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12 一座と荒くれ


***


「で、シロツノは見つかったかぁ?」

「申し訳ございません。全力で探している、のですが」

「お前達がここで待ってくれ、見つけて来るからって言うから俺はこうして酒を飲んでたんだぜぇ?」


 昼間から酒場に居たヴェルトルは腹底から息を吐き落した。グラスを待つ彼の前で黒服姿の部下達が体を縮ませている。


「分かってんのかぁ? シロツノは次の角落市の目玉だよなぁ?」

「はいっ」


 カラン。グラスの氷が音を鳴らし、ヴェルトルの部下達の顔が強張る。

 部下達は何も分かっていなかった。あの鬼を逃がしてしまった事の意味を。今、角落市がどれ程危うい状況に置かれているのかを。


「お前達の報告を聞いた時には耳を疑ったよぉ。オークションの目玉に逃げられたってのはぁ。なぁ、俺はあのシロツノを捕まえるのに町一つ潰してるんだぜぇ?」

「魔物が……魔物が急に移送中に襲ってきたんです」

「それも聞いたなぁ。なぁ、俺は言わなかったかぁ? シロツノの移送には注意しろぉ。特に狂鳴の森ならなってよぉ」


 ヒヒッ。爛れた左半面から出た引き攣り笑いに部下達が肩を強張らせた。


「まあ、それはもう良いかぁ。逃がした奴はもう魔物の腹の中だからなぁ」


 グラスの残りを飲み干し、ヴェルトルは立ち上がる。

 無能な部下に任せてもやはり進展は無さそうだ。


「俺が恐れてるのはあのきれいなきれいな白い角が魔物の腹に入っちまったのかって事だけだぁ。なぁ、それは大丈夫だったんだよなぁ?」

「はい! 間違いありません! 感知系の杖を使って森のあらゆる場所を調べました! あの角は欠片でさえ見つかっていません!」

「ああ、そうだぁ。狂鳴の森でシロツノの魔力が見つからなかったぁ。だから、一番近いこの町に逃げてるに違いないって、ボスにお前達は言ったんだよなぁ」


 爛れた顔面をヴェルトルは触る。今思い出しても、ボスの焦りはお笑い草だった。


「ボスは焦ってるぜぇ。角落市までもう時間が無いからなぁ。シロツノが狂鳴の森を抜けてこんな町まで来れる筈がねぇって俺の言葉も無視して、俺にこの町で探して来いって言うくらいだからなぁ」


 やれやれと首を振ってヴェルトルは懐から金貨を出し、グラスの中に放り入れる。


「行くぞぉ。俺も探してやるからぁ」


 部下達は顔を強張らせたままついてくる。後でどの様な叱責があるか分からない。もしかしたらこのまま殺されてしまうかもしれない。

 そんな見て取れる恐怖を背に浴びながらヴェルトルは酒場を出る。そして、直後、足を止め、再び深く腹底から息を吐いた。


「ほらぁ、お前達の所為で面倒な奴らが集まって来てるじゃねえかよぉ」

「え?」


 ゾロゾロと音を立て、数十人の魔法使いと鬼達が大路地の左右から現れた。

 魔法使いは杖を、鬼は武器を構えている。目つきは鋭く、暴力の中で生きてきた荒くれ者だとすぐに分かった。

 部下達が荒くれ者達へ声を上げた。


「何だお前ら!?」

「ヴェルトルと角落一座だな? 金貨を置いてけ。そうすりゃ生きて帰してやるよ」

「ふざけんじゃねぇ! お前ら角落一座に手を出してどうなるのか分かってるのか!?」


 ヒヒッ。ヴェルトルは引きつり笑いを出した。これは意味の無い会話だ。既に衝突は必至。すぐに荒くれ者達はこちらへ攻撃を仕掛けてくるだろう。

 だから、部下達が本来やるべき事は攻撃に転じるか防御陣を敷くかのどちらかしない。

 あまりの部下達の無能さに笑いが抑えられなかった。


「やっちまえ! 殺しちまえば足はつかねえ!」


 荒くれ者達が攻めてくる。

 初めにヴェルトル達に届いたのは魔法使い達からの魔弾だ。

 初等魔法の基礎の基礎。やはりここは僻地だ。王都の魔法使い達とは比べ物にならない程に粗悪だ。ただ魔力を込めた量だけで、威力も軌道も最適化には程遠い。


「ラァァア!」


 部下の鬼がやっと前に出て、左右からの魔弾を受け止める。

 鬼の硬い皮膚が凹むが、それだけだ。傷は無い。鬼の体は強靭だ。あの程度の魔弾ならば耐えて貰わなければ困る。

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