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無原罪御宿の吸血鬼 ヴァンパイア・イン・イマキュレート・コンセプション 悪女と呼ばれた記憶喪失の女は、凶悪吸血鬼の血を宿して新生する  作者: ごっこまん
3.ラムシング訪問

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009 恩人憎し、仇敵優し

 そこでやっと経験豊富な女衆が戻って来た。軽食を持ってな。二人に作ってやってたんだと。二人は女衆にスペイを任せて、一息入れようとしてたと思う。


 俺はスペイの体調が気になって、ちょっと目を離していた。


 その間に、二人はキャスパーと何か話していたようだ。


 何を話していたか知らんが、アルデンスさんが血相変えてエレクトラさんの手を引いて玄関に進んで行った。まだ食事に手もつけていないのにだぞ。


 何事か訊くと、足も止めずに二人とももう発つって言うんだ。


 意味がわからないだろ。たった今到着して、泊まらせてくれって言った舌の根が乾かない内にだぞ。二人ともスペイのことを女衆に任せて、解いてもいない旅支度のまま外に出ようとするんだ。


 咄嗟に呼び止めて「最後まで面倒見てくれないか」とお願いしたときだ。さっきの陣痛の仕組みを話してくれたのは。


「そんなに長居はできない」


 話は終わりとばかりに二人は玄関を跳ね開けちまった。


 さすがに気になってな。スペイが心細そうに俺の裾を引いてきたんだが、すぐ戻ると約束して二人を追った。


「おい待て、発つったってどこへ行く気なんだ」


 ラムシング村の立地は極端でな。禁域のある渓谷の方か、宿場町に繋がる森の方か、道は二方向にしかない。


 当然、禁域方面なんて誰も通す訳にはいかない。どん詰まりの村なんだよ、ここは。


 じゃあ宿場町に行くのかって、二人が来た道を引き返すだけじゃないか。じゃあ何でわざわざこの村に来た? 素直に宿場町で泊まっていれば良かった、って話に戻っちまう。


 嫌な予感は当たったよ。


 渓谷の方に行くって言って聞かないんだ。


 止めたとも。だが頑として耳を貸してくれない。せめて理由を教えてくれ。明日の朝じゃダメか。引き留めるために手を変え品を変え質問攻めにしたが、結果はもう知っているだろう。


 遂にはアルデンスさん、剣を抜くことを仄めかしてな。


「止めるならまずあなたを斬ります。その後、あなたの奥方も、子ども諸共」


 無茶苦茶だ。助けてくれた人とは思えない。だが、事実そう言ったんだ。


 玄関先に俺だけで良かったよ。さすがに今のは、誰にも聞かせられない。


 言ってもまだ柄に手をかけているだけだから、腕尽くで取り押さえてやろうかとも考えた。だが、アルデンスさんは俺の考えを読んだみたいに、いちいち俺の間合いから外れやがる。


 アルデンスさんだけじゃない。エレクトラさんに至っては、脅し文句に同調して、真っ先にナイフを抜いてきやがった。例の魂の抜けた、深刻な面持ちでな。


 脅迫を主導するアルデンスさんの方がまだいっそ人の心を残した面構えしてくれてるって、何の冗談かって。


 いくら何でもこりゃまずい、ってのはわかってくれるよな。


 仮にも将来のご領主様の邸宅で、しかも妊婦や新生児が集まる今の時期に刃傷沙汰は、さすがに見過ごせない。これでも俺は領地が成った暁に騎士爵を叙勲する。村の安全を守ることは俺の責務なんだ。


 恩人憎し、仇敵優し……ここで騒げば確実に俺は斬られるし、騒ぎを聞きつけて助けが来る頃には、二人で禁域を強行突破するのは目に見えている。ここで頑固に引き留めたって、二人が罪を余計に重ねるだけだった。


 だから、苦し紛れだったんだ。


 二人を村から追い出すという名目で、渓谷の崖道を通ってもらうことにしたのは。


 そもそも、禁域ったって村人は当たり前のようにそばを通っている。近寄るなったって、子ども向けの説教みたいな感覚なんだ。


 確かによそ者を通すのはバツが悪い。だが、実害なんてこれまで何もなかった。度胸試しで入った奴なんてごろごろいる。実際そんなもんなのに、よそ者だからって意地張って追い返す理由って何だよ。


 考えている内にドツボにはまっちまった。


 もう、二人の好きなようにやらせるのが得策だと本気で思っちまった。


 皮肉なもんだ。剣をチラつかせたアルデンスさんは、その瞬間恩人から無法者に早変わり。それを追い出せば俺の顔も立つし、二人も出立できるときた。今思い返せば、上手いこと担がれたんだな。


 二人は、橇もウマも置いて行ったよ。


 道すがら、どうして引き留めたのかって尋ねられた。無理もない。大地震から地図の更新も間に合ってねえから、地図通りの道が残っていると勘違いして迷いこむなんて話は、連邦中にごまんとある。


 地形が変わっていることを教えてやった。最終警告のつもりで、引き返すか尋ねた。さっきのことは忘れるともな。


 勘違いがあったなら、考え直してくれると思っていたが、ただ俺の頑なな態度に理解を示してくれただけ。


 二人の決意は固かった。


 何がそこまでさせるのかわからなかったが、訊いてもだんまりだ。


 口を割るまで先を通さないでみようかと考えたが、アルデンスさんの手はずっと剣にかかっていて隙がない。手の打ちようがなかった。


 関所は上手い具合にイーリャお嬢様お一人だったから、一芝居打って村に帰した。エレクトラさんとアルデンスさんには、近くの藪に隠れてやりすごしてもらったんだ。


(イーリャが慌ててベア院長に泣きつく一幕があった。「し、仕方なかったんです院長先生」ベア院長は「うろたえるんじゃないよ、ガキが」と一喝。イーリャは縮こまった)


 ベア婆さん、お叱りなら後でまとめて受ける。


 それで関所を開けて二人を見送った後、関所の電話でヘーゼルに話をつけて、後の心配は要らないと思いこんでいたんだが……。


   †


「あのとき、引き留められる理由ならいくらでもあった。そうしなかったのは、二人の必死さが……いや、個人的な恩義を返したいあまりに、俺が先走ってしまったせいだ。俺が軽率だったばかりに、アルデンスさんは……エレクトラさんまで記憶を失くして、吸血鬼の器になっちまった。この上、身重だったとは……。こんな過ち、一生かけても償えるとは思えん。思えんが、どうか、これだけは言わせてくれ」


 すまなかった。エリーをじっと見つめるロバートは、償いを受け入れた罪人の面構えでエリーからの沙汰を待っていた。“手当て”の手はスペイに渡り、夫の冷えた手に重ねられている。


 背中に負う陽光が、エリーに重く注がれている。

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