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08 料理と食卓



「ただいま」


 予定よりも随分と遅い帰宅に成った。既に日は傾き、夕陽の音が鳴る時間に成っていた。

 森で見た黒服の魔法使いと鬼。あれらを気にして普段は通らないような回り道で帰ったからだ。


「おかえり」

「……え?」


 アルバスはてっきりハクアがまだ寝ていると思っていた。昨日までの彼女はまだ一日中寝ているばかりだったから、きっと今日もそうだろうと思ったからだ。

 けれど、アルバスの予想とは裏腹にハクアは椅子に腰かけ、こちらを見ていた。


「おかえりなさい、アルバス」


 繰り返された言葉にどうやら彼女が自分が帰るのを待ってくれていたと知り、同時にもう起きていて大丈夫な程度には回復したと分かり、アルバスの胸がドクンと鼓動を打った。


「ハクア、もう起きてて大丈夫なんだ。良かった。鬼の回復力はやっぱりすごいね」

「うん。もう立って歩いても平気」


 その場でハクアが立ち上がり、まだ少しぎこちないが手足をパタパタと動かしてみせる。もう何処も痛くないようだ。


「お祝いだね。ちょうど、今日は鬼兔が獲れたんだ。焼いて食べようよ」

「……鬼兔? あの?」


 ハクアがピクリと眉を上げ、眼を輝かせた。喜ぶ顔が嬉しくてアルバスが「これこれ」と仕留めた鬼兎を見せる。


「うん。運良く見付けてさ。上手く狩れたんだすぐに焼くから待ってて」

「わたしにも手伝わせて。せっかく立てるように成れたから」

「お、良いね。じゃ、一緒にやろうか」


 機嫌良く、アルバスはハクアと台所に行く。

 そして火打石と藁を使って竈に火をくべた後、いざ、鬼兎を解体していった。


「魔石もいっぱいだ。素晴らしいね」


 パキパキ。鬼兔の死体には角を中心に魔石が生え始めていた。仕留めたばかりだ。純度も良い。これならまた高値で売れるだろう。

 カキン! アルバスは鼻歌を歌いながら、手近の鎚で鬼兔の角を折り、黒石のナイフで皮ごと魔石を剥いでいく。

 そして、手を血で汚しながら、無言の時間を潰す様にアルバスはハクアへと話しかけた。


「鬼と鬼兔で角が生える仕組みは一緒だって聞いたけど本当?」

「うん。鬼の魔力炉も角だから。死なない限り一生伸び続けるの」

「あー、だから折れてもまた伸びて来るんだ」


 魔法使いはその血に魔力を貯め、鬼はその角に魔力を貯める。魔力炉たる鬼の角は生涯に渡って伸び続けるのだ。


「わたしに焼かせて。得意なの」


 言うが早いか、ハクアが竈に置いた鉄鍋へ傘角牛の油を敷き、鬼兔の肉を放り入れた。

 ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ

 肉の焼ける音がする。包帯だらけの腕で細かに鍋を動かしながら、ハクアは傍らに置いていた星見草や塩を手際良く入れていった。

 自分以外がこの竈を使うのを見るのがアルバスには初めてだ。自分よりも手際よく焼かれていく肉をまじまじ見てしまう。


「あるばす、少しだけ角先を貰っても良い?」

「鬼兔の? 良いよ。何に使うの?」

「隠し味。美味しくなるの」


 ガキン! ハクアは片手で鎚を振るい、鬼兔の角先を叩き割り、そのまま砕けた角の欠片を入れ、グワンと鍋を振るい、ジャアァ! と音が鳴った


「……ん、完成」




 アルバスとハクアは桶の水で手を洗い、食卓に皿を並べる。


「おお、おお、すごい、すごいねぇ」

「そんな大した物じゃないよ」

「そんな事無いよ。大した物だよ。素晴らしい。本当に素晴らしいね」

「そう? それじゃあ、めしあがれ?」

「いただきます」


 手を合わせ、もも肉にフォークを刺し、口に入れる。

 パリパリの皮、口にあふれる油、塩味と星見草の香り、少しの獣臭さ。久しく味わっていない料理の味だった。


「美味しい! 美味しいよ! ほんとに美味しい!」

「……そんなに喜ばれるとこっちも嬉しいね」


 ハクアも口いっぱいに肉を頬張りながら、アルバスへ笑っている。その角がホウホウと輝いていた。

 果たして、誰かに料理を作ってもらったのはいつぶりだっただろうか。誰かと食卓を囲んだのもいつぶりだっただろうか。思い出せない程にアルバスには遠い記憶だ。

 そのままひたすらにハクアの料理を褒めながら半分ほど食べた頃、アルバスは昼間に見た魔法使いと鬼のことを話した。


「そういえば、今日森に黒服の魔法使いと鬼が来ていたんだ」

「……黒服?」

「知ってるみたいだね。彼らが誰なのか教えてくれる?」

「それは……その……」


 ハクアは言い淀んでいる。どうやら、まだ話してもらえない様だった。


「ま、良いや。とにかく気を付けて。この家に居れば気付かれないと思うけど、一応ね」

「……ありがとう、ごめんね」

「気にしなくて良いよ。さ、残りを食べちゃおう。こんなに美味しいんだ。一気にさ」

「そうだね」


 少し曇った顔も晴れ、ハクアがむんずと鬼兔の頭を刺し、文字通り頭から被り付いた。

 見た目に反した食べ方にアルバスは目を丸くした後、笑ってしまう。


「……豪快だね」

「一応、わたしは鬼だからね」


 ハハハハ。ホウホウとハクアの角を光っていた。

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