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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
346/370

111.気象観測道具

それは、縦、横、高さがそれぞれ2デシ(=20cm)ぐらいの金属で出来ている道具だった。


准教授は棚にあった立方体の形をしている道具を取り出して手にしている。


「これがアイルさんが最初に作られた遠隔地に設置するための気象観測用の道具です。電気が必要なんですけれど、この道具だけで置いた場所の気温、湿度、気圧が測定できるんですよ。」


そう言うとその金属の塊をテーブルの上に置いた。


それほど大きくない道具にグループのメンバーが近寄って詳細を確認しようとして、頭がぶつかりそうな程に近づいた。

ゴンと音がした。

アンゲルとハムは近付きすぎて頭をぶつけたみたいだ。


置かれた道具を見ると金属製の枠の中に細かなものが色々と詰っている。

殆ど金属で出来ているのだが、動物の毛か髪の毛の束みたいなものがある。

その毛の様なものは、道具の中で引っぱられているのかピンと張った状態になっている。

これは何なんだろう?

そんな事を考えていたら、准教授は別な道具を持ってきた。


「風の強さと風の向きはこの道具を使います。」


准教授が手にしているものを見た。金属の棒の先にお碗の様なものが何個も付いているものと、矢印をそのまま金属の塊にしたようなものだった。

それぞれが金属の筒の先に付いていた。


「風の強さを測る道具は、風が吹くとぐるぐる回るんです。その回る速度で風の強さが解ります。風の方向を測る道具は、同じように回るんですけれど、先端が尖っている方が常に風が吹いてくる方向に向くんです。」


金属の筒を縦にすると、その風の強さを測る道具と風の向きを測る道具は水平方向に自由に回る様になっていた。


「そして、この風の強さや方向を測る道具にある導線をこちらの装置に繋ぐんです。後は電気を通すと気温や気圧、湿度、風の強さ、風の方向を測った結果がこちらの導線から出てきます。

結果は音の高さで分るんです。

ちょっとやってみましょうか。」


金属の立方体の道具に導線と言っていた金属の細い糸のようなものを繋いていった。

円筒形の別な道具を持ってきてそれを結果が出てくる導線に繋いだ。

最後に充電池という名称の電気が出るという四角い塊に繋いだ。


「じゃあ、動かします。」


准教授はパチっと音をさせてスイッチを入れた。

円筒形の道具から音がした。


……ボー……ピー………………プー……ピー……ブー……ボー……ピー………………プー……ピー……ブー……ボー……ピー………………


1分(=48s)ぐらいの周期で断続的に5種類の音が順番に繰り返し聞こえてきた。

5回音がすると少しの間休みになった。

装置の中を見ると、円筒形のものが回転している。その円筒形のものの側面には、軸の方向に帯状に出張っているところがある。三つの方向から円筒の側面に針のようなものが伸びている。その針が円筒が回転すると順番に出っ張りに接触する。


「この音は順番に気温、気圧、湿度、風の強さ、風の向きを測定した結果です。音の高さが測定結果になっています。

試しに、風の強さを測る道具を動かしてみます。」


准教授が風の強さを測る道具を手で回した。

4番目の音が高くなった。


なんだか凄いな。どういう仕組みで動いているのか全く分らないんだが。


「この音を無線機に繋いで送信することで、遠隔地の気象観測結果が分るんです。」


いよいよ無線機の話になるのか。


そう思った瞬間に、モンさんが質問した。


「これって、先程見せてもらった温度計とも気圧を測る道具と全く違う様ですけど、どうやって温度や気圧や湿度を測るんですか?」


オレもそれは疑問に思ってはいたんだが……。


先程までの准教授の説明では気温を測るためには温度計を使う。湿度を測るためは温度計の水銀が溜っている部分に湿った薄い布を巻いて温度を測るそうだ。理由は理解困難だったが温度計の示す値の差から湿度が分るのだそうだ。

だから、少なくとも、温度計が二つとあの気圧を測るためのd10デシを越える長さの気圧を測定する道具が必要になるのだが、ここにある道具はとても小さくて同じ事をしているとは思えない。


ただ……聞いたところで、分るような気がしないんだよな。


准教授はその質問を待っていたのか、柔やかな表情になって説明を始めた。


「この道具は、測定する人が居ない状態で測定しなければなりませんからね。先程見せた温度計や気圧計では対応できないのです。

ここが気温を測る部分です。」


そう准教授は言いながら、隅にある湾曲した金属を差し示した。


「これは、バイメタルというものです。ジノ金属(ジノは2、バイメタルをこの世界の言葉に直したもの)とも言います。

金属は温度が高くなると伸びる性質を持っています。

この湾曲した金属の板は、温度によって伸び方が異なる薄い二枚の金属が貼り合わされているのです。

それで、温度が変化すると湾曲の度合いが変化します。

温度が高いと曲っている状態が伸びて、温度が低くなると曲り方がキツくなるのです。

ここに、古い道具を分解したものがあります。」


准教授が机の上に散らばっているモノから湾曲した金属を摘み上げて、質問をしたモンさんに渡した。

良く見ると、散らばっている細々としたものは、今動かしている道具を分解したものの様だ。


准教授は、オレ達が散らばっているモノを凝視しているのを見ていたからか、ここの作業を説明してくれた。


「ここでは、道具類の不具合を調べたり修理をしたりするんです。今、分解している道具は、初期の頃に海岸近くに設置したものなんです。潮風に当り続けた所為か、動作が怪しくなってきたので、何が問題なのか確認してたのです。

幾つかの部品が錆びていました。

この道具は電気で動くので、直接雨が当たらないように設置してはいるのですけれど、どうしても、野外に近い環境に置くためにこんな事が起こります。

今はマリムの工房でこれらの道具を作れるのですが、まだまだ、アイルさんの作ったものには及ばないんです。アイルさんが作ったものですら錆び付いたりしますから、こうやって分解して問題点を確認しています。問題が発生した原因と対処方法を考える事で少しずつ道具が良くなっていくんです。」


モンさんがメンバーに先程の曲っている金属の板を渡して、順にメンバーがその金属を見ていった。

オレのところに回ってきたので、見てみたけれど、どこをどう見ても銀色をした曲った金属の板だ。

二種類の金属が貼り合されていると言っていたけれど、この薄い板が二枚の板を貼り合わせた様には見えない。


最後に金属の板を見たイルデさんが准教授に金属の板を返した。


「この板は二種類の金属の板が貼り合わさっているのですけど、見ただけじゃが分りませんよね。アイルさんが魔法を使って作るとこうなります。マリムの工房で作っているものは、ここまで綺麗に二枚の板が貼り合されてはいないので分り易いんですが……。

それで、この道具では、ここにある金属の板が温度によって曲り具合が変わるのですが、その変化の具合が、この円筒の側にあるこの針に伝わります。金属の板の僅かな変化がこの針のところでは大きな変化になります。」


そう言うと准教授は先刻からずっとピープー音を出していた装置を止めた。


「この金属が変形するとこの針がこの円筒の側で大きく動くんです。」


そう言いながら、准教授が指で道具の中にある金属の板に触れた。

円筒の側にある針が大きく動いた。


「気温に応じてこの針の位置が変わるんです。そして円筒に出っ張っているところがありますよね。

この出っ張っているところに溝が沢山あります。円筒が回転して、この出っ張りが針に当ると針が溝に嵌り込みます。どの溝に針が嵌ったかによって音が変わります。

同じように、隣にあるこの針は気圧によって針の位置が変わります。

この針が繋がっているのは、この部分です。これは薄い真鍮で出来ているんですが中には空気が密封されています。

気圧が上がると押し潰されて、気圧が下がると膨らみます。その僅かな形の変化を針の動きにしています。

ここに、同じものがありますから見てください。」


そう言うと、先程と同じように、バラバラになっている部品から、准教授はくすんだ金色の金属を撮んでモンさんに渡した。

オレのところに回ってきたので良く見てみる。少し表面が錆びて変色しているけれど、確かに真鍮で出来ている様だ。大銀貨より二回りぐらい大きな円形の平べったい形をしている。厚みは大銀貨の厚みの5,6倍ぐらいだろう。

中央を指で軽く押してみると簡単に凹んで、力を抜くと元に戻る。

これが気圧が変わると潰れたり膨らんだりするのか。


メンバーが一通り見終えると、その金属をイルデさんが准教授に返した。


「最後のこの針は湿度によって位置が変わります。この針の元には毛の束がありますね。これは馬の尾毛です。人も含めて動物の毛は湿度によって長さが変わる性質があります。その長さの変化を針の位置に変えています。」


毛の様なものがあるのが不思議だったけど、湿度を測るためだったのか。


「この道具の他の部分には、音を変えるための電気的な仕組みや風の強さで音の高さを変える仕組みなどがあるのですが、少し専門的になりすぎるので、ここでの説明は割愛します。

実は、私が上手く皆さんに説明できる自信が無いのもあるのです。

興味があれば、電気研究室に資料があります。ただ電気の事が理解できていないと資料を読むのも苦労するかもしれないですね。」


「教科書の中に説明は無いんですか?」


マラッカさんが問い掛けた。


「簡単な電気の説明はあります。ただこの道具で音を作る仕組みの説明や無線機についてはあまり詳しくは書かれてありません。これらの仕組みを理解するには、電気の基本的な知識が無いと無理でしょう。」


メンバーを見ると、諦め顔と納得顔様々だ。


そろそろ無線について聞きたいところだな。聞いてみることにしよう。


「それで、無線というのはどういう物ですか?」


「そうですね。測定する道具の説明は以上なので、無線を使って測定した結果を送信して見せましょう。」


先刻まで音を出していた円筒形の道具を外して、四角い箱のような道具に繋いだ。

この箱の上部に、長い金属の棒が付いている。


「この金属の棒はアンテナと言って電波という電気的なものを外に放出する役割があるんです。

近くの場所と通信する時にはこんな簡単なもので良いのですが、距離が遠く離れている場合にはもっと複雑なものを使います。

この電波というものは目には見えないのですが、光と同じものだそうです。光が伝わる速さで、周りに伝わるんです。

部屋の奥の机の上に受信する無線機があります。

まず、そこにある受信機を動かします。」


准教授は奥にある道具の元に移動した。その道具は何やら様々なつまみが付いている。複雑な道具なのだろう。そして同じ様に金属の棒が脇に立っている。

少しの間、その道具の前で鈕を操作した後で、オレ達の元に戻ってきた。


「ここで気象観測のための道具を動かすと、そちらの受信機から先程の音が出てきます。」


准教授は先刻と同じように気象観測の道具のスイッチを入れた。

部屋の奥の道具から音がし始めた。


……ブー……ボー……ピー………………プー……ピー……ブー……ボー……ピー………………プー……ピー……ブー……ボー……ピー………………


先刻と同じ音がこの受信機と言っていた道具から聞こえてきた。

本当に離れた場所にある道具から音がしている。

何と言っていいのか分らない。

とにかく不思議な道具だらけだ。


「こんな風に、遠隔地で測定した結果を知ることができるのです。」


「これってどのぐらい離れていても伝わるんですか?」


「まだどこまで離れていると伝わらないのか正確には分っていません。少なくともアトラス領の北端あたりや王都から気象観測の結果は届いています。

マリムから一番遠い場所は、王国の北西の端あたりでしょうか、あるいは旧ノルドル王国の北西の端でしょうか。

そういった場所から電波が届くかどうかはやってみないと分らないというのが正直なところです。

今、気象観測の結果は、国務館の交通管理部門が一括して受信しているんです。

天候が大きく崩れると大型船の運航や鉄道の運行に影響しますからね。

それに一日中受信するとなると人手が必要です。

もし、マリムで遠隔地の結果が届かない様でしたら、王国の中央にある王都あたりに受信機を置いて観測結果を監視することになるかも知れないです。」


モンさんの質問に准教授が応えた。


少し気になって聞いてみることにした。


「伝えられるのは、こういった音だけなんですか?」


「いいえ、無線機では普通の会話を伝えることができます。

ここの研究室にあるのは、測定結果を定まった周波数で送信する装置と汎用の受信機だけですから、声を送るのは少し難しいんです。この道具は汎用の受信装置ですから、何処かの無線機で送信した音声を聞くことだけはできますね。」


そう言って、准教授は受信機の前に戻って、道具に付いている鈕を操作し始めた。


「うーん。何も聞こえませんかね……あっ、聞こえました。」


"……馬車が横転。応援を要請する。繰り返す。こちら第d38分署。南d2N通りと東d82通りの交差付近で馬車が横転。応援を要請する。繰り返す……″


「あぁ大変ですね。マリムの何処かで馬車が横転したみたいです。怪我人が居なければ良いのですが……あっ、これは警務隊の無線ですね。

どんな運用の仕方をしているのかは私は知らないのですが、緊急の場合にはこうやって無線機を使って離れた場所に声を伝えているんですよ。」


「これを使って、王都と話をするってことは出来るのですか?


「ええ。出来ますよ。」


「先程光の伝わる速さでと言ってましたけど、それがどのぐらいの速さなのか分らないのですが、普通に会話が出来るんですか?」


「ええ。普通に会話が出来ますね。王都まででしたら話した言葉はほぼ一瞬で伝わるようです。」


「この受信機という道具で、王宮と国務館とのやりとりも聞くことが出来たりするのですか?」


「いえ、今は無理です。私は詳細を知りませんが、王宮と国務館や領主館との間で使われている無線機は、ここにあるものとは違うそうです。通信の方法自体が違っていると聞いています。

ノルドル王国と戦争をしている頃は同じものを使っていたんですけど、無線機が増えてきた頃に変えたと言っていました。

流石に国家機密をあちこちで聞けるようになるのはマズいということの様です。

そんな訳で、一般に使われているここにある様な無線機で会話は聞くことはできません。」


なるほど。そんな事をしているのか。当然だろうな。


しかし……この無線機という道具には吃驚だ。気象観測の道具もそうだが。

本当に驚くようなものだらけなんだな。

あの空中に浮んでいた飛行船もそうだし、鉄道も大型船も……。

知らないだけで吃驚するようなものが他にもあるんだろう……。


「さて、これで、大体設置するための道具類の説明を終えますけれど、王国内のあちこちに設置する場合に考えなければならない事があるんです。

一つは電気です。

これらの道具を使うためには電気が必要です。

鉄道の駅には電気が繋がっているので、設置に問題は無かったんですけれど、これから設置するところには電気がありません。

あとは、電気を使う道具なので、雨を避けなければならないので、簡単な小屋を作る必要があります。」


それから、気象観測の道具を設置するのにあたっての課題について説明があった。

電気は充電器があれば、充電器の電気が無くなるまでは動かすことができるのだそうだ。

ただ、とても重いもので、先刻使った充電器を持ち上げようとして、あまりに重いので驚いた。

鉛の塊の様なものだと説明された。

充電池の電気が無くなったら、発電機を使って充電をするか、電気が入っている充電池と交換するかをしなければならない。

今、アトラス領で管理している遠隔地の気象観測の道具は、半年に1回は充電池を交換しているのだそうだ。それは騎士達の仕事として行なっている。

こういった体制をどうするのかは課題で、設置場所によって考えなければならない事の様だ。


小屋については、川の水が溢れても水没しない様な高台に高床式の小屋を作らなければならないらしい。

地面の近くは、日の光が当ると周りより気温が高くなって、日が沈むと周りより早く低くなる。

そのため、地面からはd10デシ(=120cm)以上離す必要がある。

小屋の造りも、外部から空気が入り、雨が当たらない構造が必要なのだそうだ。


それもこれも、設置する領地の領主との相談という事になる。


領主によっては嫌がったりするのだろうか……。ウチの実家のモンタニ領だとどうなんだろう……。


そんな話をしていたら終業の時間になった。

オレ達は様々な説明をしてくれた准教授に御礼を言って研究室を出た。

帰り間際にマラッカが、今日から計算尺の特訓と言い出したので、忘れずに計算尺を持ち帰った。


夕食はグループのメンバーで一緒に摂った。

夕食後は勉強会だ。


「なあ、今日の道具の説明、分ったか?

話を聞いている時には、そんなものなのかと思っていたんだけど、思い返してみると、全然理解できてなかったんじゃないかって思うんだよな。

今日の事って、まだ序の口なんだろ。

ちゃんと仕事が出来るようになるんだろうか……。」


夕食の席で唐突にアンゲルがこんな事を言いだした。


皆、頷いている。同じ様に感じていたんだろう。


「そうでしょうけれど。王宮の仕事を憶えて仕事が出来るようになるまで、それなりに時間が掛ったのではないですか?

学び続けるしかないと思います。」


モンさんがそれに対して意見を言った。


「確かにそうかもしれないな……。なまじ王宮で真面に働けていたからこんな事を考えたのかも知れない。

ここの仕事は、これまでの経験があまり役に立たないかもしれないと思って少し焦ったんだな。」


「そうですよ。ちょっと聞いただけでどうにかなると思うほうが間違っているんでしょうね。」


「文官学校でも王宮でも聞いた事の無いことだらけですから、仕様が無いですよ。だから勉強を頑張らないとダメなんですよ。

だから、一日も早く計算尺を使い熟せるようになりましょう。」


マラッカは色々と相変らずだな。

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