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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
344/369

10W.依頼業務

その大きな紙にはガラリア王国の地図が描かれてあった。地図には鉄道や大型船の航路が記載されてある。


「これは見ての通り王国の地図です。アトラス領と鉄道の場所、大型船が運航している王国の東部南岸は正確ですが、あとは昔から伝わっている王国の地図を写したもので、あまり正確な地図ではないです。特に旧ノルドル王国は先の戦争でアトラス領の工兵が随行した場所以外はどの程度正しいのかは不明です。」


そう言われて地図を見ると、通常見る地図と王国東部の海岸線の形が微妙に、いや、かなり違っている。


「アイルさんとニケさんは、今回飛行船を作ったのは宰相閣下の要請に応えたのだと言っていました。

宰相閣下は王都より西に鉄道を敷設するのに難色を示されているそうです。

詳細は私は知りませんが、どうやら西にある大国の様子が奇しいという事が理由らしいですね。」


「テーベ王国ですね。」


「噂ではかなりキナ臭くなってるらしいな。」


「ガラリア王国の銅や銅貨が随分と流れていっているという噂もある。」


グループのメンバーが呟いていた。

王宮の文官なら、隣国の状況に関する噂の一つや二つ聞いたことがあるだろう。

オレ達に正確なところは分からないのだが、キナ臭いのだけは確かなようだ。


オレ達の呟きのような声が収まったところで准教授は話を続けた。


「そんな状況なので、現在鉄道が通っている場所や大型船が寄港する場所以外の領地との人や貨物の運送に飛行船が使われることになるそうです。」


「へぇ。それは凄いな。」


「あんなものが飛んできたら皆驚くんじゃないか。」


アンゲルとハムが溜息混りに呟いた。


「それで、飛行船を実際に使うという事になると問題がいくつかあるんです。

一つはその飛行船が向う先の天候が分らないということです。

飛行船は空中に浮んでいますから風の影響を受けやすいんです。

出発する場所の天候が良くても到着する場所の天候が良いとは限りません。

移動する前に気象観測して行き先やそこまでの経路の天候がどうなっているのか知っておく必要があります。

場合によっては天候が回復するまで出発を延ばした方が良いという事もあるでしょう。」


「天気って、場所によって違うんですか?

天気の悪い日って、王国中で程度の差があったとしても、どこも天気が悪いんじゃないんですか?」


イルデが疑問を准教授に向けた。


「いいえ。天気は場所によって色々です。昨日の観測結果だと、今日はガラリア湾あたりは天気が悪いだろうと思われます。多分船の航行には問題はないでしょうけれど。

一方、マリムは良い天気です。まあ、マリムの天気が悪くなる事は少ないんですけどね。」


「そうなんですか。別々の場所の天気を同時に見たことってないので、どこも天気は同じだと思ってました。」


准教授は苦笑いをしていた。


「私も同時に見たことはありませんけど、観測結果からは違う天気になっているのが解るんですよ。

それで、先程話をした様に、飛行船が王国中を飛行することになると、王国各地の天候が分っていることが重要になります。

それが最初に伝えた王国内の気象観測網の検討をするという事です。

今、王国内にある気象測定をしている場所は、この地図に赤い印が付いているところだけです。」


地図を見ると赤い点が書かれている場所がある。その殆どがアトラス領で、あとは鉄道の沿線というより駅のある場所かな。あとは南の海岸沿いに何箇所かだ。


准教授は一旦話を区切るように沈黙した後、背筋を延ばした。


「それで、ここからが依頼業務になるのですが、どの場所に気象観測の道具を設置したら良いのか一緒に考えてもらいたいのです。

私は元々アトラス領の文官なので、他領の状況を知りません。特に王国の西の方になると全く知識が無いんです。」


「すると、オレ達の仕事は、その気象観測の道具を設置する場所を選定するってことですか?」


アンゲルが依頼内容を確認した。


「そうなのですが、協力してもらえますか?」


「それは、構いませんけど……。」


「全ての領都に設置する訳にはいかないのですか?」


マラッカが聞く。それが妥当な答えかもしれないな。


「聞くところに依ると、戦後、王国直轄領、男爵領が大幅に増えていて今ではd400近くなっているらしいですね。

追々は全ての領都に設置する事になるかも知れませんが、一度にそれだけの場所に設置することは到底出来ません。

それに広大な侯爵領や伯爵領では、1箇所だけでは足りないかもしれません。そういった観点だと、小さな直轄領や男爵領が集っているような場所だと全ての領都に設置するのもあまり意味が無いと思います。隣接した領地の気象状況は多分同じだろうと思われますからね。」


確かに王国の領地の数は増え続けている。

戦争で旧ノルドル王国の土地に封じられた貴族もそれなりに居たが、大半は王国直轄地になっていた。あれから2年ほど経って、魔法使いの代官がそのまま男爵として封じられたり、直轄地を分割して新たに代官を任命したりしている。

最近作られた領地はどこも小さい。ノルドル王国の反抗を防ぐためと聞いたことがある。


「准教授。選定する基準はどうなるのでしょう?」


モンさんが聞いた。


「そう。それなんです。一応私が考えた事はあるのですが、少し聞いてもらっても良いですか?

まず、飛行船が赴く先は、それなりに人口のある街になるだろうと思います。そういった飛行船が向う大きな街には気象の観測道具の設置は必須です。

あとは、重要な生産物のある場所でしょうか。晩餐会の時にお話しをしましたが、農産物は天候の影響を受けやすいです。何ヶ月も先の天候予測は当面無理としても、天候の状態と農産物の生育状態は確認しておきたいところです。

あとは、領地運営が上手くいっているところを選びたいですね。

気象観測は何年か行なってそれで終りという事は無く、何デイル年も継続して観測して結果を残す必要があります。」


マラッカが口を開いた。


「准教授。貴重な鉱物が得られる鉱山も候補にした方が良いかもしれないです。そういった鉱山は山中にあって、道の整備が不十分だったりします。

そんな道を移動している最中に嵐になったりしたら危険です。

嵐が来ることが予測できるのであれば、事前に避難させたり移動を中止できるんじゃないですか?」


「なるほど。それは思い付きませんでした。とても良いと思います。

ただ、そのためには無線機の設置も必要になりそうですね。

他にも選定する基準として採用すべき事があるかもしれませんね。

そういった選定基準、選定した場所とその優先順位、その場所や優先順位の理由を纏めて欲しいのです。

それを宰相府に上申して認可を仰ぐことになります。」


またムセンという言葉が出てきたな。ジーナの時もムセン連絡があったと言っていたけれども、ムセンというのは何なんだろう。


「宰相府に上申するのですか?」


モンさんだ。


「ええ。ここメーテスは宰相府の管轄だという事もありますが、これまで気象観測の道具を設置した場所はアトラス領やアトラス領で管理している鉄道、大型船に関わる場所だけでしたので、アトラス領で設置場所を決めていました。

今後他の領地に設置していくことになるのであれば、王国として決めた事として実施する必要がありますよね。」


「主要な街ってことなら、オレやハムが情報を持っている。主要な農産物の産地ってことならイルデが詳しいんじゃないか?」


アンゲルが対応について話し始めた。


「そうね。それに不明な点があれば、農務省の元同僚に問い合わせれば良いし。」


「鉱山とか災害が発生しそうな所とかはマラッカが分るのか?」


「ある程度は分るわね。イルデと同じで、不明なところは商務省の元同僚に聞くことが出来るわ。度々災害が発生していたら、商品供給で問題になるから記録が残っていると思うわ。」


「領地経営に関しては、オレのところでもある程度は分るんだが、モンやミケルが詳しいんじゃないか?」


「えっ、私のところですか?領地経営の事など分らないと思いますよ。」


「でも、王国中の領主の子供達は学校に入ってるんだろ。情報があるんじゃないか?」


「王国中じゃありませんよ。子爵以下の領主や一部の伯爵家の跡継ぎは受け入れてますけれど……確かに子供達の成績や学習態度、性格などの記録はありますね。過去を遡ったら、現当主の記録もあるでしょう。」


「えっ?それって何時までも残ってるのか?」


「廃棄する理由がありませんから、残っていますよ。流石に東部大戦以前の記録は無いと思いますけれど。」


「おまえの前職の部門が一番ヤバイところような気がしてきた……。」


アンゲルが絶句していた。よほど成績が悪かったのか、ヤンチャな事でもしてたんだろうか?

しかし、オレのところは関係ないんじゃないか?領主に関する事は爵位省の管轄だよな。


「なあ、オレのところは関係なさそうだが?」


「そうか?盗賊の発生とか、奴隷落ちなんかの犯罪について領地から報告が上がるんじゃないか?」


「たしかにそうだけれど、それと領地経営とどう結び付くんだ?」


「そういった事が無ければ治安が良いってことじゃないか?」


「まあ、確かにそうだが……治安が悪いところはなるべく選ばない方が良いってことか。なるほど。」


「なっ。メンバーで協力すれば、上申書を書けるんじゃないか?」


大体話は付いたみたいだな。准教授も納得しているみたいだ。

オレは幾つか気になっていた事を聞くことにした。

最初は簡単そうな事からにしよう。


「問題点がいくつかあると言っていましたけれど、他にも問題があるのですか?」


「あっ、それですか。地図が不正確だというのがあります。飛行船は街道を移動する訳ではないので、ある程度正確な地図が必要になる筈なんです。ただ、これは後回しでも良いというか、天候を観測する道具を設置する時に設置した場所を正確に測定すれば対応できます。」


「測定ですか?それは何を測定するのですか?」


「ヘリオの位置や星の位置を観測するんです。それで設置場所の正確な位置が分るのですが、その理由を説明するには色々な知識が前提になってしまいますね。

一応物理の教科書の中程に記載されています。

今、ここで説明しようとすると、説明するための言葉の説明が必要になって、説明が終らなくなってしまいそうです。

教科書を読んでもらう方が良いかもしれないですね。」


「やっぱりあの教科書を読んで理解しなきゃならないって事なんだな。」


アンゲルが溜息混りにオレ達に話し掛けてきた。


「勉強会。頑張りましょうね。」


マラッカは勉強会に前向きすぎるんじゃないか?


ただ、なんか綺麗に纏まったな。


そこで、ずっと気になっていた事を聞くことにした。


「それで、どうやったら離れた場所の気象測定の結果を知ることが出来るんでしょう?

あと、ムセンという言葉を何度も聞きましたが、それって何か関係があるのですか?」

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