4話 不可説不可説転と俺と監視室
ぐるぐるぐるぐるグルコサミン♪
空気がとっても重コサミン♪(?)
自分明るくなる作品を書くことが多いんだけどなぁ…(ネットに公開してないだけで)
シューッ…コーッ…
シューッ…コーッ…
「“テツヤ、ホントにアレで…安全なの?”」
「しばらくは、ね。今の所はあの能力…『不可説不可説転』を研究しないと。私たちの時みたいに」
絹道鉄弥とカーラ・ヴァドロワはそう言いながら監視室に備え付けられた小窓から空知有太を見る。何本ものチューブに繋がれた有太は、部屋の中央で全身を厳重な装甲で覆われ、身動き一つ取れない状態にされた上で麻酔を打たれていた。モニターからは室内に響く有太の呼吸音のみが流れていた。
「今どんな感じだ…?」
「焔斗」
遅れて衣笠焔斗が監視室の前に姿を現す。
「昔の俺より酷いな…。この拘束は…流石に…」
「まあ、双方の安全のためだよ」
焔斗は傷まみれの拳を握りしめた。それを見てカーラが声をかける。
「“まだ気に負ってるの…?”」
「負うだろ。俺があそこで奴らを牽制できていれば…」
『…こちらストライク部隊、予想外の事態が…』
ガオンッ!
一瞬の出来事だった。有太はなんの迷いも躊躇いもなく、ヘブンの兵士に右手を振りかざした。ヘブンの兵士は痛みに呻き声を上げることしかできない。その腕は、綺麗になくなっていた。焼いた七面鳥から足をちぎるようにではなく、かといってソーセージのようにねじ切られているわけでもなく、生肉を包丁でスパッと切り落としたかのように綺麗な断面だった。
『ストライク部隊より撤退要請!隊員一名が両腕欠損、至急ポータブルバンカーを!』
ヘブンの敵兵はすぐさま撤退していった。
ドゴォォォン!!!
『ポータブルバンカー』…こちらで言う『ドリル』が岩盤を突き破って出てくる。
ブワン…
医療班らしき人員が能力か何かを使って負傷した兵士を浮き上がらせ、すぐさま『ドリル』の中へ運んでいった。全員が乗ったところで、彼らはすぐさま地下に潜っていく。こちら側の世界の住人は、そのすべてを見届けることしかできなかった。ただ1人を除いて…。
「有太…?空知有太!聞こえるか!?」
有太は気絶していた。真っ先に駆け寄ったのは焔斗だった。しかし、すぐさま鉄弥が引き止める。
「焔斗!今の空知くんは非常に危険な状態だと思う。だから、不用意に覚醒させるのはマズい!」
カーラも続ける。
「“そうよエント。さっきの動き、明らかに普通じゃなかった…少なくとも、少し前まで学生だった人間の動きじゃ無い…相手を確実に無力化するための、最小限の動きだったもの”」
焔斗の顔には、苦悶の表情が浮かんでいた。カーラはその心情を察して声をかける。
「“あなたは悪くないわ。悪いのは、このタイミングで攻めてきたアイツらよ。あなたも、ユウタも、悪くない”」
「うーん…」
しばらく長い夢を見ていたような気がした。まだ重い目を擦って眠気を覚まそうとする。
「…ん?」
俺は自分の体に起こっている異変に気づいた。全身にガチガチの拘束を施されている。手のひらだけが、その拘束から自由になっていた。首の辺りも妙に痛い。首も拘束具で固定されているので、目を動かして見てみると何やらチューブが垂れ下がっている。なんらかの薬品を注入していたらしい。
「危険人物扱い…かな…」
何が起こったかあまり覚えていない。絹道さんが「一旦退こう」といってくれたところまでは覚えている。それ以降の記憶に、もやがかかったような、そんな感覚だった。こうやって拘束されて、記憶もなくしているところから、きっと何らかのとんでもない事態を引き起こしたことは容易に想像できた。それと同時に、こんな危険な能力を自分が使いこなせるようには思えなかった。自分自身に失望しながらふと周囲を見回すと、赤い光が差し込んできていた。自分の正面にある小窓からは、燃えるような真紅の混じった黒髪が見え隠れしていた。
ギギギギィーーーッ
重厚な扉が錆びついたような音を立てて開かれた。やはり外にいたのは衣笠さんだった。その後ろにはヴァドロワさん、そのまた後ろには武装した職員らしき人物が数名いた。盤石の布陣だ。
「空知くん…」
「…俺、何しちゃったんでしょうか…」
「“エントは感情的になっちゃうから、私から説明するわ…”」
つらりつらりとヴァドロワさんは話し始めた。絹道さんと話していた自分が急に人が変わったようになったこと。自分がヘブンの兵士1人に重傷を与えたこと。それを見てヘブンは一時撤退を選んだこと。その後すぐに自分は気絶したこと。そして能力の研究と本人の安全のため、この『監視室』に運び込まれたこと…。話している間、衣笠さんは唇を噛み切らんほどに噛み締めていた。
「“その…これが、全てよ…”」
「そう…ですか…」
「“こういうこと聞くのもなんだと思うんだけど…気分は、どう…?”」
「まぁ、良くはないですよ…」
しばらくの沈黙が流れた。その沈黙を破ったのはパタパタというスリッパを履きながら走ってくる音だった。誰かの予想はつくが…
「ぢょっどいい…?ふぅーっ…」
やはり絹道さんだった。
「あぁ、空知くん。お目覚め?」
「絹道…お前空気を…」
「そりゃそうだけど、暗いだけじゃダメだって!」
絹道さんはそう言って衣笠さんを軽くあしらう。しかし、俺には絹道さんが無理に笑顔を作っているように見えた。自分が今までも、何度もそういうことをしてきたから。
「絹道さん…こんな状態の俺がいうのもなんですが…無茶は…」
「してない!空知くんは気遣わなくていいから!ってそれより!新しい能力者が来たよ!」
絹道さんが話の腰をパイルバンカーかの如き衝撃と強引さでへし折った。
「ちょっとフレッド、空知くんの拘束を外して」
「“え?絹道博士、何を…”」
「いいから!」
そう言いながら職員は俺の元に群がってきた。拘束具がどんどんと外されていく。
ゴトン…
「かっ…体が…軽い…!」
(その気持ち、わかるぞ…)というように衣笠さんが大きく頷く。
「第37会議室に“座って”もらってるから」
そう言いながら絹道さんはツカツカと会議室へ向かっていく。しばらく拘束されて薬剤も投与されていたからか、疲れも吹っ飛び前よりも動きの良くなった体を動かしていく。
「彼が、新たな能力者。名前はテリー・ラッシュ。元米軍第82空挺師団所属。空知くんからすると、シャイン所属って面で見ると同期ってことになるね」
肝心な本人…テリーは気絶している。
「それでね、肝心なのうりょ…」
バタン…
「えっ?!」
肝心な本人…絹道さんも気絶した。
「貧血だ」
衣笠さんは絹道さんを担ぎながら言った。ヴァドロワさんも特に驚いていないので、日常茶飯事なのだろう。
「俺はコイツを…重っ…最寄りのどっかの医務室に連れていくから…」
「“起きたら、私とユウタで対応すればいいのね”」
「そういうことだ。頼ん…」
シュバッ、シュバウ!
「うわっ!」
「“何…?!”」
「前が…見えん…!」
ドサッ!
「いったたた…」
何かが落ちる音が聞こえたが、何も見えない。声もしたことからおそらく衣笠さんが絹道さんを落としてしまったのだろう。しばらくすると、再び視界がクリアになってきた。しかし…
「あれ…テ、テリーくんが…消えてる…」
ガーッ!ガーッ!ガーッ!
「緊急事態発生、緊急事態発生。特殊能力所持者が施設内を逃走中。No.017、テレンス・F・ラッシュ。能力名
『flash,right?』。行動可能な職員は、直ちに鎮静化を図れ」
新能力者、テリー登場!初手で逃げるとは…どんな人物なのか?
次回第五話『同期と俺と逃走劇』、お楽しみにー




