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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
335/368

102.赴任

モンタニには2泊した。


久々に戻った生まれ故郷を見て歩いた。


モンタニは本当に何も変わっていなかった。

小麦畑の風景も、家畜を育てている草原も、子供の頃に見知っている風景そのままだった。

領民の作業している姿も、11年前に離れた時の様子と何も変っていない。


ただ、子供の頃に一緒に野山を掛けて回って遊んだ連中は皆大人になっていた。

ほとんどのヤツが結婚していた。当然のように子持ちだったりする。

すっかり世代が変わっているんだが……モンタニの印象そのものは全然変わっていない。


変化と言えば、最近は南から来る商人より北から来る商人が増えてきたのだそうだ。

モンタニ領は、この地域で最大の食料や畜産物の供給地だ。

王都や様々な領地に向けて小麦や根菜、獣皮、羊毛、乾燥肉などが運ばれる。

大きな川が無いこのあたりでは、陸路で2ヶ月近い時間を掛けてヨネス伯爵領へ運ぶ。

長い距離の移動になるのだが、一旦海まで運べば王国各地に運搬するのは楽だ。

多分、モンタニ家がこの地に領地を築いてからモンタニ領の農産物は常に南に移送していた。


鉄道が通ってから、これまで殆ど見る事が無かった北の商人が来るようになった。

その商人達は、南の商人達より高く農産物を買うと言っている。


父は運送費用や関税の違いの所為だと言う。

鉄道が通っているマリニエロ子爵領やピンナ子爵領の方が、大きな港を持つヨネス伯爵領よりずっと近い。

半月で荷を運べるのと、2ヶ月掛るのとでは運送に掛る費用が大きく違う。さらに、途中で経由する領地の数も違う。

長い距離荷を運んでいると盗賊に出会う可能性も増える。その分どうしても購入金額を抑えなければ、商人は利益を上げられない。


「厄介な問題なのだ。

作物の価格は、商人だけでなく、街道を経由する領地との長年の関税の協議で決まっている。

昔から懇意にしてくれている商店や経由する領地を無碍にする訳には行かない。しかし、高く買ってくれるという商人も無視できない。

ヴィータがピンナ子爵の息子と婚約することになったのも、様々な思惑の結果だ。」


オレは、そういった貴族の駆け引きや領地の商売先をどうするかなどには興味が無い。両親やリナスさんや弟や妹、今後、家族になる予定の弟や妹の連れ合いが判断すれば良いのだ。


変化の無いモンタニにとっては、どこと商売するのかは厄介な問題かもしれないけれど……鉄道が通っているところや大型船が運航しているところでは、もっと大きな変化が起こっているんじゃないだろうか。


そのうちモンタニも変わらざるを得なくなりそうな予感だけはある。


モンタニに着いて3日目にオレは王都に戻ることにした。

モンタニに来た経路を逆に辿って王都に戻る。


オレ達メーテス勤務となった文官が王都からマリムへ移動するのは海路と聞いている。

王都を出た時には正確な移動の日付は未だ決まってなかった。

モンタニでのんびり過していて船に乗り遅れたりしないか心配になってきた。

それに、モンタニの滞在は2日が限界だった。両親には悪いが飽きてしまったのだ。


挨拶もそこそこに、帰路に付いた。


来るときには気付かなかったが、マリニエロとモンタニを繋ぐ街道は随分整備されている様だ。

これも、変化の兆しなのかもしれない。


王都に戻って、出発の日を確認したらけっこうギリギリだったので少し肝を冷した。

間に合ったので問題は無い。


出発の日、ガラリア港に集まった文官はd40(=48)人は居た。随分と多い。


同期で顔見知りの文官も何人か居た。

船に乗り込むまで、その顔見知りと話をしながら待っていた。


宰相閣下や近衛騎士団長の姿も見えた。お二人とも奥様を同伴されいる。

配属変えになったときに読んだ資料によると、アイテール・アトラス様は宰相閣下の孫で、ニーケー・グラナラ様は近衛騎士団長の孫と記載があった。

この機会にお二人に会われるのかもしれない。


集っている人の中に、文官とは思えない集団も居た。


最初から宰相府に勤めていた同期は、鉱山で仕事をしていた者達だと言った。

オレ達文官と同じようにメーテスで仕事をする事になっているんだそうだ。

今回メーテスに行くのは王宮文官だけじゃないんだな。


そいつの情報では、鉄道沿線に領地がある何人かは、実家を経由して鉄道で移動してマリムで合流するんだそうだ。


「これで全員じゃないとすると一体何人がメーテスに異動になるんだ?」


「王宮文官がd50(=60)人、鉱山関係者がd30(=36)人だな。鉱山の関係者は宰相閣下の指示で鉱山を持っている領地からかき集められた。その為年齢がd10代からd40代まで様々だ。」


「しかし、ここで乗船を待っている人数も凄いな。目の前にある船がデカいのは分るが、こんなに人が乗れるんだな。」


「搭乗人数はd400人以上らしい。こんなに巨大な船は大陸中を探しても無いだろうな。」


「あれ?財務長官が居る。財務長官が他の領地に向かうなんて珍しいな。」


財務省だった同期がそんな事を呟いた。

そいつが見ている方に目をやると、いかにも高級文官と思われる人物が商人と思われる人々と談笑していた。

オレは、過去様々な罪人を見てきたので、身形だけでどういった職業をしている者なのか判別できる。


「それは珍しい事なのか?長官なら彼方此方あちこちに行くんじゃないか?」


「財務省は王宮の予算や資産の管理が主業務だから、他領と関わることは殆ど無いんだ。業務でアトラス領に行くんじゃないのかもしれないな。」


「でも、オレ達と一緒の船でアトラス領に観光で行ったりするか?この船には宰相閣下も居るんだぞ。」


「そうだな、業務じゃないのも変か。でも、アトラス領と何か業務で関係がある事なんて全く聞いていないんだけどな……。」


その話はそれっきりになった。どうせ詳細を知ったところでオレ達に関係は無いだろう。


直ぐに乗船の時間になってオレ達は船に乗った。

オレ達若手文官は、2等船室に案内された。

2等と聞いてあまり期待してなかったんだが、かなり良い部屋だ。


しかも個室だ。


これまで罪人の引き渡しなどで、地方の領都に行く事も有った。その時に泊った宿と比べると雲泥の差だ。これまで、こんな良い部屋に泊ったことなど無かった。

それに大抵先輩文官と相部屋だった。


初日の夕方には船内で晩餐会のようなものが開かれた。

食い物が美味くて驚いた。


それからの2日間は、知り合いや新しく知り合った文官と飲んだり食べたり、催しものを見たり、デッキで海を眺めたりして過した。

退屈とは無縁の時間を過した。


あと少しでマリムに着くという時に、船が遠目に見ても巨大なものに近付いていく。マリム大橋だそうだ。

船の甲板には多くの人が出ていた。

吃驚するぐらいの大きなものが光輝いているのが目に入った。


これが……橋?

こんなデカいものどうやって造ったんだ……。


あまりの大きさに声も出なかった。


程なくして船はマリム港に着いた。

マリム港は王都のガリア港の何倍も広くて、今乗っている船と同じぐらいの船が停泊していた。


船を降りると、オレ達の前には王国国務館からやってきた文官が待っていた。


「皆さん、遠路ご苦労様です。皆さんはこの先にある馬車に乗って王国国務館まで移動していただきます。馬車の定員は6名ですから順番に乗り込んでください。

これからの事については国務館で説明があります。」


オレ達が進んだ先には沢山の馬車が停まっていた。

これだけ沢山の馬車が停まっているのを見るのは初めてだ。

王都でも馬車を見ることがあったが、極々希に見掛けるだけだ。


一緒の船でやってきた文官や鉱物関係者が順番に馬車に乗り込んでいった。

オレの番になって馬車に乗り込んだ。6人じゃなくって8人乗っても大丈夫なぐらいに馬車の中は広かった。

幸い窓際の席に座れたので、オレは馬車で移動している間、街の様子を見ていた。

オレ達を乗せている馬車の他にも随分の台数の馬車が街中を走っている。

馬が沢山居る割に、マリムって街は随分と綺麗だ。馬糞などが道に落ちていたりもしない。


街を行き来している人が多い。

出入りしている人が多い商店もいくつかある。

随分と活気のあるところのようだ。


港から大分遠くに見えていた丘のようなところに近付いてきた。

丘の上には光っているものが見えていたのだが、あれは何だったんだろう。

そんな光っているものがあった方へ馬車は進み丘を登り始めた。

少し丘を登ったところで馬車が停止した。

馬車が停まったのは、大きな建物の前にある広場のような場所だ。


先程案内していた人が、建物の前で立っていた。


「ここが国務館です。この建物の中の二階に移動してください。そこで諸手続を行ないます。」


馬車が停まる度にこの人は声を掛けている。仕事とは言えご苦労なことだ。

一緒に馬車から降りた連中と一緒に建物の二階に向う。

案内の板があった。

案内に従って移動していると、通り過ぎる部屋の一つに「考案税調査室」という看板があった。

王宮の部署が国務館にも分室を持っていると聞いていたので、考案税の部署もマリムにあるのだなと思った。

行き着いた場所は広い会議室のような場所だった。

沢山の椅子が並んでいる。

オレ達より先に着いた人が席に着いているのを見て、オレも空いている椅子に腰掛けた。

オレ達と向き合うように机の向こう側で紙束を手にしている年配の女性が席に着いている。

どうやら全員揃うのを待っているみたいだ。


少し待っていたら、最後に移動してきた人達が部屋に入ったみたいだ。

部屋の扉が閉じられて、前に座っていた女性がオレ達に話を始めた。


「みなさんお揃いの様ですね。

それでは。

ようこそ王国立メーテスに。

私は、メーテスの管理棟で事務長をしているバンビーナと言います。

これから、メーテスで勤務していただく皆さんに職員証明書をお渡しします。

正式な職員証は後日渡しますので、その際には証明書の確認をしますので大切に保管しておいてください。

名前を呼ばれたら、こちらに来て職員証明書を受け取ってください。

アンゲル・ボルドニさん。」


最初に名前を呼ばれたのはオレの隣に座っていたヤツだった。

名前を呼ばれた文官達は順に前に行って、厚い紙を受けとっていた。

オレも名前を呼ばれたのでその証明書というのを受け取った。


その証明書の上段には王国立メーテスの文字と紋章と思われるものが記載されている。

真ん中にはオレの名前、性別、生年月日が記載されていた。

その下には職員の権利や義務について長々と記載があった。


「なあ、それ、見せてもらっても良いか?」


となりに座っているヤツが職員証明書を指差してオレに聞いてきた。見られて困る様なものは書かれていない。


「ああ。構わないよ。」


オレはそう言って、受け取ったばかりの証明書を手渡した。

そいつは、自分の証明書を左手に、オレの証明書を右手に持ってしばらく見比べていた。


「ああ、ありがとう。なあ、この書類、名前なんかを別にして全く同じじゃないか?」


「そりゃ、名前以外は同じことが書かれてあるんじゃないか?人によって内容が違っていたらそのほうが吃驚だろ。」


「いや、そういう意味の同じじゃないんだ。ちょっと見てくれ。」


そういって、となりのヤツ……確かボルドニと言われていたかな……がオレとそいつの証明書を手渡してきた。


「オレが言っているのは、下にある文章の部分だ。手書きなのに文字の大きさ、形、書かれている場所が全く同じなんだよ。」


そう言われて二つの証明書を見比べてみた。

文書の部分は少しクセがあるけれど読み難くは無い文字で書かれてあった。

二つの証明書を比べてみると、確かに全く同じに見える。

文書の中に何度も出てくる文字は文書の中で微妙に形が違っている。しかし二つの証明書を比べると、その微妙な文字の形の違いを含めて全く同じだった。


オレが見比べている間に、そのボルドニは、オレの反対隣のヤツに声を掛けていた。

これで、証明書が3通になったのだが、3通とも全く同じだった。


「なっ。不思議だろ。これってどうやって文書を書いてるんだろうな。

あっ、自己紹介がまだだったな。アンゲル・ボルドニだ。アンゲルと呼んでくれ。」


オレも自分の名前を告げた。


「しかし、良くこんな事に気付いたな。その方が吃驚だよ。」


「いや、ここで気付いたって訳じゃないんだ。」


それからアンゲルは事の経緯を説明してくれた。


アンゲルは、ボルドニ子爵の息子で鉄道が通った場所に実家がある。それでオレ達とは別に鉄道を使ってマリムに来た。


「それで、時間が少しあったんで街を見てみようと思って街に出てみたんだ。大きな商店の前で、紙を配っていたんだが、その紙にはその商店のお買い得品について書いてあった。

そのまま、その紙を手提げ袋に入れて、食事をしたりして街をブラブラしてたんだ。

この街は、そこらへん中に時計があって、そろそろ頃合いの時刻になったと思って、駅に戻っている途中、また同じ商店の前で紙を渡された。

違うものが書いてあるかと思って見比べてみたら、同じだったんだけどな。

それが、今言っている意味でも同じだったんだ。

文字の大きさも形も配置されている場所も完全に同じだった。

何だか不思議な気分になったんだが、偶々同じに見えるだけなんだろうと思っていたんだ。

ミケルが受け取った証明書が見えた時に、オレが受け取った証明書とそっくりだと思って声を掛けてみたんだ。」


「なるほど。しかし、全く同じ文書ってどうやって書いてるんだ?」


「そうだな。全く分らない。ここまで同じ文書を書こうと思ったらその方が手間が掛るよな。そんな魔法でもあるんだろうか?」


「そんな魔法、聞いた事は無いな。だけど、アンゲルが最初に気付いたのは商店で配っていた紙なんだろ?魔法使いがそんな仕事をするか?」


「そうなんだよな。ただ、ここはマリムだぞ。不思議な事は他にもあるんだ。」


それから、オレとアンゲルは、気付いた不思議な事を話して二人で盛り上がっていた。アンゲルの向こう隣のヤツは、あまり興味が無かったのか話には加わってこなかった。


「それでは、皆さんに職員証明書が渡りましたので、次の作業をしていただきます。

皆さんは様々な作業に従事することになります。その時に着用する作業着が支給されます。その作業着のための採寸をします。

名前を呼ばれたら順に、あちらに移動してください。」


またアンゲルが最初に呼ばれて、程なくオレも呼ばれた。

体のあちこちを採寸された。普通に服を誂えるときに測る場所以外の場所、脚の長さとか、頭の大きさとか不思議な場所も測られた。


全員の採寸が終るまでには時間が掛った。オレが採寸が終ったあとはアンゲルと二人で不思議話をして過した。

一人で唯待っていたら結構辛かったかもしれない。


全員の採寸が終了した後で、これからの事についての説明があった。

オレ達の宿舎はメーテスの敷地の中にある。

三度の食事は、メーテス内の食堂で無料で摂ることができる。

一週間に1日休日がある。

正式な職員証は後日渡される。それまでは今回渡された職員証明書で代用することになる。

食事の時やメーテスの出入りの際にはそれを提示するように言われた。

ちなみに、鉄道の利用は職員証を見せると無料らしい。


そして、この後、アトラス領の領主館で晩餐会が開かれるそうだ。

そこには、宰相閣下、近衛騎士団長も参加される。

晩餐会が終ったら馬車でメーテスに移動して、今日から宿舎住まいになる。

オレ達の荷物は、宿舎に運び込んでいると言っていた。


晩餐会で、アイテール・アトラス様やニーケー・グラナラ様に紹介してもらえるらしい。

あと、オレ達の直接の上司になる准教授という人達にも紹介されると言っていた。


いよいよニーケー・グラナラ様に会えるのか。

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