第十二話 暗黒騎士VSヨシカワ先輩 2
ヨシカワは不敵な笑みを浮かべた。
「なんていっているかはわからねぇが、ヨシカワハヤト様と遊びたがっているのは伝わったぜ」
鞘から刀を抜く。赤い刀身が宙を揺らめいた。
「ヨシカワ先輩、それ高周波震動剣じゃないですか、すげぇ」タクミたちが歓声をあげる。「おうよ、ランクが250を越えたときにF社からプレゼントされたやつだ、こいつでこのゴキブリ野郎をカットしてやるぜ」
「これから駆除される害虫が俺をゴキブリと呼ぶか、冗談きついぜ」
高見は鼻で笑った。
「フガフガなにをいっているのかわからねぇよ」
ヨシカワの殺気が高見の体に突き刺さる。
言葉が通じないのなら、拳で語るしかないな。高見は見よう見まねのボクシングスタイルをとった。
まばたきをした刹那、ヨシカワの顔が目の前にあった。赤い刀身が右肩へ侵入しようとしている。高見は腕でガードしようとしたが、嫌な予感がし後ろへ引いた。
ヨシカワの攻撃は空を斬った。
「さすがゴキブリ、動きが速いな」
「それはこっちの台詞だ、害虫め」
高見は鉄が溶けた臭いを鼻に嗅ぎ、目を落とした。鎧の右肩から左脇腹にかけて深い切れ込みが入っていた。うっすらと煙が立ちのぼっている。ヨシカワの攻撃を完全には避けきれていなかったようだ。
腕でガードしていたら切り落とされていたな。冷や汗が頬をつたう。軽い敗北感が警戒心を高めた。
斬れ味抜群の刀を持った相手と素手でどうやって戦うか、高見が考えているとヨシカワがいった。
「どうした暗黒騎士、こいつにビビっちまったのか」
両手を広げて腹を突き出している。ふざけたポーズで高見を誘っていた。
頭がカッと熱くなったが、深く息を吐いて冷却させる。挑発に乗って攻撃を仕掛ければ、危険な状況に陥るのはタクミとの戦いで経験済みだ。
高見はバズーカ砲で砕けた岩のなかから、致命的な打撃を与えられそうなものを拾い、ヨシカワに投げつけた。
「パイ投げ合戦でもしたいのかよ、おまえは」
ヨシカワは軽々と避けていたが、とぎれなく飛んでくる岩に、高見までの進路を塞がれ近づけないでいた。徐々に額が汗で滲んでいく。呼吸も荒くなってきていた。
これが夢なのかそれともリピドー・クエストの世界なのか高見にはまだはっきりと判断できないでいたが、とりあえず相手にも体力というものがあることだけはわかった。
このままヨシカワを疲れさせ、動きが鈍くなったところに俺の必殺技、メガパンチをくらわせてやる。高見は兜のしたで悪い笑みをつくった。
「どうしたヨシカワ、さっきまでの余裕はどこへいっちまったんだ」
さっきのお返しとばかりに挑発をする。
「めんどくせぇ野郎だ」
ヨシカワは地面に転がっていた岩を拾うと高見へ投げつけた。
「しゃらくせー!」
高見は飛んできた岩を殴った。砕かれた岩は一瞬、視界を遮り地面に落ちた。前を見れば、ヨシカワが数十歩先まで距離を詰めている。
「アホなAIだな」
高見とヨシカワは睨みあったまま固まった。
「どうした、岩を拾わねぇのか」
距離はまだ、だいぶあるとはいえヨシカワのスピードを考えると岩を拾おうとした瞬間、斬られる可能性があった。
ヨシカワも高見を警戒しているのか、すぐには攻撃を仕掛けてこない。
お互い一歩も動かず向かい合っているだけだったが、秒を追うごとに高見の精神はプレッシャーで削られていた。ヨシカワは余裕の表情で刀を構えている。戦いを重ねているぶん、こういった状況には慣れているようだった。
高見は拳を握りなおし、闘争心の鎌首を持ちあげた。一撃でもヨシカワに拳を当てれば、勝利を手にすることができると確信している。そのためには刀の攻撃をかいくぐり懐へはいっていかなければいけないが、ヨシカワがそれを簡単に許すとは思えなかった。刀を鎧で受けとめることは不可能だと最初の一撃でわかっている。避けるには後ろへ下がるしかないが、それでは懐へ入ることは叶わない。
焦りが集中力を奪っていく。高見は身じろぎをした。体に隙が生まれはじめる。思考は徐々に鈍くなり、頭のなかが枯渇しかけたとき、ひとつのヨシカワを倒す方法が姿を現した。
あれをやるしかないのか。高見は唾を飲んだ。リスクは大きかったがヨシカワがいつ襲いかかってきてもおかしくない状況で、別の方法を考えている暇はなかった。意を決した高見は、腰を屈め前へ出た。




