。

「いたぞ! 狙え!」

 木立の合間から飛び出した瞬間、そんな声が聞こえてきた。

 舌打ちをする間もなく、月光に煌めく鏃が飛んでくる。敵弓兵の射程に捉えられてしまったらしい。命中しそうなものだけを鎖で打ち払い、足元の土を巻き上げて目隠しを作りながら更に逃げ――そして、ついに矢が尽きた。

 比較的大きな木の裏に隠れ、弓を足元に置きながら息を吐く。これでいよいよ身一つだ。

 村の装備として残してこなければならなかった分、持ってこれた矢の数も決して多くはなかった。これからは手持ちのカードだけでどうにかしなければならないものの、そもそも私には飛び道具の備えが乏しい。

 隠れ場所を飛び出し、三人一組で動き続ける敵の集団に間合いを保ちつつ接近しては、一撃離脱を繰り返す。ひとまず鎖の先端に重りを乗せて投擲し、距離をとっての打撃で昏倒させるべく試みるものの、どうにも効率的な手段とは言えそうにない。

「暗がりから鎖が飛んでくる。気をつけろ」

「矢は飛んでもなくなったな。使い切ったか?」

「ならば好機だ、一気に距離を詰めて囲め!」

 応、と号令に答えて上がる大音声は、まるで地面を揺らさんばかりだった。

 早い段階で物見役を潰せたのは良かったものの、襲撃者は意外と練度が高いようで参る。目を塞がれたなりに隊列を組み直し、進攻の足を緩めることはしない。先遣隊がそうだったように鎖を見て私が敵に回ったことも看破したようで、「呪い子風情が」と憎々しげに吐き捨てる声も度々聞こえた。

 私の存在が知られたということは、ある程度の手札も把握されているはず。そうすれば必然的に対処されやすくはなってしまうものの、

「あれは『呪い子』のうちでも一等性質の悪い鬼子だ。油断するな!」

 私という敵に脅威を見出して慎重になってくれるなら、それはそれで悪くない。ここで丸ごと足止めしておけるなら願ったりだ。

 隠れて狙撃することもなくなれば、むしろ適度に姿を見せてやった方がいい。射かけられる矢に頬をかすめられながら、次の罠を起動する。隠しておいた鎖が切れて、破城槌の勢いで丸太が射出された。野太い悲鳴が上がる。

 敵はおよそ一個小隊ほど。これで二人でも三人でも減らせていればいいのだけれど――

「昏倒した者の回収は後にしろ! 第二陣はまだ到着しないのか!」

「十五分後に到着の予定です!」

 ……あーらら。

 どうやら、時間はむしろ私よりも敵方に味方するらしい。敵が今ここに来ている連中だけだと見るのは甘すぎる考えだとは思っていたけれど、それでもそうと信じたかったのが本音だ。

 ただでさえ数で負けている。その上で殺すことを前提にしない立ち回りをするのは、これまで従事してきたような任務とは違った種の疲労があった。

 魔獣や犯罪者たる賊の討伐なら、まだそれを「命令」であると割り切ることができる。それに比べて、今のこの状況の複雑怪奇なこと! 敵の素性がはっきりしない。何が正しいのか分からない。そんな状況では殺してしまう踏ん切りもつかず、ただ自分がそうするべきだと信じたことだけを(よすが)に戦うしかない。

 誰かの命令によってでなく、自分の意志だけを理由に戦う。考えてみれば、ほとんど初めての経験だった。呪い子にそんな自由はなく、そんな機会もなかった。

 上がる息は疲労ではなく、きっと心理的な要因の方が強いのだろう。

「ああ、くそ……」

 半ば自棄で毒づいた時、ふと辺りに薄靄が漂いつつあることに気が付いた。靄は刻一刻と濃さを増し、ただでさえ視界の悪い夜の林を更なる混迷に導くかのよう。私を追ってくる敵の方からも、困惑しているらしい声が聞こえた。何だこの霧は、どうして急に、だとか苛立った風の声が相次ぐ。

 あまりに都合の良すぎる状況には作為的なものを感じなくもないものの、この反応を聞くに、あちらの策でもないらしい。おかしな話だ。村にはそんな芸当ができる術者はいない。増援に来るような当てもない。

 それでも、せっかくの好材料なら利用しない手もなかった。これに乗じて奇襲を図るか、それとも距離を取って少し休むか。迷いかけた時、

「……!?」

 にわかに腕を掴んで引かれた。ちょうど差し掛かった木の裏から伸びてくる手。

 愕然とした驚きは、そんなところに隠れている奴がいたという状況に対してでもあり、そんな近くに隠れている奴に気づかなかった自分自身へのものでもあった。咄嗟に腰の短剣に手をかける。けれど、その直後に聞こえてきたのは、

「大人しくしろ、この馬鹿が!」

 久しく聞いていない――それでいて聞き間違えようもない声だった。押し殺した響きの罵り。ハッとして声の主を見やれば、驚きはいや増した。

 不機嫌を煮詰めに煮詰めたような険しい表情の、背の高い黒髪の男性。見間違えようはずもない、私の所有者。その鋭く光る紫紺の眼が一瞬だけ私を見たかと思うと、敵が追ってくるであろうと方向を睨む。

「少佐、何故」

 どうしてここに。信じられない気持ち半分、呆気に取られてそれ以上は物も言えずにいると、マーヴィス少佐は忌々しげに吐き捨てた。

「貴様は嵌められた」

「え?」

「『呪い子』の無知に付け込まれた。俺は貴様に、この村に向かえなどという命令は出していない。無論、壊滅させろとも薬師を攫えとも。……伝令鳥が途中で捕獲され、命令書がすり替えられたようだ」

「……え?」

 さっきから間抜けな声しか出ない。ぽかんとしていると、少佐は「走れ」と私の手をぐいぐい引っ張って走り出した。

 辺りに漂う靄は、もう手で触れそうなほどに密度を増している。いつしか文字通りの濃霧となって林を白く塗り潰していたものの、少佐の足取りは迷いない。霧の中を泳ぐように進んでいった。

 状況から推し量るに、この霧は少佐の作り出したものなのだろう。剣の腕に覚えがあるらしいということはミザーゼ山で聞いて知っていたものの、思えばどのような魔術に通じているかについては、何一つ知らなかった。こんな広範囲で目くらましを図れるほどだとは、何ともはや恐れ入る。

「フェラン」

 短く呼ばれて、思索に沈んでいた意識が引き戻される。

 はい、と答えて腕を掴む人を見上げれば、またほんの一瞬だけ視線が投げられた。刺すように冷たい厳しさで。

「命令書を見て、何かおかしいとは思わなかったか」

 低い声の問い。そう問い掛けるからには、私に送られていたものには何か不審な点があったということなのだろう。そう言われても、すぐには思い当たらないけれど。

 何かおかしなこと、か。――そういえば、

「署名が乱れているなあ、とは」

 思った気がします。ぼそりとそう答えれば、深々としたため息。……もしかして、正解?

「気付いていたのに、何故確認しなかった」

「命令の内容が内容でしたから、少佐も動揺されたのではないかと思いまして。確認については、その発想がありませんでした。申し訳ありません。ただ……」

「ただ? 何だ」

「そのように問うことが、呪い子(わたし)に許されるものなのですか」

 ただ与えられた命令の通りに、その場所に行って殺したり殺されたりする。

 それが「呪い子」というものだった。それが長く私の送ってきた日常だった。時たま、どうしても無茶だろうと思われる指示には反論してみたりもしていたけれど、どうせ聞き入れられることもないとは分かっていた。それでも止めなかったのは、他に鬱憤の吐き出し口がなかったからだ。命令者の不興を買おうとも、私なら殴られようと蹴られようと大した問題にはならないし。

 だから、本当のところ、心底から改善を望んでいた訳ではない。望むだけ無駄だと分かっていた。ただ言いたいから言っていただけの、意味も価値もないこと。

 そんな過去を思い出しながら、少佐の様子を窺う。見上げた横顔は、ひどく不機嫌そうだった。今まで見た顔の中でも一、二を争わんばかり。小さな舌打ちまで聞こえた。

「……他の『呪い子』がどうだかは知らんが」

 短い間をおいて、低い声が語りだす。私は黙って聞いていた。

「俺の直下にある以上、思考停止することは許さん。自分で考え、その結果頷きかねることがあれば報告しろ。それを咎めるような狭量であるつもりはない。部下の意見一つ聞けずして、どうして上を狙える」

 突き放すような声音で紡がれたその言葉は、同時に紛れもない許しでもあった。

 さっきから驚いてばかりの私は今や完全に言葉を失い、それでいて胸の中に奇妙な熱が灯り始めていることに気が付く。それは安堵であり、納得であり、ひそやかな喜びでもあるように感じられた。

 思えば、前にもフリートウッド少尉が言っていた。少佐はあれで部下の上申とかにも寛容だ、と。なるほど、確かにそうらしい。

「……かしこまりました。次があれば、必ずお伺いするように致します」

 走りながら頷いて見せれば、ああ、と素っ気ない相槌。

「『次』が早々起きても困るが、何か異変を感じたのなら見過ごすな。変に委縮して言葉を飲み込んだばかりに問題を起こされるくらいなら、問答の手間をかけた方が余程マシだ。……もっとも、貴様の無知と孤立は軍が敢えてそう図ったがゆえのものであり、補う策をを講じておかなかった俺の手落ちでもあるが」

 そう語る少佐の声には、意外なほど怒気がない。私が偽の命令書に騙されたせいで、危うくとんでもない過ちを犯してしまうところだったというのに。

「お怒りでないのですか」

「馬鹿なことを訊く。貴様にそれを向けるのは道理が合わん。貴様の落ち度については、今しがた指摘を終えた。怒りを向けるとすれば、俺や貴様を陥れんと企んだ愚物にだろう」

 あっさりと答え、少佐は私が仕掛けておいた罠を飛び越す。目隠しの霧が探知の術も兼ねているのか、先ほどから罠で足止めを喰らうことがなかった。

 少佐に引っ張られるようにして走りながら、私はまだ驚きと戸惑いが抜けきらないまま、ひとまず目下一番気になっていることを訊いた。

「少佐、どちらへ向かって?」

「村だ。敵は相当数に上ると予想される。守りを固め、援軍の到着を待つ」

「援軍?」

 鸚鵡返しに言いながら、今更に背筋の冷える思いがした。まさか、と冷や汗が滴るような心持ち。

 援軍を待つということは、この場に他の味方がいないということになるのでは。それに少佐自らがこんなところに出向いてきてしまうのは、多少どころでなく軽率に過ぎやしないだろうか。

「少佐、今更ですが、どうしてここへ? それに増援を待つということは、まさかお一人なのですか」

「一人に決まっているだろうが」

 まさかと思っていたことが平然と肯定されて、何だか頭が痛くなってきたような気がした。何をしていらっしゃるのか、この人は。

「少佐ともあろう方が、何をそんな」

「少佐ではない」

「はい?」

「今回喧嘩を売られたのは、あくまでも俺という一個人だ。貴様が陥れられ窮地に立たされている現状をどうするかは俺の問題であり、マーヴィスの家紋が偽造され悪用されたのは家の問題であると言える。軍における肩書は通用せん。私事に部隊を動かせるか」

 少佐が忌々し気に吐き捨てる。そういえば、村に連行しておいた襲撃者の先遣隊の男も同じことを言っていたっけか。軍は動かせないので、家に連なる人員を動かしたと。……まあ、あれは私を騙す為の方便であったのだろうけれども。

「では、その援軍は」

「マーヴィス所縁の傭兵団だ。何分急な手配となったせいで、到着まで今しばらくかかる」

 へええ。急な手配になったせいで、傭兵団の到着は今しばらくかかる。……そうですか。

「少佐、早速ですが一つよろしいですか?」

「何だ」

「何を考えていらっしゃるんです、ご乱心ですか? ご乱心されなさりがやったんですか? どうして一人で先行してきてしまったんです。そもそも、あなた自身がここに来る理由も必要もありませんよね。どうしてもこの村に来たい思惑があったのだとしても、傭兵団と一緒に到着するのが筋ってものでしょう! 無理と無茶にも程があります!」

 勢い余って、長々とそんな台詞を言い連ねてしまった。

 本当にもう、信じられない有り得ない。いくら剣が使えて魔術に長じていようとも、ただの人が独りでこんな襲撃現場に立ち入るのは自殺行為だ。それとも、少佐もダルシー婦人の薬師の腕を見込んで抱え込みたいという思惑でもあるのだろうか? だとしても、やっぱり見過ごすことはできない。

 少佐は冷淡だけれど、悪人じゃない。少佐が軍にいてくれれば、きっともっと今より良くなる何かがあるはずだ。今なら一層にそう信じられる。だから、絶対にここで死なせちゃいけない。

 それは心からの抗議だったけれど、やはり「呪い子」にそんなことを言われては面白くないのだろう。眦をきりきりと吊り上げた少佐は「やかましい」と憤懣やる方ないとばかりに、ピシャリと言い捨てた。

「先着してしまったのだから仕方がないだろうが。そもそも、無理と無茶はお前の方だ。独りで奴らを相手取る気だったのか」

「私はいいんですよ。そうするより他に手もなかったですし」

「何が『いい』だ。相変わらず自分の命を度外視する」

「しても問題ありませんからね」

 そういう身体をしているのだから。軽く笑って言い返す。

 半顔でこちらを振り返った少佐はいかにも不愉快そうに眉間に皺を寄せ――けれど、突如何かに気づいたかの様子で息を呑んだ。

「伏せろ!」

 その声を聞いた時には、既に問答無用で地面に引き倒されていた。

 反射で受け身を取って周囲の状況を窺いながら、頭上を飛び交う風切り音に忌々しさを覚える。見つかった、追いつかれたというのは、厳密には違う。

 破壊の狙いはひどく大雑把だった。手数を増やすことで狙いの拙さを補う当てずっぽう。しかし、それも点を面にせしめる物量があれば単純に脅威となる。

 雨あられと降り注ぐ矢にえぐられ、周辺の木々が轟音を立てて次々に転がってゆく。舞い上がる土煙を払うかのよう、風が流れて霧ごと吹き払う。元々村を滅ぼす気で来たのなら、ここで破壊を成しても同じだとでも言うつもりだろうか。

「フェラン、立て! 村まではわずかだ」

 少佐が怒鳴る。この上まだ急かすように、腕を引っ張る力を強めて。

 でも、私は風に乗って流れ届いた声を聞き留めてしまったのだ。見つけたぞ、あれだと指し示すかの如くに叫ぶ声を。

「少佐、村に入ったらジャイルズという男性と、ダルシーという婦人を探してください。その人たちが村の防衛の鍵になるはず」

「――何だと?」

 怪訝そうな声を上げる少佐に答えず、その腕を振り払う。フェラン、と鋭く呼ぶ声にすら見向きもせず、踵を返した。案の定、伐採の後に似て開けた空間を殺到するするものがある。

 それら無数に見えるほどの銀の光と、少し先を走っているだろう背の間に割って入ることには、少しの恐怖も躊躇いもなく。ただただ、私とでは体格の差があるから、それだけが不安だった。

「フェラン!!」

 引き絞るように叫ぶ声を聞く。そんな風に呼んでくれなくてもいいのに。身体中の肉が引き裂かれ、骨が粉砕される感触に巻かれながら、思わず笑った。

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