三人の価値観
今回は説明回っぽいかな?
いつかと同じ空間に旅人と天地が椅子に座って俺の前にいた。旅人の顔は何がおかしいのかにやにやとゆがんで、天地は苦笑していた。
「とりあえず座るといいよ。
天地はそう言い、椅子を出現させる。俺もその言葉に従って座り、旅人の方を向く。
「それで?俺に何の用かな?ずいぶんと会いたがっていたみたいだけど?」
「…。お前は俺を何のためにあの世界へと送ったんだ?」
「ああ、そのことね。」
気に入らない。どんどんあいつの顔が笑いでゆがんでいく。あいつはおそらく俺の過去を知っている。だからこそ…。
「救世主、そのために呼んだといったらどうする?」
「そんなものには絶対ならねぇよ!!」
救世主?くそだな。何が救いだ。自分では何もしない癖に勝手に期待して勝手に失望して勝手に…絶望して…。そして自分で死にやがる。
「いやぁ、君の過去は結構面白いよねぇ。君自身はただ強い人間と戦いたかっただけなのに多くの人を結果的に救ったから救世主なんて呼ばれて?どうだった?意外と気に入ってたり?」
「…黙れ。」
「それでその中の一人が君に恋して、君もまんざらじゃなかったでしょう?だ・け・ど、君が一人救わずに闘っていたのがばれてねぇ。失望して、君を責めてあまつさえ自殺しちゃった。彼女にとっては君こそが絶望だらけの世界のたった一つのきぼうだったんだねぇ。」
「黙れ!!」
「しかしおかしい話だね。あのときその一人を救うのは不可能だったのに君は相手を倒した後救いに行こうとしたよね?変だねえ。闘うのが好きで闘ってたなら救えないとわかっていたあの子のことなんか放っておけばよかったのに?それにさぁ、闘いがすべてならそんなに悩むなよ。周りが勝手に騒いで勝手に死んだんだ。君の知ったことじゃないでしょう?」
「黙れって言ってんだろうがぁ!!」
概念強化”殴”。言葉とともに放ったこぶしで空間が揺れて三人の椅子が砕ける。しかし旅人は顔色一つ変えずに突っ立っていた。
「へぇ。殴るという概念の強化で空間を殴ったか。ん~確かにすごいけど…まだまだ使えこなせてねぇなぁ。」
「っ!!」
旅人の言葉とともに体にありえないほどの圧力がかかり肺の中の空気がすべてなくなる。
「空間を司っているのは俺だぜ?つまり空間を揺らすことも圧縮することも俺にはたやすい。どうだ?このままつぶしてやろうか?」
概念強化”殴”。俺を押さえつけている空間そのものを殴り飛ばす。
「はぁはぁ。」
「おお、やるじゃん。じゃあ次は…。」
「いい加減そこまでにしろ。」
天地の言葉とともに旅人の周りを黒い炎が覆い、光り輝く鎖が俺を縛る。
「お前ら、遊ぶためにここで会ってるわけじゃないだろう?旅人、人の過去で挑発するな。神前、いや今はアレクか。お前も挑発に乗るのはよせ。旅人の言うことなんて聞き流して構わない。」
「分かったからこの炎消してくれよ。正直きつい。」
「…この鎖を外してくれ。大丈夫、多少落ち着いた。」
そうだ、過去がどうあろうと関係ない。俺はただ強者と闘う、そのためだけに生きる。旅人とやるには早すぎる。もっと、もっと強くなってからだ。
「そうか。」
天地がそう呟くと炎と鎖が消える。
「じゃあ、改めて座るとしようか。」
天地が椅子を三つ出現させ、一つに腰掛ける。俺と旅人もそれにならって座る。
「さて、アレクをその世界へと連れて行った理由だけど別に救世主をやってもらうためじゃない。ストレートに言うともったいなかったからだ。」
もったいなかった?どういう意味だ?というかもったいないという理由だけで転生させるとは…価値観の違いか。
「つーかさ。俺が救世主なんて派遣する訳ないだろう?」
「どういう意味だ?」
旅人はすべての空間を司っているわけだから世界のために救世主を派遣くらいするだろ?
「一体いくつ世界があると思ってんだ?枝分かれした平行世界、過去の世界、未来の世界、次元の違う世界、俺が勝手に創りだした世界、真界とそれこそ無限といっていいほどあるんだ。そのうちの一つがどう発展しようが、人が滅亡しようが、その世界そのものが壊れようがどうでもいい。というか真界以外はどうなってもいいな。」
「なっ!?」
「何を驚く?世界は勝手に動く。俺が介入する必要があるか?」
この価値観。旅人にとって人とは世界とはそれほどまでにちっぽけなのか。どうなってもいい程度のものなのか。これが時空を司るものの意思か。なんて傲慢。いや傲慢ではなく、ただの事実か。旅人ならば簡単に世界を創れる。それこそ息するのと同じように。これが…。
「言っとくけどさ。これはお前たちのためでもあるんだよ?」
「何?」
「天地、教えてあげて。」
旅人はめんどくさそうに天地に振る。
「ああ。たとえば俺ならさ。死んだ人間を蘇らすのも、理想の人間とやらを創りだすのも、今よりもっと道徳的な人々を創るのも簡単だ。さっき君が考えた通り息をするようにね。でもそれじゃあだめなんだ。この世ありとあらゆる生物には可能性というものが満ちている。ゆえに生き物は時に奇跡を起こす。それは誰のものでもなくただ自分のものだ。だけど俺が、旅人が起こすのは奇跡でもなんでもない。くだらないものだ。そんなものお前は誇れるか?」
「…なるほど。」
なんとなくわかる。自立したつもりが誰かの掌の上で保護され操られる。そんなもの俺は許せない。
「たとえば世界がこのままだと壊れるとする。けれど俺たちは手を出さないよ?それを乗り越えるのはその世界の生き物たちの仕事だ。あきらめるのも勝手だが乗り越えるのもそいつらのかって。残酷かもしれないがそれが彼らのためだよ。救ってあげるとか救わせてもらうとか、それはさ、俺たちみたいな馬鹿でかく遠い存在じゃなくてもっと近い存在だけが言えることさ。」
そう話す天地の顔はとても悲しそうで。でもその声には芯があった。
これがこいつの覚悟か…。こいつは多分誰よりも救いたいと思っている。けれど救わない。救いか。なんでそんな概念があるんだろうな。
「ま、勝手に動いてるのを見るほうが楽しいし。」
旅人はそう言って笑う。
そうか、こいつらは基本介入せずに見守るだけ。…だからこそなぜ俺はこいつらに介入された?
「いやね、さすがにねぇ?」
「勿体ねぇよなぁ?強者がいないことに絶望して死ななけりゃ二人目の存在になれたのに。」
「二人目?」
「そうさ。この無限にある世界のなかの数多の生物の中でたった一人しかいなかった真界以外の世界の容量を超える存在になりかかっていたというのに。あの世界容量のわりに強者がいなくてなぁ。」
「なんだそれ!?」
馬鹿な。世界が無限に近いほどあってその中には数多くの生き物がいる。そのすべてを合わせてたったの一人?どういう確率だよ?それに世界の容量?どういう意味だ?
「ここは天地の方が詳しく説明してくれるぜ?生きものの可能性にかかわる話だからな?」
「あー、そうだな。まずは世界の容量の話だ。真界といま俺らがいる空間以外は基本的に容量があるんだ。力の容量とでもいうのかね。だから俺は力を極限まで抑えなきゃ違う世界に行けない。じゃなきゃ砕けるから。旅人は空間を司る関係上一時的に世界の容量を無限にできるからいいんだけどね。」
「空間の容量?」
「そう。それでまあ、たまに旅人のいたずらだったり神様が旅人にたのんだり、旅人がつなげてある世界同士で人が異世界に行くとね。その世界の容量が元いた世界の容量より小さいとその人の力がその世界では強く見えるのさ。絶対値は全く変わらないんだけどね。」
…異世界チート的なあれか。
「でだ。まれに世界の容量を超える生物が出てくるわけ。まあそのままだと世界が崩壊するからたいてい世界そのものがどっか違う世界に追い出すんだよね。どこになるのかはランダムになるけど。で、君がいた世界は結構容量がでかい世界だったんだけど、君能力を持ってたわけだ。」
概念強化と魔眼だな。
「さすがにそれだけじゃ容量は超えないけど念のために神々が封じたんだ。未熟な能力なら神でも封印できるからね。ところが君は努力という点でも神々の予想をはるかに上回った。そのせいで世界の容量を超えかえていてね。しかもありえない速度でありえない上昇率で。”これこそが生き物の持つ可能性だ!”状態だったね。ただあの世界には君を満たす強敵がいない。もしいれば君は容量を超えれたはずなのに。で、さすがにもったいないだろということで君に俺たちが転生させるチャンスを上げたということ。」
…少し違和感があるな。天地はもったいないという性格だけで転生させそうにないが…。
「…鋭いね。まあ、そこはまたの機会で。」
「それはまあいいが。その容量を超えるっていうのはどれほどのものなんだ?」
「…不死を超える不死、神々を軽くひねる、俺達でも少し真面目にやらないと能力が通らない、世界を壊すのを簡単に行える、いくつかの理を無視している、過去にも未来にもおらずそこに一人しか存在しない特異点、俺でも創造するのが難しい。そんな感じ。」
「は?」
なんだそいつは。…すげぇ、すげぇ面白いじゃねぇか。そんなやつと闘ってみてぇ。ああ、もっと強くならねぇと。
「恐ろしい思考回路だね。あってみる?」
“あってみる?”その一言で俺の心が落ち着く。
「会えるのか!?」
「そりゃ、会えるよ。どうする?彼は魔を導きしもの。魔道の深淵を創りしもの。君は魔法初心者だしあってみたらいいんじゃないか?いろいろ教えてくれるよ?」
「是非。」
ああ、魂が震えてるのが俺にもわかる。会いたい。そいつの力を見て、盗み、己の糧としてそいつの領域にたどり着きそいつと闘いたい。
「じゃあ、旅人。」
「ああ、そいつも自分の同類になりそうなやつと会いたいってよ。ほら。」
そういって旅人が空間を割る。その中から、灰色の服を着た黒色の髪と目、白色の肌の人が姿を現す。
「初めまして。君がアレクかい?僕はそうだな、レイとでも呼んでくれ。」




