ゼリリン、薬草で無双する
軍資金を手に入れた俺は、パチュルが居ると思われる公爵家の屋敷に向かっていた。
特にこれといった用事がある訳ではないのだけど、せっかくこっちに来たんだし久しぶりに会いたくなっただけである。
ちなみに屋敷の場所は知らない、きっと大きめの建物だと思うしまあなんとかなるだろう。
ゼリリンは気分屋なのである。
それともう一つ、屋敷に行く途中ちらちらと町の様子を窺っていたが、相変わらずこの町は賑わっているようだ。
2年前の闘技大会の時もそうだったけど、ただ公爵家の領地というだけでは片付かないほどには活気がある。
おそらく、パチュルパパの絶妙にバランスのとれた経営手腕によるものだろう。
領民が幸せに暮らせる土地というのはいいものだと思う。
もしかしたらあのお祭り闘技大会の時期も、もうそろそろなのかもしれない。
そして気の向くまま、右へ行ったり左へいったりしていると、ウェスタンドアのついた3階建ての大きな建物にたどり着いた。
公爵家の屋敷を目指していたが、なぜか冒険者ギルドに到着してしまったようだ。
だが着いてしまったものはしかたない、とりあえず中に入って社会見学でもしてみるかな。
時間もあるし、なにも急ぐこともないだろう。
「おじゃましまーす」
こう、冒険者の方のお仕事の邪魔にならないようにススッと入ろう。
ススッと…
「なんでよ!ちゃんとポーション用の薬草を持ってきたじゃないっこんなのおかしいわっ」
ギルドへ入ってみると、目の前には8歳くらい幼女が受付の人に猛抗議をしていた。
可愛らしいドリルヘアーをぴょんぴょんさせながら、カウンターにしがみついている。
というか…
あれ、これなんかデジャヴ…
「おかしいと言われましても、これは薬草によく似た毒草なのです。依頼書には薬草10本と書いておりますので、依頼はまだ達成にはなりません…」
「毒草!?」
ドリルヘアーの女の子…
いや、ちょっとだけ成長したパチュルが、ガーン!みたいな顔をして驚いている。
相変わらず表情豊かなやつよの。
「あはは、パチュルが依頼失敗してる~」
「失敗じゃないわよっまだ未達成なだけだわっ!この私を侮辱するなんてどこのどい…つ…って、セリルっ!」
「やぁ、通りすがりのゼリリンだよ」
ふむ、どうやら依頼はまだ未達成なだけという扱いらしい。
おそらく無期限の依頼とかそういうのなんだろう。
それにしても本当に冒険者になっていたとは驚きだ。
胸の前には銅で出来たプレートが掛けられているし、おそらく初級のギルドカードか何かなのだろうと推測する。
「ちょっと、あんた2年もどこに行ってたのよ!すっごい探したんだからっ」
「うわっ!あぶなっ」
お転婆幼女が俺を視認するやいなや、いつにもまして磨きのかかった飛び蹴りが飛んできた。
2年の間に飛び蹴りの技術も向上していたらしい、動きに無駄がない…
こやつ、やりおるな。
「なんでよけるの!?」
「当たったら痛そうだからだよ…」
とても当たりたくない。
「まあ何でもいいわっ!あんたが来たからには依頼なんて楽勝よ。ほら、さっさと薬草を取りに行くわよ」
「おろ…?」
なぜか俺もいっしょに依頼をこなすことになった。
今も首根っこをつかまれて引きずられていってる。
8歳児とはいえ、幼女が人の体をつかんで引きずるとはなかなかの身体能力だな。
おそらくこの2年の間に身体強化系の魔法なんかも習得したのだろう、でなければありえないパワーだ。
だが、依頼をこなすことそのものに関して異議はない。
どうせ遊びに来ただけだし、手伝うのも一興だと思う。
それからしばらくして、いつもの門番さんを素通りして森へとやってきた。
門番さんは俺がパチュルに引きずられているのを見て驚愕していたので、手を振ってあげた。
きっと安心してくれたに違いない。
「さあ、森についたわ。さっそく薬草を探すわよ!」
「おーっ」
ちなみに薬草の見分け方は簡単だ。
攻略本を召喚して、鑑定するだけ。
ここに来る途中にもマップを展開して、薬草の場所を絞り込んでいたりする。
マップには俺たちを尾行している人間の反応も一緒に映っていたが、このお転婆お嬢様を警護する目的でやとわれている公爵家の方々だと思う。
仕事とはいえ、彼らも大変だな。
とりあえずこのお転婆お嬢様のためにも、サクっと薬草を集めちゃいますかね。
「薬草の場所は僕が知ってるから、パチュルは魔物が来ないか警戒をお願い」
「まかせなさい、これでも私は魔法が使えるんだからっ!ゴブリンなんて一撃よ」
そう言うやいなや、パチュルがジャブを繰り出してウォーミングアップを始めた。
うむ、華麗なステップだ。
だけどそれ、魔法じゃなくて物理じゃない?
警護の方々が近くで見張っていてくれているとはいえ、何かあったら寝覚めが悪いから俺も武装だけはしておこう。
いでよ、報酬のクロスボウっ!
◇
採取開始から1時間、マップを頼りに薬草を乱獲していると、手元に100を超える数の葉っぱが集まっていた。
すべて鑑定済みの本物の薬草なので、おそらく10回分の依頼達成とみなされるだろう…
少々やりすぎてしまった感が否めない。
採取袋もパンパンに膨れ上がっている。
「さすがねセリル、やっぱあんたは普通じゃないわ!」
「そうだね、ゴブリンを素手で殴り倒す幼女も普通じゃないけど」
そしてこの幼女、パチュルは俺が薬草を採取している間に「魔物の匂いがする!」とかいって飛び出していってはゴブリンを仕留めてもどってくるのである。
ゴブリンには焼け焦げた跡があるので、格闘技術と合わせてなんらかの魔法を使ったのだと思われるが、相手は魔物。
この世界の一般男性と互角くらいの戦闘力を持っているというのに、それを瞬殺とはいったい何がどうなっているんだ。
魔法ってコワイ。
いや、パチュルコワイ。
まあ、依頼そのものは成果を出したんだし今日はこれでいいか。
さっそく町に戻って査定してもらうとしよう。
そしてついでに、俺のギルドカードも作っておいてしまおう。




