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無原罪御宿の吸血鬼 ヴァンパイア・イン・イマキュレート・コンセプション 悪女と呼ばれた記憶喪失の女は、凶悪吸血鬼の血を宿して新生する  作者: ごっこまん
2.最初の朝餐

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024 引き継ぎ報告会

 ミキの柏手が、耳目を集めた。


「さて。交友を深めたところで、引き継ぎ報告会だよ。いつものよりずっと真面目なね」


 知っての通り、エリーを巡る事態は前代未聞で、早急な調査と対策が必要な重大案件である。


 エリーと胎児の命がかかっている以上、護律協会ラムシング支部は平常通りの運営とはいかない。シフトを組み直し、日常業務とエリーの護衛を同時に進められる体制を整える必要がある。


「この辺の仕組み作りはアタシと院長で追々やるけど、いかんせん今はまだ初動だからね。筋を通すのは後回しにしちゃおうか。ヘーゼル、禁域で探し物、頼めるかい?」


「物によるッス」


「おや、珍しく弱気だね。触媒をね……うーん、アタシの見立てだと、銀製で、エリーさんが身に着けられるくらいの小さな物なんだけれども」


 ヘーゼルは渋面でうつむいた。


「今ちょっと鼻が詰まってて、匂いを追えないッス」


「まあ大変! 風邪でも引いたら一大事です! 教官、今すぐヘーゼルを我が家へ! ヘーゼル、熱はありませんか? 喉は? 食欲は?」


「イーリャ、とりあえず後でね。……じゃあ、捜索はアタシが受け持つよ」


「あ、それなら」エリーが手を挙げる。「私、ヘーゼルから借りたナイフ、廃墟で落としちゃって……。ミキさんにお願いするのは筋違いかもしれませんけれど、一緒に拾ってもらえたら……」


「もうある」ヘーゼルがめっちゃ持ってた。


「弁償額教えたら血眼で探してくれたよね」何でミキさんは自慢げなんですか。


「ごめんね、ヘーゼル。ちゃんと返したかったんだけれど……」


「気にすんなって。ちゃんと戻ってきてんだし……ガチで、ガチで見つかって、良かったあ……」


 どうやら、思い返すだけでも生きた心地のしなくなる値段がつく代物らしい。そんなとんでもない代物を気軽に貸すのもどうかと思ったが、全てはエリーのためを思っての行動なのだ。悪いのはエリー。これから借り物の管理は厳しくしていこうとエリーは誓った。


「ナイフ探しのこともそうだけど、トラブル続きでヘーゼルの体調も心配だし、村に帰そうか。すると……参ったね。イーリャ一人に対して吸血鬼と捕虜の二人。監視させるのは負担だよね」


「教官のご下命でしたら断る理由はございませんが……」


 イーリャが言葉を濁す。エリーに一抹の不安が芽生えた。


「イーリャさんって、そんなにお強いんですか?」


 運命の悪戯とはいえ、殺し屋の人質になって取り乱していた人に務まるのかしら。失礼ながらエリーにとっては切実な懸念である。


「アタシほどじゃないけれども、この子は結構頑張ってるよ。ただ……何て言うか、生け捕りとか器用なことは……きっといつか身につけてくれると信じているのだけれども……ははは」


 不安を誘う言い方しないでください。


「場合によってはアタシより危ないかもね。ま、安心して。悪いことしなきゃ死なないから」


 不安的中しちゃったよ。


「極端すぎませんか!? 今までだって生きた心地がしなかったのに! この上まだ締めつけをキツくされちゃ、私、持たないですよ!」


「アルフレッドを自力で抑制する方法を考える良い機会だと思ってね」


「無理ですよ! あんなビックリ箱!」


「おやおや、アタシの言ったことをもうお忘れかい? 話し甲斐がない子だね」


 ミキさんの言ったこと……? 虚を突かれたエリーの脳内に、光る内省があった。


「……あの、教官」


 二人が言い合う間に熟考したイーリャが口を開く。


「私、露術が使えると自惚れていましたが、教官のおっしゃる通り、私は自分の身を守ることさえままならない未熟者です。単に敵対するのみでしたらまだしも、エリーさんと赤子のお命を預かる大任は私の手に余ります。吸血鬼が表出した際にためらって、取り返しがつかなくなる恐れも……」


「この子ヘーゼルとチュー以上のことしたよ」


「うおい!?」「ちょおい!?」添い寝コンビ、赤面の雄叫び。


「は……? 何ですって? あなた、泥棒ネコだったの……?」


 眼光に殺戮の化身を宿すイーリャ。エリーと握手した手は、容赦なくハンカチで拭われた。


「よくもまあ汚らわしい手で私に……涼しい顔でいけしゃあしゃあと……心にもないことを言えましたね……このみすぼらしく下賤な略奪者めが……凍土に穀倉を築かんとすコシノフの無謀を知るが良い……!」


 地獄の底から響く声だった。


 どうしよう。私、終わった、たった今。エリー、辞世の句を胸に抱く。


「ま、待てって!」


 耳まで赤くしたヘーゼルが、嫉妬の視線に割りこんだ。リードを握られているせいで、イーリャに詰め寄る体勢にせざるを得なかった。恥じらうヘーゼルが珍しく、イーリャは眼福の幸せに浸る。好都合とばかりにヘーゼルは言い聞かせた。


「ヤったのはアルフレッドだかんな!?」


「何のフォローにもなってない!」エリーが後ろで嘆いた。


「ああ、可哀そうなヘーゼル。さぞつらかったことでしょう。でも、もう安心なさい。万が一そちらの方が一滴でも汚らわしい吸血鬼の片鱗を漏らそうものなら、あなたへ毒牙が及ぶ前に私が洗浄してあげます。……一挙手一投足、見ていますからね! 覚悟なさい!」


「やる気充分で結構。頼りにしてね、エリーさん」


 わ、わあ、何がどうなったの。断られかけた監視が引き継がれちゃった。


 なのに何か余計な私情がオマケされて、何故か欲しかった手心が抜かれているんだけれども! 監視の中身が変わっちゃってませんか!


「とは言え、パワーバランスの不安を解消しないことにはと……」


 エリーが目で訴えても、決まったものとして話が進む。ミキが指を鳴らす。


「もうダルいから、院長巻きこんじゃおっか。君たち三人、ラムシング村行きね」


「院長さん?」エリーの疑問に「村で修律院の頭張ってるババア」とヘーゼルが補足する。


「お言葉ですが、早計では」口汚いヘーゼルの首輪を引き、イーリャが早口で挟む。「吸血鬼を、それも命を狙われている方と人里に下ろすなど……」


 エリーもその意見に追従する。ひとたびアフルレッドが暴れでもすれば、止められる保証はない。それだけでも始末に負えないのに、エリー自身も殺し屋を村に招く悪因だ。


「二人とも、問題の一側面に囚われすぎだよ」ミキが指を振る。「殺し屋のことは心配しすぎ。そりゃ、倫理的にもダメだし、吸血鬼が死人に成り代わる危険もあるし、捕まれば極刑だし。ぶっちゃけ若隠居も何の得があって()るのかが理解できてません! ただ、それだけにちゃんと後ろめたさは自覚しているみたいだよ。わざわざ人目のつかない場所を選んで襲撃した連中なんだからさ。村では逆に動けないんじゃない? 万が一襲われてもアルフレッドには返り討ちにして良いって言い含めているし。それに、イーリャと院長が目を光らせてくれればアルフレッドも大人しくしているよ」


「わざわざ危険を冒してまで選ぶ道ではないと申し上げているのです」


「だから一側面に囚われすぎだって。保護と監視の他にも、エリーさんの正体を探らなきゃならないんだ。エリーさんが狙われている理由も、正体がわかれば浮かび上がるかもしれない。エリーさんはバーンズ夫妻と面識がある……ああいや、逆か。ともかく、身元を特定する手掛かりが同行者の荷物の他に残されているとすれば、村以外にあてはないよね。遅かれ早かれ、村には同行してもらうよ」


 確かに、ミキの言うことにも一理ある。エリーも自分が何者かわからないままではいられない。しかし、大勢の無関係な人を危険に曝してまで、強行すべきこととも思えない。


「だから言っているんだよ」


 決めるときは決める。それを信条とするミキが、凛とした声をエリーに届ける。


「エリーさんには、アルフレッドを自力で抑える方法を身につけてもらいます」


 自分には無理、とか言わないよね。仮面の奥で推し量る瞳が、エリーを試している。


「無謀です! 必要性は理解しましたが、実行するならもっと時間を!」我慢ならず、イーリャは食卓を叩いて立ち、ミキに迫った。


「やります」エリーは涼やかに応えた。


 イーリャの剣幕を買う。


「あなた一人の我儘がどれほど……!」


 エリーは塵ほども怯まなかった。


 青い瞳は、コシノフ家が挑み続ける凍土に似て冷たく、鋭い。


 逆にイーリャが静かな迫力に呑まれてしまった。

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