魔導の実力
ああ、本能が訴えかける。こいつは強いと。こいつにはかなわないと。闘ってはいけないと。
「だからなんだ?」
そうさ。こんな化け物と今やらなきゃいつやれるんだ?血と血、肉と肉、舞って混ざって楽しい楽しい殺し合いができる機会はそう多くねぇ。俺より強い?俺じゃ勝てない?勝てないから闘らないのか?違う、そうじゃないだろ?勝てないからなんだ?闘う理由は勝ちたいからじゃないだろ?楽しいからだろ?そうさ、今の俺じゃ悔しいが旅人クラスとは闘いにならない。だが、こいつとなら、この男となら、レイとなら、やれるはずだ。そうだろう?なぁ、レイ?
「俺と一緒に楽しもうじゃねぇか。なぁ、レイ!」
「いや、恐ろしいね君は。闘うことをそこまで愛するのか。理由なんて何もない。ただ楽しいから。やれやれ僕の後輩は随分と血に飢えているみたいだ。……いいよ、先輩として魅せてあげるよ」
そういってレイは笑う。どこまでもどこまでもやさしげに。そしてその笑顔が何よりも俺の生存本能を刺激する。
「これが魔導の深淵だ。飲み込まれないよう気合い入れろよ」
その言葉とともにレイの周りにいくつもの魔方陣が現れる。
「行くぜ!!」
言い放ち、レイの懐に潜り込み、闘気をまとった拳を打ち付ける。が、レイに届く前に壁のようなものを殴った感覚にさえぎられる。
「ほらほら、視覚に頼りすぎだ。魔方陣なんて飾りに過ぎないと理解しろ。上位者には魔方陣の補助なんて必要ないんだよ」
魔方陣がすべて壊れる。それと同時に何らかの衝撃を受けて吹っ飛ばされる。その直後、炎でできた蛇が俺の体を縛りつけ締め上げる。
「ぐ、おらぁ!!」
全身に闘気を纏い、力ずくで振りほどこうとする。しかし、蛇の牙が俺の首筋にかみつき何かを流し込む。すると……
「があああぁ!!」
今まで経験したことのない痛み。俺の肉が、血が、骨が燃えている。いや、炎そのものになっている。
「どうした、これで終わりか?だとしたら期待外れだな。」
なめるなよ。そう、口にする代わりに。
概念強化”闘気”
闘気は身体能力を向上させる、肉体を、物質を強化する。そういう”概念”を持つ。だから……
炎の蛇が吹っ飛び、体内の炎が沈静化される。
「なに!?」
その一瞬の驚愕の隙をついて懐に潜り込み手刀を放つ。それは障壁すらを切り裂いてレイの羽織っているローブを切り裂きレイに襲い掛かる。だが、レイはそれを回避して氷でできた矢を放つ。それを手刀で叩き落とすが触れた瞬間手が凍りつく。その氷は、しかし、闘気によって溶けていく。と、同時に自分が無詠唱で放てる中で最高の一撃を持つ紫の雷を奔らせる。が、
「紫電だっけ?魔力の圧縮が甘すぎる。そんなスカスカの雷は俺の雷に焼かれて消えろ」
レイも同じく無詠唱で、ただ単に俺より早く、俺より美しく光る雷を放つ。そして俺の雷とぶつかると奴の言ったとおり、雷が焼かれ、そのまま俺のほうへと貫通をする。それに魔力の障壁で対抗するがその障壁を壊して消えてその後ろから魔力の塊の追撃が来る。声を出す間もなく紙一重で転がるように回避するが、魔力が網のように広がる。
「縫い付けろ」
レイの言葉に従って魔力が細く鋭く俺の足を貫き、動きを止める。そこへ何かがきらめいたと思った瞬間俺の体が何かに貫かれる。それは、光っていた。いや、光そのものだった。それを認識すると同時に光は消え、口から血があふれ出す。それを気合いでねじ伏せ、闘気で俺を貫いていた魔力を引きちぎる。体中が悲鳴を上げるがそれを無視して必死に考える。
「ゲホッ、っ」
まずい。かなりの劣勢だ。あいつの魔力の発動が早すぎて回避が難しい。今の光そのものなんて回避は不可能だ。そもそも光なんだ。視認した時はすでに手遅れ。だから何とかして発動の予備動作をとらえるしかない。問題はその予備動作だ。詠唱はない。魔方陣もない。気づいたら放たれている。そんなものどうしろと。接近戦に持ち込もうがあいつの魔法の速度じゃ意味がない。障壁が固すぎる。概念強化した闘気でやっと。魔力の圧縮もあいつのそれはもはやあいつ固有の能力といってもいいレベルだ。魔法の打ち合いじゃ少なくとも今現在の俺では勝ち目がない。俺が奴に勝っているのはなんだ?今ないものを求めるな。俺には何がある。奴に通用するのはなんだ?思い出せ。俺はこの世界で何を手に入れている?あるはずだ。
レイが魔法を放とうとしている。あいつの中の魔力が動くのがわかる。そう、俺にはこの眼がある。この魔眼が。
「何?」
レイの放つ魔法をかわす。そしてレイの魔力が動く瞬間ごとに回避する。そうしてレイの懐に潜り込み全力の一撃を叩き込む。その一撃がレイを守る障壁を砕きレイを吹っ飛ばす。そこへ追撃をするために詠唱を開始する。
「火は原初の種、獣を払い焼き尽くす悪魔の力。その力を今ここで証明し敵をその肉の一遍まで焼き尽くせ。悪魔のごとし黒き炎よ、わが願いをここにかなえたまえ。『黒炎・破滅の炎』」
黒色の炎がレイのほうへと向かい、レイを包んだ瞬間広がり燃え盛る。この炎は対象の生命力を奪って燃える。ゆえに対象が強ければ強いほどより強くなる。本来なら一撃必殺級の上級魔法ではあるが……
「いや、驚いた。魔眼で俺の魔力を視たのかい?その発想といい、今回の魔法といい、使いどころを誤らず応用するのは素晴らしい才能としか言えないな。ただ、惜しい。圧倒的に地力が足りない。たとえばこの魔法。この程度は無詠唱が基本だよ。それと魔力の圧縮も君ならもっとできるはずだ。まあ、何より」
黒い炎がまるで霞のように消える。そして炎が消えるとそこには傷一つどころか汚れひとつないレイが立っていた。
「この程度の位階の魔法じゃ俺に傷一つ与えられないよ。」
その言葉とともに彼を中心に火、水、風、土の魔力が渦を巻く。
「まあ、風の応用で雷を出せたんならいう必要もないかもしれないけど、魔法は応用してこそだ。水は氷を、火は浄化を、土は自然を。魔法とは概念の塊だ。君の概念強化との相性は抜群だよ。そして魔法とはとらえようによってどうとでもなる。たとえば土。土とはなんだ?土にはどんなものがある?たとえば土の中には金属だってあるだろ?こういう風にさ。」
レイの言葉とともにレイのそばに鉄でできていると思われる巨大なブロックが現れる。
殺気はない。だからこそ俺もこうやって奴の言葉を聞いている。しかしこの圧迫感はなんだ?
「さて、この鉄を溶かしてみようか?」
レイの言葉で火の魔力が鉄を溶かしていく。固体から液体、液体から気体へ。ただ、気にかかるのは火の魔力だけでなく水も使われているということだ。
「気体となってしまえば眼じゃ分かりにくいだろ?」
そう言いながら風によって気体となった鉄が広がっていく。
「まさか!?」
ここまで来たらわかる。何のために水の魔力が使われたのか。今、気体となった鉄は風によってある程度のまとまりでそこらじゅうに散布されている。水の魔力をまとったまま。そして自分の魔力さえあれば遠隔でも魔法が発動できる。俺もそれには気づいた。だが、魔力はすぐに雲散霧消するから使えないとおもっていた。しかし、物体に宿した魔力はなかなか消えない。そう、つまりは……
「気づいたか。魔法に触れて6年でそこまでとはすごいね。じゃあ、動くなよ?下手に動くと危険だぞ。『凍れ』」
レイの言葉とともに鉄が固体に戻る。ご丁寧に鏃の姿になって。それが俺を囲むように降り注ぐ。
「この魔法は別に大したことはない。威力も弱いし、こんなことしなくても俺なら光を使えば回避はできまい。しかし、これが優れている点がお前ならわかるだろ?」
そう、この魔法の優れている点は三つ。遠隔地での発動ができること。時間差で発動できること。そして、
「この魔法、一つ一つは初級クラスの魔法だ。」
初級クラスの魔法が応用次第でここまでになるか。なんて、発想。
「これが魔導の深淵の一端か。」
しかしレイは嗤う。
「まさか。俺はまだ深淵の一端も見せちゃいない。これはそうだな、深い深い谷の入り口の淵というとこか?」
「何……?」
これでもまだ淵の部分だと?
「そう、けど君は僕の想像以上だった。まさか、君の本領である刀なしでここまでとは。だから、君に本物のすごさを魅せてあげよう。だから……天地さん」
レイが呼ぶとどこからともなく天地が出てくる。
「言いたいことはわかるけどね。いきなり闘うとか君らしくなかったんじゃないか?」
「まあ、後輩への洗礼ですよ」
「おい、どうしてこいつを呼んだ?」
レイが天地を呼ぶ理由がわからない。
「心配しなくてもすぐ帰るよ、これを渡したらね」
そういうと天地の手の中に一振りの刀が現れる。
「刀、まさか俺に?」
「ま、本当なら君たちが闘う前に渡すはずだったんだけどね。」
そういって天地が俺に刀を渡す。しかし……
「なめてるのか?敵に武器を施すだと?」
「まさか。君だってわかるだろ?全力の敵と闘いたいという気持ちは。」
なるほど、そういうことか。
「上等だ。後悔するなよ?」
天地から刀を受けとる。いい刀だ。以前使っていたものとそっくり、いや同じか。天地なら作れるのだから。
「じゃあ、もう少し見学させてもらうよ。」
そう言い残して天地は消える。そして空気が張り詰める。
「じゃあ、」
「ああ、」
「「やるか」」




