表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無原罪御宿の吸血鬼  作者: ごっこまん
2-1/2.最初の朝餐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/140

004 女と血の境界線 4/4:血がテメエを守る

【あん? 自由になることに決まってんだろ】


「自由になって、それでどうするの?」


【ふん。それこそオレの勝手だろ】


 静寂。エリーは不貞腐れた風にだんまりを決めた。気紛れにアルフレッドが静けさを破る。


【ま、オレたちに寿命なんざねえし。その辺ぶらぶらして、腹減ったら食って、眠いなら寝て、殖えて……目的なんてもんもねえ。生きるだけ。食用種も大多数そんなもんだろ】


「だったら絶対あんたを出さない」


 エリーはきっぱりと言った。


「何度でも言うわ。人を傷つける時点で話にならない。私の身体から出るために犠牲を出す。出たら出たでもっと犠牲を出す。血なんか一滴だって飲んでやるもんですか」


 血鏡の向こうで、アルフレッドは肩をすくめた。


【オレたちが人間を眷属にする方法、理解してんのか】


「いきなり何の話?」エリーは眉をひそめた。


【良いから、答えろ】


「……人間の血を吸って」


 アルフレッドが鼻で嗤い飛ばした。


【やっぱその程度で理解が止まってんのかよ。ま、拝露教徒でもねえ食用種ならそんなもんか。良いだろう。お勉強の時間だ】


 血の鏡面が揺らぐ。鏡面の端々から波紋が集まり、波の丈が伸びて、一滴の雫を弾き出す。


 普通の血ではないと、エリーは直感した。


 アルフレッドの血は、鮮やかな赤だ。けれども、この一滴は膿んで、淀み、肉の色みに褪せて、爛れている。


 何かを患った血のようだった。


「何、この血」血の色に魅入られていた。


【触んじゃねえ!】


 怒鳴られて驚き、エリーが反射的に手を引く。患った血が、棘と化して虚空を突いた。間一髪で刺さるところだった。


 エリーに戸惑いを残して、患った血は血鏡から伸びた蔓に絡められる。患った血は激しい抵抗も虚しく呑まれ、溶けた。


【この先、間違っても、ああいうのに触んじゃねえぞ】


 ずっと余裕ぶってきたアルフレッドが、珍しく声を強張らせていた。


(今の血は、一体……?)


 吸血鬼の血も不思議だけれども、今の患った血はもっと不可解な何かがあった。


【今見せたのは、オレたちの始祖そのものだ。原初にして唯一の、()()()の血だ】


 忌々し気に、鏡像の口の端が歪んだ。


 始祖――胤族の宿痾(しゅくあ)だと、アルフレッドは語る。


 老廃した胤族の血は、始祖に変異する。


 始祖の割合が増えすぎると精神に異常をきたし、やがて心身ともに乗っ取られてしまうという。


【だから、溜まる前に捨てなきゃなんねえんだが……一応、こんなもんでも使い道がある】


「まさか」


 血の鏡像が、神妙に頷いた。


【始祖を体内に注入された生物は、漏れなく新しい眷属にお迎えだ】


「……待って待って、それって、ちょっと!」


 アルフレッドの血にも、始祖が流れている。その血を宿したエリーも、始祖を――。


【落ち着け。今はオレが始祖を分散させて包んでっから、すぐ変異するこたぁねえよ。これに関しちゃ信用しろ】


 アルフレッドに請け負われたところで安心できない。エリーが怪しんでいるのがバレたのか、アルフレッドが言葉を選ぶ素振りを見せた。


【テメエが一滴でも始祖に触れちまったら、連鎖反応(カスケード)で体組織が全部、血液に転化される。そうなりゃ、今のオレじゃあ物量差で押し負けちまう。仮に最低限の血を補給した後でも、テメエと争い合って消耗しちまうしな。んなヘマは犯さねえよ】


 エリーは早打つ心臓に手を当てて、深く息をつく。今の説明で自分を納得させた。ひとまず、アルフレッドが身体の中にいる内は、吸血鬼にされる心配はない。


「でも、始祖の血が増えたらどうしたら良いの」


【わかんねえか? 水とか銀器とかに捨てんだよ。弱点は一緒だ。それよか問題は、そうやって捨ててばっかいると、オレの身体が減る一方だってことだよ】


「ハンッ、良い気味よ。じわじわ消えてしまえば良いんだわ」


【そんときゃ、テメエはさっきみてえに頭の傷が開いて死ぬか、眷属になって拝露教徒に殺される。へへへ、残念だったな!】


「……だから、どう足掻いても血を吸わなきゃ、私も危ないって言いたいのかしら」


 アルフレッドが拍手を添えて頷いた。


【よくできました。花丸くれてやるよ】


(だからって……とんだとばっちりよ)


 エリーは、大勢の人を傷つけなければ、長くは生きられない。アルフレッドの言うことを信じるなら、だけれども。


【覚えておけ。テメエがどう思おうが、血がテメエを守る】


 エリーは表情を隠すように俯いた。しかめ面で考える。


 この吸血鬼を頭から信じるには、まだ早い。


 アルフレッドは護律官のミキには敵わなかった。吸血鬼に詳しそうな彼女に助言を求めるまで、返事は留保してしまえば良い。アルフレッドは拒めないはずだ。


「今すぐあんたに従うつもりなんか、ないわ」


【これだけ言ってもわかんねえのか】アルフレッドは、大きなあくびをした。【だとしたら、悪いことしちまったなあ】


 眠気混じりにじろじろと、得体の知れない笑みでエリーを見下ろしてくる。


「……何よ」


 アルフレッドの笑みが頬に裂ける。


【テメエがおしゃべりに夢中になっている内に、人狼の小娘の血を少々失敬しちまった】


 息を呑む。問いただすエリーを差し置いて、アルフレッドが【もう寝る】とだけ言い残す。


 次の瞬間には、全く見覚えのない場所で、エリーは目を覚ましていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ