第十八話 対魔物使い
「とりあえず、こんなもんか」
顔を見られないように目隠しをさせ、縛った白衣の男をその辺に転がしておく。
こいつの扱いはあとで決めるとして、モンスター達の解放が先だ。
ざっと周囲を見回したところ、空間内にある檻の数は十個ほど。
そのうち、モンスターが入っているのが、およそ半分。
捕えられているモンスターの種類は、様々。黒影狼のような犬系や、緑隠猫のような猫系、鳥系のモンスターもいる。
誰もがこちらを見てはいるが、その瞳からは知性を感じられない。
「やっぱり、あの禁術の影響か」
となると、緑隠猫が禁術を受けた場所は、ここで間違いないのだろう。
魔法陣に近づいてのぞき込んでみれば、記憶に新しい模様が描かれていた。
ひとまず、これ以上悪影響されないように、これは破壊しておこう。
しゃがみ込んで魔法陣の縁をなぞり、指についた青い粉をよく観察してみる。
質がかなり落ちていたが、地面に魔法陣を描く時に使う粉末だ。
モンスターに施された禁術に、見覚えのある魔法陣、そしてこの道具まで。
やはり──この時代にはモンスターテイマーがいる。
《──》
「ん?」
分身体であるため出力がかなり弱いが、ロコから念話が届いた。
なんでも、こちらにモンスターを連れた人が向かってきているのだとか。
恐らく、この白衣の男の仲間だろう。
役割としては、今来ている人がモンスターをここまで連れていき、こっちの白衣の方がモンスターに禁術をかける。
どうやって敵対しているモンスターを連れているのかはわからないが、大まかな流れはこれで合っているはずだ。
「となると、早いとこモンスター達を解放しておかなきゃまずいな」
ロコにそいつの足止めを頼んだ俺は、檻に駆け寄ってモンスター達を助けていく。
先ほど緑隠猫で試したあとだったので、今回は時間をかけずにいけた。
無事に全員を解放しおえ、俺達も洞窟の外へ出る事にする。
犬系と猫系モンスターに白衣の男の監視を任せてから、残りのモンスターと一緒に駆けだす。
洞窟の入口が見えるにつれ、戦闘音が聞こえてきた。
ロコ達が戦っているらしい。しっかりと足止めをしてくれて、助かった。
「ちっ! なんだって、こんなところに魔物が潜んでいるんだよ!」
洞窟の外に出ると、ロコ達に囲まれている人間がいた。
見た目は二十代の男で、腹立たしそうに舌打ちをしている。
彼の傍にはモンスターがいて、同じように禁術の影響下にある様子だ。
男は俺の存在に気がついたようで、目を見開いて驚愕を露わにする。
「お前は誰だ! なんで、そこから出てきた」
勢い余って飛び出してしまったが、さっきのように暗殺者スタイルを貫けば良かった。
まあ、大丈夫だろう。ここでこいつを捕まえればいいだけなのだから。
「ロコ!」
男の問いかけを無視して、ロコに合図を送る。
彼女は直ぐに察し、黒影狼達と連携を取りながら包囲網を築いていく。
「っ……てめぇも魔物使いか!」
「なんの事だ?」
「惚けるんじゃねぇ。魔物を操るのは、オレ達魔族の特権だろ。なんで、同じ魔族であるお前がオレの事を邪魔する?」
「……魔族?」
初めて聞く名前だ。話のニュアンスから、魔族というのは種族名のようだが。
目の前の男やさっきの白衣の男が、魔族であるのだろうか。
エルフのように見た目にそんな違いはなかったが……いや、よくよく見てみれば、男は今まで見た中で魔力を一番持っている。
つまり、魔族というのは、魔力が高い種族をそう表すのだろう。
そうなると、魔物使い……モンスターテイマーは、高い魔力がないと思われている?
俺の時代のモンスターテイマーは、相性によって適性が変わっていた。
魔力の有無で決まっていたわけではない。
これも、時代の変化で法則が変わったのだろうか。
俺が思考をしている間にも、男は一生懸命説得しようとしてきた。
しかし、俺が頷かないのを見て、考えを変えたらしい。
忌々しそうに舌打ちしたあと、こちらを殺意の篭った目で睨む。
「てめぇ、はぐれの魔族か。裏切り者なら、こっちが配慮する必要はねぇな。お前ら、やれ!」
男の合図で、傍のモンスター達が行動を開始した。
白い狼のモンスターが足を踏み鳴らすと、彼を中心に地面が氷結していく。
同時に、反対側の黄色い鳥型モンスターが上空に飛び、柴電を身にまとう。
「散開しろ!」
言葉とパスで指示を送り、両者の攻撃を避けさせる。
ロコ達には白狼を抑え込むように伝え、洞窟から助けたモンスター達には、鳥型の相手を頼む。
「──」
ロコが遠吠えをして、小さな衝撃波を放つ。
地面の氷にヒビが入り、白狼が後方に飛んで回避した。
そのまま着地するタイミングを狙い、黒影狼が脇から飛び込む。
白狼の身体に牙を突き立てようとするが、相手の全身から鋭い冷風が放たれたため、やむを得ずバックステップ。
追撃しようと待機していた他の黒影狼も、二の足を踏んだ様子だ。
「右から回り込め。上から雷撃が来るから、旋回して避けろ。そのまま、突っ込め。よし、いいぞ!」
素早くロコ達の状況を把握した俺は、空にいる仲間の援護をしていく。
どうやら、あの鳥型モンスターは男の指示を受けてからでなければ、雷撃を撃てないらしい。自我を希薄にされた影響だろう。
それに、男の指示が甘い。
一方通行というか、突撃思考の攻撃しかしてこないのだ。
だから、男が命令する瞬間を窺い、それをモンスターに伝えてやるのだ。
ただ、今回は仮契約を結ぶ暇もなかったため、パスを通じての援護はできない。
今のところはなんとかなっているが、このまま上手くいくと考えない方がいいだろう。
《──》
「よし、でかした」
ロコから来た念話を耳にした俺は、雷撃を上に逃げて躱すよう言ってから、彼女がいる方に目を向けた。
地面が凍っている範囲が広がっており、ロコ達も先ほどより離れた場所にいる。
「くそっ! なんでオレの攻撃が当たらねえ!」
男は鳥型モンスターに指示するのに夢中で、こちらの状況に気づいていない。
……仕掛けるなら、今がチャンスか。
俺が動けば、当然男に見つかってしまうだろう。
指示を出すモンスターテイマーを狙うのは、テイマー同士の戦闘ではセオリーのため、当然警戒をしているはすだ。
現に、常に俺の姿が視界に入るように、位置取りを揃えている。
しかし、俺以外にも仲間がいるという事を、わかっているのだろうか。
洞窟から共に出た、残りのモンスターの存在を。
「くそが! ……こうなったら、てめえから殺してやる!」
そんな事を考えていると、男の方がこちらに顔を向けた。
俺と同じように、彼も打開策を考えていたらしい。
だが、男が行動に移すのは、少し遅かった。
「いけ!」
「なにを──っ!」
こちらに飛び込もうとしていた男が、後ろを振り向く。
同時に、気配を消して回り込んでいた、不定形なモンスター──スライムが強襲。
ジェル状の身体が全身に絡みつき、男を締め上げていく。
男は逃れようともがいているが、スライムは衝撃に強い種族だ。
ろくに動けもしない状態で逃れる術は、ない。
「今のうちに。そいつは上が弱点だ、そこを狙え!」
男の指示を受けられず、空中で固まっていた鳥型モンスター。
戦闘中観察してわかった結果、あのモンスターは上空を取られるのを極端に避けていた。
恐らく、背中に弱点があるのだろう。
俺の指示を聞いたモンスターは、その赤い身体で閃光を描き、鋭角に鳥型モンスターを狙う。
流石ここまでくれば相手も動くが、自我がほとんどない状態の行動など、簡単に対処できる。
紫電を迸らせた敵の攻撃を回避して、背中に組み付いて火炎放射。
空中で炎が吹き上がり、黄鳥は煙をまといながら墜落。
その身体を脚で掴み取ると、俺の前までやってきた赤鳥が勝利の鳴き声を一つ。
「よしよし、よくやったな!」
思わず抱え込んでとさかを撫で回しながら、ロコ達の方に意識を向けるが、どうやらそちらも戦闘が終わったようだ。
氷の上に倒れ込む白狼と、それを囲んで雄叫びを上げている黒影狼達。
そして、済ました顔で鎮座しているロコ。
あとで、ロコ達も思う存分褒めよう。
微かに尻尾が揺れて、彼女も期待しているみたいだし。
「さて、情報収集の時間だな」
スライムに捕らわれて、痙攣している男を一瞥した俺は、彼の方へと近づくのだった。




