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無原罪御宿の吸血鬼 ヴァンパイア・イン・イマキュレート・コンセプション 悪女と呼ばれた記憶喪失の女は、凶悪吸血鬼の血を宿して新生する  作者: ごっこまん
3.ラムシング訪問

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015 獣追い

   †


 もう嫌だ! もう懲りた! 絶対に辞めてやる! 今度こそ縁を切ってやるぞ! 四公の地位をもらえたって、金輪際復帰の話には耳を貸さん!


 囚われの身から逃れた中年殺し屋が、みっともなく泣きべそをかきながらミルズの森を走る。既に出だしから息が切れそうだった。吸血鬼に血を吸われたせいだ。血と一緒に体力をごっそり持って行かれてしまった。


 泣き言は心の内で済ませる。


 牢にぶちこまれる前に騒いだのが功を奏して、助けが来るのが早かった。おまけに吸血鬼避けの銀フォークまで持たせてもらった。さすが手際が良いぜ、ご先代様様だ。稼いだ時間は無駄にはできない。


 とにかくあの屋敷に居続けることだけは具合が悪い。一刻も早くここを離れよう。妻には悪いが、里帰りまで顔を合わせられないだろう。


 稼ぎ損ねたと伝えたら、きっと悲しい顔をする。その代わり、妻子共々目一杯愛情注いでやるからな。


 鼻が焦げ臭さを拾った。先代の話では、勢子組は狼煙を上げている。合流し、ウマに乗せて一緒に撤退する。


 今度こそ逃げてやる。今度こそだ。


 喘鳴が白く、森の霧に混ざっていく。


   †


 日が高く、早めの昼食を済ませた父子三人が、ミルズの森を行く。


 道すがら、灌木の雪を払うと、摘み逃れたブルーベリーが生っていた。


 トナカイの悪食を逃れた森の恵み。摘まみ食いは獣追い当番の特権だ。


 見つけた兄が父と弟を呼び、仲良く三人で分け合った。一番大きな粒を見つけた弟は兄にやり、鈴生りを摘んだ兄は弟にやる。父は我が子の睦まじさで腹が満ちるので、未熟な一粒で充分だった。


 口寂しさを紛らわせたら、残りは摘んでその辺に蒔く。育てば次も実るだろう。鳥獣の寄りつかないミルズの森では、人間が播種を担っていた。


 種蒔く手を止め、じっとブルーベリーを見る弟に、父が気づく。


「何だ、食いたいなら食っちまえ。男同士の秘密だぞ」


「おっとう」弟はたどたどしく言った。「これ、ヘーゼルと一緒にいた姉ちゃんに、やっちゃダメかな」


 せかせかと蒔いていた兄も、手を止めた。父の歯には果皮が挟まっていた。水筒を口に含む。歯の詰まりをゆすぎ、父は膝を折り、弟と目の高さを同じにした。


「あのな。あの人はな、村ができるずっと前から入っちゃいけないって決まってた所に、勝手に入っちまったんだ。んな無礼者にフスマ一つだってやる義理はねえんだ」


「そりゃズルだよ」兄が頭ごなしに仁王立ちした。「おっとう、あそこに入って生きて帰ってやっと一人前の男だとか何とか、俺は本物の男だとか、自慢してたろ」


「おま……いつの間に生意気な口を覚えて……」父は決まりが悪そうに目を泳がせる。


「ねえ、おっとう」弟の話に逃げる父。「あの人、女の人なのに銃をかっこいいって、獣追いに行くって言ったら、ご苦労様って言ってくれたよ。悪い人じゃないよ。きっと悪いことだって知らなかっただけだよ」


「それは……そうかもしれんが、でもなあ……」


「谷の方よりも、森のが楽しいって、教えてあげようよ。美味しい木の実がいっぱいだって教えてやったら、何もない谷に行こうとか、考えらんなくなるもん」


 父が噛んだ果皮は渋いようだった。ただ、半ば凍った果肉の歯触りは良かった。


 人間、偉ぶって酸いも甘いも噛み分けたつもりになっちゃ、お終いか。


 歳若い息子の無垢に毒気を抜かれていると。


「ねえ、おっとう。あれ」


 兄の方が一点を指す。四つ足の獣の陰。父は猟銃の引き金に指をかけ、外した。目をすがめる。


「ありゃあ……」


 青霞む木立の合間にあるのは、ケナガウマの姿だ。


「……どこから逃げてきた? 宿場の方か?」


 ミルズの森周辺でケナガウマを飼うのは狗人(クー・シー)か宿場町の借馬屋、伝馬駅あたりで、ラムシング村で保有する頭数は片手にも満たない。狗人のウマなら近くに飼い主がいるはずだ。


 父は猟銃を下ろした。


「追払わないの?」


「ありゃウマだ。ちょっくら様子を見に行こう」


「ぼく先に行きたい!」


 許しを得る前に、弟が先走る。「全く、ガキだな」兄に苦笑する父。そう言うお前もまだまだガキだろうが。「は? うっざ」兄も父から離れて先を行く。父が謝りながら追う。


 それにしても大人しいウマだ。人が近寄る気配など意に介さない。


 尻尾も揺らさず、耳も絞らない。


 いや、いくらなんでも動かなさすぎじゃあ……。それに、何だ。焦げ臭いぞ。


「うぎゃあ!」


 弟が悲鳴を上げて逃げ帰ってきた。遮二無二、父の脚に縋りつく。何があったか訊いても泣いてばかりいて埒が明かない。


「大丈夫だ。おっとうが見てきてやる」


 ただ事ではないと察した父が、弟を兄に預ける。足元から雪を一すくい、口に詰めて、呼気を澄ませる。


「銀弾込めとけ。弟をしっかり見てろよ」


 父が自身の銀弾を猟銃に込めるのを見て、兄は息を呑んで頷いた。自分も父に倣って雪を食らい、弟にも言い聞かせて口に含ませる。


 銀弾とはいわゆる“隠し弾”……猟師の持つ魔除けの銃弾である。この時代においては銀――吸血鬼の弱点で鋳造、ないしメッキが施されていた。


 父が先行する。ウマの姿が鮮明になるにつれ、父は口を押さえた。


 ウマは、首を斬られていた。

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【悲報:作者、読者の自由を知らない】

作者やけど、リメイク前のやつブクマ数伸びてまた並んでしもた。どういうことや。

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