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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
351/368

116.天然物研究室

天然物研究室に仮配属になる前日の休日に、グループのメンバーでマリム観光をすることになった。

先々週の休日に女性3人でボーナ商店に行ったときにマリム観光の馬車が出ていることを知ったらしい。丸1日掛けて、マリムの主要な観光スポットを回ってくれるのだそうだ。

マリムに来て、マリムの街を巡ってみたことは無かったので、楽しみだ。


早朝にコンビナート駅からマリム駅まで移動して、駅前の馬車溜りに1日観光馬車が集っている場所に向かった。

6人で馬車に乗り込んで、マリム大聖堂、コンビナート、マリム大橋を巡っていく。

昼は海浜公園で屋台の昼食。

午後はガラス研究所でガラスコップの体験作製をして、海沿いのコンビナートを見学して夕刻に街の中心部に戻った。


マリム大聖堂は巨大な神殿だった。他のどこにもここまで大きな神殿は無いと聞いた。見たことは無いが、匹敵する大きさの神殿は大地神教の総本山のアトランタ大神殿だけらしい。

そして、マリム大橋はやはり巨大だった。

一度船で海から見て、先週飛行船で上空から見たのだが、もう驚くことは無いが、橋の袂で見るとその大きさに圧倒される。

鉄道でマリムに来ていたアンゲルとイルデさんは驚いて目を見開いたまま絶句していた。

グループのメンバー全員でマリム観光を楽しんだ。


オレ達がウテント准教授に上空の気象観測に引き摺り回されている間に色々な事があった。


交通管理部門は正式に交通省に格上げされたと布告された。

ギウゼ管理官は正式に交通省の長官に就任した。


噂でしか知らないが、飛行船が王都に着いた時に、王都は大騒ぎだったらしい。

事前に王宮や騎士団には無線で連絡をしていたため、大きな混乱にはならなかった。

それでも、王都民にしてみれば、あの巨大な物体が空から王都に飛来したのだから、普通に驚愕したんじゃないだろうか。


早速、アスト家、テルソン家、ハロルド家の三侯爵家から正式に飛行船の就航依頼が来ていると聞いた。

オレ達が纏めた気象観測道具の設置場所はそのまま採用された。

侯爵家からの強い圧力で、ギウゼ長官が目論んでいた王都周辺から道具を設置するという訳には行かなかったみたいだ。

一番最初に侯爵領と王都までの経路にあたる場所に道具を設置することになったらしい。


ウテント准教授は設置作業を実施する当事者の筈なのだが、上空の気象観測を優先する心算でいる。

あれ程渇望していた上空の気象観測が出来るようになったので、他の事は後回しにしたいんだろう。

ただ、王国に気象観測の道具を設置するのは、王国からの依頼事項なのだが……自由と言うか何と言うか……メーテスの准教授達はアイルさんやニケさんの指示以外では動かないのだろう。

まあ、それが許される程に、彼ら、彼女らには知識がある。


道具の設置業務は、手伝いに来ている文官に全てを任せる様な事を言っていた。


まあ、オレ達には関係無い話だな。

唯、モンさんだけが残念そうにしていた。


コンビナートには新たにヘリウムの生産工場が設置された。

3日ほどで建設が終ったそうだ。

無機化学研究室に仮配属されていた連中は大変な目に遭ったらしい。

アイルさんとニケさんが物凄い勢いで飛行船を作っているのを見ていたので、そんなものなのかなとは思う。

今回観光でマリムを巡った時にコンビナートにも立ち寄ったのだが、大きなタンクが多数設置されていた。

ヘリウムは液体にして保管しているそうだ。

とんでもない低温にするとヘリウムは液体になるらしい。並んでいたタンクは熱を伝えない仕組みになっているそうだ。

そのとんでもない低温というのをどうやって実現しているのかとか、熱を伝えない仕組みとかを説明してもらった。

これまで無かった驚く様な事らしいのだが……。


あまりにも色々ありすぎで、オレの中の驚く感情は麻痺しているような気がする……。




天然物研究室の出仕初日になった。


イルデさんは終始ニコニコしている。上機嫌だ。

一方でモンさんは心持ち元気が無い様子に見える。

今のオレ達はあくまで仮配属なんだがな……あまりに分かり易すぎる……。


「今回はイルデさんのグループですね。半月宜くお願いしますね。

じゃあ、まずは天然物研究室の説明をします。

そして、ウチの研究室を是非志望してくださいね。

やる事が多すぎて、人手はいくらあっても歓迎なのよ。」


前に会った時もそうだったけれど、元気な女性だな。多分オレ達と年齢は然程変わらないんじゃないかと思っているのだが……。

年齢は色々怖くて聞けない。ウテント准教授も随分と若かったな。


一通り天然物研究室の説明をしてもらった。


天然物研究室は、植物や動物などが作るモノを調べて利用することを目的にしている。

砂糖やゴムなどは有名で、既に工場があって大量に生産されている。


「こういった物は有機化合物と言います。

有機化合物を扱っている研究室は、ウチの天然物研究室とギウゼのところの石炭化学研究室の二つあります。私のところは動物や植物が原料。石炭化学研究室は地中から採掘したものが原料という違いがあるんです。

使っている手法などは似てるのですけれども、原料の違いで大分扱っているものには違いがあります。

有機化合物というのは……」


これらは鉱物と違う特徴がある。

簡単に言えば、燃やすと微かな灰を残して大半が消えて無くなってしまう。

理由はどんなに複雑なものでも、炭素、窒素、酸素、水素というエレメントが主要な構成物だからだ。

それらは、燃えると二酸化炭素や水、場合によっては窒素やその酸化物、硫黄の酸化物といった気体になって空気に混ざり混んで残らない。

灰というのは金属と酸素や硫黄などが結びついたものなのだそうだ。


それから、准教授は様々な有機化合物というものを黒板に書き出していった。

炭素というのが基本のエレメントで、このエレメントには他のエレメントと繋る場所が4ヶ所ある。

周期表の近くにある窒素には3ヶ所で酸素は2ヶ所。

これらがどう結び付いているかで様々なものが出来上がる。

組合せは無数にあって、とても単純な形をしているものから、物凄く複雑な形をしているものもある。

これらの互いに繋がっているものを分子と呼ぶらしい。


「それって、繋り方や、繋がっている炭素の数が違うだけで違う物なんですか?」


マラッカさんが質問をした。


「そうですね。似た構造だと性質が似ていたりしますが、細かく見ると反応のし易さ、溶解度、融点や沸点が違っていたりしますね。」


「それらは、全て名前が付いているんですか?」


「ええ。全てに名前があります。

というよりは、炭素の繋り具合などで名前を付ける方法があります。そのため全てに名前を付けられるというのは確かです。

良く使う物には、そういった規則で付けられる名前以外に慣用的に使われる名前があります。

そうですね、何が良いかな……例えば、これが砂糖の分子です。」


そう言って、かなり複雑な図を黒板に描いた。


「これを命名規則に従って呼ぶとベータDフルクトフラノシル2,1グルコピラノシドとなるんですが、こんな名前で呼んでも間違うだけなので、この分子はショ糖と呼びます。

ちなみに、ショ糖のこちら部分は果糖で、こちら側はグルコースです。ショ糖は二つの糖が結び付いてできてます。

生物が作るものはこうやって基本的な分子が繋がって出来ているものが多いですね。

紙の原料になるものはセルロースと言うのですが、このグルコースが沢山繋がって出来てます。

同じ様にグルコースが繋がったものには小麦などに含まれているアミロースがありますが、それは繋がっている場所が違っているだけです。

繋がっている場所が違うだけで、全然性質の違うものになってます。

他の例として蛋白質というものがあります。肉や皮は蛋白質で出来てます。それはアミノ酸というものが繋って出来ています。繋がっているアミノ酸の種類や繋がり方が違えば違ったものになります。」


そう言って、准教授はd18(=20)種類のアミノ酸という有機化合物を描いた。

単純なものから、かなり複雑なものもが並んだ。

共通しているのは、窒素に水素が付いている部分と炭素に酸素と酸素と水素が付いているものがあるという部分だった。


「この部分をアミノ基、この部分をカルボン酸基と言うのですが、この二つの部分が決った順番で繋がることで蛋白質になります。

蛋白質もアミノ酸の繋り方が違えば違う蛋白質になるので無数にあります。

私達は肉等からタンパク質を摂取して、アミノ酸に分解してそのアミノ酸を材料として私達の体を再構成しているんです。」


それから、かなり長い間、有機化合物の説明が続いた。

聞いていて唯一判明した事は、容易には理解できそうもないということだった。

気象研究室の時に気象現象が複雑で容易に理解できないと思ったのだが、それ以上に難解かもしれない。


「それで、今、この研究室でやっている事の説明に移りますね。あれ?もうお昼の時間ですね。

こんな話をしていると、話が尽きないので。

この研究室でやっている事の説明は昼食後にしましょう。」


キキさんと、天然物研究室の事務員のイーヴィさんとオレ達は一緒に食堂に向かった。

イーヴィさんは、年配の眼鏡をした女性で以前はアトラス領の文官をしていたそうだ。

眼鏡を掛けるようになるまでは、目が霞んで、手元が良く見えなくなり引退していた。眼鏡のお陰で仕事が出来るようになったときに、メーテスの募集を見て応募したと言っていた。


「ふふふ。母娘おやこみたいでしょ。ね。イーヴィ母さん。」


「また、そんな事を言って。私には娘が居るけど、キキさんよりずっと年上ですからね。それを言うなら祖母と孫じゃないですか?」


なんとも仲の良さそうな感じだ。

やっぱりキキさんは大分若い女性なのだろう。


食事の時は、例によって、女性達は仲良さそうにしている。

食事や衣装の話で盛り上がっている。オレ達男性は、それを眺めているしかない。


「えっ、キキ准教授は私と同い年ですか?」


突然モンさんが声を上げた。


「そうよ。神歴d1N10(=3180)年生まれだから、今はd17(=21)歳。モンさんも同じ年に生まれたの?」


「ええ。そうです。他の准教授の人達も同じぐらいの年齢なのでしょうか?」


「そうね。私が最年少で、皆私より上だけど、そんなに年齢は違ってないわね。」


「それなのに、あんなに色々な事を知っているんですか?」


「えっ、何のこと?」


「いえ、有機化合物の事を色々教えてもらったのですが、あんなに知識が豊富なので……。」


「えぇー。そりゃぁ知っている事は知っているけど。私も知らない事だらけよ。

それに、ニケさん5年も鍛えられたら、この分野の事は大分詳しくなるわよ。」


「そんなものなのですか?」


つい、モンさんと二人で話しているところに割り込んで聞いてしまった。


「そうね。それにしょっちゅう工場を建てると言っては、反応条件を出すために実験ばかりしていたし。」


「そう言えば、ヘリウムの工場を先週建てたんですよね。その時も大変だったんですか? 」


「あっ、あれ。

あれは全然。

ニケさんとアイルさんで極低温の装置を作っただけじゃないかな。

もう既にアンモニアの工場に高濃度のヘリウムがあったし、低温で分離するだけだったから予備実験なんかはしてないのよね。

それに、あんな低温の実験装置なんてメーテスにも無いから。二人で現場合わせで作ったのよ。

ただ、既存のアンモニア工場に少し手を入れなきゃならなかったから、ヨーランダのところは大変だったんじゃないかな。」


「そうだったんですね。」


「あっ、それより、あんた達の方が大変だったんじゃないの?

天気予報だっけ。

宰相閣下達が王都に帰る為に、随分と沢山計算させられたんじゃないの?」


「いえ。そんな事は無いです。」


「そぉお?宰相閣下が帰る日には国務館に詰めていたって聞いたけどな。」


「それでも、決められた計算をしていただけですから。

それより、その後の方が大変だったかも知れないです。」


それから、先週、飛行船に乗せられて、遥か上空まで連れて行かれた事を説明した。


「えっ。何それ。私もそんな上空に行けるんだったら行ってみたいわ。

ウテントに頼み込めば、乗せてもらえるのかしら。」

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