第七話 暗黒騎士VSタクミ
冷たく湿った空気が体にまとわりついていた。
いつからそうしていたのか高見は、一寸先も見えない暗闇のなか、片膝をついて蹲っていた。徐々に意識がはっきりしてくる。
確かコンビニから帰って、夕飯を食べてそれから………。高見が記憶を辿っていると暗闇の奥から声が聞こえてきた。
「目覚めたようだな、暗黒騎士よ」
腹に響く声だった。高見は目を凝らして声の主を探した。暗闇になれてきた目が人間のものではない巨大な輪郭をとらえた。すぐ目の前にいるが、不思議と恐怖は感じなかった。むしろ父親に守られているような安心感すらある。
高見はこうべを垂れて、巨大な存在の次の言葉を待った。
「なかなか見込みがありそうだな、だが結果がすべてだ、おまえには期待している、頼んだぞ」
「はい、わかりました」
自然とそんな言葉が口から出てきた。
暗闇が霧散していく。巨大な存在も一緒に消えていった。辺りに色がついていく。
高見は地面や木が苔で覆われた、緑の濃い森のなかにいた。
いまのはなんだったんだろうか。夢心地のまま高見は立ちあがった。
鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえてくる。目を落とすと体は黒い鎧に包まれていた。頭に触れると硬い感触が手に伝わってくる。兜もかぶっているようだったが、視界は良好だ。
「なんだこりゃ」
しばらく考えて結論が出される。
夢か。
木々の間から小鳥の鳴き声が聞こえてくる。心地よい風が森のなかを抜けた。高見は腕を伸ばして伸びをした。
夢のなかならゆっくりするにかぎるな。高見はその場に腰をおろし横になった。鎧のなかは快適な温度だった。眠気が忍び寄ってくる。
夢のなかで寝るとは、なんの冗談だよ、ふふっ。 高見は目を閉じてコンビニで出会った中島のことを思い出した。
私服の中島さんも可愛かったな。顔の筋肉が緩む。
「おい、あれ、モンスターじゃないか」
のんびりくつろいでいたとき、そんな声が聞こえてきた。
高見は舌打ちをした。またどこかのバカが異世界ゲームの話をしているのか、くだらない。関わりを持たないよう、仰向けに寝ていた高見は声がしたほうへ背を向けた。
「ほら見てみ、絶対そうだよ、あっ、でもこいつモンスターランク圏外だ、クスクスクス」
忍び笑いが風に乗って高見の耳に届いてきた。
なんかイラつくやつらだな。頭をあげた高見は怒りを含んだ視線をやった。自分と同い年ぐらいの少年が三人、高見を見ていた。
なんで俺をみているんだよアホども、おちおち寝ていられやしない。高見は移動をするため体を起こした。三人の少年がざわつく。
「おい、どうする」眼鏡をかけた少年がいった。
「懸賞金はいくら」気の弱そうな少年は、小太りの少年の手に持ったタブレットを覗きながら訊いた。
「100円だってよ、ジュースも買えねぇわ」馬鹿にした口調で小太りの少年がいう。
つきあっていられないとばかりに、高見がその場から立ち去ろうとしたとき、とがった声が飛んできた。
「待てよ、逃げるのか」
まさか俺にいっているのか。高見は足をとめ振り返った。剣を手にした三人の少年が高見を囲むように立っていた。一瞬、高見は凶器を持った少年たちに怯んだが、ここが夢のなかだと思いだし強気に出る。
「なんだおまえらは、人間とモンスターの区別もつかないのか、眼科行ってこい」
少年たちは顔を見合わせた。
「いま、こいつがなんていったかわかるか?」
「わかんない」
「雑魚モンスターだ、たいしたことはいっていないだろう」
合点すると少年たちは高見に向き直った。
やはり、異世界ゲームをするやつなんて馬鹿しかいないようだな。高見は拳を握った。




