2話 炎使いと俺と“ヘブン”
2話です。皆さんはどんな特殊能力が欲しいですか?僕は『無限の胃袋』とかがシンプルに欲しくなってしまいますw
作品にあまり関係ない話もここでできたらと思います。
1957年、ヒュー・エベレットが『多世界解釈』を提唱し、物理学における『並行世界』の可能性が議論され始めた。そこから現在、今までの議論を根底から覆す…というより、終止符を打つ出来事が起こった。
『こちらはEarth08271。我々はそちら側とは違う歴史を歩んだ世界である』
国際連合の職員のコンピュータに突如として現れたこのメッセージは当初物議を醸し、最終的に当該職員が懲戒処分を受ける形で集結した…と思われていた。
連日、謎の勢力による無差別テロが起こり、世界各国に多くの被害が発生。その規模は、とても数人規模で、突発的に起こしたとは思えない惨状だった。
そしてその数日後、またもやコンピュータにメッセージが届く。
『今回の件は、こちらの世界基準の歩兵数名を派遣した、宣戦布告である。そちらの世界が降伏し、こちらの世界での労働力として従事し、生活圏を明け渡すのであればこれ以上のことはしない。また、もし抵抗をとっても、おそらくそちら側は我々に対抗する手段もなく、ただただ蹂躙されるのみだろう。そこで、我々に考えがある。その考えは数日後に明かされる。たとえばそう…3日後に』
その連絡からちょうど72時間が経ってから、衝撃のニュースが世界を驚愕させる。
『手のひらから炎が出た』
『水が延々と手から出る』
『手で触れたところに木が生える』
この三件が世間を騒がせ、その噂は国連にまで伝わった。
「で、その3人が国連本部に招集された後にも、そういった能力を持つ人間が多く確認され…」
「ち、ちょっと待ってください!」
あまりにも突拍子のない話についていけず、つい絹道さんの話を遮る。
「ちょっとー!私の授業を遮るんじゃないよ!ここからが大事なのに!」
「いや、その…急展開すぎて…。自分に超能力が目覚めるとか…いきなり国家組織に入るとか…」
「そうだよ国家組織だよ!」
何が『そうだよ』なのかはわからないが、絹道さんがまた上機嫌で話し出す。以前は先生でもやっていたのだろうか(しかも、授業時間を延長するタイプの)?この人の話は、たとえソクラテスが相手でも止まらないのだろう。
「そうその後に、いわゆるこちら側の世界を守るために、私たちみたいな『超能力者』が集められた。そして、君みたいに突然能力に目覚めた人も、ここに連れてきて訓練して、この世界を守るために…」
「ですから、そんないきなり『世界を救え』とか言われても…」
「だから!『S.H.I.N.E.』があるんだよ!『S.H.I.N.E.』っていう国際的な組織が!」
「でも…」
ゴウン!!!
突然、部屋の中に熱風が吹き込む。殺風景だった会議室のような真っ白な部屋に、赤い光が差す。
ゴゴゴゴゴウンパチパチッ!!!
「おいおい、絹道。お前にしちゃ随分と苦戦してるな?他の奴は案外簡単に納得させられたお前の話術が効かないか」
とても覇気のある、漢らしい声が聞こえてきた。勢いよく扉が開き(あとで見てみると、スライドドアのドアレールはそのまま粉砕されていた)、赤い光はより一層輝きを増し、熱気も強くなった。太陽よりも眩しい笑顔をした、筋骨隆々の男性だった。少し癖毛っぽい黒髪はところどころ赤く染まり、傷の残った腕はその人が『歴戦の猛者』であることを静かに物語っていた。
「焔斗!特別訓練室以外での元素系能力使用は原則禁止だって!」
「うるさいなぁ!別にこの部屋の耐久性は貧弱じゃないし、大丈夫だろ!」
「厳罰喰らっても知らないからね」
こちら目線としては、厳罰どころじゃなさそうな高熱と共に焔斗さんは入ってきた。まっすぐ俺の方に向かってくる。どんどんと熱くなる熱気と、本人の圧に押されて自分の体が小さくなっていく気がする。焔斗さんの手のひらには、真っ赤な炎が全てを燃やし尽くさんと燃え上がっていた。危険だと直感できる。だが、目はその熱く輝く火炎と、その繰り手に釘付けになっていた。
「君が、空知有太か」
「は、はいっ」
この人に話しかけられると、なぜか背筋がシャンとなる(機嫌を損ねたら燃やされるかもしれないというのもあるかもしれない)。決して怒っていないのはわかるが、その顔には笑顔以外の何かが隠れていた。
「物を消せるそうだな。初めてのタイプだ、君は。物を消す…俺たちは物を出すことしかできないからな」
「そうなん、ですか…」
「…俺は気になる!君の力が!来てくれ!」
新しい玩具をもらってはしゃぐ子供のように(これだと自分が玩具のように聞こえるが、あながち間違いではないのだろう)部屋を飛び出していく焔斗さんを見失わないように、俺は急いで部屋を出た。
「…火傷しないようにねーっ!」
絹道さんの面白半分、心配半分の声が無機質な白い廊下に響いた。
『特別訓練室』と呼ばれる部屋は、前の部屋と少し違った雰囲気を放っていた。ちょうど大きな体育館のような見た目だが、普通なら木材で構成されている床や壁が、真っ黒な物体で作られていた。
「外装はカーボンファイバー、中はタングステンやクロムで構成されている。並の暴れ方じゃぶっ壊れる心配はない」
ぶっ壊れるかもしれない想定で作られているという話だが、裏を返せば普通の体育館なら軽く壊せるという意味だ。そんな人間が実在する…しかも目の前にいるということに恐怖を覚える。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は衣笠焔斗。こちら側の世界で、3番目に…」
ゴゴゴウン!!
「特殊能力を発現させた男だ。能力の名は、『地獄の業火』。よろしくな」
「よ、よろしくお願いします…」
す
「さて…」
衣笠さんが挨拶を終え、不敵な笑みを浮かべた次の瞬間…
ゴウン!!
「うおっ!?」
「おいおいどうした!なぜ避ける?」
なぜかと言われれば、黒焦げになるからに決まっているが、避けるのが不思議でならないというふうに衣笠さんはどんどん火球を飛ばしてきた。
「お前の能力を見せてくれ!」
「僕への攻撃をやめてください!」
「能力ってのは、はじめのうちは無意識に出るんだ。それを引き出すためには…!」
ゴウン!!
「こうするしかないんだ!」
並行世界とか能力とか『S.H.I.N.E.』とか、正直まだピンときていない。消えたドアノブだって、本当に自分がやったのか実感がない。空をつかむ、という表現がピッタリなくらい、何かに触ったり、抵抗を感じたりといった感触がなかった。
「やはり手加減していては引き出せない…手荒になるが、許してくれよ…っ!」
ゴゴゴゴウン!!!
特大の火球が衣笠さんの手から放たれた。禍々しいほどの熱を帯びた炎はゆっくりと、しかし確実にこっちに近づいてくる。また右腕がズキズキと痛み出した。嫌でも気づく、この腕の痛みが起こった時に、『能力』が発動するらしい。目の前には避けきれない大きさの火球が迫っていた。
「ここで棒立ちで燃えカスになるより…カッコいい姿勢で燃えカスになってやる!!!」
思い返すと本当にダサく思うセリフと共に右手を突き出し、少し屈んでちょっとでも熱の影響を右側に分散させようと構える。凄まじい熱気に汗が吹き出るが、あまりの熱さにすぐ乾く。目を瞑って強烈な熱波から目を守る。炎が指先をなめる感覚がしてきた。しかし、手と炎の間に『何もない』空間ができたと思うと…
ガガガガガオン!!!
…熱気がうしろに過ぎ去っていくのを感じる。恐る恐る目を開けると、前には衝撃であんぐりと口を開けた衣笠さん、うしろには大きな穴…ちょうど屈んだ人間が1人入れそうな大きさの穴が空いた火球が過ぎ去っていた。火球は黒い壁に向かっていき、そのまま壁にぶつかって『ボシュウッ』という音と共に消えた。
「凄まじい…すごい能力だ…!すごいじゃないか空知くん!」
自分は身を守るのに必死で何かしたつもりもないのに、異常に褒めちぎられる。その後も色々褒められ、遅れてきた絹道さんも映像解析をして『不可解だがスゴい』といってくれた。
悪い気はしなかった。今まで誰にも知られない存在、いわゆる『モブ』だった俺にとって、夢のような体験だった。この力を自分のものにできれば、できないことなど無くなるんじゃないかとさえ思った。
『お母さん。オレ、大きくなったらみんなを助けるヒーローになるよ!』
『…そう。まぁ、頑張れば?』
『なれないと思ってるんでしょ…』
『お母さんは否定も肯定もしないわ』
『“マスクマン”だって、はじめはふつうの人だったけど、そのやさしい心があったから…』
『有太、早いうちにいろんな目線を見ておくのも悪くないわよ。先生とか、サラリーマンでも、他の人を助けることはできるわ』
『…そうじゃないんだ。そうじゃないんだよ…っ!』
いつも空想して憧れたスーパーヒーローに、自分もなれるんじゃないかと。悪党を倒し人々を救い、平和な世界をつくる。そんな憧れのヒーローに…
ドゴォォォン!!!
轟音と共に体育館全体が揺れた。今まで体験したどの地震よりも大きい揺れだった(俺以外の2人はみじろぎもしなかった)。絹道さんが口を開く。
「もしかすると、ヘブンかも!」
「なんだと?」
「ちょっと、『ヘブン』ってなんですか!」
また新しいワードが出てきて思わず質問する。
「絹道、俺は先に行くぞ。空知くんを頼む」
「わかった。いい?空知くん。今の爆発は『Earth08271国際軍』、つまり並行世界からの刺客による攻撃の余波。ホンモノはこんなもんじゃない」
「え…?」
「そこからの軍、そしてその世界そのものを私たちは、『神々の住まう地』って呼んでるの」
ついに次回、謎の並行世界『ヘブン』からの刺客との戦闘が始まります。まだ能力を制御しきれない有太は、果たして『実戦』でどうなってしまうのか?ご期待ください




