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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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W9.化学の授業

チャリーン


また、何処かで誰かがガラスの道具を割ったみたいだ。

化学実験用のガラスの道具は薄いガラスで出来ている。

容積を測る道具や容器の中に入っている液体を取り出して他の容器に取り分ける道具はことさら薄いガラスで出来ている。


袖に引っ掛かかって机から落ちれば割れる。

この前は、指を引っ掛けて机の上で倒しただけで割れた。


最初は酷かった。1秒(=4秒)に1回、どこかでガラスの道具が割れる音がした。

この実習も5回目で、1刻(=10分)に1回程度に減っているけれど、やっぱり割れる。


指導してくれている先生は、

「ガラスなので割れるのは仕方が無いです。私達も最初はそうでした。」

なんて言っているけど、とてもそうは思えない。


メーテスの授業が始まって、一月の間数学の授業が続いた。

物理と化学、どちらを学ぶのにも数学が必要だという事だった。

聞いた事も見たこともない数学の授業が続いた。


これまで、魔法学校では、足し算、引き算、掛け算が出来れば、それ以上を求められた事は無い。ソロバンが使えれば、何処に行っても胸を張れる。

ところが、ここで教えられた数学は全く違っていた。


カイロス君に教えてもらいながら、ボクとエリオ殿下ゼリアさんは何とか付いていくことが出来た。


図形を使った証明の問題は面白かった。補助線を引くと違う世界が見えるみたいだった。

特殊な関数の事も学んだ。三角関数、対数関数、指数関数。

これらの関数の値は、数表を見ないと分らないのだけれども、とりあえず関数という事にしておけば、計算だけは出来る。

最後に関数の値を数表や計算尺で読み取って計算すれば良い。

角度を測るだけで、遠くの山の高さが分るって、凄いと思った。

指数関数は、化学でも良く使うのだそうだ。

ロッサコンビナートを領地に持つボクにとっては、化学はきちんと理解したい項目だ。


今月から、ようやく物理と化学の授業が始まった。


座学の他に実習も始まった。物理の日は、午前中は物理の座学で、午後は物理の実験だ。化学の日も同じで化学の実験がある。


物理実験は見れば分るので良いれれど、化学の実験は道具の操作方法が難しい上に、見ても何が起こっているのか分らない。

午前中の座学で習っていなければ、自分達が何をしているのかすら分らないだろう。


習ったところに拠れば、とんでもなく小さなd80(=92)種類の粒がくっ付いて、この世の中のモノは出来ているのだそうだ。


魔法学校では、世の中のモノは、火、水、風、土の4つの元素で出来ていると習っていたので、全く違っている。

ボク達(ボクとエリオ殿下とゼリアさん)三人の魔法組は、学校で習っていた事と違っているので抗議した。


指導してくれていたヨーランダ准教授は、

「銅は四元素の何で出来ていることになっているのですか?」

と逆に聞いてきた。


「銅に限らず金属は火と土から出来ているのです。」

エリオ殿下が当然だとばかりに応えた。

このぐらいの事は、幼ない子供でも知っている。


「そういう人が居ると思ってました。」


それから、その先生はガラスで出来ている実験道具を講義机に並べた。


「ここにあるのは錫という金属です。錫を銅と混ぜると皆さんが良く知っている青銅になります。錫というのは鎔ける温度が低くて、空気中で加熱すると酸化錫になって、金属ではなくなります。」


それから先生は、錫を陶器製の容器に入れてバーナーという道具で加熱して見せた。錫が鎔けてしばらく経つと表面が金属でなくなって、全て石に変わった。


引き続いて炭とその石を混ぜて加熱した。石はまた金属に変わった。


「鉱石と炭を混ぜて加熱すると金属になって、金属を加熱すると酸化物になるのは良く知られている事です。

ちなみに、炭は何の元素で出来ているのですか?」


「炭は火の元素で出来ています。火が固まったものが炭です。」


また、エリオ殿下が応えた。


「それでは、この変化で何が起こっているのか順番に確認していきましょう。」


それから、錫、炭、石と炭、空の容器を順に重さを測って加熱をした。

金属が石に変わると重くなっていた。炭は加熱すると燃えて何も無くなる。

炭と石を混ぜて金属すると、元々の石の重さより軽くなっていた。


「この変化は、四元素ではどの様に説明できます?」


先生はボク達に質問をしてきた。ボク達は顔を見合わせた。


「どうって?どうなっているんだ?」


ゼリアさんが、困惑顔でボクと殿下に話し掛けてきた。


「一つ、考えられるのは、火の元素は軽くて、土の元素と合わさると軽くなるって事じゃないか?」


殿下が先生に自分の考えを伝えた。


「そう思いますか。では、次の実験をしてみましょう。」


今度は少し大きなガラスの容器に錫、炭、石と炭を入れて蓋をした。そこで重さを測った。

外から先程と同様に、バーナーという道具で加熱して同じ変化を起こさせた。

炭は燃えて無くなっている。錫は石に変わっている。石と炭は金属に変わった。

変化の後でガラス容器全体の重さを測った。

その結果、全体の重さは変わらなかった。


段々と、これまで教わっている4元素では説明がしにくくなってきている。

というより、説明が出来るんだろうか?


「次の実験は、容器が十分冷えてから行ないます。それまで、これまで行なった内容を纏めてみましょう。」


そう言って、先生は、黒板にこれまでの結果を書き出した。


加熱後の変化


・金属→石

  重さが増加

  容器内 重さは変化なし


・炭

  無くなる

  容器内 重さは変化なし


・石と炭→金属

  元の石の重さより軽くなる。

  容器内 重さ変化なし


・何も無し

  重さ変化なし

  容器内 重さ変化なし


「先生。その何も無しというのは何なのですか?」


先生は、実験をしている時に、何も入っていない陶器の容器の重さを量ったり、何も入っていないガラスの容器を加熱して重さを量ったりしていた。


「行なった操作で、容器の重さが変化していないかを確認したのです。

加熱して、容器の重さが変わる様な事があれば、重さが変化してもそれが原因の可能性が出てきます。その可能性が無い事を確認する事が必要なのです。

当たり前だと思っていても、それが間違っている事もあります。」


そんな事しなくっても、当たり前の事じゃ……そうか、当たり前が正しくなければ間違った結論になったりするから、それを避ける為なのか。


「容器が冷えたら、中の空気の量がどうなっているか確認します。

さて、火の元素がある場合に、中の空気の量はどうなっているでしょう?」


ガラスの容器の重さが全て変わらなかったのだから、火の元素は容器の中に閉じ込められているんだよな。


「金属を加熱して石に変わった容器の中は火の元素の分増えていて、炭が無くなった容器の中も増えている筈です。石が金属に変わった容器の場合は炭が金属と結びついたのですから変わらないと思います。」


殿下が予測を言った。


「そうです。火の元素が外に出たり、結び付いたりして変化した場合には、そうなりますね。

予測して、それが正しいかどうかを確認することはとても大切です。」


「次の実験をする前に、少し別な実験をしてみます。」


そう言うと、先生は中に空気が入っている風船を見せた。


「先程、容器が冷えたらと言いましたが、空気は温度によって体積が変わる性質があります。この風船はガラス容器と同じで中の空気は閉じ込められています。

この風船をお湯に浸けると……。」


風船を湯気が立っている容器に浸けた。

みるみる風船が膨らんでいった。

お湯から風船を出すと少しずつ風船は萎んでいく。


「このように、空気は温度が高くなると容積が増える性質があります。そんな訳で、先程実験したガラス容器の中の容積がどうなったかを調べるのは、容器が十分に冷えてからになります。

それでは、四元素と違うエレメントの説明をします。」


それから、先程ボク達の抗議の所為で途中になっていた説明をしてくれた。


ニケさん達は、この世の中の物は、4つの元素で出来ているとは考えていないのだそうだ。


d80種類のエレメントが互いに結びついて様々な物が出来ている。

銅や錫や炭は単一のエレメントで出来ている。

空気も、窒素というエレメントと酸素というエレメントが二つ結びついた分子というものが混ざったものなのだそうだ。


その小さな粒がd10のd16乗個集まると、ようやく砂粒ぐらいの大きさになるらしい。

あまりに大きな数すぎて、想像する事も出来ない。

数字を使って書き表わす事はできるけれど、そんな大きな数を表わす文字は無い。


その考え方だと、石は金属のエレメントと酸素が結び付いたものという事になる。金属は石から酸素のエレメントが取り除かれたものだ。火の元素の考え方と全く逆だ。

そして、炭は空気の中の酸素の分子と結び付いて、二酸化炭素という分子になる。一つの分子から一つの分子が出来るので、結果的に分子の数は変わらない。


この考え方で、容器の中がどうなっているかを予測すると、金属が石に変った容器では中身が減っていて、炭が燃えて消えた容器は中身は殆ど変化しない。石が金属になった容器では中身が増えている事になる。


先生は先程黒板に書いた纏めに、予測内容を付け足した。


・金属→石

  重さが増加

  容器内 重さは変化なし

  四元素   容積増える

  エレメント 容積減る


・炭

  無くなる

  容器内 重さは変化なし

  四元素   容積増える

  エレメント 容積変わらない


・石と炭→金属

  元の石の重さより軽くなる。

  容器内 重さ変化なし

  四元素   容積変わらない

  エレメント 容積増える


・何も無し

  重さ変化なし

  容器内 重さ変化なし

  四元素   容積変わらない

  エレメント 容積変わらない


四元素での予測と、エレメントでの予測で結果が異なっている。

容器の中の容積を確認すると、どちらが合っているのか判るという事なのか……。

何か俄然面白くなってきた。


ただ、何となく四元素での説明は分が悪いな。


加熱して変化した後の重さの変化はエレメントの説明だと、その空気に混ざっている酸素というものが結び付いたり離れたりする事で説明できる。

四元素だと、火の元素の重さがマイナスじなきゃならない。マイナスの重さって何だろう。


「そろそろ、容器が冷えたみたいですね。それでは容器の中の量がどう変わっているか確認します。」


先生はそう言って、其々の容器の蓋についているガラスの管に、長いゴムの管を繋げた。


「このつまみを回すと、容器の中が外と繋がります。ゴムの先端を水に浸けておくと、中の容積が増えていれば、ゴムの先端から泡が出てきます。逆に容積が減っていれば水が容器の中に入ってきます。」


最初に何も入っていない容器に繋いだゴムの管先端を水の中に沈めてつまみを回した。

予想どおり、何も起こらない。


順に、金属が石に変わった容器、炭と石から金属に変った容器、炭が入っていた容器で同じ事をする。

結果は、四元素での予想が惨敗だった。


「この様に四元素では説明が難しい事があります。メーテスではエレメントで様々な事を説明することになります。

ただ、四元素という考え方もとても大切なものなのは確かです。

私は魔法が使えないのですが、魔法を使う時には具体的な状態を想像する事が大切なのだと聞いています。

水が冷えると氷になりますが、これは四元素で言うところの土の性質に変わるという事です。水を加熱すると次第に量が減っていきますが、これは水の分子が空気に混ざっていくために量が減って見えるのです。

メーテスでは、土の性質を持った物を固体と呼びます。水と同じ状態の物を液体と言います。加熱して風と同じ状態になったものを気体と呼びます。

つまり四元素は物の状態を示したものです。

物がとても高い温度になった時にプラズマという状態に変化します。これが四元素で火と呼んでいるものです。」


「すると、四元素とは、物を構成しているのではなく、状態を示しているという事なのですか?」


殿下が先生に問い掛けた。


「その通りです。」


「それなら、今まで、どうして元素として物を構成している要素だと説明されていたんでしょう?」


「正確なところは解りませんけれど、目に見える状態の変化で説明できると思ったんじゃないでしょうか。

それに、今回行なった様な実験は誰もしなかったんだと思います。

そもそも、ニケさんが作るまで、こんなガラスの容器は無かったのですから実験する事も難しかったのだと思います。」


何となく納得だ。

それに、今はコンビナートにある工場で、様々なものを作り出している。これが四元素の説明のままだと、ここまで上手く行かなかったんじゃないだろうか。


化学の授業の冒頭で、そんな遣り取りがあった。

今では、殿下もゼリアさんもエレメントの事を疑ってはいない。


−−−


ただ、本当に先生達は魔法が使えないのだろうか……。

実験の時間になって、道具の操作方法を見せてもらったのだけど、魔法を使っている様にしか見えなかった。


試薬瓶を右手、ガラスの棒を左手に持って、左手で試薬の瓶の蓋を外して左手の小指と掌の間に挟む。ガラス棒を使って、机の上に置いてあるビーカーにの試薬瓶の中の液体をゆっくり取り分ける。

ガラス棒は試薬瓶の口のすぐ側にあって、試薬瓶から流れ出てくる液体がガラス棒を伝わって、ビーカーの中に流れていく。


ガラス棒の下の端は、ビーカーの壁ぎりぎりのところにある。試薬瓶の口にもビーカーにも触れていない。


取り分けが終ったら、試薬瓶の蓋を閉めて終りだ。


流れるような一連の動作を見せてもらって、ボク達は水の入った試薬瓶を使って練習した。


練習を始めて暫くの間、ボク達は、大量のガラスの破片を生産する破目になった。


試薬瓶から出てくる液体に注意が向くと、ガラス棒がビーカーを突いてビーカーを倒したり、机からころげ落ちたりする。


ガラス棒の先端に注意を向けると、試薬瓶から大量の水が流れたり、あらぬ場所に溢れたりする。


先生達は、慣れれば出来るようになりますと言っているのだが……。絶対に魔法を使っているんじゃないかと疑っていた。


ボクとエリオさんと、ゼリアさん、カイロス君は同じグループで机を共有して実験の演習をしている。


カイロス君は別格として、ボクとエリオさんは中々上手く出来なかった。意外だったのは、ゼリアさんが器用だった事。何回か練習して直ぐに出来るようになった。


魔法じゃないのは分っているんだ。カイロス君は魔法を使えない。そのカイロス君は器具を使い熟している。


「これは、慣れですよ。」


カイロス君は事も無げに言う。まあ、年季が違うんだから仕方が無いのだけど。


今は、水で練習しているけれど、危険な試薬を使う事もあるのだそうだ。その時に、安全に取り分ける為に必要な操作だそうだ。

他にも、試薬瓶を持つ時には、中身を示す紙が貼ってある部分を掌側に持つ事や、試薬を混ぜる時には、容器の壁を伝わらせて入れる事など、様々な事を教えてもらった。

どれも理由がある。

細かな事だけど、なるほどと思った。


化学演習でガラスの道具を使うというのは吃驚だった。

なにしろ、ガラスの製品はとても高価なものだ。こんなに割れても割れた事を教師の人達は全く気にしていなかった。


それよりも、ボク達がガラスの破片で怪我をしなかったのかの方を気にする。


割れたガラスは、回収して、一定の量が溜ると、アイルさんが大量のガラスの道具を一瞬で作り直すんだそうだ。

あの港やコンビナート、鉄道を作るところを見たボク以外の人達は信じられないみたいだ。

でも、アイルさんの魔法だったら、何てことも無いんだろう。


ーーー


「何だ、あれ?」


毎週休日の前の日は数学の講義だ。その日、演習の休憩時間になって、教室の中が騒然となった。皆、外に出て空を見た。


「あんなもの午前中には無かったよな。」

「何が浮かんでいるんだ?」

「凄く高い所にある。」


口々に学生が驚きの声を上げている。

この実験棟の隣に聳えている講義棟のはるか上、巨大なものが空中に浮んでいた。

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