第二十六話 市場での出会い
現在俺は執務室で仕事をしている。これでも侯爵家だ、通常の仕事だってある。最初はちょっと不安だったが、その辺の記憶は知識として残っていた。
「クラウス、今日の午後は何か予定入っているか?」
「この書類が終われば、午後からはございません」
「わかった、なら午後からは街に行く」
「畏まりました」
午後になり、俺は街の市場の方へ来ていた。一応視察も兼ねているので、クラウスも一緒だ。
「相変わらず活気があるな」
「以前のアルディス様であれば、市場に足を運ばれることも、平民へお声を掛けられることもありませんでした」
「まあ、あの性格じゃ市場なんて行かないだろうな。平民なんて見下してそうだ。平民がいるから貴族もなりたつんだがな」
「…本当に良い方へお変わりになられました」
暫く当たりの様子を伺いながら歩いていると、目の前で老人がよろけた。俺は咄嗟に手を伸ばし老人を支えた。
「おい、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……!」
そう言って俺を見た老人は固まって、顔を青くし謝り始めた。
「す、すみません!お手を煩わせてしまい…お、お許しを…」
「落ち着け、大丈夫だ。俺が勝手に手を出したんだ、気にしなくていい。」
そう言うと、老人は驚き、罰されないとわかると、落ち着きを取戻したようだ。
いつのまにかクラウスが老人が落とした荷物を拾い集めてくれていた。
「ほら荷物だ、中身は大丈夫か?」
「……はい。中身は問題ありません」
「よかった、じゃあ気をつけてな」
「はい。ありがとうございました」
老人が去るのを見届けてから、また歩みを進めようとした時、すぐ近くから声がしたので、そちらを見た。
「へえ、貴族様は随分平民に優しいんだな」
そこには一人の燃えるような赤い髪の男がこっちを見ていた。
随分雰囲気がある男だな…
「ああ、貴族なんて、平民ありきでやってるんだ。立場上、厳しく接することはある。でも、それと人を見下すのは別だろう?」
「ふーん、変わった貴族様だな」
「最近よく言われる」
「ははっ!本当変わってる!あんたみたいな貴族もいるんだな!」
そんなことを言って男は観察するようにこっちを見てくる。
俺も男の独特の雰囲気に、ゲームに出ていたキャラかとおもったが、こんな男は知らない…
「面白えもん見せてもらった。じゃあ、またな貴族様」
そう言って男は去って行った。
「クラウス、さっきの男しってるか?」
「いえ、存じませんが…随分雰囲気がある方でしたね」
またな…か、ただの挨拶か?…
アルディスから離れた赤い髪の男は、さっきのやり取りを思い出す。
確かに昔とは違うようだな、
『悪いけど、悪くない貴族』
面白え…
様子見て、また接触してみるか…
あいつらには、手を出すなとも言っとかねえとな。
その頃の俺は…
「クシュンッ!…」
「アルディス様、お風邪でしょうか?」
「いや…誰かが噂してるかもな」
「先ほどのご老人かもしれませんね」
「ああ、驚かせてしまったからな」
こんなやり取りをしながら、市場を見て回っていた。
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