ゼリリン、英雄を発見する
孤児院に辿り着くと、中から20代前半くらいのお姉さんが出てきた。
「あら、こんな夜に大勢でどうしたのかしら…… 何か用ですか?」
お姉さんは俺たちを見て訝しんでいたが、俺が教会の関係者だと分かると少し安心したようだ。
まあ普通、少年少女が孤児院に寄る理由なんて、物乞いとかしかないだろうしね。
ただでさえ経営難であろう孤児院に俺を含めて5名の来訪だ、そりゃあ訝しんだりもするだろう。
「僕たちは宿を借りようと思っていたのですが、この時間帯では空いている宿が無かったので部屋を借りに来ました。お礼はするので、何日か宿泊させてもらえないでしょうか?」
僕たちって言ったのは、俺の後ろに並んでいる4人も一緒に泊めるためだ。
ここまで一緒に来たんだし、俺だけ泊めろとはさすがに言わない。
「あら…… でも御免なさいね、うちの孤児院は経済的にもう余裕がないのよ。申し訳ないけど、泊めてあげることはできないわ」
「いえ、それは分かってます。なのでお礼を持ってきたんですよ。よいしょっと……」
そういって亜空間から荷台と食料を取り出す。
ここまで来る間にちょっと消費したが、まだまだ大量に残っているんだよね。
この量なら俺たちを数日間泊めてもおつりが来るだろう。
「えっ!? な、な、な……っ!」
「あぁ、今何もない所から取り出したのは秘密にしておいてください。教会の新技術なんです。この食材も教会からの援助なので、みんなで一緒にたべましょう」
すべて教会のせいにした。
「きょ、教会が私たちに援助を!? そんな、こんな事はいままで一度も…… うぅ……ありがとう、坊や」
お姉さんが涙目になってしまった。
ふむ、さすがに量が多すぎたか。
「さすがにこの量は多すぎましたか? まあ、食べきれなかった分は炊き出しにでも使ってください」
「いいえ、そういう事ではないのよ。でもそうね、こんな奇跡を私たちだけで独占してはバチが当たるわ。食べきれない分は炊き出しに使わせてもらうわね」
うむ、みんなで仲良く食べるのは良い事だ。
「さぁ、もうあなたたちを泊める余裕は十分にできたし、中へいらっしゃい。ちょうど夕飯の時間だったのよ」
「若、もしかして俺たちも泊まれるんですか!?」
「あたちもとまれるの?」
「え? そうだよ」
別に居ても問題ないし、いまさら帰れとかは無い。
「うぉぉおっ! 奇跡だっ! 奇跡が起きたっ! 若、一生ついていきます!」
「やったっ! おうちだーっ!」
にぎやかなようで何より。
さて、夕飯を食べたらわんわんの治療でもしよう。
◇
孤児院のみんなで夕飯をたべたあと、トイレに行くと言いつつ裏庭にやってきた。
もう夜だからわんわんは見えづらいだろうし、冒険者でない人がみても大きなブラックウルフ程度にしか見えないだろう。
そこまでの騒ぎにはならないはずだ。
「でてこいわんわん」
「グォン!」
「さて、やっとお前を癒してやれるな……」
俺は亜空間から低級ポーションを3本ほど取り出し、わんわんに振りかけていく。
ポーションの効果は以下の通り。
高級ポーション(体力):部位欠損レベルの傷を癒す。死んでいなければ、動けるくらいには回復する。
中級ポーション(体力):部位欠損レベルは無理。だいたいのダメージは回復する。回復量は高級の半分くらい。
低級ポーション(体力):傷が回復するが、治癒速度はかなり遅め。回復量は中級の3分の1くらい。
ちなみに、どのポーションも病気や毒なんかに効果がある。
それぞれ、高級が金貨3~5枚、中級が金貨2枚、低級が銀貨5枚くらいだ。
低級ポーションでも風邪くらいなら治せるらしい。
「よし、これで完全回復だな」
「クゥウン……」
「謝らなくていいって。今回の事は迷宮を放置した俺のミスだし、コアのことは気にするな」
わんわんが申し訳なさそうにしていたので慰めておいた。
実際1ヶ月も放置した俺の責任であることは間違いないからね、なにせダンジョンの責任者は自分自身なのだ。
そうしてしばらくわんわんと戯れていると、後ろから声がかかった。
どうやら少年その1に見つかったようだ。
「わ、若! そ、その魔物はっ……」
「ああ、この狼は僕の召喚獣だよ。ブラックウルフのわんわんっていうんだ」
「召喚獣……」
俺がそう言うと、ビビっていた少年が落ち着きを取り戻した。
まあ見た目は怖いからね、ビビるのも仕方ない。
「はっ!? ということは、若は召喚士なのですかっ!?」
「召喚士だし、冒険者だよ? 明日もギルドの依頼を受けるつもりなんだ」
「…………」
まあ鍛冶屋が先だけどね。
ギルドの依頼も魔族討伐のついでに、薬草採取とかの依頼を受けるだけだし。
すると、しばらく黙り込んでいた少年が意を決したように土下座をしてきた。
この世界にも土下座ってあったんだ……
「お、お願いします。俺も、俺も冒険者にさせてくれっ! もうスリやゴミ漁りで食いつないでいくなんて嫌なんだっ! 冒険者になって、まともに生きていきたいっ!」
「ほむ……」
なるほど、子供がスラムで生きていけるわけがないと思ったが、やっぱりゴミ漁りとかで食っていってたわけか。
確かに冒険者になれば、荷物運びや薬草採取とかの依頼でまともに生きていくことが可能だ。
ギルドカードさえあれば公共施設も使用できるし、ランクを上げればもっと稼げるようになる。
理にかなった言い分だな。
ちなみにだが、スラムの人たちにとって、その冒険者になるというのがそもそもネックになる。
冒険者になるだけなら登録料を払えば誰にだってなれるのだが、その登録料をどうやって稼ぐんだっていう話になるんだよね。
稼ぐ手段のないスラムの住民にとっては、犯罪に手を染めてギルドカードをもらうしか方法がないのだ。
うーん……
どうしようかな。
孤児院まで一緒に来た仲だし、別にこの少年の代わりにギルドカードを発行させる事は何ともないんだが、問題は少年に冒険者としての才能があるかどうかだ。
弱かったらゴブリンの餌になるだけだからね。
よし、ちょっと揺さぶってみよう。
「君が冒険者になるのはいいけど、僕にメリットがないよ」
「お、俺が強くなって、若の力になりますっ! 絶対に強くなってみせます!」
なるほど、確かにここで恩を売った奴が強くなれば、俺にもメリットがあるか。
いろいろ穴だらけの理屈だけど、10歳児にこれ以上を求めるのも酷だ。
公爵家の令嬢ですら出世払いなんだ、少年が同じ結論でもおかしくはないな……
「まあ、いいかな」
「……っ! それじゃあ」
「うん、僕が代わりに登録料を払ってあげるよ。ただ、一つ条件がある」
「条件……?」
そう、条件だ。
実はこの会話中、気になって攻略本さんで少年を鑑定してみたんだよね。
そしたら、予想外の結果が得られた。
【人族:リグ】
成長標準:
生命力:B/魔力:D/筋力:B/敏捷:C/対魔力:C
オリジンスキル:英雄の血
……成長率が、人族の標準を大きく超えてたのである。
なにせ人族の標準はオールDだからね、さすが英雄。
「それは、君が僕とパーティを組むことだ」
「……っ!」
英雄ゲットだぜ。




