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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
347/370

112.天気

「ギアン管理官。お久し振りです。」


ウテント准教授が来客を迎えていた。

ギアンという名前の人なら、交通管理部門の管理官じゃなかったかな。


「ああ、久し振りだな。鉄道の敷設以来かな。少し相談があるのだが。時間は良いだろうか?」


「ええ、大丈夫です。

それより、今度、交通省の長官に就任されるそうですね。」


「ああ、昨日宰相閣下から領主館に呼び出されて突然左様な話になった。」


「ここメーテスでも噂になってます。大出世じゃありませんか。アトラス領の者として誇らしい気持です。」


オレ達は、グループメンバーと顔を見合せた。

交通省ってのは何だ?

新設の組織なのだろうか?


オレ達は昨日までの2日間で気象観測の道具の設置場所候補をd160(=216)ヶ所ほどリストアップした。

今日は定められた席に着いて選定理由を其々(それぞれ)の観点で纏める作業をしている。一枚の紙に候補地の名称、領地名を記載して、候補地の特徴などを順に記載していく。

オレの担当は、その場所周辺の治安の善し悪し、過去に重大事件が無かったかなどを記載する。

全ての場所についてオレも知っている訳ではないので、そういった場所は別にリストを作って、元の所属の知人に調べてもらうのを依頼することになる。


「多分、大型船、鉄道に続いて飛行船の運航も管理することになったのでしょう。」


モンさんがこっそりとメンバーだけに聞こえる声で話した。


「なるほど。これまでは決まった場所だけを管理すれば良かったけど、今度は王国中になるからか。大きな組織になるのだな。」


モンさんの隣に居たアンゲルがそれに応えた。


「宰相閣下も本腰を入れて飛行船を使うことにしたんじゃないですか?」


「でも、飛行船は宰相閣下の要望で作ったって話じゃなかったか?」


マラッカさんとハムも声を抑えて話をしている。


6人でコソコソ話をしていたら、准教授から声を掛けられた。


「皆、紹介します。今度新設される交通省の長官に就任されるギアン長官です。

ギアン長官。ここに居るのは気象研究室に仮配属された王宮から来てくれた文官の人達です。

今、気象観測の道具の設置場所の検討をしてもらっているのですよ。

君達、順に自己紹介してくれませんか。」


「まだ、正式に長官となった訳ではないのだがな。」


「でも宰相閣下がその様におっしゃられたのでしょう?それなら決まったも同然じゃないですか。」


それからオレ達は、准教授に促されて一人ずつ自己紹介をしていく。

オレ達みたいなヒラの文官が、別の部門のギアン長官に名前を憶えてもらうというのは、中々無い機会だな。


「それで、長官は飛行船をご覧になりました?」


「ああ、昨日実際に飛行船に搭乗させてもらった。あれは凄いものだ。

私の人生で、空の上からマリムの街を見るなどという経験をするとは思ってもみなかった。」


「えっ、飛行船にお乗りになったのですか?

それで、飛行船はどんな感じだったんでしょう? 」


噂では、メーテスに居る人々は准教授を含め、誰も飛行船には乗ったことが無いらしい。

飛行船に乗ったことのある人と会うのは初めてだ。

オレも飛行船というのがどういうものなのか興味がある。


「そうだな。飛行船は音もなく上昇していく。周りを見ているうちにかなりの高さまで上昇した。マリムの街を一望できるまで然程時間は掛からなかった。

大分上空まで昇ったところで移動を始めたのだが、物凄く速い。

空には障害になるものは何も無いだろう?目的地まで一直線に向うことができるのだろうな。

操縦していた工兵に色々聞いてみたのだが、鉄道の何倍も速いらしい。

ただ、貨物はそれほど積めないようだ。

沢山の貨物を積むには飛行船はとてつもなく大きくなるらしい。」


准教授は、興味津々でいくつか質問を繰り返した。


「ウテント准教授。そろそろ、飛行船の話は良いかな?」


「あっ、申し訳ありません。今日は何か用事がおありなのですよね?」


「昨日、アイルさんに、大型船の時の様に気象観測の道具とビーコンの設置を検討するように言われた。

先程電気研究室に行ったのだが、あの研究室は考案税の申請書の作成に忙しいらしいな。

アルフ准教授は場所さえ決めてもらえれば対応すると言ってくれた。

その時、こちらで設置場所の検討をしていると聞いたのだ。

先程、ここに居る文官達を紹介してもらったが、ここに居る文官達に設置場所の検討をしてもらっていたのだな。

今、どんな状態だろう?教えてもらえないだろうか。」


准教授はオレ達の方を見た。

その言葉はオレ達に向けられていた様だ。

オレ達は、准教授と長官と共に会議室に向い、テーブルに着いた。


そこで、この2日ほどの間、一定のルールを定めて候補になりそうな場所を決めて、今はその詳細について纏めている事を説明した。


「なるほど、概ねそれで良いだろう。

まだ実際の運用については何も決まっていないからな。

しかし、これだけの数の気象観測の道具を設置するとなると簡単には済まないな。」


ギアン長官の言葉にモンさんが質問をした。


「どうやって運搬することになるのでしょう?やはり飛行船を使うことになるんでしょうか?」


「それしか方法は無いだろう。

しかし、行き先の天候が不明なまま運ぶのは……困ったことになるかもしれないな。

少しずつ、王都周辺から範囲を広げて行くのが良いと思うのだが。」


「しかし、侯爵領は西の遠方にあります。最初は侯爵領との間で飛行船を運航させたいのではないですか?」


「その可能性は高そうだ。すると、まず侯爵領の領都に気象観測の道具を設置するという事もありえるのか……。

その中間の場所への設置も必要になるな。

なかなか厄介な事になりそうだな。

こればかりは陛下や宰相閣下がどうお考えになるか次第だろう。

相談しながら進めるしかなかろう。人員も全く足りていないから、アトラス領の工兵に依頼しなければならないだろうな。」


その時、部屋をノックする音が聞こえた。

准教授が返事をすると、若い事務官が入ってきた。


「こちらにいらっしゃったのですね。領主館から無線連絡がありました。」


「領主館から?何だろう?

アイルさんから何か依頼があったのだろうか?」


「ええ。その通りです。アイルさんからの無線連絡です。ウテント准教授に伝えて欲しいとのことでした。

内容は……」


その事務官は手に持っていた紙を顔の前に掲げて、そこに記載されている文書を読み上げた。


「宰相閣下ご一行が王都に戻るのに飛行船を使われます。

至急、アトラス鉄道ガリア線沿線の天候を調べ、今後何日かの天気の変化を予想をして欲しい。」


事務官は紙を顔の前から下に下げた。


「無線連絡は以上です。」


「えっ!」


教授は絶句していた。天気の変化の予想って何だ?


「それは……。ウテント准教授。過去の気象観測の結果は何日分必要だ?」


「そうですね……6日分……いや、念の為、d10日分頂けませんか。かなりの量になるでしょうから、観測した結果をそのままで良いです。集計は人手がありますからこちらで実施します。」


「そうか。分った。直ぐに戻って準備させよう。誰か寄越してもらえると有り難いな。そうだな……馬を急がせれば1とき(=2時間)ほどで準備できるだろう。」


そう言うと、ギアン長官は研究室を出て行った。

一体、何が起こっているんだろう。


「突然ですが、君達の手を借りたい事が発生しました。

これから、国務館の交通管理部門の受信棟へ行って気象観測の結果を受け取ってきてください。

その後で、その結果を集計することになります。

ところで、皆さんは計算尺は使える様にはなりましたか?」


「はい。全員簡単な掛け算と割り算は出来るようになってます。」


マラッカがやけに嬉しそうに応えた。

この二日、オレ達はグループの勉強会でひたすら計算尺の使い方を練習していた。

早速役に立つみたいだ。


「それは頼もしいことですね。

それでは……国務館の受信棟ではちょっとした力仕事になりますから、男性のアンゲルさんとミケルさん、ハムザさんはスーシイさんと馬車で国務館まで結果を受け取りに行ってもらえますか。

スーシイさんは管理棟に行って馬車を借りて、この三人を連れて国務館までお願いします。

残っている女性のモンナさん、マラッカさん、イルデさんには、結果を記録した書類から数値を読み取る作業のやりかたを教えます。

そうすれば、結果が届いたら直ぐに作業に取り掛れるでしょう。

男性の方達は、戻ってきたら残っていた女性の方に作業の方法を教えてもらってください。」


スーシイさんは直ぐに研究室を出て行った。


オレ達男性三人はスーシイさんに少し遅れて正門へ向った。スーシイさんからメーテスの正門の前で待っているように言われている。

少し待っていると、スーシイさんが操っている馬車がやってきた。

なんとなく、馬の扱いがぎこちない。


「スーシイさんが馭者をするのですか?」


「ええ。その心算です。でも、もし三人の誰かが馭者を出来るのでしたら、替わっていただければ助かります。あまり馬車の扱いは得意ではないんです。」


オレ達は三人とも馭者の経験はあった。結局、一番年下のハムが馭者を買って出てくれた。

ただ、オレ達には何処をどう進めば良いのか分らないので、スーシイさんがハムに道案内をしていた。


「そうです。あとは暫くこの道沿いに進んで行くことになります。」


どうやらスーシイさんの道案内は一段落のようだ。

メーテスにやってきた時にこの道は通っているのだろう。夜遅い時刻だったので街道に灯りがあったけど周りは真っ暗だった。周りの様子は全く見えなかった。

広い道には行き交う馬車が見える。この周りは広い農地だ。行く先の方は沢山の家が建っているのが見える。


先刻の遣り取りが気になったのでスーシイさんに聞いてみることにした。


「先程、何があって、これから何をすることになるんでしょうか?」


「私も詳しくは分りません。無線連絡の内容だけです。

今、マリムに滞在されている宰相閣下や近衛騎士団長のご一行が飛行船で王都にお戻りになられることになったのでしょうね。

ガリア線沿線と言っていましたから、宰相閣下ご一行は鉄道が敷設されているところを辿って戻られるのだと思います。

アイルさんが天候を気にされているという事は、飛行船が飛ぶのに天気の状態が重要なのでしょう。

大型船の場合でも、航路に風雨が強いところがあると航行に支障があります。飛行船でも同じなのかもしれません。

それで、その範囲の今の天気とこれまでの天気を調べることにしたのだと思います。」


「今の天気を調べるのは分りますが、これまでの天気というのは?」


「これまでの天候が分っていてれば、明日や明後日ぐらいまでの天気が予測できるのだそうです。」


「えっ。そんな事が出来るのですか?

でも、天気って突然変わりますよね。昨日、一昨日晴れていても今日は雨という事は普通にありますせんか?」


「それは……えーとですね……。上手く説明できるか自信が無いのですけれど……。

例えばマリムだけの天気を見ていたら突然天気が変わったように見えますし、予測するのも難しのかも知れません。

准教授の話では、悪い天気は移動するのだそうです。

ですから、マリムの天気だけでなくて、周辺の場所の天気がどう変わったか解れば、翌日の天気がどうなるのか予測できるらしいです。」


悪い天気が移動?

そもそも天気が移動するというのは何だ?

これまでに、そんな話が出ていたか?

いや、天候は広範な範囲の影響で決まると言っていたんじゃなかったかな……。

初日に見せてもらった資料には書いてあったんだろうか?

あれは半分も読んでいない上、分らない事が多すぎて理解できてなかったな。


「えぇと、その悪い天気が移動するというのは、一体どういう事なんですか?」


「そうですよね。分り難いですよね……。天気が動くって言われても何だか分らないですよね……。准教授に聞いてもらうのが一番良いんですけど……。

えーと。例えば、西の方で雨が降って天気が悪いとしますよね。

その雨が降っている場所は段々と東の方に移っていくんです。

そして雨が降っている場所が移っていった西の方は雨が上がって天気が良くなるじゃないですか。

その場所に居るだけだったら雨が降って、その後天気が良くなるというだけなんですけれど、

その雨が降っている場所は東に移動していくんですよ。

それが悪い天気が移動するということなんですが……分りました?」


「それは、雲が移動するみたいに天気も移動するって事ですか?」


「そうです。そうですね。そう説明した方が良かったかもしれないです。」


すると、以前の天気が分っていて今の天気が分っていれば、次にどうなるのか解るってことなのか……。


「以前の天気というのはどのぐらい前からの天気が必要なんですか?」


「そうですね。時々こういう事があるんです。

あっ、鉄道の場合は多少天気が悪くなっても問題は無いんです。

問題なのは大型船の方で、海が荒れると大変危険なのです。

航路のどこかが酷く天気が悪い時に、その悪い状態がどのぐらい続くのか予測を依頼される事があります。

そういった場合には6日ぐらい前までの天気を調べていましたね。

でも、今回はd10日って言ってましたね。

それは、宰相閣下が移動する時の安全に関わるからじゃないでしょうか。

慎重に判断したいのだと思います。」


そうか。これは宰相閣下の安全のための作業ってことになるのか。

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