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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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129.メクシート

ミネアからマリムに戻ってきた。


ある意味、プライベートビーチで遊んで帰ってきたって言えなくもないんじゃない?

本当にアイルは楽しそうだった。

まあ、あんな遊び方って普通は出来ないだろう。

大量の火薬を使って、砲弾を打ちまくってた。


しかし……五月蝿い実験だった。

まだ頭の中で砲弾の音が鳴り響いているような気がする。

いや、比喩とかじゃなく鳴り響いてるな……。これって何時まで続くんだ。おさまるよね。


あの実験では飛距離で砲身から射出される砲弾の初速度を測ってたんだよね。

アイルは砲身に速度測定用の装置を付けていたらしい。

それなら、海に向けて砲弾を打つ必要は無かったんじゃないかな?

測量している騎士さん達は大変そうだった。

ひょっとしたら、風向きでどうなるのか測定したかったのかも知れないけど……いや、どこまで飛ぶか知りたかっただけなのか?

ふむ。遊んでたとすると納得だな。


結局、黒色火薬を使った砲弾はそれほど脅威じゃないって事ははっきりした。

黒色火薬を使っている限りは、射出速度は簡単には上がらない。

高精度の砲身や砲弾が作れればだけど、多分それは無理な話だ。

軽い砲弾だと射出速度を上げられても空気抵抗で直ぐに減速してしまう。


飛行船に攻撃しようとしても、飛行船がd2,000デシ(=346m)程度上昇すればあたったとしても威力は殆ど無い。d3,000デシ(=518m)まで上昇すれば中ることは無い。


結局実用的な砲弾の重量はd10キロ前後、d30キロぐらいまでだった。

それ以上の重さになると火薬の量も大量になる上、爆発力に砲身が熱に負けてしまって1刻(=10min)に1発打つのがやっとだった。

肉厚にすると爆発には保つけれど放熱が上手くいかない。


戻ってからはアイルは報告書を纏めてた。まあ、前世でもやってた研究レポートの作成だね。慣れたものだ。

私は、黒色火薬の成分比と爆発力について纏めておいた。


まずはアウドお義父とう様に報告しないとならない。

その内容が王宮に伝わって、騎士達の用兵の参考にする筈だ。

そこから先は私達は知らないよ。専門外だからね。


報告書が纏まったので、夕食後に打ち合わせをすることになった。


「いや。良く解った。

報告書に纏めてもらって助かる。

これで王宮に報告が出来るな。

ソドからも色々話は聞かされていた。ただ、ソドは凄かったを連呼するだけで、王国の兵器に採用するべきだと熱弁されてもな。

ソドの話では全く実態が分からなかったのだ。」


そう言って、お義父とう様はお父さんを睨んでいた。

ムリだよ。お父さんに技術解説なんてものを求めてはいけない。


「しかし、凄まじいものですな、その大砲というのは。それがあれば、遠くに居る敵兵に攻撃できるのですか?

万一、敵がこのような武器を使うようになったらと思うと恐しいことです。」


同席していたグルムおじさんが肩を竦めた。


「それで、ソドが王国の兵器として採用するべきだと言っていたのだが、どうなんだろうか?」


「いえ。当面は採用しない方が良いと思います。」


アイルが応えた。まあ、この手の話はアイルにお任せしておけば良いだろう。


「しかし、強力な兵器なのだろう?」


「それはそうですが、王国で大砲を兵器として採用すると、かならず他国は真似をします。

王国は、他国が大砲の様なものを開発した時に対抗すれば良いんです。

何も無いうちから、沢山の人やモノに被害を及ぼす兵器を持つ必要は無いです。

それに、こちらには飛行船があります。

それなりに質量のあるものを上空から落下させれば大砲と同じような威力を与えることができます。

他国に飛行船は簡単に作れないでしょうし、性能も簡単には上がらないと思います。」


「なるほど。飛行船という代替手段が在るのであれば、この兵器の事は知った上で隠蔽しておいた方が良いという事か。」


「そうです。そして、一番の違いは、大砲は戦争にしか使われないものですが、飛行船は普通の生活で役に立つものです。」


一度目にしてしまうと、それを真似たものを作るだろう。

それが自国民の命や自国の存続に関わるものならなおさらだ。

そして、それがどんどんエスカレートしていく。

前世で人類は原子爆弾などという悪魔の兵器を作った。当然のように、大国はそれに追随した。

そして、よせばよいのに水素爆弾などというとんでもないものまで発展させていった。

あれは……踏み込んんではいけないところまで踏み込んでしまっていたな。


「そうか。さて、王宮に対しての説明をどうするかということになるな。この資料は先方に渡す必要があるが……オレやソド、グルムが動くのは目立すぎるな。」


「じゃあ、ボク達が行きますか?」


「いや、先日の話にもあったように、アイル達には動いてもらう訳には行かない……。

なあ、アイル。飛行船というのは妊婦が乗っても大丈夫なものか?」


「えっ?妊婦……ですか?」


突然、何の話なんだ?

えっ、ひょっとすると……。


「ああ、先日判ったんだが、フローラが妊娠したらしい。」


「ひょっとして、お母さんもだったりするんですか?」


「ああ、そうらしい。」


お父さんが嬉しそうな顔をする。

聞いてなかったよ。

あっ、外に出てる時に判明したのかな?それなら納得だな。


しかし……この二人は何故に何時も同じ時期に子供を授かってるんだ?


「えーと。極端に上空を飛行するんじゃなければ問題無いと思いますけど……。」


アイルがそう言いながら私の方を見る。

いやいやいや、私も知らないよ。そんな事。

でも、気圧の問題だけなら……高層ビルに妊婦さんが行ってはまずいという話は聞いたことは無いな。

他に何か問題になりそうな事ってあるのか?

うーん、無さそうだな……。


「ええ。多分大丈夫ですね。アイル。飛行船には気圧計とか高度計とか付いていたわよね。」


「ああ。何度か改造したときに、アトラス領にある飛行船には気圧高度計と電波高度計を取り付けてある。

あっ、そうだ、王宮に渡した飛行船には未だ積載してなかったな。取り付けてもらう改造部品を運んでもらっても良いかも知れない。大砲なんて他国が作るかどうか判らないけど、説明の足しにはなるな。」


「それなら、妊娠の報告に合わせて飛行船の部品を運ぶという事でフローラとユリアに王都に行ってもらえば良いな。」


「だけど、妊娠の報告って態々実家に行ってする事なんですか?」


「まあ、実家が離れていたら普通はしない。でも、ウチには飛行船があるんだぞ。妊娠したと実家に顔を見せに行っても変じゃないだろ?」


まあ、この世界の普通がどこら辺にあるのか全然分からないから、こういった事はお任せだな。


「それじゃ、この書類は二人に運んでもらおう。王宮に書類が着いたところで無線で会議になるな。その時はアイルとニケも参加してくれ。」


それから、天候の状態を見てお母さん達が王都に向かう日を決めることになった。


ようやく、黒色火薬の件は片付きそうだ。


帰宅した翌日は、久々のメーテスだ。


キキさんの話では、順調に紡績工場は稼動し始めたらしい。

アイルが写真フィルム製造のためのの装置を作ると言って私を巻き込んだ。

樹脂フィルムを作るための方法を幾つか教えてあげた。


一般的に樹脂フィルムを作る方法としては、溶融した樹脂を押し出し機でダイから吐出して巻き取る方法がある。ただリタデーションが発生することが多い。

カメラフィルムなら、複屈折が少ないほうが良いんだろうから、溶媒を展開して溶媒を乾燥してから剥ぎ取る方法が適しているかもしれない。

アイルは試作機を作って確認すると言っていた。

いいよね。簡単に製造装置が作れるのって。


週末は准教授の相談に乗ったりして過した。

久々に平穏な研究生活だ。


翌週の二日目の夕飯時に、アイルが夕食後に天文台に行くと言い出した。

メクシートについて何か進展があったらしい。


天文台に行く話を食事中にしていたら、フランちゃんとセド君も付いて行きたいらしい。

まだ、二人とも4歳と幼ないんだよね。

お母さん達は、8とき(=午後8時)までに戻ってくる様にと二人に言い含めていた。

そのお母さん達はお母さん達で、明日の朝、王都に出発することになっているんだよね。


フランちゃんとセド君が一緒なので、侍女さんや騎士さんを何人も引き連れて天文台に行くことになった。


天文台に着くとダビス准教授とピソロ准教授が揃って居た。


「メクシートの件で進展があったそうですね。」


早速アイルが二人に問い掛けた。


「ようやっと写真で星の移動量が判別出来るようになったんですよ。そして王宮から来てくれた文官の人たちの協力で大量の結果の計算を終えることができました。

それで、メクシートが破裂した時期について概算が出たんです。」


ダビスさんが得意気に話している。


「それで、結果は?」


「現時点ではd200,000年(地球時間で約60万年)前からd600,000年(地球時間で約180万年)前の間に発生した現象だと思われます。」


「精度があまり良くないようですね。その理由は?」


「それは、まだ変位が小さいこともあるのですが、同じ写真の中でもバラツキがありまして…… 」


アイルと二人の准教授が計算結果について議論を始めた。


計算に使った写真乾板を何枚か見せてもらった。まだ移動量はそれほど大きくないな。

そもそもの、この移動量を測る精度が怪しいかも知れない。


アイルと二人の准教授が議論している後ろに6人の人達が居た。手助けに来てくれた文官の人達だろう。

アイル達の議論に参加する訳でもなく、手持ち無沙汰そうに立っている。


あれ?何か見覚えのある人達だな。


あっ。そうか。キキさんの工場を建てるときに居た文官の人達だな。


名前は……ふむ。無理かな?まあ良いでしょ。


「ご苦労さまです。今は夜勤なんですか?」


その6人に声を掛けてみた。アイル達の議論に参加することも出来ずに暇そうにしてたからね。

まあ、私も同じなんだけど。


「はい。今週は天文台で夜勤という事になってます。ニケさんも、あの結果に興味があるんですか?」


体格が良い男性が応えてくれた。うーん。名前が……。


「まあ、そうなんだけど、今結果は聞いたわ。別に天文台で聞かなくても良いんだけど、弟達も天文台に行きたいと言ってたから連れてきたのよ。」


その二人はと言えば、天文台の中をキャーキャー言いながら仲良く楽し気に駆け回っている。侍女さんと騎士さん達がそんな二人を追い掛けていた。


「ニケさんは何でメクシートに注目しているんですか?」


落ち着いた感じの女性が私に訊いてきた。うーん、思い出せそうな……あ、モンナという名前だったな。モンと呼んでくださいと言ってた。

そうそう。女性の呼び名でモンというのがちょっと不思議な感じだと思った記憶がある。

なんだか少しずつ思い出してきた。先刻の男性の名前はアンゲルだったかな。

そして、あの端に居る人はハムザでハムと言っていた。ふふふ。ハムなんて、ねぇ。前世だったら食べ物の名前だ。

いけない、いけない。失礼な事を言ってしまいそうになる。


そのハムさんはアイル達の議論に興味があるんだろう。他の人達から離れてアイル達の議論に耳を傾けているみたいだ。

天文学に興味があるのかな?


「ええ。注目はしてたんだけど、スーパーノバが起こったのがd400,000年(地球時間で120万年)前ぐらいなんでしょ。なんだか色々残念な結果だわ。これで同位体年代測定は極く最近のことしか分からないわね。」


質問をしてきたモンさんが不思議そうな顔をしている。


しかし、何となく合点が行くといえばそうなんだよね。スーパーノバが起こったのが何億年も前だったら、大気にこんなにヘリウムが残ってたりしなかっただろう。

大気の上層で太陽風の粒子が軽いヘリウムに衝突すると、容易に惑星からの離脱速度になる。そうして速度を得たヘリウムは重力圏から飛び出してしまう。

そうやって水素やヘリウムといった軽い粒子は大気中から無くなっていく。


「あの……スーパーノバって何なんですか?それと同位体年代測定っていうのも何ですか?」


モンさんの隣に居た女性が質問してきた。えーとマラッカという名前だったな。


「うーん。スーパーノバについてはアイルが詳しいんだけど、メクシートはちょっと変わった星なのよね。

昔、超新星爆発、スーパーノバと言うんだけど、とんでもない爆発をした星なのよ。

同位体年代測定というのは、放射性同位体の比率でどのぐらい前の事か調べる方法なんだけど、確か教科書には記載してあった筈だから、それを見てもらえるかしら。説明するのは良いけど、かなり長くなってしまうわ。

そして、そのスーパーノバがこの惑星の近くで起こったので、大量の熱線や放射線が降り注いできた筈なの。多分その時に一度この惑星は滅んでいるのよ。」


「えっ、それは、神々の戦いの時じゃなくてですか?」


「それは違うわ。スーパーノバが起こったのはd400,000年前ぐらいで、神々の戦いが起こったのはd1,964(=3100)年前でしょ。全然別の事象よ。

神々の戦いでも滅んだのかも知れないけど、それとは別にこの惑星の側でスーパーノバが起こったことで、この星系に壊滅的な被害があった筈なのよ。そういった証拠は随所にあるわ。」


「この惑星が滅んだというのはどういう事なんですか?」


「ヘリオみたいな恒星は水素を燃料にしてかなり特殊な方法で熱を作っているのだけど、その燃料が変化していくと場合によっては爆発するのよね。その爆発の事をスーパーノバって言うの。

その爆発は凄まじくて、大量の粒子や光が周囲に飛び散るのよ。

スーパーノバが起きた時には、その飛散したものがこの惑星に大量に降り注いだと思われるの。

多分、この惑星は物凄い高温になっただろうし、生命が維持できないほどの放射線物質が降り注いできた筈なのよ。

生命が居たとしてもこの惑星で生き残るのは難しかったんじゃないかしら。

そんな大災害があったのよ。」


「ヘリオも爆発するんですか?」


「あっ、説明が不十分だったわね。ヘリオは多分スーパーノバにはならないから安心して。

何サンドミロ年(サンドミロ年は約5億year)もかけて次第に変化していって、最後は殆ど光らなくなるけど爆発は多分しないわ。何れにしても物凄く未来の話ね。

スーパーノバを起こすのは、ヘリオよりずっとずっと重い恒星の場合なのよ。」


「そうなんですか。それなら安心ですけど、他にも爆発しそうな星があったりするんですか?

もし、近くでそのスーパーノバが起こったら大変なことになりますよね。」


「うーん。どうなんだろう。准教授達からは聞いた事は無いわね。今、この惑星の近くにスーパーノバを起こしそうな恒星は無いんじゃないかしら。」


「その事の何が重要なんですか?」


今度は別な男性が質問してきた。えーと、ミケルって名前だったかな?

先刻までの質問とは系統が違うわね。

不思議な雰囲気の男性だな。


「そうね、重要かどうかというと、過去にあった事が判明するだけなので、判ったところでどうという事は無いわ。

ただ、その知識で何故この惑星の大気にヘリウムが沢山あるのかとか、色々な事象の説明が付いたりするのよ。

そうやって、物事の原因や理由が解っていくと、この世界の詳細が解ってくるわ。そして、それは、今後どうなるかという予測にも繋がっていく。」


「そうなんですね。あんなに遠くにある星が何時、そのスーパーノバですか、それが起こったのかで判明する事もあるんですか。」


「そうなのよ。何時起こったのかが解ったらそれを元に現状の事を考えることが出来るの。魔物だってひょっとしたらそのスーパーノバで生き残った生き物かも知れないし……。」


あっ、そうだった。魔物の生体組成の調査ってしてなかったわね。

分析装置も大分良くなってきたから、一度調べてみても良いかもしれない。

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