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ウサギが異世界デスゲームをクリアする方法  作者: 山田野オロチ
聖獣マルルウサギ奉迎記念大晩餐会

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PLAYER'S RULE

俺が新たに生まれた場所はこの世界で「帝国」と呼ばれていた。

不便はしないが決して裕福というわけではない貴族の一人息子として生まれた俺は、三歳になるあたりで前世の記憶を思い出した。

いや、どちらかというと、前世の記憶が今の体に入ってきた、と言う感覚の方が近いだろうか。

川越高校生徒会会長、川﨑俊は魔法とスキルの世界に転生した。


「会長。王国への進行経路の件なんだが…何か考え事か?」

「…ああ。悪い、ちょっとぼーっとしてただけだ。」


この世界では川越高校からの転生者は常人を超越した能力を与えられている。

俺に与えられたのは【無限魔力】

字面だけ見るとスーパーヒーローみたいな能力を想像するかもしれないが、実際の所は誰にでも扱えるような便利な能力ではなかった。

水鉄砲の弾が無限なだけで銃も技術も俺依存。

苦手な数学の問題よりも苦労したよ。

でもこの世界には、覚えれば数学の公式なんかよりも何倍も便利な明確なルールがある。

【強欲な殺戮(グリーディキリング)】

このゲームの本質、それは奪い従えること。

殺した相手のスキルを奪えるこのスキルを利用出来て初めて、俺たちはこの世界のプレイヤーになる事が出来る。

…まあ、俺もこのスキルの事を知れたのは本当に偶然、言っちまえばコントローラーガチャガチャしてたらたまたま裏ルートいけちゃった、みたいなもんなんだけどさ。

その結果として、俺は今前世の姿で転生騎士団という転生者を従えた帝国の軍を率いている。

軍とは言ってるけど、活動内容は護衛や庭の草刈り、家畜の餌やりに魔獣討伐に悪徳貴族の暗殺まで。

初めは情報収集のために俺が個人的にやってた活動が今となっては皇帝直属の精鋭部隊みたいになっちまった。

加入条件は川越高校の関係者であることだから、必然全員強めのスキル持ってるし、精鋭であることは否定しないんだけどさ。


「なるほどね。あんまりぼけっとしてると殺しちまうぞ?」


物騒なこと言う団員だなぁ。

でもこれもこの騎士団のルールだ。

俺は今の自分の姿、【変身】のスキルを使って再現した前世の俺の姿を見て「会長」や「俊」「川﨑」「先輩」と言った言葉を使ったヤツにはもれなく騎士団への勧誘を行っている。

そして加入が決まったヤツには【強欲な殺戮】【ステータス開示】の事も教えている。

教えた上でこうも伝えている

『殺せるんなら俺を殺してもいい。そのときは殺したヤツが皆を導け』と。

今し方物騒なことを言ったのはツィヤック。

オーク族の転生者で、俺が気づいているだけでももう既に十回は俺のことを殺そうとしている。


「…おーおーやってみなー。今度は何?毒殺?夜這い?それともNPK《ひとまかせ》?」

「この前海龍を殺したときに面白えスキル獲得してよ。それを試してやるよ。」

「おー、そりゃ凄い。【水中呼吸】【低級水魔法無効】【水圧半減】【海流操作レベル3】持ってる俺に通用しそう?」

「…そんな魚しか持ってねえようなスキルまで持ってんのかよ会長…」

「何が使えるかなんて、使える瞬間に分かるもんだからね。あと、最近の帝国は俺の進言で海洋資源にも目をつけ始めてる。泳ぐ系のスキルは団員にマストで獲得して貰わないとなぁ。海の上だと戦力になりませんだと、魚人とか海洋生物の転生者相手に無力って事だ。」

「そんな転生者いんのか?考えすぎだろ。」

「そう思うんならそれでもいい。でもなツィヤック。お前もオークだ。」


この世界のルールに『海洋生物には転生しない』等という項目はない。


「俺たちはたまたま二足歩行でこの世界の統一言語を話せる種族だっただけ。中には虫や微生物、それに…」


思い浮かぶのは、真っ白な体と藤紫色の体外器官。


「獣に転生したヤツで騎士団の大半より強くなってるヤツもいる。忘れるな、常にどの生物にも転生者が潜んでいる可能性があるんだ。」

「それって王国で見てきたウサギの転生者か?」

「………ああそうだよ。」


マルル大森林の聖獣のうち、一体は転生者だ。

もちろん広大な範囲に及ぶ森林、転生者がいることはほぼ確実だろうとは思っていた。

だがまさか聖獣と呼ばれるレベルの転生者だとは思わなかった。

…ただ、現時点であれば、俺はまだあのウサギには負けないだろう。

だが他の団員は別で、勝てないヤツの方が多い…というか下手をすれば俺以外誰も勝てないかも知れない。

そのウサギに騎士団を個別にぶつけても最悪一人一人スキルを奪われて終了だ。

そうなれば俺の勝ちの目も一気に薄くなる。

勝てる手札、勝てる盤面、勝てる要素の全て揃った確実な盤面で倒しきるべき相手だ。


「…それで、王国への経路が何だって?前も言ったが、森林を突っ切るルートは無しだぞ。」

「作戦チームが案をあげてた。北方に全力投入がやっぱり一番安定するんだとよ。」

「そうか………」


俺は部屋の壁に掛けられた地図を見る。

北方を山脈、東と南を海洋、そして西を森林に覆われた帝国の立地。

これまで様々な国と敵対することの多かった帝国がこのような立地にいながら生き延びているのは、自然の防壁に守られながらこちらも邪魔されていたから、と言うに他ならない。

海流の流れも前世の知識が当てにならないほど不規則で乱れていて、今のこの国の造船技術では沖から攻め込むような軍艦を作ることは不可能だろう。

となれば必然、森林の外縁を進行していく必要があり、過去の帝国の軍事書物には基本的に北方の山脈沿いに森林を進んでの行軍がほとんどだ。

南方を通らないのは遮るものが少なく、平原の向こうにある王国から進軍を早期に発見される可能性が高いからだ。

だから北方に全力投入は理解は出来るのだが………


「……ツィヤック。今回の作戦のお前のポジションはどこだ?」

「いつも通り最前衛だよ。俺のスキルならそれが一番良いって決めたのは会長だろ?」

「いや、そうなんだが……」


北方に全力投入。森林の外縁。直接的に森に危害を加えなければ聖獣は動かない。戦力の分散は出来ない。王国最高戦力の『滅界』や『凱旋』は必ず北方に来る。なら南方は?誰が守る。行軍すること自体が割れていれば、そもそもデメリットが半減するのは南方じゃないのか?


「ツィヤック。俺良いこと考えた…!」

「出たよ良いこと考えた……大体当たるんだよな、会長のそれ。」

「お前、一人で南から攻めろ!」

「はぁ!!?」


ツィヤックは驚きのあまり手にしていた書類を握りつぶしてしまった。


「いやいや、だから北方に戦力が集中してくるんだろ?だったら俺のスキルで無理矢理前線押し上げた方が良いじゃねえか!?」

「前線を押し上げられるんだったら、それが無理矢理である必要は無いって事だよ。」

「何言ってんだ…?」

「はぁ…お前元バスケ部だよな。ゾーンディフェンスって分かるか?」

「な、何だよ急に…全員がプレイヤーじゃなくて担当の場所を守る戦略だよ。漫画とかでもいっぱい取り上げられてる…」

「そのディフェンスの崩し方は?」

「えーと…パスを速く回したり、空いた場所にカットインしたり…」

「それだよ、空いた場所にカットイン。」


北に最高戦力を投入してくる確率が高いのは向こうも同じはずだ。歴史がそう言ってる。

だったら、北からは攻めなくて良い。

北から攻める素振りだけ見せて、南に前線維持能力のあるツィヤックを送れば良いんだ。


「お前の能力なら、相当の戦力が来ない限り押し戻されることはまず無い。お前が進めば進んだ分だけ前線が上がる。さらにお前のスキルなら、一回進んじまえばその場が最前線になり続ける!!」

「おいおい…それって、まじで俺は一人で南から攻めるって事かよ…?」

「ああ!南はお前一人、俺は中継地点、あとの転生騎士団全員を北に向かわせる。」

「全員って…それワンチャン北からも攻め込めるくらいの戦力だろ…」

「サブプランなんて無いんだよ。今回の作戦は南北両方が本命だ。早速集会だ!!全員集めろツィヤック!!!」

「分かったから落ち着けや会長!」


今回の侵攻の満点は攻めきること、目標はどちらかが前線をあげること、平均点は敵の戦力を分散させることだ。

そうすればそれだけで俺が最後のピースを埋められる。

唯一の赤点、それは聖獣に介入されること。

それが発生した瞬間は、俺も覚悟を決めねえといけない。

あいつらを殺せばいよいよ俺を本気で殺そうってヤツはいなくなるだろう。

そうなれば転生騎士団の組織は根底から在り方が変わる。

俺は転生者達の個人的な標的から共通の敵に変わる。


「…今回の作戦の肝は言わずもがなお前だツィヤック。頼んだぞ【完全防御《フルアーマー》】」

「…けっ。分かったよ。サクッと勝ってスキル手に入れて、すぐにお前を殺してやる。」


そうなればもう後戻りは出来ない。

この世界のプレイヤーとして俺は必ず生き延びる。


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