ゼリリン、魔剣を購入する
人族の少年、リグをパーティに迎えることになったのはいいが、いくら成長率が高くてもなんの装備もないんじゃ足手まといだ。
英雄スキルの効果も含め、とりあえず早急に装備を整えてやらねばなるまい。
ちなみに英雄の血の効果はこんな感じ。
【英雄の血】
スキル効果:
本人の才能にあわせて成長率が大幅に上昇する。
また、訓練を積まなくても武器の扱い方がなんとなく理解できる。
ということらしい。
俺がリグ用に装備を整えようとしているのも、このスキルがあるからだ。
スキルのおかげで筋力だけならゼリリンと同じ成長率をしているので、肉弾戦においてはかなりのポテンシャルを持っていると言えるだろう。
「僕とパーティを組む以上、ある程度は指示に従ってもらうことになるけど、それでもいい?」
「もちろんです若! どこまでもついていきますっ」
ふむ……
ま、なんにせよすべては明日からだね。
とりあえず明日は鍛冶屋に寄って、装備が整ったらギルドだ。
それと一緒についてきた残りの3人だが、俺が宿泊する数日間を過ぎてしまえば、また元のスラム住民に戻ってしまう。
ここまで来て出ていけというのもなんなので、居場所を作ってあげることにした。
俺がクローム神聖国に居る間は孤児院で宿泊することにして、滞在する期間に合わせて食材を提供すればいいのだ。
そうすれば俺も宿には困らないし、孤児院の経営も潤い子供たちにも居場所ができる。
win-winな関係なのである。
それに、この少年だけギルド登録じゃ不公平だからね、俺は平等なゼリリンなのだ。
◇
……翌日。
朝食を食べた俺は、リグ少年を引き連れ鍛冶屋の店前まで来ていた。
うむ、まずは装備を整えるとしよう。
「若っ! お、俺は武器なんて使ったことなくて、どれを選んでいいか……」
「いや、そんなおどおどしなくても、リグの好きな装備を選べばいいよ。剣を握ってみれば感覚がわかってくるはずだし」
リグのオリジンスキルである、英雄の血の効果があれば俺が選ぶよりも正確だろう。
適当に選んでもそれなりに良い武器を引き当てるはずだ。
さて、こっちはこっちで防具を調達しないとな……
基本的に5歳児が装備できる防具など無いので、店主のおっちゃんに聞いてみるとしよう。
「おっちゃん。ある程度の防具が欲しいんだけど、僕のサイズに合うやつってオーダーメイドできる?」
「あぁ? オメェが着る防具だァ? ……ふむ、その身なりからして教会のぼんぼんってところか。それにその身のこなし、オメェただのガキじゃねぇな?」
そう答えるのはスキンヘッドが輝く鍛冶屋の店主。
身なりこそ職人のそれだが、顔についた傷や体の大きさ、頭の輝きや入れ墨を考えるとどうみても鍛冶屋の店主には見えない。
世紀末覇者的な何かを感じる出で立ちだ。
「そこはまぁ、企業秘密って奴だよ。僕は教会の関係者だけど、冒険者でもあるんだ」
「ハッ、言うじゃねぇか。確かに冒険者に秘密を明かせってのは野暮ってもんだ。強い奴ほど、他人には無い力を隠し持ってるもんだからな」
「そうそう、野暮ってもんだよ」
なにせ冒険者だからね、秘密の一つや二つはある。
俺の場合は2桁くらいありそうだけどね。
「まあ、そういう事ならちょっと待ってろ。しばらくしたら戻ってくる」
俺をじっと見ていた世紀末覇者さんは何かを悟ったのか、店の奥に引っ込んでいった
ふむ、戻ってくるまでに時間がかかると言う事だし、リグの様子でも見ておこう。
そして世紀末覇者さんから目を離しリグの方へと視線を向けると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
「ふっ! はっ! 飛剣連斬!」
「……はぁっ!?」
さきほどまで剣選びにもたついていた少年が、二刀流で縦横無尽に振り回していたのである。
それになんだ飛剣連斬って、この短期間でいったいどこの流派を収めたというんだ。
さすがオリジンスキルだ、なにもかもが規格外すぎる。
飛剣連斬と叫んで振り回した剣からは謎の空気圧が発生し、遠距離攻撃となって地面を抉っていた。
おそらく魔力の刃を飛ばしたのだろうと推測する。
「あ、若っ! 若の言われた通りに剣を握ってみたら、剣の使い方がなんとなく分かるようになりました!」
「いやそれ、なんとなくとかいう次元じゃないから……」
なんとなくでそんな動きされたら、他の冒険者の立場がないよ。
まだ魔力による身体強化が無いからスピードは遅いが、技のキレだけなら俺よりも上だ。
腐っても英雄スキルということなんだろう。
それにしてもこの才能、量産品の剣では宝の持ち腐れだな。
DPも大量に入手してあることだし、ダンジョン産の魔剣とかを直接渡してもいいかもしれない。
うん、そうしよう。
「リグ、やっぱり剣は俺が選ぶよ。代金は渡しておくから、先に鎧の方を見ていてくれない? それとちょっと用事が出来たから、一旦店の外に出るよ。おじさんが帰ってきたら、すぐ戻るって伝えといて」
「わかりました若っ!」
そうしてそそくさと人気のいない場所で収納をし、亜空間迷宮で攻略本さんとにらめっこすることになった。
DPを確認してみると、500ポイント前後で購入出来るレベルの魔剣はいろいろとあり、一本一本かなり極端な物のようだ。
まあ魔剣だしね、そういうこともあるだろう。
そして、俺がリストアップした剣がこれ。
【吸血剣レリア、DP:600】
└切った対象の体力・魔力を少しだけ奪う。
【連双剣キラ、DP500】
└剣を振る回数分だけ、その戦闘中において攻撃力があがる。しばらく何もしてないと効果は切れる。
【スナッチソード、DP:700】
└素材の剥ぎ取りがうまくでき、レアな素材が入手しやすくなる。すべてはあなたの運次第。
【軽剣トベルーワ、DP:400】
└とても軽い剣。魔力を込めるとさらに軽くなる。
揃いもそろってキワモノばかりだ。
っていうかトベルーワなんてただ軽くなるだけだ、400ポイントもする意味が分からない。
だが、なんか面白そうだったので俺用に一本キープしておいた。
ちなみに、リグ用の剣は連双剣キラだ。
リグは魔力が低い代わりに身体能力が高く、技術で攻めていくようなスタイルなのだろう。
故に、攻撃回数がそのまま力となる双剣がベストだと踏んだのだ。
「よし、こんなもんでいいだろう。じゃ、さっそく教会のコアに転移だ」
それから教会のコアに転移し、猛ダッシュで鍛冶屋へと戻っていった。
俺が本気で走れば5分ほどで辿りつくはずなので、そこまでの時間ロスではない。
……これが全力のゼリリンダッシュだ!
「ただいまおじさん、ちょっとトイレいってた」
「おう、オメェに頼まれた子供用の鎧は準備できてるから、ちょっと待ってろ。今は嬢ちゃんの寸法を測ってるんだ」
……ん?
嬢ちゃん?
なんの話だ。
「あぁっ! 若、俺の鎧がみつかりましたよっ! おじさんがオーダーメイドで作ってくれるそうなんですっ!」
……そこには女性用の服に着替えた、少女リグがいた。
「えっ、お前女だったん……」
なんてこった。




