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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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124.工場建設

休日になったので何時もの様にグループメンバーでマリムに繰り出した。


帰宅途中、女性達が離れて歩いている時に、ハムがこっそりマラッカさんがオレに好意を持っていると教えてくれた。


これまでのマラッカさんの挙動不審の理由わけが分って、何となく腑に落ちた。

ハム曰く、オレはにぶすぎるんだそうだ。


自覚が無い訳じゃない。

これまで仕事をしてきて、色々な人と会ってきたが、他人が何を考えているのかは本当のところは解らないと少し諦めているところがある。

酷い犯罪行為に同情できる事もあったが、何故そんなことをしでかしたのか、全く解らなかった事例の方が多い。

人の振舞いの意味を知ろうとして失敗して、何度迷宮に迷い込んだか知れない。


好意を向けられたとしても、単に親切な人だと割り切って思うだけになった。

職業病だろうか。


それに、オレは好意を持った誰かと付き合った経験が無い。

まあ、その所為で散々妹にからかわれたりもしている。


マラッカさんについて言えば、オレに対して人見知りしているのだろうと思っていたぐらいだ。

どうしたら良いのか全く分からない。


ハムは、オレの気持を伝えれば良いと言うのだが……。

マラッカさんは好ましい相手だと思う。だけど、好意と言うほどの想いはない。

マラッカさんとはようやく普通に話が出来るようになったばかりだ。

もう少し様子を見たいと思った。


休日が明けて、グループメンバーと研究所に出仕した。


今日もオレはマラッカさんと糸を作る予定だ。

何だかとても気まずい。

ハムからあんな話を聞かなきゃよかったな。


休日前に糸を作る道具から取り外していた部品を洗浄液に浸けてある。その液体の入った容器から部品の取り出し作業を始めた。

そこに、事務員のイーヴィさんがオレ達を呼びに来た。

会議室に来て欲しいのだそうだ。

作業の手を止めて、二人で会議室に向かった。


会議室には、既に准教授とグループメンバーが居た。その他にアイルさんとニケさん、リリスさんと番頭さんも居た。

どうやら、オレ達二人が最後だったみたいだ。

准教授がオレとマラッカさんをアイルさんとニケさんに紹介してもらって席に着いた。


「これで、全員揃いました。」


准教授がアイルさんとニケさんに伝えた。


「それじゃ、始めましょうか。検討の結果はどうでした?」


「検討結果は、この紙に記載しています。日産d40キロ(=48kg)のアセチルセルロースの生産と、同じ量の糸の生産のための原料の量としては……」


オレ達の手元にも紙にギッシリ数字や文字が書き込まれた何枚にも及ぶ資料がある。

それを基にキキ准教授がアイルさんとニケさんに説明をしていった。

質問をするのはニケさんで、アイルさんは黙って話を聞いている。


「結局、酢酸はどうやって手に入れることになるの?」


「爆砕の際に得られた水溶性成分の中に多量の酢酸が存在してましたので、主にそこから得ることにします。えーとそれは6枚目の資料に記載してあります。ただ、足りないことも考えられるので、工場では食用の酢の利用も考慮した方が良いかもしれません。」


「それなら、爆砕で得られる酢酸の量だけで生産したらどうかしら。そうすれば工場が複雑にならならくて済むんじゃない?爆砕で得られるのは酢酸だけじゃないでしょ?」


「ええ。キシロースやフェノール類始め様々な芳香族の化合物が得られるみたいです。」


「それは、どうするの?用途が見付かるまでは焼却処分するんじゃないの?余ったセルロースも同じ扱いになるだけよ。」


「それは、そうなんですけど、酢酸に関しては、結局蒸留して得ることになりますから、食用の酢を持ってきても工場の構成はあまり変わらないんじゃないですか?」


何だか、色々な話が飛び交ってるんだが、半分も理解できてない。

隣に居たハムにこっそりと聞いてみた。


「なあ、ハム。三人で話している事って解るか?」


「いや。無理。」


「そうだよな。それじゃオレ達は何故ここに居るんだ?」


「さあ?何か理由があるんじゃないかな?」


永遠に続くかと思われた説明が終ったみたいだ。


「それじゃ、この結果を基にして工場を作れば良いのね。アイル。どう?造れそう?」


「大体、これまで造ったことのあるものだから、大丈夫じゃないかな。あとはシーケンスをどうするかだけど、爆砕だけはバッチ処理で良いんでよな?」


「そうね。それはそうなるわね。キキさんもそれで良い?」


「ええ。それで良いです。」


「じゃあ、アイル。チャチャっと造っちゃいましょう。これが終ったらやる事があるし。」


「そうだな。そうするか。」


「それじゃ、大体こんな構成で良いのね。リリスさん。これで日産d40キロぐらいの量が作れるけれど、実際のところ消費量はどのぐらいになりそうかしら?」


「それがね、結構評判になってきてるのよ。先週の末に衣装が出来て店に展示したの。そしたら、何件も予約が入ったのよ。

高級飲食店では制服にしたいという話も出てるわ。

布を作ってみて判ったことがあって、この糸で作った布は燃えにくいみたい。

厨房でも使うことになりそうなのよ。

これから王都にも衣装を持ち込んでみることになるけど、想定では、直ぐにその生産量の4倍は必要になりそうだわ。」


「じゃあ、取り敢えず1ライン造って試験運転したら、そのまま6ライン造っておきましょうか。あとは需要見合いで増やせば良いかしら。」


「ええ。そうしてもらえれば助かるわ。」


「あっ、そうそうアイルはアセチルセルロースを使いたいのよね。じゃあ、アセチルセルロースは少し余分に作れるようにした方が良いわね。」


「ああ。それを使えば『写真フィルム』が作れるんだよな。」


「まあ、そうだけど、まだ色々検討しなきゃならないわよ。」


これからの予定を伝えられた。

昼食までに工場のラインを一つ造ってしまうのだそうだ。

午後から、オレ達のグループメンバーで試験運転をする。

そこで、不具合などの修正をする。

その結果を基に残りの5ラインは明日建造する。

明日はボーナ商店から作業する人がやってくるので、オレ達とキキ准教授で最初のラインを使って作業の説明をしながら生産を開始する。明後日からその作業する人達で安全操業のための文書を作っていくことになるのだそうだ。

順調に行けば来週ぐらいから本格的な生産が出来るだろうと言っている。


これは、現実の話なのか?

いくら何でも早すぎるんじゃないか?


オレ達一行は、メーテスからコンビナートに移動した。


「じゃあ、この一角に紡績工場を造るわね。」


コンビナートの敷地は広大で、まだ随分と空き地になっている場所がある。その空き地でニケさんが宣言した。

沢山の騎士達が、工場内の倉庫から様々な素材を運び込んできた。


それからは圧巻というか、何と言えば良いのか分からないことが続いた。

アイルさんの魔法で、金属の塊がウネウネと動いたかと思うと、それが塔になったりタンクになったりしながら互いに繋がっていく。

その脇に居るニケさんとキキ准教授がアイルさんに色々と指示をしている。

出来上がった道具に騎士さん達が取り付いて、アイルさんの指示で配線を始めた。


少し離れた場所に繋がっている管もある。それが大きなタンクに取り付けられた。

三人が話しているのを聞くと、水や蒸気、塩酸、硫酸が他の工場から引き込まれるらしい。


目の前で繰り広げられる状況に目を奪われているうちに、何とも奇妙な形をした道具が出来上がっていた。

何本もの塔があって、大小のタンク、その間をくねる様に継いでいる太かったり細かったりする管。

少し離れたところには鋼鉄で出来ている丸い形をしているのものがある。

あれが爆砕をする道具なのだろうか?


その不思議な道具から少し離れた場所に、馴染みの糸を作る道具が組み立てられ始めた。

細かな部品が空中を飛び交って、所定の場所に収まっていく。

あれよあれよという間に糸を作る道具が出来上がった。


道具が並んだ後で、少し離れた場所にある岩山から岩が空中で形を変えながら飛んできた。それが積み上がって、工場の建物になっていった。


オレ達グループのメンバーは、声を出すこと無く、その状況を見ていた。


リリスさんとその番頭さんは、建物が建ち始めたところで、部屋や水回り、トイレの場所を相談していた。リリスさん達は、この状況に既に慣れているんだろうか……。


昼の時間の数刻前に工場が出来上がっていた。


「それじゃ、メーテスで食事を摂ったら、またここに戻ってきてくださいね。試運転をしますから。」


オレ達は昼食のために、工場を建てていた場所からメーテスに戻った。

皆口数がない。

オレも脱力感で一杯だった。


「何て言えば良いのか分からないな。」


アンゲルが呟いた。


「そうね。」


モンさんがそれに応じた。


「そもそも、オレ達があそこに居る必要あったか?

先刻の会議もそうだけど、何故オレ達は立ち合ってるんだ?」


「何か理由があるんだと思うけど。何だろうな。」


ハムが先刻の会議の時に言っていたことを繰り返した。


オレとマラッカさんは糸を作る道具の担当になった。

他のメンバーは、それぞれ先週行なっていた作業の場所を担当しているらしい。

糸を作る道具は、既に用意されていた原料をメーテスから運び込んで作業を行なった。

特に何も問題は無い。研究所の道具の何倍もの速度で糸が作られていく。


作業が終って宿舎に戻り、何時もの勉強会の時に聞いたのだが、他の道具では、細かな修正が沢山入ったらしい。

それをあっという間に修正して、動作確認をして、というのを繰り返したと言っていた。


今週から勉強会は来週に仮配属することになる天文研究室に関する内容に変えていた。


こちらはこちらで何とも奇妙な内容だった。

大地が球の形をしているとか、ヘリオに強い力で引っ張られていてこの大地はヘリオの周りを回っているとか。

大地全体がヘリオの周りを回るような強い力で引っ張られているのに、オレ達は何でヘリオに落ちていかないで済んでいるんだろう?


その翌日は朝から工場に集合だった。

ボーナ商店が派遣してきた作業員の人達を待って、工場の作業を開始した。

オレとマラッカさんのところにやってきたは、若い男性と女性が二人ずつだった。

その4人に道具の洗浄の方法、原料の調合の方法、装置の動かし方、どんな作業の時に保護メガネや防毒マスクを着けるのかといった、安全に作業をするための方法を伝えていった。

午後になってから実際の糸を作る作業を開始した。

今日の糸の原料は、昨日この工場で作ったアセチルセルロースや塩化メチレンを使用した。

この工場で生産した原料を使っても糸を作るのに問題は無かった。

定刻になる前に道具を止めて、部品を洗浄する方法を実際にやってもらって作業は終了した。


翌日の朝は研究所に集合だった。

研究所の執務室に入るとキキさんが沢山の書類に埋まっていた。


「あっ、来たわね。それじゃ工場に関しての考案税申請書の作成を手伝ってもらえるかしら。」


「考案税申請書ですか?」


イルデさんが問い返した。


「ええ。そうよ。今回の作業をしてくれた貴方達が頼りなのよ。この機を逃すと、申請書の提出が遅れてしまうわ。工場の操業が始まったら即座に提出する必要があるからね。貴方達は、工場を建てる前の打合せや、工場の建築、試運転を経験しているから大丈夫でしょ。

工場の道具の図面は既にアイルさんから受け取っているから、その説明を記載する簡単なお仕事よ。

あっ、それで、ミケルさんとマラッカさんが担当していた糸を作る道具は、既に考案税の申請書を出しているので、新たな申請は不要なの。貴方方二人には、他の人達が書いた考案税申請書の校正をお願いするわ。」


それから、それぞれの作業担当に工場の道具の申請書が割り当てられて作業が始まった。

今週の冒頭から色々な場面に立会わされていたのは、この作業をする為だったとようやく気付いた。


言っていたほどの簡単な仕事じゃあ無かった。そもそも、何をしているのかについての詳細が解っている訳じゃない。

キキ准教授の指示で文書を書いていくのだが、意味不明の文書になったり、それを修正したり、何とか形になったのは、その日の夕刻の退勤時刻だった。


その翌日は天然物研究室の最終日だ。3とき(午前10時)頃、天然物研究室にジーナがやってきた。


「キキさん。新しい工場を造ったんですってね。申請書はどんな感じかしら?」


「昨日、何とか草稿が出来たところよ。」


「じゃあ、出来たところだけでも見せてもらえるかしら。」


それから、ジーナのダメ出しが始まった。

考案税申請書に必要な項目が抜けている、この部分は量の記載が無いので記載する必要がある、様々な修正が入っていった。

その度に、オレ達は新たに文章を書いたり、記載に必要な量を計算したりしていった。

一通りの作業が終了したのは、終業時刻の直前だった。


「あとは、実際の生産した時の結果が必要だけど、本生産はまだなのよね?

本生産が始まったら、その結果を書いてもらえれば、受理できると思うわ。」


「良かったわ。来週から別な文官の人達が来ることになっていたから少し焦ってたのよね。

仕上げは来週すれば良いのね。」


何だかグッタリだ。

ヘリウムの生産工場を担当した連中が大変だったと言っていたのは、こういう理由だったんだな。


帰る直前にジーナがオレの近くにやってきて話し掛けてきた。


「ねえ。ミケル。明日は休日なんでしょ?何か用事があったりする?」


「いや、特に用事と言うほどのものは無いけど、毎週休日はグループのメンバーでマリムに行くことにしているんだ。」


「あら、そうなのね。折角同期と会えたから、食事に誘いたいと思ってたんだけど。ダメかしら?」


「いや、ダメってことは無いと思うんだが……。」


そう言ってから、グループのメンバーの方を見た。

アンゲルとハムはニヤニヤしている。

女性達は……あれは、睨んでいるよな。

何だか面倒な事になりそうな気がする。これは断わりの一択だな。


「ねぇ。ミケルは誰かと付き合っていたりするの?」


えっ?突然何を訊いてくるんだ。


「いや、未だ付き合っていたりはしないけど……。」


なんだか、モンさんの視線が怖いことになっているのは、気の所為じゃないよな……。


「じゃあ良いじゃない。明日、一緒に食事をしましょうよ。」


「それは、ダメです。」


突然マラッカが口を開いた。


「そうよ。ミケルは私達と食事することになってます。」


モンさんもマラッカの言葉を追従する。


「えっ。何で?

ふーん。ミケルってモテるのね。意外。」


ジーナがオレのメンバーの女性達の方を見ながらそんなことを言う。


「何だよ。その意外ってのは。」


「でも、少し相談に乗って欲しいこともあったんだけどな。」


「ジーナ管理官。それなら、オレ達グループのメンバーと一緒に食事というのはどうでしょう?」


アンゲルが突然そんな事を言い出した。おいおい。これ収拾がつかなくなるんじゃないか?


「あら、皆で明日食事に行くの。じゃあ私も参加しても良いかしら。

色々大変だったから食事代ぐらい奢らせてよ。」


「えっ、キキ准教授もですか?」


イルデさんだ。


「も、って何?

ふーん。そういう事なのね。ふふふ。面白そうじゃない。

じゃあ、明日は、お疲れさま会ってことで皆で食事に行きましょうか。」

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