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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
357/368

120.紡績工場

久々にニケ視点です。

これでd26(=34)隻目だ。


飛行船のためにチタンを作るのも飽きてきたな。


アイルは楽しそうだけど。

飛行船を作る度にアイルは何か変更を加えている。これって、エンドレスじゃない?

毎度自慢気にこんな工夫がとか言っている。


まあ、そうやって改造していくのは大事なんだろうけど、私からすれば、普通に使えるのならそれで良いと思うんだよね。


何か気に入った改造が出来ると、過去に造った飛行船も同じように改造している。

最初に王都に移動するのに利用した飛行船までは改造してないけど、ヘリウムを補充しに来たら改造するんだろうな。


飛行船を造っているのは相変らずメーテスの一画にある同じ場所だ。

飛行船を格納するための巨大な格納庫も造った。

その脇までコンビナートに造ったヘリウム工場から保冷パイプラインを引いてきて、液体ヘリウムタンクを新設した。


液体ヘリウムは、飛行船の浮力のためだけじゃなくって、他にも使い道がありそうだからね。


最初は、気象研究室や私のところの鉱物研究室用に飛行船を造って、アトラス領の飛行船を造っていたんだ。

そうそう、セメル家用の飛行船も作った。グルムおじさんが侯爵家の宰相ならば、飛行船で移動するのが当り前です、とか言ってたけど。

まあ、嬉しそうにしていたから良かったんじゃないかな。操縦はどうするんだろ?騎士さんを借りるのかな、文官を使ったりして……。


そんな風に飛行船を量産していることが王宮に知られてしまった。

新たに輸送船を2隻、騎士団用の高速船を3隻、兵団輸送用の飛行船を2隻追加で造らされた。


誰が密告したんだ?


義父おとう様かな?


造っている飛行船は、今はメーテス用だけど、もう既に研究室の数より飛行船の数のほうが多くなってきている。


天文研究室の准教授は領主館にある天文台に通うのに使っているみたいだ。

ん?天文台からメーテスに通うためかな?どっちだろう。


最近は、空に飛行船が浮かんでいるのが、普通になりつつあるんだよね。


鉱物研究室では飛行船はとても有り難いんだけど、もうそろそろ良いんじゃないかな。


「ねえアイル。もう飛行船を造らなくても良くない?」


「だけど、ニケが言ってたんじゃないか?鉱物研究室用には何隻あっても良いって。」


「それだって、もう十分だと思うよ。一遍に何箇所も鉱山に派遣なんて出来ないんだから。」


「そうか?まだ色々改造したい事があるんだけどな……。」


アイルが上を向いて考え込んでいる。

飛行船はもう充分だよ。これ以上造らなくっても良いんじゃないかと思うんだけどな……。


「あのう。アイルさんとニケさん。宜しいですか?」


私達の背後から声を掛けられた。


この声はキキさんかな?

振り向いたらキキさんとリリスさんが居た。


「キキさん。それにリリスさんも。

リリスさん、ご無沙汰してました。」


「ニケさん。こちらこそ。ご無沙汰してました。」


「以前会ったのって、月次の定例会でしたっけ?あっ、その後晩餐会でお会いしましたね。

そうそう、そう言えば来週また定例会ですね。

今回は王都に行くことになるんですけど、もし良かったら飛行船でご一緒しません?」


今回の王都への移動は飛行船を使うことにしていた。王都までの経路の天候もアイルの話では暫く安定しているらしい。


「えっ、良いんですか?

王都まで空の旅って素敵ですね。それに移動時間も短かいって聞いてますけど。」


「鉄道の3倍か4倍の速度で移動しますからね。所要時間は1/3か1/4です。往復で4日必要なのが、行きと帰りに半日ずつで済みますね。」


「そうなの?それって凄いじゃないですか。

それじゃぁ、王国の西の端に行こうと思っても1日ぐらいで着くじゃないですか。

良いわねぇ。

私の商店にも飛行船が一隻欲しいわぁ。

王国中に支店が増えてきていて、鉄道や船で行けるとこだけじゃなくなってきているのよね。

これまで、店の役職に出向いてもらっていたんだけど行ってもらうだけでも大変なのよ。

飛行船だったら、直接私が視察にも行けるってことじゃない。

お金なら幾らでも出すから、1隻譲ってもらう訳には行かないかしら?」


確かにね。多分、リリスさんのところではあると大分便利なんだろうな。

前世でもプライベートジェットを持っている大手企業なんてのもあった筈だけど……。


「リリスさん。お久しぶりです。ボク達は子供だから、その判断は出来ませんよ。」


アイルが話に割って入ってきた。

そう。その通りだね。私達はまだ子供だから、そんな事頼まれても承諾は出来ないんだよ。

つい、情に絆されて応えてしまうところだった。

アブナイ。アブナイ。


「アイルさん。ご無沙汰してました。

そうでしたわね。

便利な道具だから是非欲しいと思ったけど、そもそもアイルさんとニケさんはまだ7歳だったのよね。

ごめんなさいね。変なお願いをしたりして。

お二人と話しているとつい忘れてしまうのよね。」


「それに、この飛行船は騎士団でも使ってます。王国を他国からの侵攻から守るためだと聞いてますから、よほどの家でなければ個人所有は難しいと思います。

ひょっとすると、国王陛下の許可が要るかもしれませんよ。」


おぉ、そうだった。飛行船って国防の道具でもあったんだった。忘れてた。

メーテスは王国の所属だから問題無いとしても、個人所有って……ひょっとしてダメなのか?


あれ?

ウチのグラナラ家や、グルムおじさんのところのセメル家では所有しているよね。

陛下の許可なんて取ってないような気がする。

まあ、アトラス家は侯爵家だからダメってことは無いだろうけど。


アイルが言っていることは本当なのかな?

でも、侯爵家の騎士団長で子爵のウチと侯爵家の宰相家だから暗黙の承認ってことかな?


むむ?

ひょっとすると私やアイルの所為だったりして。

国王陛下が許可しないって言っても、あっという間に作っちゃうから不許可なんて言えなかったりするのか?


うーん。判らない。

判らない事は考えても仕様が無いな。


「あら。そうなの。

飛行船って騎士団も使うのね。

うーん。国王陛下の許可なんてどうすれば取れるのか分らないわ。

……やっぱり無理か。

残念だわ。」


「そうですね、でも、ひょっとしたらお貸しすることは出来るかもしれません。

ただ、それは父と相談してみてもらえますか?

ボクには何とも言えませんから。」


「あら。そんな手があったりするの?

なら、今度相談してみるわ。」


「あのぅ、リリスさん。話が全然違う方向に行ってるんですけど……そろそろ本題の方を……。」


「あっ、そうだったわ。アイルさんとニケさんに工場を造ってもらえないかと思ってるのよ。」


「工場ですか?何を作るんです?」


「糸よ。」


「イト?それって、裁縫なんかに使う糸のことですか?」


「そう。その糸。キキさんのところで、とても素敵な糸が出来たのよ……」


二人から話を聞いたところ、アセチルセルロースで布を織ってみたらそれが良かったから大量に欲しいってことらしい。

キキさんがセルロースを使って色々やってたのは知っていたけど、そこまで進んだんだ。

やっぱり私の助手さん達は優秀だね。


アセチルセルロースなら大量に作っても問題は無いな。

比較的短時間で分解されて、天然に存在するものに変わっていく。


高分子材料をどうするかについては良く考えないとマズいんだよね。

毒性のある化合物だったら製造に制限を掛けられると思うけど、高分子はその範疇には無いからなあ。


この世界で環境保全なんて言ったところで、誰にも理解できないだろうし。


以前、植物を調べてみて判ったことがあるんだけど、この世界はかなり生物の多様性が低いんだよね。

微生物がどうかまでは判らないけど、なんだか不思議な環境なんだよね。

まあ、魔物なんていう不思議生物が居たりするけど。

作る化学品についてはちゃんと考えないと、あっという間に環境破壊になりそうな感じがする。


合成高分子なんてこの世界には無い。

多分、今は私以外に作り方を知らない。

だから作らなければ何も問題は無いんだけど、そのうち誰かが作れるようになる。


便利なんだよね。軽いし丈夫だし。

前世では、丈夫なプラスチックを作るのに力を注いでいたけど、丈夫な事が問題になった。

簡単に分解しないし、分解したらしたで色々問題があったりする。

塩化ビニルは丈夫なので大量に使われていたけど、かなり気をつけて分解処理をしないとならない。燃やせば有毒ガスが出るから、かなり高温で処理しなきゃならない。埋め立てても土に戻ることなくそのまま居続ける。


初めて海に行ったときに思ったのは、この世界の海岸はとても綺麗なんだよ。

一番の違いはゴミが無いんだ。


前世の海岸は、どこからか流れてきたプラスチックがそこいらへん中にころがっていた。

まあ、人口がとても少ないってのもあるけど、自然に分解できないゴミがそもそも無いんだよね。

そのうちガラスの破片だらけになったりするかもしれないけど。まあ、基本ガラスは石と違いが無いから放っておいても大丈夫だろう。


そんな事を考えて、メーテスを創ったときに有機化学の研究室名を天然物研究室と石炭化学研究室にしたんだよな。

高分子材料を生み出すのは石炭由来だと考えた。そして石炭の主な利用方法は燃焼だから、処理方法も一緒に考えれば良いと思っていたんだ。

まさか、天然物研究室の方で、高分子材料が生まれるとは思ってなかった。

まあ、天然物由来の高分子なら、自然分解してくれるのを期待できるんだろうけど。

とは言ってもこの先どうなるかは分らないよね。


やっぱり、どこかでちゃんと考えないとダメだな。

でも、簡単に分解する高分子しか作っちゃダメなんて言っても誰も納得しないよね。

そもそもゴムも問題と言えば問題なんだよな。あれも簡単に分解しない高分子なんだよね。

うーん難しいな。

でも、私以外にこれを考えられる人が居ないのも事実だし……。


こんな事を考えながら話を聞いていたので、話半分で聞いていたんだけど、リリスさんの熱量がとんでもなく大きいのだけは分った。


アセチルセルロースか。あれは前世ではアセテート繊維って言っていたっけ。絹のような光沢を持っていて良く使われる繊維だったと思う。

どうやらキキさんが作っているのはトリアセチルセルロースの様だな。

それでこの前、クロロホルムと塩化メチレンのどっちがより安全かなんて聞いていたんだ。


そう言えば、この世界に絹ってあるんだろうか?

聞いた事は無いんだけど、この世界の全てを知っている訳じゃないからな。どこかに在るのかも知れないけど。もし、絹が無ければ、かなりのアドバンテージになるんだろう。

リリスさんの熱量も分らなくは無いな。


「それでニケ。どんな工場を造ることになるんだ?」


「それは、キキさん次第じゃない。えーと、原料は木材にするのかしら?」


「はい。木材が余り始めているらしいので、木材が良いんじゃないかと思っているんですけど。」


「じゃあ、高圧水蒸気加熱できる場所が必要になるのね。氷酢酸はどうするの?」


「これまで酢を蒸留してたんですけど、これって合成できます?」


「いくつか方法があるけど、どれが良いかしらね。

木材を分解するんだったら、木酢が出来てるんじゃないかしら。それを精製するのが実は楽なんじゃないかと思うんだけど。

合成するんだったら、メタノールを酸化するとか、エチレンの酸化とかかしら。

でも触媒が必要になるわね。

合成出来るかどうか確認してみてもらうことになるわ。

後で、必要な触媒や反応条件を伝えるから、やってみてもらって出来そうな方法を考えてもらわないとね。

お勧めは木酢を回収するのだけど……。

木材を爆砕した時に発生するものって、調べは付いているのかしら?」


「それは……」


それから根掘り葉掘り聞いてみた。

木材の爆砕で得られているものについては、調査はそれほど進んでいないらしい。

一人でやっているんで、大変なのは確かだろうな。

今は、王宮の文官さん達が来てくれているから、追々改善されるんだろうけど。

分析装置を拡充する必要もありそうだね。


トリアセチルセルロースを溶かすための塩化メチレンは研究室で合成したらしい。

金を精錬するために塩酸を生産しているからそれを利用したみたいだ。

まあ、そっちはどうにかなるだろう。


問題は大型の爆砕装置と酢酸の生産かな。


「来週は、私とアイルとリリスさんやヤシネさんは王都に行くから、検討を進めておいてもらえる?

それで、リリスさんは、どのぐらい生産したいんです?」


「えっ。あっ。ごめんなさい。二人で何を話してるのか全く分からなくって、ちょっとボーっとしてたわ。

生産量ですか。

絶対売れるとは思うんだけど、染めとか色々確認する事もあるし……。

というより、工場を作ってくれるんですか?」


「ええ。折角キキさんがここまで進めたんだから、必要ならバンバン作っちゃったら良いですよ。

それに、トリアセチルセルロースなら、糸以外の他の用途もあるので。

透明で紙みたいに薄いものも作れるから、ガラスの代用品になるわね。ただ耐久性はガラスと比べると全然無いから一時的な利用になるんだけど。

その薄いもので写真乾板の代わりを作っても良いかもしれないわ。」


『えっ、ひょっとして写真フィルムが作れるのか?』


アイルが日本語で食い付いてきた。


『ええ。そうね。トリアセチルセルロースがあれば写真フィルムが作れると思うわ。確か昔はニトロセルロースを原料にしたフィルムを使ってたけど、燃え易かったからアセチルセルロースになったんじゃなかったかしら。

私が知っている写真機はディジタルだったから使ったことは無いので詳しくはないけどね。』


『そうすると、カメラを小型化できて、写真乾板を交換しなくても何枚も写真が撮れるように出来るのか……それは良いな……』


アイルが納得顔で考え込み始めた。

これは、小型カメラをどう作るか考えてるんだろう。

放って置こう。


「ニケさん。今のは?アイルさんはどうしたんですか?」


リリスさんが心配気に聞いてきた。


「あっ、良いんです。気にしないで下さい。ただ、アイルもやる気になったみたいだから工場は造ることになるでしょ。

それで、どうします?

工場の規模を考えなきゃならないんですけど。」


「そう言われても今直ぐには分からないわ。今日は工場を造れるかどうか聞きに来ただけだったから。

他にも用途があるんだったら、それも考慮した方が良いんでしょうし。

その工場は製紙工場みたいに増設も出来るんでしょ?」


製紙工場も工場を増やしていって、今は最初のd40(=48)倍ぐらいの規模になっている。

コンビナートの敷地は広大だったけど、他の施設も含めて1/4は埋まってきた。


「まあ、そうですね。じゃあ取り敢えず、最初はトリニトロセルロースを月産d1,000キロ(=1.728トン)ぐらいで考えましょうか。

紡績の道具は順次増設するということで良いですか?」


「えーと。それだと日産でd40キロですか。ええ当面は十分過ぎる量ですね。ふふふ。忙しくなりそうだわ。」


「それじゃ、キキさん。その生産量で必要になる原料や機材を検討してくださいね。

酢酸の合成方法は昼までには渡すのでその検討もお願いします。

あとは……アイル!」


「えっ、何だ?」


「もう、飛行船は良いでしょ?充分造ったわ。他の事を始めるわよ。」

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