表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
343/370

10N.気象研究室

「それで、手伝って欲しいというのはどんな事なんでしょう?」


アンゲルがウテント准教授に聞いた。


アンゲルを見た准教授はそのまま壁にある時計の方に目を移した。


「もうじきお昼の時間ですね。その説明は、昼食を食べてからにしましょうか。

少し早いですけど大丈夫ですよね?

その方が時間を気にせず話が出来ます。」


オレ達は准教授と事務職員のスーシイさんと一緒に食堂に向った。

食堂への道すがら、一昨日の空中に浮かんでいた巨大な物体の名前は飛行船だと教えてもらった。


昼食を食べ始めた途端に女性メンバーはスーシイさんの個人的な事を聞き始めた。

スーシイさんは既婚者でマリムで工房に勤めている夫と義父母、二人の子供と住んでいる。まだ子供は幼ないらしいのだが、義父母が子供を見てくれている。義父母が見れない時は、マリムにある託児所が利用できると言っていた。

元々商店の娘で読み書きが出来て、ソロバンが使えたのでメーテスの事務職員の募集に応募して採用になったのだそうだ。

メンバーの女性達はスーシイさん夫婦の馴れ初めや託児所の事をあれこれ聞いていた。


オレも含めて男性メンバーは、凄い勢いで事情聴取している女性メンバーの会話の輪に加わるのはムリだった。


そこで、ウテント准教授に考案税の会議について聞いた。

参加した准教授は天文研究室のピソロ准教授と分析化学研究室のカリーナ・ドナル准教授を除いた全員だった。この二人が参加しなかったのは、今日の午前中の学生の講義のためで、今日は物理学の授業の日になっている。

天文研究室は二人の准教授が居るので、ほかの准教授の手が開かない時に何かと駆り出されているのだそうだ。

そう言えばガイダンスの時に物理研究所の説明は、同じ天文研究室のピソロ准教授が代行していたのを思い出した。


その授業に分析化学研究室の准教授が参加したのは、学生達が一昨日の飛行船を目撃していたからで、学生達はあの飛行船の事を聞いてきて、ひょっとすると通常の授業にならない可能性があったからなのだそうだ。

一昨日、あのタンクの中の気体を調べていたのは分析化学研究室の准教授だったな……。


考案税の会議は、准教授達がアイルさんやニケさんに聞いた飛行船の仕組と、ジーナが持ち込んできた大量の図面を元に考案項目の内容の精査をしたのだそうだ。


朝会った時にジーナがそんな事を言っていたな。図面なんてものが本当に沢山あったりするんだろうか。


「図面って、あの飛行船のですよね?そんなものが沢山あるのですか?」


思わず、オレは聞いてしまった。


「アイルさんは新しいものを作る時に、作るものの図面を紙の上に魔法で描く事が多いんです。その図面があるのと無いのとでは、その後の考案税申請書を書く手間が大幅に違います。

今回は大量に図面があるので随分と助かりそうです。

図面があれば、あとは簡単に内容を説明すれば申請書が出来上がりますからね。」


「でも、図面を描くのって手間ですよね?」


「いいえ。どうもそうじゃないらしいのです。アイルさんが変形の魔法でモノを作る時には、頭の中で図面を思い浮べると言っていました。

ただ、これまで作ったことの無いものを作る時には、どうしても細かなところが上手くいかなかったりするのだそうです。そこで、頭に思い描いた図面をそのまま紙の上に魔法で描いて、それを見て修正すると上手くいくのだそうですよ。」


魔法の事はオレには全然分らいので、そんなものかと思うしかない。


「今回は新しいものだったから、大量に図面があったということなんですね?」


「そうなのでしょう。鉄道の時と同じぐらいの枚数の図面がありましたよ。基本的な構造や細かな内装まで。」


「すると、その図面に合わせて考案税の申請書を書くのですか?」


「いえ。そんな単純じゃないんです。先程までの会議は、考案の一番重要な部分を見出すのが目的でした。まずその重要で基本的な部分の考案税申請書を書いて、その後は細かな部分を作成していくんです。

例えば椅子の形とか、窓の構造とかですね。それも飛行船特有の考案がありますから。」


「なんか、随分と手間が掛りそうな感じですね。」


「まあ、何時もの事ですから慣れてはいるんですよ。

ただ、この時期に王宮から多くの文官の人達に来てもらえたのは有り難い限りです。

鉄道の時にはメーテスが無かったので、学生の教育に手が掛るということは無かったんです。

今はメーテスがあるので、学生の教育を疎かにする訳には行きません。

まだ開校してそれほど経っていないのですが、この一月の間でも色々な事があって……担当者を定めるのにも苦労してました。今回のような考案税の申請書までとなると破綻したかもしれません。」


そんな話をしている内に昼食は全員の腹の中に収まった。

皆で気象研究室へ戻ることにした。

帰る途中で、会議の後ジーナがどうしているのかを聞いてみた。


「ジーナさんでしたら、会議が終るとともに国務館に戻っていきましたよ。

何でも昨日に続いて今日も沢山の人が考案税の事務所に押し掛けてきているそうです。

何度も事務棟の職員が無線連絡を伝えに来てました。

彼方あちらは彼方で大変ですよね。」


もう国務館に戻ったのか。ジーナの魔法の件は何時でも良いからな。それにしても忙しくしているのだな。結構な事だ。というより御愁傷様なのだろうか……。


オレ達は准教授達と気象研究室に戻ってきた。


戻ったのは、先刻の部屋ではなく隣の部屋だった。

そこには大きなテーブルが中央に置かれてあり、その周りにd10脚の椅子。奥には大きな黒板があった。

多分、会議に使う部屋なのだろう。


オレ達はテーブルに黒板に向うように座った。

准教授は黒板の前に立った。


「じゃあ、改めて、今日から宜しくお願いします。

自己紹介は……まあ、あれだけ昼食の時に話しをしていたから今更だね。

で、早速だけど、私がアイルさんに依頼されたのは、王国全体を網羅する気象観測網を作って欲しいってことなんだ。

突然こんな話をしても良く分らないだろうし、一昨日の飛行船も関連するので、順を追って説明をしましょう。」


准教授は部屋にある黒板の前にで説明を始めた。


「では、まずは飛行船の説明をしましょう。

飛行船というのは、水に浮ぶ船の空中版ですね。

大きな船体の中に空気より軽い気体が詰っています。

船の場合は船体の中に水より遥かに軽い空気がある状態なので水の上に浮かびます。」


准教授は黒板に楕円形のものを描いて、その外に空気と書いて空気から楕円形の中に向う矢印を描いた。


「船って、空気で浮いてるんですか?」


「そうです。船の中に水が入ると、船は沈みますよね。浮んでいるのは空気の所為です。木造の船で、荷物が無ければ水が入っても浮んでいるかもしれませんが。

船が水に浮ぶかどうかは、船体、荷物、中にある空気などの船の重さを船の容積で割ったものが指標になります。空気の重さは他の何よりも軽いので無視しても良いです。その値が水の重さを水の体積で割った値より小さければ浮いて、大きければ沈みます。荷物を積み過ぎると船が沈むのはそんな理由です。

この重さを体積で割ったものを比重と言います。比重の大きさでモノが浮いたり沈んだりすることになるんです。」


「それって、准教授が書いてくれた、空気の重さと空気が上昇したり下降したりするって話と同じなのですか?」


「私が書いた書類をちゃんと読んでくれたんですね。そうです。空気の温度が上がったり圧力が下ると空気は膨張して周りの空気より比重が小くなります。その状態の空気は上昇するんです。

では、空気の話になったので、飛行船の話に移りましょう。」


そう言うと、准教授は黒板にまた楕円を描いてその外に「He」と書いてヘリウムと書いた。そして船の説明の時と同じように矢印を書いた。


「水に浮くか空気に浮くかの違いだけで、基本的なところは船と飛行船は同じです。飛行船全体の比重と空気の比重を比べて軽ければ空気中に浮んで重ければ浮かびません。

飛行船の中にはヘリウムというとても比重の小さな気体が入っています。ヘリウムそのものの説明は今ここではしませんが、ガイダンスの時に渡された化学のところに書いてありますから、後で確認しておくと良いでしょう。

このヘリウムは普通の空気の1/7から1/8の比重しかありません。

ですから、沢山のヘリウムを飛行船の中に詰められれば、飛行船全体の比重を空気の比重より軽くすることができて空中に浮ぶのです。」


「准教授。その黒板に書いた不思議な文字の様なものは何なのですか?」


「これですね。これはニケさんがエレメントを区別するために定めた記号です。これはヘリウムを表わします。ここメーテスでは頻繁にこういった記号が使われます。これも化学の教科書に説明がありますから後で確認しておくと良いですよ。

本当に簡単にですけれど、飛行船が空中に浮かぶのはこの様な理由からです。

詳細を話していくと時間がいくらあっても足らないので、飛行船の原理はこのぐらいにしておきます。もし興味があるのでしたら、これから考案税申請書に詳細が書かれますから、取り寄せて読むと良いでしょう。

さて、これから本題になります。」


そう言うと、准教授はスーシイさんに何かを指示した。スーシイさんは研究室から大きな紙を持ってきてテーブルに広げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ