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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
332/369

WW.ヘリウム工場

結局、追加で小型飛行船を1隻、騎士団用飛行船を2隻、プライベート飛行船を4隻作ることになった。

お祖母様の私とアイルに負担を掛けないようにという話は、プライベート飛行船を所有するという誘惑で何処かに行ってしまったみたいだ……。


問題なのは、素材の量だよな。

今溜め込んでいるチタンとヘリウムだと、チタンが足らなくなりそうだ。


ボロスさんにチタン鉱石を集めてもらっているんだけど、そんなに直ぐには集まらないよね。

その上、お祖父さんズは飛行船で王都に帰ると言い出した。


確かに、飛行船で移動した方が早く帰れるかも知れないけど……。


理由を聞いたら全然違っていた。

陛下に飛行船を見せたかったみたいだ。

でも……陛下に飛行船を見せたら、プライベート飛行船をもう1隻作ることになりそうだ……ん?1隻で済むのか……?


兎に角、現有しているチタンで作る飛行船の優先順位を付けることにした。

王宮に渡す小型飛行船は既に作ってあるものにして、騎士団用飛行船と最低限プライベート飛行船を1隻。チタンが足りれば2隻だな。

プライベート飛行船が1隻しか作れない場合は、宰相お義祖父様じいさまの分だろう。

お祖父様とお祖母様には待ってもらうことになる。

アトラス領の分は、追々作っていくことになる。


アイルは、気象研究室に最近の鉄道沿線と海岸沿いの気象データを纏める様に指示していた。


移動の途中で強風で遭難なんて事になったら大変だ。

でも、観測点が少ないんだよね。大丈夫なんだろうか?


翌日から優先順位が高い飛行船を順番に作っていった。

ヘリウムが足りなくなるとマズいので、またダウンフローに晒されながらヘリウムを大気中から集めた。


結局、ぎりぎりプライベート飛行船を2隻作ることが出来た。


やっかいな事が残っていた。

小型飛行船と騎士団用飛行船、大型輸送用の飛行船の側面に王国の紋章を描かなきゃならない。

あと、プライベート飛行船の1隻にゼオン家の紋章、もう1隻にはサンドル家の紋章を描くことになる。

これが意外と手間取った。

全ての飛行船に紋章を描くのにまる一日では済まなかった。


結果。私の魔法だけだとムリでした。


アイルは綺麗に各家の紋章をチタンの気嚢の表面にレリーフの紋章を作ってくれた。その表面に私の魔法で薄い酸化膜を作る。

色を変えなきゃならないから、微妙に厚さをコントロールをしなきゃならない。私にはムリだった。

結局、私が少し厚い酸化膜を作って、アイルがサブミクロンオーダーの厚さ調整をして完成した。

この方法を採るまで、長い時間試行錯誤した。

やっぱり私は素材を作る方が得意だ。形はアイルに任せた方が上手くいく。


大体、d200デシ(=29m)の巨大な紋章に酸化膜で色を付けるなんて無謀な事を考えたのは誰だよ。


…………私でした……。


飛行船が何とか出来上がって、お祖父さんズは直ぐにでも王宮に戻りたがったけれど、アイルからストップが掛った。

ちょうど王都までの経路の中央付近、キリル川と鉄道が交差しているあたりに低気圧があって、その周辺の風が強いらしい。

何日か過ぎれば全域で安定しそうだから待つようにとアイルが言う。

飛行船なんてもので長距離を移動するのは、この世界で初めてのことだから最初からトラブルは避けるべきだという意見が通った。


それからの4日間は、街の観光をしたり、飛行船でアトラス山脈の東側を周遊したりして過した。


ようやく、飛行船でバタバタしていたのから開放されてまったりだ。

やっぱりまったり過すのが一番だよね。


明日はマリムから王都までの鉄道沿線全域で天候が安定しているとアイルが言ったのを受けて、その日の夕刻から晩餐会になった。


宰相お義祖父様じいさま夫妻と近衛騎士団長夫妻が帰還されるのだ。

しかも、飛行船で王都に向う。


自然と晩餐会の話題は飛行船になった。

騎士団が使う飛行船の話は避けて、大型の輸送飛行船とプライベート飛行船の話題で盛り上がっていた。


参加した領民では、リリスさんとヤシネさんだけが飛行船に乗った経験がある。

あとは、司教様ぐらいだ。

司教様は毎日の様に朝から領主館にやってきた。私達が飛行船に乗る時に同乗する気満々だった。

結局、アトラス山脈東岸の周遊には司教様も同乗した。

甚く感激していた。

しかし……司教様って基本暇なのか?


晩餐会では飛行船に搭乗した経験がある3人が会話の中心になっていた。

前世の宇宙飛行士みたいなものかな?

集まった人達は、三人の事を羨ましがっていた。

皆、興味津々なんだよね。なにしろ空を飛ぶんだから。


商店主達は、飛行船で物流がどう変わるのかが気になるみたいだ。

特に、大型の輸送船がどこを運航するのかといった話題に終始していた。

宰相お義祖父様じいさまが、まだこれから検討すると言っているのだけど、憶測や予想で盛り上がっていた。


職人達は、自分達で飛行船が作れるのかといった事が話題の中心の様だ。

どうなんだろう?チタンの加工は難しいんだよね。

チタンは熱伝導が悪くて、他の金属と合金を作り易い。

熱で硬脆い酸化物が出来易い。

普通に切削加工しようとすると、直ぐに加工する刃物がダメになる。

ジュラルミンを作った方が良いのかもしれないな。

まっ、先の事だ。


それよりヘリウムだ。

アイルはメーテスに何隻か飛行船を配備したいと言っていた。

私のところでも、鉱物研究室に何隻か持っていた方が良さそうだ。

鉱石の調査はどうしても山の中になる。調査する場所に移動するだけで何日も掛る。

アイルは気象研究室に必要だと言っていた。上空の気象状態を調べたいんだそうだ。

ガイアは地球と良く似ているから同じなんじゃないかと思い勝ちだけど、未だ知らないだけで実際には何か大きく違っているかもしれない。


普通に飛行船が使われるようになったら、気象観測はとても重要だ。

現時点では、気象現象が地球と同じだと思って良いのかどうかすら別らない。


何隻も飛行船を配備することになると、ヘリウムの供給が出来ないとマズいんだよね。

一応ヘリウムは漏れない様にしているけど、ヘリウムの分子サイズはとても小さい。ゴムなんかでは完全に漏れを防止することは出来ない。

気嚢の中のヘリウム溜めに大気が混じったりすると浮力が落ちる。


安定してヘリウムが供給できる体制が必要だ。


晩餐会はとても盛り上って終了した。

飛行船への期待が大きいという事なんだろうね。


翌日の朝、お祖父さんズ夫妻と警護の騎士さん達を乗せて飛行船が飛び立った。

お祖父さんズ夫妻は一緒に、少人数の騎士さんとゼオン家の飛行船に乗り込んだ。

残りの警護騎士さん達はサンドル家の飛行船に乗り込んだ。

大型輸送船と小型飛行船、騎士団用飛行船は操縦する騎士さんと無線連絡する騎士さん、発電機を動かす騎士さんだけが乗り込んでいた。


上空に浮んだ飛行船が西に進路を取ると、あっという間に見えなくなった。

無事に王都に辿り着いて欲しいものだ。


まあ、無線があるから、何かあったら連絡が入るだろう。

もしもの時は、アイルと私のプライベート飛行船で救援に向うことになっている。

そんな訳で、お祖父さんズが無事王都に着くまで私とアイルは領主館で待機だ。


その日はフランちゃんとセド君と遊んだり、ヘリウム工場の構想を練ったりして過した。

アイルは、一人で何やらやってたけど詳細は知らない。


夕刻になって、無事に王都に着いたと連絡があった。

ヤレヤレだね。

これで、ようやく研究生活に戻れる。


翌朝、久々に研究所に向った。

何日ぶりだろう。

2週間は研究所に顔を出さなかったかな?

あれ?何だか物凄く人が多くないか?


「ニケさん。お久しぶりですね。漸く戻ってくれたんですね。

……それで、早速なんですけど。私達を飛行船に乗せて欲しいんですけどダメですか?」


キキさんが声を掛けてきた。


それは良いけど……皆仕事があるんじゃないか?

それより、何でこんなに人が沢山居るんだ?


「それは良いけど、研究所に何でこんなに沢山の人が居るの?」


「えっ?忘れたんですか?王宮から手伝いの人がやってきたじゃないですか。」


あっ。思い出した。そんな事があったね。

それで人が多いんだ。完全に忘れてたよ。


「それで、飛行船に乗りたいのは准教授の人達?このお手伝いの人も?」


「そりゃ、皆乗ってみたいですよ。」


「でも、仕事があるんじゃない?」


「明日は休みの日です。飛行船に乗せてください。」


あっ、そうだったんだ。明日は休みなのか……うーん。すっかり調子が狂ってるな……まるで浦島太郎だよ。


それからアイルと相談して、翌日は飛行船の試乗会を催す事にした。

皆喜んでいたよ。

明日が休日ってことは、今日は数学の日なんだな。それなら化学研究所の准教授は皆研究室に居るんだろう。


久々に准教授を全員招集して、ヘリウム生産工場建設の準備を開始した。


ヘリウムを空気から分離濃縮するのには、沸点の違いを利用した蒸留塔を使う。

まっ、普通に物質の純度を上げる方法だ。

ただ、恐しく温度が低い環境で実施しなきゃならないって事が問題なんだ。

蒸留塔は金属で作るんだけど、金属には低温脆性ていおんぜいせいっていう性質がある。

温度が極端に低い環境では、金属は金属らしい性質を失ってしまって、粘りが無くなる。液体ヘリウム温度ともなると、金属によっては簡単に粉々になる。

鉄系の合金でその温度まで使えるものの記憶が無い。

だから、鋼で蒸留塔を作るのは避けた方が良いんじゃないかな。


多分、物理学者だったアイルの方が詳しいと思うんだけど……。


私も大学で極低温実験をしたことがあるんだけど、化学系の実験道具って、ガラスや石英製が多いんだよね。

極低温実験する真空装置もガラスで出来ていた。極め付けは油拡散ポンプもガラス製だったな……。流石に液体ヘリウムを減圧して4K以下の極低温を作る実験にはターボポンプを使ってたけど。


そんな話はともかく、低温脆性を起こし難い材料の一つがチタンだ。

うーん。最近はチタンだらけだな。


地球だったら、金額の点で却下されるんだけど、魔法で作れるから何も問題は無い。魔法はコストレスだからね。


あとは、どうやって極低温を作るかなんだけど、これも断熱膨張を使う。普通の話だ。ただ、こんな温度まで下げても問題が無い気体はヘリウムぐらいしか無い。

結局冷媒はヘリウムを使うことになる。

問題は膨張タービンという部品なんだけど……これはアイルにどうにかしてもらおう。


アイルを巻き込んで、ヘリウム工場を具体的に纏めていく。

昨日、アイルが一人で何をやっていたのかと思ったら、膨張タービンを設計していたらしい。

吃驚だ。

極低温用の装置なので、エアーベアリングがどうたらとか色々言っていたけど、まっ何時もの事だ。


「でも、良く膨張タービンを設計しようなんて思ったね。凄いよ。」


「だって、ヘリウムを作るんだったら極低温が必要なんだろ?

だけど、大気中に2d%(=1.4%)しかないヘリウムを集めようと思ったら、結構大変だぞ。」


「あっ、それなら大丈夫。コンビナートには高濃度でヘリウムが溜っている場所があるのよ。」


ふふふふ。

実は、コンビナートには、高濃度でヘリウムを含んでいる気体があるんだ。


アンモニア工場の排ガスには、ヘリウムが大量に含まれている。

これまでは、一定量アンモニアを作ると、廃棄してたんだよね。

アンモニア工場では、反応を終えたガスの中に未反応の窒素が在るので、未反応のガスに新たに窒素と水素を加えて循環させている。

加える空気からは、酸素や一酸化炭素、水などを除去しているんだけど、化学反応もしなければ、低温で液化もしないヘリウムはそのままだった。

循環を繰り返していると反応しないガスの濃度が増えていく。その反応しないガスの大半が、ヘリウムガスとアルゴンガスだったんだ。


工場を作った頃はヘリウムが大量に含まれているなんて考えてもいなかったし、そもそも使い道が無かった。


アンモニア工場はフル生産状態だ。大半は肥料になって王国中に運ばれていく。

これまで、土地が沢山あったからと作物が採れなくなった土地は放置していたみたいだけど、街の側の農地が復活するんだったらそれに越した事は無い。


そんな訳で、ヘリウムの供給元として最適だ。どうせ大気からヘリウムを取り出そうとしたら同じプロセスを辿ることになるしね。


その日は、ヘリウム工場の概略方針を立てた。

ボロスさんのお陰でチタン鉱石は少しずつだけど確保できてきている。

お父さん達は直ぐにでも飛行船が欲しいみたいだけど、まだ暫くの間は我慢してもらおう。

大変なんだからね。大気から魔法でヘリウムを抽出するのは。


翌日の飛行船の試乗会は大盛況だった。

話をした准教授達や手助けにきた王宮の文官さん達だけじゃなく、メーテス職員や学生が噂を聞きつけて集っていた。


私達にとっては、大変な事は何もない。ただ私達のプライベート飛行船を提供しているだけだからね。

操縦している騎士さん達は大変なのかもしれないけど……。


カイロスさんが、寮で同室の友人を連れてきていた。

皆、魔法研究室の打ち上げの時に会ったことがある。

ひとりはロッサ子爵の息子さんだよね。あとは王太孫殿下とどこかの子爵家の息子さんだ。

ロッサ子爵の息子のムザルさんは、両親も乗せていただいたと御礼を言っていた。

そう言えば、そんな事もあったね。


集まっている人達は皆笑顔だ。こんなイベントが有っても良いかもしれない。


翌週、早速コンビナートでヘリウム工場を造った。

私はひたすらチタンや必要な金属素材を作った。

基本、低温に晒される場所はチタンを使った。贅沢だと思うのは前世の記憶の所為だな。

3日でヘリウム工場は完成した。


作ったヘリウムは、液体ヘリウムにして保管する。

d200デシ(=29m)の高さの断熱容器のタンクが6基並んだ。

この断熱容器は三重のデュワー瓶構造になっている。

魔法で、真空も作れたのが驚きと言えば驚きだった。

魔法は何でもありだね。

今のところは、このタンクは殆ど空なんだけど、順次ヘリウムが分離できたら中に詰めていく。

全部が一杯になるのにはまだ時間が掛るね。

それでも、工場が動いていればヘリウムが溜っていく。

有り難いことだ。


無機化学研究室に仮配属されていた手助け文官さん達も駆り出されていたんだけど、工場を作っている間、終始無言で目を剥いていた。


これもお約束だな。

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