1話 消えたドアノブと俺と“S.H.I.N.E.”
まず、初めて投稿した私の作品をクリックしていただきありがとうございます。この物語のテーマは『孤独』と『仲間』、そして『価値』です。日常の中に非日常が現れた主人公。ここから始まるストーリーを、お楽しみいただければ幸いです。頻度も決して高くなく、長期にもなると思いますが、どうぞ、よろしくお願いします。
ワタル
カラスの声で目が覚めた。大学の図書館は紅く染まり、大半の学生がはけていた。目をこすりながら、相変わらず本に優しくない設計だなぁと思いつつゲートの方に向かう。
「うげっ!」
ゲートのドアが開き切る前に歩き出したからか、そもそもカードをタッチし忘れたのか、ゲートのドアが腹に思いっきり当たった。
「…運悪いなぁ、もう」
昔から独り言はよく出てしまうタイプだった。それ以外にも漫画やアニメの世界に入り込んだ妄想をしたり、風呂場で主人公とライバルによる厨二病全開の受け答えを1人でしたり、いちいちイタいやつだった。
1人で妄想して、それを自分の世界だけで楽しむ。それはそれで楽しかったし今でも楽しいが、やはりそれを共有できる友人というものの作り方は、とうの昔に忘れてしまった。
「今日帰ったらどうしよっかなー…飯食って風呂入って…ゲームする気にもなれないしなー…」
なんとなく、活気のない人生。このまま大学を卒業しても、社会で生きていく実感が湧かない。というか、今も“なんとなく”で生きているやつが、この先何かを残したり、誰かの幸せのために動ける気がしなかった。
「えーっと…部屋どこだっけ?」
階段を登り、スマホをいじりながらすこし筋肉痛か何かで痛む腕を伸ばしてドアノブに手をやる。
…ガオン!!
「…あれ…?」
いつもあるはずの位置に、ドアノブがなかった。それに手元からおかしな音も聞こえた気がする。不思議に思いながら、スマホから目を離してドアを見る。
「…はぁ?!な、ない…ドアノブが…ないぃぃぃぃ?!」
「ほんとだねぇ…ない。ノブが消えてる」
少ししわがれた声で、おばあちゃん大家さんはすでに曲がってちょうどドアノブの位置にある頭をこちらに向けて言った。やはりドアノブは綺麗さっぱり消えていた。疲れすぎて目がおかしくなったわけではないことがわかりほっとしたが、今度は部屋に入れなくなるという事態に陥った。
「どうしようかねぇこれ…事件性アリって、警察の方にも来てもらう?」
「あ、どちらでも…」
「じゃあ、一応呼んどくわね」
そのあとはこれ以上考えても仕方ないと思ったのか、大家さんによる世間話が始まった。この後どうなるかを考えながら大家さんの雑談に的等に相槌をうって待つ。しばらくののちに夕陽をバックにしてパトカーが家の前に停まった。自分より少し年上っぽい警官さんがピカピカの車体から出てきた時は、スーパーカーから降車して助けに来てくれるスーパーヒーローに見えた。
「空知有太さんですかー?」
下の方から名前を呼ばれ、俺は返事を返す。
「はーい、そうですー!上まで上がっていただけますかー?!」
「すぐに向かいまーす!」
少し爽やかな印象を受ける声色で、彼に対する俺の印象はほとんど最高潮に達していた。階段を登ってくる輝かしい制服に身を包んだナイスガイは次の瞬間、大口を開けていた。好感度に少しヒビが入る。
「な…なんですかこれ…?え、ここだけピンポイントで無いっていうことですか…?!工具か何かで取り外したとしても、断面がこんな綺麗になることって…」
「そうなんですよ…どうなってるんですかね」
「と、とりあえず状況整理しましょうか…」
そこから、吹き曝しの日が沈みかけた屋外で事情聴取が始まった。どこで何をしていたか、何時間ほど家を空けていたか、頻繁にくる人物の質問をされた時食い気味に「いません」と答えて驚かれはしたものの、特に問題もなく聴取は進んだ。逆に問題はドアノブだけが忽然と姿を消したこと、そして加えていうなら外が寒すぎることだ。ご高齢の身には堪えるということで、大家さんには帰ってもらい、あとは2人で話すことにした。
「これ…ちょっととんでもない案件かもしれないですね。一旦業者さんとかにも連絡したほうがいいんじゃないですかね?」
「あぁ…でも、大家さんには帰ってもらったので、申し訳なくないですか…?」
「それもそうなんですけど、このままじゃあなたが家に帰れないじゃないですか」
「押したら開かないかな…」
ズキズキ痛む右腕でドアを押そうとする。力を入れた瞬間…
ガオン…ッ‼︎!
「うおっ!?」
急に片方の手のひらから、物を触っている感覚が消えた。いきなり猫騙しをくらったように体がビクッと震え、決してコケまいと足を踏み出す。
「何が起こったんです!?」
警官さんもこれにはびっくりで、すぐに助けてくれた。すきぃ…。しかし、警官さんに向いていた意識は次の瞬間、不意に目をやった方向へ釘付けになった。
「え…?ドアに…」
「…穴が!」
バレーボールぐらいの穴がドアを貫通するように開いていた。大砲の弾が直撃するような荒々しい感じではなく、1000℃の鉄球がチョコを溶かすようにでもなく、クッキーの型でくり抜かれた生地のように綺麗な断面だった。赤ん坊が触っても怪我しないほどツルツルの断面を、警官さんは不思議そうに眺めた。
「…何を…したんですか…?」
しばらく見つめたあと、警官さんは怖がるような、それでいて興味津々の子供が、はやる気持ちをおさえるような声で聞いた。
「わ、わかりませ…」
バラバラバラバラバラバラバラバラ!!!
轟音と突風が俺たち2人を襲う。つぐつぐ大家さんを先に帰らせて良かったと思った。何かと思い、空を見ると…。
「ヘ…ヘリコプター?!」
「なんでこんな住宅地に…?」
自分の家の真上でホバリングを始めるヘリコプター。コックピットにはドラマや映画で見るようなマスクをつけたパイロットが無線通信する仕草をしていた。次の瞬間、いきなりヘリの扉が開き何が起こるのかと呆気に取られていると…。
ピシュンッ!!!
「うーん…」
まだぼんやりした視界の目をこする。知らない間に寝ていたらしい。
「夢かぁ…。まだ大学か…帰るか…」
「夢じゃないし、帰らせないよぉ〜?」
俺の前にいきなりビン底メガネをかけ白衣を着た人が、湧いて出るように目の前に現れた。俺はというと、声にならない声をあげて腰を抜かし、全く見覚えのない部屋の真ん中に力無く座っていた。とても無機質な部屋だった。病院よりも真っ白な壁は、何物も反射しないような異彩さを放っていた。白く見えているのだから光を反射しているのだが、光沢もなく、かといってマットな仕上げの後もない壁は、防音シートも貼っていないのに周囲の音を分散させ、異常な空気感を生み出していた。天井もそうだ。照明らしいものがなにも見当たらない。なのに部屋の中は撮影現場のように明るく、少し眩しいくらいだった。
「いまさぁ、『少し眩しいな』って思ったでしょ?」
「…え?!なんでわかったんですか…?超能力者とか…?」
「うーん、半分間違いだけど、半分正解。私が今君の思考を言い当てたのは、ただのまぐれ。でも…」
不意に、その人の手から何か出てきた。光沢を帯び、ツヤのある重そうな…鉄の棒…。
「私は好きな形で手から『鉄』が出せる。私は絹道。よく『絹道なら絹を出せ』ってよく言われるよ。」
笑いながら手のひらから『鉄』を出す人物…『絹道』さんは続ける。
「君にも、あるんだ。手のひらからの能力が。私の能力は『鋼鉄の精神』。そんな感じで、君の能力にも勝手に名前をつけておいたよ。」
「いや、待って…」
「君の能力の名前は、『不可説不可説転』。空知有太、ようこそ、『S.H.I.N.E.』へ」




