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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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121.弓

月が変わって4月になった。

怒涛の2ヶ月だったな。


うっかり紙幣の話をして造幣局を造る羽目になったり、うっかり気球の話をして飛行船を造ったり……口は禍いの元と言うけど、その通りだな。

気を付けないと……無理かな?

そんな気はさらさら無かったのに、何でこうなったんだろう。気を付け様が無いんじゃないか?


本来なら、メーテスを創立したので、研究三昧のまったり生活だった筈なのに。

まあ、これで一段落だろう。これから軌道修正すれば良いんだよ。


天気は快晴。飛行船日和だ。


早朝、領主館でボーナ商店やコラドエ工房の人達と待ち合わせて、私とアイルのプライベート飛行船で王都に向かう。

お父さんも私とアイルの警護のために同行することになった。

義父おとう様も同行したかったみたいだけど、忙しくてムリだったみたいだ。

侯爵領の領主様だからね。

何だか私達の所為の様な事をブツブツ言っていたけど、私達は何もしてないよね……多分。


最近は義父おとう様とグルムおじさんは領地内のあちこちに飛行船で言葉通りに飛び回っている。

多少天候が悪くても飛行船を飛ばせるようになってきたらしい。

騎士さん達の研鑽のお陰だね。


リリスさん達とヤシネさん達がやってきたので、飛行船に乗り込んで出発する。

飛行船の室内は、飛行船専属の侍女さん達が頑張ったため、領主館の大広間の様になっている。

時々揺れる事もあるから、調度品は全て床か壁に固定されている。

アイルの手に掛れば部屋の区画変更や窓の位置の変更は一瞬だからね。

実はベッドがある小部屋が4つもあるらしいんだけど。何時、使うんだろう。


幾つもの床に固定されているソファがあるので、適当に座ってもらった。


「素敵な部屋ですね。飛行船の中とは思えないですね。」


「以前とは船内の様子が変わりましたね。」


リリスさんが溜息混りに感嘆している。ヤシネさんも同意している。

リリスさんとヤシネさんは、出来たばかりの飛行船に乗ったことがある。

あの頃の飛行船の中は金属製の椅子が並んでいるだけだった。

侍女さん達の要求でアイルが色々キャビンを改造したので、最初の無骨な雰囲気はどこにもなくなっている。


一番変わったのは窓の位置だ。以前は私達の腰の位置より上に窓があったのだけど、アイルが構造計算をして床の強度を上げたので、窓は床からd20デシ(=2.4m)ぐらいの高さになった。

ソファーに座りながら、周りの景色が見える。


ゆっくり上昇していた飛行船が止まって、加速度を感じた。飛行船は速度を上げて西に向かって進み始めた。

加速が止まったところで侍女さん達がお茶を出してくれた。


「ふふふ。ニケさんに言われたとおりに衣装を作ってみたけれど、飛行船に合ってるわね。」


リリスさんは満足気だね。


飛行船の中で働いてもらう侍女さん達には制服を準備した。前世のキャビンアテンダントの様な服だ。

飛行船は時々激しく揺れる時もある。普通の服だと布が引掛ったりして危いと思ってリリスさんに頼んで誂えてもらった。

飛行船担当の侍女さんが言うには、この制服の所為で飛行船専属侍女さんの選考はこれまでになく壮絶だったらしい。

時々こんな話を聞くんだけど、そもそもどうやって選考しているんだ?

ジャンケンとかじゃないよね?


領地の外を空で移動するのは初めてだけど、下界はひたすら森が広がっている。

ところどころ草原の場所もあるけど、どこを見ても森だらけだ。

その森や草原の中を一直線に鉄道が走っている。

鉄道が無かったら、今どこに居るのか分らなくなるな。


ところどころに開けている場所があるのは、領地の領都なんだろうか?

草原の場所に集落があったりする。

草原じゃなくって畑だったりするんだろうか。


鉄道の周辺だけ森が草原に変わっている。

ここらへんは、鉄道を通して一年ぐらいかな。

駅の周辺に建物が幾つも見える。


義祖父様じいさまが王国の人口は少ないって言っていたけれど、こうやって見ると確かに少ないんだろうな。

人が住んでいる場所は殆ど無い。


今でも鉄の農具が大量に作られているらしい。鉄が無かった時に、この森を農地に変えるだけでも随分大変だったんじゃないかな。

領主が魔法使いなのも当然かも知れない。


しばらく外を見ていたけど、直ぐに飽きてしまった。

時々川や丘が見えるぐらいで、風景に変化が無さすぎるよ。


同行している人達も最初は燥いでいたけど、段々と外を見るのではなく雑談をし始めた。

私とアイルも、リリスさんやヤシネさんやお父さんと雑談をして過した。

私もアイルも忙しかったから、最近の街の様子とか全然知らなかったからね。


夕刻になって夕食を食べる頃には王都が近付いてきたのか、森だらけだった風景が草原の中に集落が点在する風景に変わってきた。


広く城壁で囲まれている王都が見えてきた。

飛行船の停泊場所は王都の港の側だと聞いていた。

その場所になったのは飛行船を飛ばすのに、燃料のコークスが必要なためだ。

まだ、石炭はアトラス領でしか採掘されていない。大半のコークスは大型輸送船で王都に運ばれてくる。


飛行船が停泊している場所が見えてきた。


そこには大型の輸送船が1隻と小振りの飛行船が8隻停泊していた。

ここに停泊していない2隻の輸送船は何処かに荷物を運びに行ってるのかな?


その停泊場所の端の空いている所に私達の飛行船は降下していく。

やれやれ。やっと着いたよ。

でも、他の方法で移動するよりは遥かに早いんだよね。


私達は王都にあるお祖父様のところに泊まることになっているので、明日の会議までリリスさん達やヤシネさん達とはここでお別れだ。

王都にある支店の人が出迎えに来ていると言っていた。


飛行船から降りたところで、大勢の騎士さん達に囲まれた。


「アイル様とニケ様、それとグラナラ子爵閣下ですね。陛下がお待ちです。」


囲んでいた騎士さん達の中から大きな体をしている騎士さんが前に出てきて聞いた。

お父さんが頷くと騎士さん達に囲まれたまま王国の紋章が付いている立派な馬車に乗せられてしまった。

そのまま、馬車は大勢の騎士さん達に囲まれて薄暗い王都を王宮に向けて移動していく。


「ソドおじさん。なんだか物々しいですけど何なんですか?」


アイルがお父さんに話し掛けた。


「王宮に着いたら説明があるだろう。」


お父さんの口振りだと何かを知っていそうだけど。ここでは話したくないのかな?


王宮に着いて、これまで行ったことのない場所に案内された。


それほど大きくない平屋の建物で、周辺に騎士さん達が立っている。

その建物の四隅の少し離れた場所に平屋の小さな建物があって、その屋上に騎士さんが居る。

何だか不思議な場所だな。


平屋の建物に入ると、中央に小部屋があって、あとは何も無い。

中央の小部屋に入ると、そこに国王陛下、アイルのお祖父様の宰相閣下、私のお祖父様の近衛騎士団長。そして何故か諜報機関の長官のジュペト・タウリンさんも居た。

そして、他には誰も居ない。


部屋に入ってに陛下に名前を告げて貴族式の礼をした。直ぐにお義祖父様じいさまが話し始めた。


「アイルとニケ。先月振りだな。

二人が王都まで来る折角の機会なので、少し相談をしたいと思って来てもらったのだ。


実は、最近テーベ王国からの間者が増えていると報告が上がっている。

そんな訳で、今日はジュペトにも同席してもらっている。」


「どうも。アイルさんニケさんご無沙汰してました。お変わりないようで。

しかし、また、とんでもないものを作っちゃいましたね。そこらへん中で大騒ぎですよ。

隣国は王国の動向に興味津々な様です。いやぁ、その筋の者達が来るわ来るわで、私のところは大忙しです。

一応、マリムでは判明しだい排除しているんですけれど、王都まで来れば、あとは船でも鉄道でも自由にマリムまで行けますからねぇ。

なかなか、全部獲り尽せなかったりしてます。」


えーと。どゆ事?

その筋っって……スパイが沢山押し掛けてきてるって事?


「ジュペト。少し抑えてくれ。

まあ、そんな訳で隣国関係がこのところ少し騒がしくなってるんだが、それは王国やアトラス領で対応することだ。

二人は気にせずに研究だったか、それをしてもらえれば良い。

領主館とメーテスの移動はなるべく飛行船を使ってもらいたい。

メーテスの警備は王国の騎士団を増員することにした。

ソド。アトラス領の信頼出来る騎士達で二人の警護を厚くしてくれ。」


「は。受け賜わりました。」


ああ、そういう事か。それで飛行船を降りたら騎士さん達に囲まれたのか……。

しかし、厄介な国が隣にあるな。


「今でもメーテスは一応人の出入りを厳重にしているから問題無いとは思う。アイルとニケの周りに騎士が増えるが、あまり気にしないでくれないか。

あとは、今、ジュペトの配下の者を二人に付けたいと思って人選を進めている。

後日、二人の元に送ることになるな。

一応、二人の助手という事で使ってもらえれば良い。」


「ありがとうございます。その人達って実験に使っても大丈夫ですか?」


「実験か?ジュペト。どうなんだ?」


「実験って言うと、何か作ったりするんですか?」


「そうなりますけど。」


「いやぁ、その考えは全くなかったですね。それ、必要ですか?そうなると人選を考えないと。」


「いえ、どんな感じの人が来るのかと思って聞いただけです。実験に使わない方が良さそうなら、事務仕事をしてもらいますから。」


「それなら、その線でお願いできますか。実はもう殆ど人選が終ってましたんで。」


ふーん。人が増えるのは助かるかな。今回は私とアイルの助手ってことだからね。

秘書みたいな事をしてもらえれば良いのかな?まあ、会ってから考えれば良いのか。


「相談というのはこの事なんですか?」


「いや。別の件だ。今の話は単なる連絡だな。

何度か侯爵領まで輸送船を飛行させたのだ。

それで、隣国は飛行船を知る様になった。

ジュペトの話では、隣国でかなり話題になっているらしい。

こちらに侵攻する準備をしていると思われるテーベ王国にしてみれば脅威だろうな。

それで幾つかの事を聞きたいと思っていたのだ。

テーベ王国でも飛行船を飛ばすことが出来たりするものだろうか?」


「さあ、どうでしょうか。」『ニケ。どう思う?』


突然アイルが日本語で聞いてきた。


『ヘリウムを大気から分離するのは絶対無理。

水素も化学の知識が無いと多分無理ね。酸と金属を反応させれば作れるだろうけど、そもそもそんな知識は無いでしょうね。

だから大気より軽い気体を集めて飛行船を作るのは無理だと思うわ。

でも、熱気球は可能性があるかしら。

布に樹脂を塗って空気が漏れないような袋を作って、その下で火を焚けば良いんだけど、そう簡単に空気を加熱できるものかな?

燃料も沢山必要だわ。

まあ、飛行船とは全く別のものになるだろうけどね。』


『熱気球か。でもそれって、風任せになるんじゃないか。』


『浮ぶことと移動することは別の話だわ。浮べられたとしても動力を使って風を発生させないと移動は出来ないでしょ。

魔法を使えばどうにかなるのかしら?』


『さあ、それはどうなんだろう?』


私達が日本語で話し始めて、陛下やお祖父さんズは微妙な表情をしている。ジュペトさんだけは喜んで見てたけど。


陛下とジュペトさんには飛行船の仕組みを説明していなかったので、アイルが飛行船が浮く仕組みと移動する仕組みの説明をした。熱気球だったら可能性がある事を伝えた。

魔法で気球を動かせるのかを聞いてみた。


「すると、熱い空気を集めれば浮かぶことは出来るのか。

魔法でそれを移動することが出来るかと聞かれても……これまでそんな事を試した事は無いだろう。

そもそも空中に浮ぶというのを魔法で試すこと自体が危険行為と思われていたからな。

陛下、どう思われますか?」


「浮いているその袋の様なものを動かすのか。風魔法で動かせるものだろうか?こればかりは全く分からないな。」


このメンバーだと、私とアイルを除くと魔法使いは宰相閣下と陛下だけなんだよね。その二人も分からないと言っているんだったら実験してみるしか無いのかな。


「ただ、飛行船とは違って、それほど脅威にはならない様な気もしますね。」


「それは、どうしてだ?」


「その袋に穴が空けば墜ちます。」


「空中に浮んでいるものにどうやって穴を空けるんだ?」


「何か尖ったものを刺せば良いんですが……あれ?そう言えば『弓』という武器を見たことが無いですね。」


「そのユミというものはどんな物なのだ?」


そうそう、前から不思議だったんだよ。いくら何でも弓ぐらい作れる筈だよね。

何で見たことが無いんだろう?

アイルは近くに居た騎士さんに紙を持ってきてもらって弓の絵を描いた。


「ああ、これは相当古代に使われていた武器だな。」


近衛騎士団長のお祖父様が応えた。


「古代……ですか?」


「ああ、昔この様な武器もあったらしい。確かタクショウという名前ではなかったかな?

王宮博物館に置いてあるかもしれない。」


「昔あったのに、今は使われていないんですか?」


「ああ、非効率だからな。ベロスと言ったかな、この飛翔する部分を大量に準備しなければならない。

準備したとしても敵にあたる事はまず無い。」


「えっ?中らないんですか?それは何故でしょう?」


「敵に風の魔法を使われると、まず中らないな。

それに、これを魔物に使おうにも皮が厚くて役に立たない。それで廃れたと聞いたことがあるな。」


そうか……魔法の所為で役に立たなかったんだ。成程。

それにこの世界には鉄って無かったんだよね。

魔物に有効なやじりも作れなかったんだろう。鏃を石で作れたかも知れないけど、作る手間を考えると……使わないな。


「野生の動物を獲ったりはしないのですか?」


おっ、アイル粘るね。


「野生の動物?魔物ではなくてか?

そんなものは居ないだろ。大抵魔物に食われてしまう。」


そうだよね。獲物がなければ狩猟をする人は居ない。

魔物は獲っても食べられないらしいし。

弓矢は有効ですらない。

それじゃ弓なんて使われなくなるね。


「離れた敵を攻撃するのは、石を投げるか、土魔法で塊を飛ばすぐらいだ。

それも、相当な魔法使いでなければ無理だな。

そういう意味ではアイル達が作って、ノルドル王国との戦いで使った武器はかなり特殊だった。

ノルドル王国はガラリア王国には優秀な土魔法の使い手が沢山居ると誤解した様だ。

そんな訳でこれまでの戦争では剣で戦うのが主流だった。

ただ、これも鉄が出来て随分と変わった。

鉄の剣と比べると、これまでは青銅の棒で殴り合っていただけのようなものだからな。」


お祖父様は嬉しそうに話している。

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