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第十話   ヨシカワ


 放課後、高見は久し振りにノボルと下校した。いつもはリピドー・クエストの話をする友人と帰るノボルが「たまには一緒に帰るか」と誘ってきたからだ。なんだかんだいって、調子の悪そうな高見を心配しているのかもしれない。

 中島のことでノボルにからかわれていたとき、高見は前方に見覚えのある顔を見つけた。鞄の色からひとつ下の学年だとわかった。


「どうした高見、中島でもみつけたのか?」高見の異変に気づいたノボルが訊いてきた。

「ちょっと黙ってろ」


 高見はそれだけいうと足を速めた。追い越し際に下級生の顔を覗く。トシ、テツとタクミがそこにいた。驚きで息がつまる。

 面識のない人間が夢に出てくることなんて、それほど珍しいことではないだろう。

 同じ学校に通っているんだ、知らないうちに何度もタクミたちの顔を校内で見かけ、それが無意識にすり込まれ夢に出てきただけのことだ。高見はそう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせた。

 タクミたちはリピドー・クエストの話をしているようだった。盗み聞きをするため、高見は前を歩きながら三人の歩調に合わせた。


「タクミ、本当にやめちまうのかよ」トシがタクミの肩に腕を回していった。

「もういいよ、パンチで顔を吹き飛ばされたんだぞ、完全にトラウマになったよ、そのせいで昨日は眠れなかったんだ」

「たかだかゲームだぜ、そんなにビビルなよ、それにしてもまさかモンスターランク圏外で懸賞金100円のやつがあんなに強いとは思わなかったな」

「暗黒騎士だっけ、あれはチートだな、まあ何千といるモンスターのなかの一匹だし、もうあうこともないだろうよ、やめるなんていうな」


 タクミは首を横にふり続けている。

 高見は血の気の失った顔で、タクミたちの会話を聞いていた。あまりにも自分が見た夢とリンクする部分が多かった。

 眠りにつくとゲームの世界に入るなんていう、ファンタジーのような話が現実に起こりえるのだろうか。それともただの、奇跡的な偶然なんだろうか。高見は混乱した頭を手で抱えそうになった。


「僕もう決めたんだ、リピドー・クエストをやめるって、あんな思いをするのはまっぴらだ」

「やめたら、みんなの話に入れなくなるぞ、ひとりぼっちになるぜ」  

 テツが脅すと、タクミは泣きそうになる。哀れみの目でタクミを見ていたトシは、鞄から携帯電話を取り出すといった。

「暗黒騎士がいなくなればいいんだろ、ヨシカワ先輩に倒してもらうよう頼んでやるよ」「でもヨシカワ先輩ってプレイヤーランク250だろ、懸賞金100円の雑魚モンスターを倒すために動いてくれるのか?」

「まぁ無理だろう、いくらか金を払えば、話は別だろうけどな」


 タクミの溜息が聞こえてくる。

 高見たちは角を曲がり、少年たちの声は遠くへいった。


「そんな怖い顔してどうした、あいつら知り合いなのか」ノボルが訊いてきた。

「いや、バカな異世界ゲームをするやつに知り合いなんかいない」

「おれもその、バカな異世界ゲームをするやつのひとりなんだがな」


 ノボルの言葉はスルーして、高見はリピドー・クエストのことについて訊いた。


「プレイヤーランク250のやつっていうのは強いのか?」

「ヨシカワさんのことか」

「知ってるのか?」高見は聞き返した。

「知り合いってわけじゃないさ、ただプレイヤー人口が何億人もいるゲームで、ランク250といったら上位だからな、同じ学校に通っているわけだし、自然と耳に入ってくる」

「それで、そのヨシカワとやらはどうなんだ」

「強いと思うよ、実際に戦っているところを見たことがあるわけじゃないからはっきりとはいえないが、このゲームはプレイヤーランクが300以上になるとランクが上がるごとに、攻撃力や防御力、魔力やその他のステータスの中からひとつだけ、自由に強化できるようになるんだ、いわゆる300以下の圏外プレイヤーは普通の人間と同じような動きしかできないが、ステータスが強化された、上位プレイヤーになると尋常な人間の動きではなくなる」

「ふーん」


 くだらないことを訊いてしまったと高見は思った。常識的に考えれば、自分が見た夢とタクミたちの会話が一致していたのはただの偶然であって、現実に起こったファンタジーのような話ではない道に辿り着く。高見は馬鹿な可能性を抱いたと自嘲した。

 ヨシカワが暗黒騎士を倒すって?俺には関係のないことだ。

 高見は視線をまっすぐにして決意した。今日は中島さんとデートをする夢を見るんだ。


「で、いつからリピドー・クエストをはじめるんだ」ノボルが訊いてくる。

「だからそんなゲームやらねぇよ」



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